いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

文字の大きさ
224 / 869

224:すき焼き

しおりを挟む


目が覚めると、お布団の中でした。

倒れた後のあらましも教えてもらいました。

「彼、ガイライは最後に所属していた部隊長だ。
ニックと同じでかわいがってもらっていた。鍛錬のほうで。
拳術を使うとは知らなかったな。耳も聞こえないというのも知らない。
南の遠征の前にわたしは除隊したから。」
「じゃ、かなり前だね。それからじゃない?拳術は。」
「そうか。」
「うふふふ、ほんとにモテ期だね。どうする?」
「本心なら倒すまでだ。余程声が聞こえたのがうれしかたんだろう。
一度なくし、それが戻ったら、2度と失いたくない気持ちはわかるからな。」
「そうだね、悪いことしたな。でも、たぶんすぐ直るよ、あれ?」
「お前の言霊でか?」
「ううん。大きな石に耳が治るようには願ってたんだって。」
「それで、治らなかたんだろう?」
「いや、頼み方が悪い。耳は治ってるよ。」
「ではなぜ聞こえない?」
「耳がよくても耳栓したら聞こえないのといっしょ。耳垢が詰まってるんだよ。」
「それだけで?」
「うん。そういうのあるのよ。綿棒作ったでしょ?
あれでさ、耳を掃除するときに気を付ないといけないのは
垢を奥に押しやってしまうことなのね。
耳かきも気を付けないと。
だからきっと、耳が聞こえるようにって小指のさきより小さな石に願ったら、
それと同じぐらいの耳垢が出て来るんじゃない?」

とにかく、わたし以外はみな本選に出ることになった。
お祝いです。すき焼きです。

「おかしいです!姉さんが出れないなんて!」
「そうだな、奥さんすごかったぜ?
俺の廻りは大盛り上がりだった。抗議しに行こうっていうものもいたぞ?」
と、トックスさん。
「ははは!もう十分だよ。今度はセサミンの横で着飾って応援するよ?
営業!営業!」
「姉さん!さすがです!!」
「では私も出ない!横にいる!」
「いや、マティス、そもそもこれはマティスの剣技が見たくて始まったことだからね?
見せてよ?応援させて?」
「うむ、わかった。しかし、セサミナと2人だろ?良からぬものが近づいたらどうする?」
「ああ、大丈夫ですよ。わたし、棄権してきましたから。」
「え?師匠?どうして?」
「いや、十分でしょう?あの5人は完全にわたしの手足になりましたし、
別に武の一番を目指しているわけでもない。ガイライ殿が残っていれば出ましたけど
我が弟子モウが倒しましたしね。あの試合中、なにか会話していました?」
「さすが師匠です!わかりましたか?」
「間がおかしかったですよ?」
「ええ、傍にいてほしいと。マティスの半身だと断ったんですが、
ならば奪うまでだと。モテ期ですよ!」
「姉さん!兄さんは落ち着いて!!」
「セサミナ、お前が落ち着け。」
「え?兄さんが普通だ。」
「本心ではないからな。ほら、その本人が来たぞ。ドーガー、迎えに行ってやれ。
屋上に連れてくればいい。」
「いいの?」
「ここまでこれたのなら害はないのだろう。」
「そうか。お嬢も来てないしね。いっしょにご飯を食べよう。」


「お連れしました。」
「セサミナ殿、ご無沙汰しております。
 ルグも、ドーガーも腕をあげたな。お前たちを推薦したものとして鼻が高い。」
「ええ、ルグとドーガーはわたし、いえ、コットワッツにとってかけがえのないものとなりました。
良き者たちを推薦していただけました。感謝しております。」

へー、推薦されてコットワッツに来たんだね。

「マティスか、息災のようだ。先程の試合時のことは他言無用に願いたい。
それを頼みに来た。」
「どうぞ、顔をあげてください。改めて妻を紹介させてください。
モウ、こちらに。
私の妻、モウです。モウ、こちらは仮入隊時に世話になった部隊長、ガイライ殿だ。挨拶を。」
「妻のモウです。先ほどはありがとうございました。拳術の奥深さをさらに知ることが出来ました。」

ガイライさんはやはり言葉が分からないのだろう。
悲しい顔をして軽く横に首を振った。

「ガイライ殿。」

師匠が声をかける。気配でわかるのか、師匠の方を見る。

「モウはわたしの棒術の弟子でもあるのですよ。
拳術は不得手なので、あなたと手合わせできたことはさらなる武の向上となるでしょう。」
「ワイプ。そうか、ワイプがそういうのなら、それはよかった。しかし、失格となったと聞く。
これはわたしの方から異議を申し立てれるがいかがする?」

首を振って断っておく。

「そうか。」

「ガイライ殿、これを。」

マティスが小さな砂漠石を渡す。
「?」
「妻、モウが言っている。治せではなく、聞こえるように石に頼めと。」
「!!なにを!!」
(マティスの言うとおりに、耳が聞こえるようにお願いします、と。)

わたしの顔をみて、また悲しそうな顔をする。
(さ、はやく。それで、みなでご飯を食べましょう。はやくしないと師匠とドーガーが暴れます。)
決してわたしがはやく食べたいからではない。

『耳が、耳が聞こえるようにお願いします。』

コン、コン、と、耳から石が落ちる。数十年級の耳垢。見たいけど、ばっちい。

「あ、あ、あ、あ、、、」

廻りをみて、音を確かめているようだ。
タロスの木のざわめき、24時間ぷくぷくいっているジャグジー。
先にテーブルついて一杯やってるトックスさんが2杯目を入れようとする音。

「数日は平衡感覚が乱れると思いますが、すぐになれますよ?」

そう声を掛けると、抱き付いてきた。
それを許すマティスではない。

すぐにトランポリンまで吹っ飛ばす。
そこに沈んで、声をあげて泣いている。
え?ちょっと頭打ったんじゃない?

「マティス?」
「大丈夫だ、落ち着くまでほっておけ。さ、飯にしよう。
説明がいるのだろう?」
「そうそう、今日はね、お祝いだからすき焼きね。
お肉だけど、焼肉とはちょっと違う。うちではお祝いの食べもなんだ。
説明するよ。」

すき焼きの食べ方を説明する。うちは関西風。
脂身を溶かし、お肉を焼き、砂糖、お醤油、日本酒をいれ、
野菜、赤菜と呼ばれる白菜をいれ、卵をにつけてどうぞ。

草原サイの一番おいしところの薄切り。うまい!!
お豆腐がないのが残念。







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】 事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。 神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。 作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。 「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。 ※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

草食系ヴァンパイアはどうしていいのか分からない!!

アキナヌカ
ファンタジー
ある時、ある場所、ある瞬間に、何故だか文字通りの草食系ヴァンパイアが誕生した。 思いつくのは草刈りとか、森林を枯らして開拓とか、それが実は俺の天職なのか!? 生まれてしまったものは仕方がない、俺が何をすればいいのかは分からない! なってしまった草食系とはいえヴァンパイア人生、楽しくいろいろやってみようか!! ◇以前に別名で連載していた『草食系ヴァンパイアは何をしていいのかわからない!!』の再連載となります。この度、完結いたしました!!ありがとうございます!!評価・感想などまだまだおまちしています。ピクシブ、カクヨム、小説家になろうにも投稿しています◇

 社畜のおじさん過労で死に、異世界でダンジョンマスターと なり自由に行動し、それを脅かす人間には容赦しません。

本条蒼依
ファンタジー
 山本優(やまもとまさる)45歳はブラック企業に勤め、 残業、休日出勤は当たり前で、連続出勤30日目にして 遂に過労死をしてしまい、女神に異世界転移をはたす。  そして、あまりな強大な力を得て、貴族達にその身柄を 拘束させられ、地球のように束縛をされそうになり、 町から逃げ出すところから始まる。

処理中です...