いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

文字の大きさ
123 / 869

123:資産院のワイプ

しおりを挟む
もう月が沈んだという。
さっき寝たばかりな気がするが、目覚めはすっきりしている。
体がここにあってきたんだろう。
今日から合わさり月まで、8時間ごとに月が昇り、沈む。

「合わさりの月の日には北の国に入ってるんでしょ?
ラーゼム草原から北の国までどれくらい?」
「1日だな。」
「んー、じゃ、ラーゼムには何日いられるの?」
「1日?」
「んー、ラーゼムは牛乳とメーウーの毛とブラシの材料と
チーズ各種仕入れたいから、1日で大丈夫かな?」
「そうか、そうだな。できるだけ進んで、疲れたら、食料がなくなったら休もうか?
 月明かりもあるし、この辺は盗賊も野獣も少ない。」
「ん、そうしよう。じゃ、ご飯炊いておにぎりも作っておくね。」
「そうだな、ちょっと手軽な料理も作っておこう。」
「唐揚げつくって!鶏肉っぽいのあったでしょ?油と!」

作りながら疑問に思ったことを聞いた。
「あの資産院のひと、最初は気付かなかったの?」
「ああ、顔をみて似てるとはおもったが、まさかとおもった。」
「だいぶ雰囲気が違ってたんだね。」
「・・・・髪がえらく後退していた。」
「あー、、、いくつなの?」
「私より5つ上だったと思う。」
「あー、、、いろいろ苦労したんじゃないかな?」
「そうなんだろう。」

ちょっとしんみりした。

「けどさ、騎士団時代の人にしてみれば、マティスはそのままかもしれないね?
どう?そのころと自分は変わっている?」
「どうだろうか?背格好は変わらないが、筋肉はついたか、顔は変わらないが、
ますます父上に似てきたとセサミナはいったがな。年齢を重ねたということだろう。
気を付けないといけないな。だが、そのころは領主の息子とという括りだ。
砂漠の民になっているとはだれも思うまい。」
「そうだね。逆に砂漠の民になってるマティスに気付くということは、
そうなってる事情も知ってるということかな。その、3番目の兄さんの一族は
まだこだわってるのかな?しつこくない?」
「わからないな。そもそもセサミナに言われるまで気付かなかったからな。」
「ははは、そうだね。ま、どーとでもなるでしょ。」



半分になって、ようやく外に出る。
「まずは王都との分かれ道まで進もう。
そこで森が終わっている。何もないところを進むんだ。
景色に飽きたら飛んでもいいしな。」
「そうか、そうしよう。街道沿いでは食材はなさそうだしね。」

一応お昼ご飯と晩御飯は背負子に詰めて進む。
手ぶらだと、昨日みたいに誰かに見られていたらまずいからだ。
もちろん浮かせてるので重くはない。


大きな木、大きな草、大きな虫!
虫よけを焚きながら進む。
途中、食べられそうな植物もなく、
へたに歌を歌うとまずくなりそうなので、九九の復唱をしながら進んだ。
マティスは完全に覚えていて、逆にわたしが間違えてしまった。
6×7=42と6×8=48を昔からよく間違えるのだ。

「きー!!間違えた!悔しい!」
「ははは、自慢じゃないが、私は記憶力はいいほうなんだ。」
「そうだね、よくものを知ってるしね。いやさ、言いわけじゃないけど、こういう計算をさ、
自動でできるような機械があるのね。あ、仕組みはわかんないよ。3+3=って
ボタンを押すと6って数字が出るような機械。それを使ってたから暗算は苦手というか、遅い。
わたし全然数字に強くないんだ。そろばんも足し算しかできなかったしね。それも1から10まで。」
「お前の話に出てくる機械だな。そろばんとは?」
「こうー、木に球がくっついていて、上下にして数字が分かるみたいな?
ここにもあるんじゃないのかな?名前はそろばんではないと思うけど。
そこら辺の木の枝と、木の実で作って見せるよ」

そんな話をしながら、サクサク進んでいく。
街道の分かれ道に出た。東に進めば王都で、西に行くと草原。
王都行きのほうが整備されている。
西の方は森を抜けるのだろう、向こうに明るい光が見える。
とりあえず、ここで休憩。トイレを交代で済ませ、
また良さげな倒木にすわり、今日はおにぎりと卵焼きと唐揚げでお昼ご飯。

「これはうまいな。揚げたてはもちろんだが、冷めてもおいしいな。
そのまま収納すればいいのにと思ったが、このおにぎりに合う。」
「うん、こういうのは冷めたほうがおいしいの。でもさ、ビールには揚げたてだね。
あつあつと、きんきんに冷えたビール。どう?」
「それだ!!」
あははは、定番の組み合わせはやはり最強なのだ。

休憩しながら、そろばんを作ってみる。加工はお願いできるから簡単だ。
「ほら、こんなの、見たことない?」
「んー、ないな。見ていたら覚えているが、私が算術の授業をさぼっていたので見てないかもしれない。」
「あー、あるかも。こうね、1,2、3で、ないから上の5を下ろして2を戻すみたいな。」
「ほー、面白いな。」
「これで、掛け算も割り算もできるらしい。わたしはこの足し算しかできない。
しかも1から10を足して55にするのでいっぱい。」
「1から10?」
「そう、1から順番に足していくと55になるの。やってみ?」
マティスが苦戦苦闘している。
そもそも滑りが悪いし、不格好だし、手が大きいから、なかなか55にならない。
もう、55にしますゲームになっている。
「なった!できた!・・・!馬車だ。」
立ち上がったマティスが遠くを見ている。
馬車?曲がりくねってるから見えない。
と思っているうちに最初に見た馬車以上の速さで近づいてきた。
マティスが背にかばう。

(ワイプだ)
(え?戻ってきたの?なんで?)
(ばれたとは思わない、資産院が私を探す理由もない)


「どうどう、えらいぞ、よくやった。あとで、たっぷりの水をやるからな。」
馬2頭をねぎらいながら降りてきた。
「いやー、間に合った、間に合った!
分かれ道で追いつけるとはわたしも運がいい。」

(追いつける?)
(ティス!ティス!今はティスだよ?怯えて!)

「あ、あの、昨日のかたですよね?あの、なにか?」
「あ、よかった、覚えていてくれてたんですね。
わたし、自己紹介してませんでしたね。
王都、資産院のワイプと言います。
わたしはなかなか興味のないことは覚えられないので、
あなたがたもそうだったらどうしようかと。」

(うわ、自分でゆっちゃってるよ、この人)

「いえ、食事を持ってないとおっしゃていたので
覚えていますし、昨日のことですし。」
「そう、それですよ!昨日のパン!中の卵!卵ですよね?肉?もうまかった!
すぐに食べてしまったので、中身がうまいということしかわからない!
仕方がなく、今度は甘いパンを食べました。これがまた!
気づいたらなくなっていました。
最後にガム。甘いがすっきりした味でした。それでも噛んでいけば味はなくなる。
泣く泣く、口から出し、一緒にもらった紙に包もうとしたら、雑貨屋サバスとありました。
なるほど、ここで買えるのだなと。まずは安心して仕事に向かったのです。
ちょっと馬を飛ばしてね。領主館での仕事を今までになく最速ですませました。
そこで、今回こちらに来た、まぁ、本来の用事済まそうと場所をきいたのです。
しってますか?はんばあぐ。それを食べに来たんですよ!
そしたら、領主殿がそれはもう店を閉めたと。王都で店を出すそうだとね。
がっかりしました。わたしが来た意味がない。それでも、王都に戻れば食べれるのだから良しとして、
雑貨屋サバスのことを聞ききました。なんでも最初はそこではんばあぐを出していたとか。
領主殿もそこで買った、ん?名前はわすれましたが愛用しているといってましたよ。
あの店はいいですね。
飴も数種類あり、ガムもあの味以外も置いてありましたよ。
買えるだけ買いました。ほんとは全部買い占めたかたんですが。
ほかのお客さんもいたので
遠慮しましたよ。ああ、大人なのでね。それで、あの固いパン!
名を覚えていなかったんですが、
そこの主人に説明すると、あれはうまいなとわかったくれたんですよ!
そこから、飲み物は何が合うかなどに話が広がり意気投合したんですが、
どこにも売ってないというんです。
自分ももらったものだった、と。なんてことだ!!
それで、あのパンに挟んだ食べ物のことも聞いたんです。
そんなのは知らないというではないですか!
世界が終わったようでした。
そうしましたら、その主人、サバス殿というのですが、
俺の飴を気に入ったんなら悪人じゃないんだろう、
だから教えてやると。
そのパンをくれた人がそれを作った人で、そのパンにはさんだものもつくたんだろう、とね。
わたしはなるほどと思いました。その考えは思いつかなかった。
涙を流して感謝しましたよ。
そしていまから馬を飛ばせば追いつくとおもい、礼を言って出ると
彼から伝言が、えーと、できるだけ短い言葉にしてもらったんですが、ああ、
”ガム成功雑貨順調”だったかな?
それで、昨日のパンとパンのお菓子わけてもらえますか?」

「長い!!」
「あははははは!!!」

あー、おかしい、そうか、ガムが成功して雑貨も順調なんだ、よかった。
愛用しているというのは耳かきかな?


「モウ!笑うな!」
「だって、ティス!あのザバスさんと意気投合して長話をするぐらいなんだよ?
よっぽど気に入ってくれたんだよ。で、悪い人ではないんでしょ?」
「そうなんだが。ワイプ、様?あれは日持ちもしませんので、あれが最後だったんです。」

ワイプさんが崩れるように地面に横たわった。
え?ショックで?
馬が驚いてか嘶いた。

「おい!!おい!!しかたないな。」

マティスが抱きかかえ、倒木にもたれ掛けさせる。
馬たちはわたしが慰めにいった。

「大丈夫、大丈夫。ちょと疲れたみたいだね、あんたたちのご主人は?
え?違うの?ああ!そうだよね、水も出さずに倒れるなってことだよね!
あははは!手厳しいね!
えーっと、桶はあるの?あ、ここね。水、入れるよ?味のこのみある?
冷たいのとか?山の湧き水系とか海洋深層水とか?ああ、冷たい湧き水系?
なかなかの通だね!じゃ、これね。どう?」

砂漠石から水を出した。
馬二頭は我先に飲んでいる。
気に入ったようで、もう一杯ずつ出しておいた。

「ティスどう?」
「空腹で倒れただけだ。さんどいっちがないのは本当だからな。
わるいが、おにぎりはまだあるな?唐揚げと卵焼きと、だしてやってくれ。」
「ははは、ああ、冷たいタオルはまずいか、布に水含ませたのがいいかな。
これ、充ててあげて。
おにぎりと卵焼きと唐揚げ。これ、まずくない?」
「このまま放って置くほうがまずい。」
「そうだね。じゃ、これね。飲み物は水でいい?一応おいしいけど、ぬるい水。
お馬さんたちより待遇悪いけど。」
「かまわんさ。
ワイプ様、ワイプ様、とりあえずこれを飲んでください。
それで、昨日のは有りませんが、こちらをお食べください。」
「・・・みず、あ、おいしい。・・・・」

そこからは早食い選手権だった。
最初に出した分はあっという間になくなり両脇に2人が待機して
水を出し、おにぎり、唐揚げ、卵焼き、
わんこそばのように補充していった。ストックがなくなるまで。

「ああ、おいしかった。マティス君、ありがとう生き返ったよ。」

マティスがわたしを抱えて飛びずさり、
気を全開にした。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

大好きなおねえさまが死んだ

Ruhuna
ファンタジー
大好きなエステルおねえさまが死んでしまった まだ18歳という若さで

R・P・G ~女神に不死の身体にされたけど、使命が最低最悪なので全力で拒否して俺が天下統一します~

イット
ファンタジー
オカルト雑誌の編集者として働いていた瀬川凛人(40)は、怪現象の現地調査のために訪れた山の中で異世界の大地の女神と接触する。 半ば強制的に異世界へと転生させられた凛人。しかしその世界は、欲と争いにまみれた戦乱の世だった。 凛人はその惑星の化身となり、星の防人として、人間から不死の絶対的な存在へとクラスチェンジを果たす。 だが、不死となった代償として女神から与えられた使命はとんでもないものであった…… 同じく地球から勇者として転生した異国の者たちも巻き込み、女神の使命を「絶対拒否」し続ける凛人の人生は、果たして!? 一見頼りない、ただのおっさんだった男が織りなす最強一味の異世界治世ドラマ、ここに開幕!

修学旅行のはずが突然異世界に!?

中澤 亮
ファンタジー
高校2年生の才偽琉海(さいぎ るい)は修学旅行のため、学友たちと飛行機に乗っていた。 しかし、その飛行機は不運にも機体を損傷するほどの事故に巻き込まれてしまう。 修学旅行中の高校生たちを乗せた飛行機がとある海域で行方不明に!? 乗客たちはどこへ行ったのか? 主人公は森の中で一人の精霊と出会う。 主人公と精霊のエアリスが織りなす異世界譚。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

処理中です...