いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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159:虫

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ベービスの街の入口は、それなりの堅牢な門構えで、
守衛2人が立っていた。
連絡が行っていたのか、すぐに通された。

ルグが応対している。

「我らは資産院の方とそのお弟子の方々とで街を見て回る。
いや、案内は不要だ。月が昇る前には領主館に赴く。
そう伝えていただきたい。」

そういってるのに、そうはいかない、まずは領主館に、
そうでなければ、案内のものを付けるので、
ここで待っていてくれと、えらく御大層なことになった。

別にかまわないのだが、問題はやはり、わたしとマティスの服装だ。
みなは、トックスさんの上着は王都に入る前に着るということで、
今は普段より少し格式ばった服装だ。
砂漠の民の服と高原の民の服、ましてや今回の赤い塊の装束はダメだ。
今はワイプ師匠の馬車の中で、隠れているのだ。
仕方がないので、マティスはルグ、わたしはドーガーの替えの服を借りようとしたが、
これにマティスが大反対。
待っている間に、ドーガーに服を買いに走らせた。
設定はやはりワイプ師匠の弟子ということになった。
資産院、副院長のワイプは実力はないが、鍛錬狂いでは有名なので、
弟子を連れていても不思議はないらしい。
実際に弟子をとることは有るが、最初の鍛錬でみないなくなるそうだ。

「実力がないとは、よほど見る目がないのだな。」
マティスが大笑いしていた。

買ってきてもらった服はニバーセルの一般的な服なので問題はない。
が、男物なのだ。しかも大きい。
そりゃそうだ、ドーガーがサイズぴったりの女物を買ってくれば、
ここでドーガーの葬式だ。

「いいよ、故郷でもズボンが多かったから。」
「姉さんが男の人に見えますね。えっと、胸は?」
「ああ、できるだけ締めてる。ちょっと大きめの服だから大丈夫でしょ。
声も、ん、ん、コットワッツのセサミナ様、どう?」
「うわ!男の子の声!」
「ふふふ、これぐらいは出せるよ、何もしなくてもね。
んじゃ、ワイプ師匠の弟子は、男2人だ。ティスとモウの兄弟だ。ね?ティス兄さん!」
「お前はなにになってもかわいいな。」
「そこ2人、兄弟なんだからじゃれつかない。ティス、モウ、わたしの弟子らしくなさい。
特にティスいいですね?」
「はい!師匠!」
「・・・はい、師匠」
「あー、楽しいです。」

ワイプ師匠が実に楽しそうだ。

待機しているのは門の隣にある守衛の控室だ。
そこにどやどやと人がやってくる。


「これはこれは、ようこそ、ラルトルガ領へ。
コットワッツの領主殿ご一行をお迎えすることができて、うれしく思います。」
「ラルトルガ領主みずから来ていただけるとは恐れいります。
此度の招待、感謝しております。
ああ、紹介しましょう。
資産院、副院長のワイプ様です。いろいろありましてね、今回同行してくださっています。」
「ワイプ様、初めまして、ラルトルガにようこそ。
わたくし、この領地を治めております、ファンロでございます。」
「初めまして、ファンロ殿。直接会話するのは初めてですが、
院では幾たびがお姿を拝見しておりますよ。なかなかの手腕をおもちで、
資産運営もさすがだと、もっぱらの評判ですよ。」
「資産院の、それも副院長殿におっしゃっていただけるとは、うれしい限りです。
ここは、農業と畜産を主たる産業にしておりますので、気候変動さえなければ、
いたって、順調なのですよ。
そうそう、変動といえば、此度の砂漠変動、お見舞い申し上げます。」

なんて、だらだらとうわべだけのあいさつが続く。
ルグはセサミナのそばに付き、
ドーガーはその後ろ。さすがに、ぴしりと待機している。
マティスとわたしも同じように師匠の後ろで待機しているが、
ファンロとやらの後ろに控えている人たちの視線がうざい。
気配を隠匿しているものが3人。
セサミナもそちらに視線を置いたので気付いているが、なにも言わない。
暗黙の了解なのだろうか?

一人がドーガーに近づき観察している。
もう一人が、マティス、最後の一人がわたし。
満員電車内の痴漢のように近い。
息がかかりそうだ。
わたしを観察している一人が肩に触れようとした瞬間にマティスの蹴りが入る。
マティスのそばにいたものが動いたので、そいつにはわたしの蹴りが。
振り返った最後の一人にドーガーの手刀が入る。ドーガー、お見事!

「ティス!モウ!控えなさい。」
「「はい、師匠」」


傍からはわたしたち2人が空を蹴り上げたように見えたのだろう。
ドーガーのように手刀を入れればよかった。
ちなみに、武器の類は、取り上げられている。

3人とも気絶しているのに姿が出ないのは石を使っているのだろう。
ここの領主は見えていたのか、顔色がわるい。
その傍に控えているものは、倒れている3人に一瞬だけ目を向けた。

「なにをしているのですか?」
「はい、師匠。なにか、虫が横切ったので、おもわず蹴りを入れてしまいました。」
「はい、師匠。ティス兄さんの言うとおりです。生臭い匂いもしました。」
「そうですか。ここは自然豊かなようなので、いちいち反応していたらきりがないですよ?」
「「はい、師匠」」
「申し訳ない。この2人はわたしの弟子なのですが、初めての同行で
緊張しているようです。虫なんぞにいつもなら反応しないのですがね。」
「そうですか、お弟子さんでしたか。かのワイプ様のお弟子とはすばらしいですね。
しかし、虫はそこかしこにいますので、気にしていたらきりがありません。」

おそらくこの中で一番腕の立つ人が言う。
もちろん、師匠、マティス以下だが。
しかし、虫がうじゃうじゃいるのか、いやだな。

さっさと街に買出しにいくべく、セサミンが話をまとめていく。
「ファンロ様、ワイプ様たちを街に案内する約束をしていますので、
ひと通り廻らせてもらいます。
いえ、案内は不要です。ええもちろん、案内があればさらに良いでしょうが、
わたしも、領主としてではなく、一旅人として街を廻ってみたいのです。
ええ、護衛はいてますし、今回はワイプ様とその弟子もいてます。
それに、ここベービスには悪さをする不審者もいませんでしょう?」
「そうです、ささ、街に出ましょう。馬と馬車は預けます。
それと、ティス、モウ?ああいう虫は殺してしまうのですよ?」
「よろしかったんですか?もし、飼ってる虫ならとおもっていたのです。」
「まさか?そのようなことはないですよね?」

セサミンと師匠、マティスが小芝居を始めている。

「ええ、有害な虫は始末してください。くれぐれも返り血で汚れぬように。」

ファンロを無視して話が進んでいく。
わたしたちが先にこの部屋を出ないと、今だ寝ている3人を回収できないので、
さっさと出ることになった。もちろん、そのことに関しては何も言わない。
大人だね。武器も返してもらい、いざ食料調達へ!


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