いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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205:資金受領

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わたしたちが、館に向かうと、師匠はいかにも案内してきた風に装い、
先導して入っていく。
「さすが、師匠です!」
と心からの称賛を送ったのだが、嫌味王のセサミンに、
姉さんも嫌味を言うんですねといわれた。なぜだ?


謁見ではないから話してもいいし、武器の携帯もOK。
ということは、ここにいらっしゃる、見える見えないも含めて武器を持っているということ。

わたし、セサミン、マティスの順で、セサミンの左右にルグとドーガーを配置した。
会話は繋げてある。

中に進むと、どこの港の倉庫なんだ?という形で、箱が積みあげられていた。
これを運んだ人はさぞ疲れたことだろう。
石使いもいるというが、同じ作業は気が滅入る。お疲れ様だ。


「ダード院長、コットワッツ領主、セサミナ様をお連れしました。」
「ああ、ワイプ副院長、いっしょに来てくれてよかった。この資産受け渡しが君の最後の仕事だ。
終了次第、一職員に。王都の家も引き払ってくれ。その後の副院長はルタネだ。」
「わかりました。終了後、自宅に戻っていいですか?引き払う準備をしたいので。
引継ぎは必要ですか?」
「引継ぎするような仕事はしていないだろう?好きにしろ。」
「はい、ダード院長のお言葉、しかと賜りました。引継ぎ無しで、一職員として邁進したいと思います。
コットワッツ一行の護衛は?それとも、副院長になられるルタネ様が?」
「それはお前の仕事だ。」
「はい、承知しました。」


下を向いた師匠のうれしそうなこと!
てか、護衛の仕事ってことになってるんだ。


「ダード院長、お待たせしていなければいいのですが?」
「いや、月が昇るときから、沈むまでの時間だ。いつでもいいのだ。
では、さっそく資産受け渡しの手続きを始めよう。」

ダードは大きな石を、広場で見たものよりも一回り大きな石を取り出した。


(なんで石がいるの?)
(手続きに不正がないかどうか誓うのです。)
(でも、大きいね。あれの石の予算は誰が出すの?)
(受けるほうですね。)
(なるほど、手数料ってことか。あれの石の価値は?)
(ざっと1500でしょうか?しかし、資産院は2500は取りますね。)
(うわー)

『宣言!資産の受け渡しを資産院の名のもとに執り行う。
本砂漠石を使い、不正がないことを証明する。
異議、質疑あればその場で申し立てよ。不正あらば、即座に是正し、質疑に答えよう。
この記録はすべて天秤院に通知される。
なお、本砂漠石の金額、今回受領のために用意した箱の金額、
合計5000リングは後程、資産院に納められたし。』

石が砂となって消えた。
馬鹿だ、そんなこと石に誓ったら、どうにもならないよ。

『質疑!』

(え?姉さん?なに?)
(え?箱代250じゃん?高いよ?)
(いいんですよ。そんなもんです。)
(だーめ!)
(セサミナ、彼女の好きなようにさせてやれ)
(はい。)

『黙れ!そなたが話す権利なぞないわ!』
『それには異議あり!
先に異議申し立てをしよう。そなたが宣言したのだ、異議、質疑があればその場で申し出よと。
その中には誰それがという文言はなかった。なのに、黙れとは何事ぞ?
そこからが間違っている。資産院とはこの程度か?
これから先、誰が異議を申し立てようとも、不正があれば是正し、
質疑があれば答えねばならぬ。
その宣言がそもそも間違いならば、その是正をせよ。しかし、記録から消すことは不正があるということ。
是正せよ!』


(姉さん!素敵すぎます!)
(愛しい人、愛している)
(わかったから!!)

『!異議は受領され、是正された。これから先の異議、質疑は何人のものでも受けよう。
では、質疑とは?』
『その石の金額は?箱の金額は?石は1500、箱は250、資産院の手数料が3250か?
この受け渡しには資産院が手数料を取るのか?それは決まり事なのか?ならば、そう記録に明記していただきたい。』
『!質疑に回答。石、1500、箱、250 箱の積み上げ手数料、3250 合計5000リングに訂正だ。』

(姉さん、諾と。手数料を取ると記録に残るだけで充分です。)

『諾!』


いつのまにかギャラリーが増えている。姿を見せていないものが減って、また増えたから
領主たちに知らせたんだろうな。みんな暇だね~。
そのお暇な領主から、おお!という声も聞こえる。

ここからはダートが言った言葉一つ一つに異議と質疑を繰り返していく。


『次!生産院副院長メディング氏の資産、額、1140万リングを、コットワッツ領に譲渡する旨、
真名の宣言形式の書類にて報告。』
『質疑!生産院副院長メディング氏の肩書は書類作成時か現時点か?』
『質疑に回答。生産院副院長メディング氏の肩書は書類作成時。』
『諾!』
『メディング氏の資産、額、1140万リングを、コットワッツ領に譲渡する旨、
真名の宣言形式の書類にて報告。』
『異議あり!コットワッツ領ではない、わたしセサミナ個人にだ。』
『異議は受領され、是正された。
メディング氏の資産、額、1140万リングを、コットワッツ領、領主セサミナ氏個人に譲渡する旨、
真名の宣言形式の書類にて報告。資産院預かりのリング、1140万リング、
500リングずつ箱に詰めて用意。合計2280箱、納められよ。』
『異議!この箱の中が必ず5000リングだという証拠は?』
『異議に回答。ひと箱、ひと箱、そちらで改められよ。』
『異議!わたしが受領するのはリングと箱のみ。改めるのはそちらだ。』
『無礼な!資産院を愚弄するのか!!』
『まさか!では、わたしが指さす箱を開けてください。それで、5000リングあれば問題ない。
わたしは資産院を愚弄したと正式に謝罪いたしましょう。』
『諾!』

(わたしが見ただけでも5つあるよ?)
(え?わたしには1つです)

セサミンは眼鏡をかけて箱を睨みつけている。

(あ、手前の箱をのけないと見えないかな?
まずは見えてる1つ指さして、手前のをのけたら見えるから。
1個不正があれば、全部見ないと信用できないって言って、一列移動させてもらおう)

『では、右から三番目、上か2番目の箱をここに』
『あははは!どうやって?石使いを使うか?ならば、1箱の移動に付き1万リング請求をする。』
『異議あり!不正がなければこちらで払うが、不正があれば、資産院でお支払いを。』
『・・・諾!石使いを呼べ!指示された箱をここに持って来るように。』

石使いと呼ばれる人が入ってきた。
あ、女の人だ。仕事ができますって感じだ。それをわざと自分で出しているのはよくないとおもうけど。


「およびですか?ダード院長」
「セサミナ殿の言う箱を、右から2番目、上か3番目の箱ここに持ってきてくれ。」
「向かって、右から三番目、上か2番目の箱だ。」
「・・・その箱だ。」
「・・・はい。」

彼女が握りこぶし大の石を袋から出して、石に命令するようだ。

『石よ、我の石よ、我が命に応えよ。示す箱をここに移動しろ。』

石が砂となる。やっぱり命令形なのね。
箱がそこだけ抜かれ、ふよふよと彼女の足元に来る。
え?それだけのことでその石使っちゃったの?もったいない!
しかも箱抜いたとところのフォロー無し?
半分ずつずれてるからいいけど、なにこれ?ジェンガ?

『中を改めます。』

セサミンが箱を開けると、ぎっしりリングが詰まっていた。
こういうことを幼稚なことっていうんだよ。

(姉さん!)
(え?セサミンも騙されるの?表面だけリングで中身は石だよ。)

『はははは!資産院を愚弄した謝罪を今すぐに。
石使いの手間代1万リングも後程まとめて。』
『中身は石ですが?』

セサミンが箱をひっくり返すと、普通の石がゴロゴロ出てきた。
二重底のようだ。
ふーん、この箱いいね。冷蔵庫に使えそう。
いい買い物したかも。

『異議あり!これはまさしく不正である!速やかに是正されたし!
他の箱もすべて改めたい!』

すごい、リアルザワザワだ。
ダードが顔面蒼白だ。しらなかったのかな?
石使いの顔色も悪いし、次期副院長さんも後ろでもっと顔色が悪い。

(師匠?これやったのだれ?)
(ダード院長ではないでしょ?ほかのものですね。ルタネかな?恥知らずな。)

なるほど。

『すべての箱を改めることなぞ無理だ!』
『現にただの石が入っていたではないか?すでに5000リング足りないんだぞ?不正もいいとこだ!』


「すぐに持ってこい!!」
「ど、どこから?」

職員が聞いてくる。
そうりゃそうだ。

「資産院の金庫からでいいだろう!」
「お待ちください!それはできません!副院長として許可はできない。
この資産の中に資産院の資産は補填できない。
施行を請け負う資産院が仮で補填するのなら、そう宣言してください。
そして、必ず、横領したものに窃盗の罪に問うことと利息を付けて返還させると。」
「ワイプ!貴様は!」
「終わるまでは副院長です。お忘れか?」

(師匠!かっこいい!)
(当然ですよ)
(終われば、末席のくせに!宿無しになるくせに!!)


『宣言!不足分は資産院が補填。
横領したものに窃盗の罪に問い、利息を付けて返還させる。
資産院の金庫から5000リング持ってこい!!』





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