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226:良き父、良き母
しおりを挟む「チャルガ殿と4番副隊長の話は聞きましたか?」
ワイプがそう話を切り出した。
「ああ、聞いた。お前たちコットワッツと手合わせして4番のほとんどがドーガーに敗れ、
4番副隊長もルグに敗れたとか。だから、4番は解体再編成だと。
今日の試合をみて当然だと思ったよ。
隊長はこういっては何だが、かなりの年齢だったから、いい機会なのだろう。
自ら引退すると言ったそうだ。そう、2番副隊長に聞いている。」
「そうなんですが、ここではっきりしてきましょう。
まずは、チャルガ殿がモウ殿に師匠のわたしの許可なく、
無言問答を仕掛けたのです。」
「え?いつ?」
そこからワイプはあったことをかいつまんで話していった。
要は鍛練場の再建を1番副隊長に念押しだ。
これを愛しい人にみせれば、また、さすがです、とかいうのだろう。
それがわからん。
「わかった、鍛練場の再建は必ず。
その時点で4番副隊長が請け負っているんだ。問題ない。」
「その言葉をいただけたらそれで結構です。
じゃ、マティス君、聞きたいことがあるのでしょ?どうぞ?」
なぜわかるのだ?
「なんだ?マティス?お前のことはだいたい知っているぞ?」
「私のことではない。ニックはなぜ軍を離れたんだ?
年齢で退位したわけではないだろう?」
「ああ、ニックか。彼はわたしの耳のことはしっていたよ。
ずっと、そばで助けてくれていた。彼の勧めでね、拳術も覚えた。
わかると思うが大変だったよ。
それでも、自分ものにして、気配を読み、
読唇で会話も問題なくできるようになった。ニックがいてくれたから。
あくまでもわたしの補佐であって、副隊長にはならなかった。
最後になった任務は調査だ。
ニックがナルーザを抜けて南に遠征にでたんだ。
小部隊を引き連れてな。
わたしはその時はニバーセルに残っていた。
前回の遠征時の確認だけだったからな。
戻ってきたのはニックだけで、故郷に戻ると。
あとはなにも話してはくれなかった。
部下を失ったのが余程堪えたんだろうと。その気持ちはわかるからな。
帰る故郷があるなら帰るほうがいい。イリアスに戻ったよ。
ああ、お前のことはいつも心配していた。もう、20年は前だ。」
「そうか。」
「撤回になったが、お前の手配書が廻った時は驚いたぞ?
そのあとの会合での話も。
良き伴侶を得たのだな。」
そうだ。彼女がいるから今ここにいる。
だまって頷いた。
「しかし、ガイライ殿。
耳が聞こえていなかったことを誰にも気づかれていないのはさすがとしか言えないのですが、
まずかったですね。王都の内情、軍部内の力関係、表に見えるものしか把握できていない。
今回の銃の進化について把握していましたか?」
「・・・そういわれてみればそういうことだな。
同席していた男はジットカーフ出身か?訛りがある。読唇だけではわからなかったな。
銃の進化には驚いた。資産院は?」
「こちらもです。えらそうなことは言えません。
調べていますが、今回の会合後のマトグラーサの宴会でルカリアが配ったとしか。
女性の護衛は少なくはないが、今回参加した者たちは到底その域には達していない。
銃があるから、複数で挑むから、そんなことで参加したのでしょう。」
「問題だな。」
「そうですね。」
「やはり、ワイプ、軍部に来ないか?」
「ははは、ご冗談を。やっと、役から降りることができたのですよ?面倒くさい。」
「・・・マティスは?無理か。」
「もちろん。これがおわったら、イリアスに行く。
彼女が言うには世話になった人に結婚の報告をしに行く風習があって、
そこで祝いをもらうというのがあるそうだ。それをしに行く。」
「?不思議な風習だな。異国、18ヵ国以外?」
「そうだな。」
「あまり深く聞かないほうがいいようだな。
はぁ。本当に久しぶりに寝た気がする。完全には寝てはいないが、お前たちの笑い声が聞こえていた。
それを聞いているのにわたしもその中にいるんだ。母もいた。たのしかった。」
「母上はモウ殿のような?」
「ははは、声だけだ。決してあのように褒めも慰めもしない。厳しい人だったよ。
だが、母が言ってくれたと思う。ああ、ここでのことは他言無用だ。これからのことにかかわる。
さぁ、戻ろう。気づかれていないと確信できるが、そうでもないのかもしれない。
後ろを向いて話されていたのではわからなかたっからな。余程の間抜けだ思われているのは好都合だ。
モウ殿が言うように遠くの小さな音まで聞こえる。
下ではセサミナ殿が書き物をしているな?ジットカーフの男は縫物か?
モウ殿の気配と音はしないがな。
長居をした。これで、失礼する。」
「送りましょうか?」
「いや、ゆっくり外の音を聞きながら帰るさ。
では明日、本選を楽しませてもらおう。ああ、見送りは不要だ。ここの館は何度か来たことがある。
屋上があるとは知らなかったがな。では。」
ガイライはすっきりした顔で下に降りていった。
彼女は台所でなにかを作っている。なにか手土産を渡すのだろう。
甘やかす人間がまた増えてしまった。
「わたしも一度資産院に戻ります。もう少し詳しい話が上がってることでしょう。
しかし、あなた、あの銃をみて驚きませんでしたね。セサミナ殿も、なぜ?」
「彼女がもっと性能のいいものを作って見せてくれている。
砂漠石はいいも悪いも使い方次第だと。
我々は移動ができる。小さな石を弾丸のように速く移動させれば
あの銃よりはるかに性能のいい、弾切れのない銃と同じことが出来る。」
「・・・なんと。」
「だが、移動ができるのは彼女が認めたものだけだ。安心しろ。
我々はむやみにそのようなことはしない。」
「むやみにはね。彼女発想は、ああ怒らないでくださいよ、本当に恐ろしい。」
「それはわかっている。そういう世界で生きてきたということだろう。」
「しかし、彼女は良き父、良き母を知っている。不思議ですね。」
「そうだな。彼女の中の思想なのだろう。」
「ああ、そういうことですか。」
鶏館を出たところでガイライさんを捕まえる。
「ガイライさん?」
「え?モウ殿か?気付かなかった。
あの、先ほどはお恥ずかしい姿をお見せしてしまい、その・・」
「ううん。わたしは母になったこともないし、これから先もなることもないのだけれど、
お母さんってあんな感じだよね?あなたのお母様の姿を壊していなければいいのだけれど。」
「ええ、母はきっとああいってくださると思います。ありがとうございました。」
「そう?だったらよかった。あの、これ、おやつにどうぞ。」
「オヤツ?」
「ああ、ないのか。こう、小腹がすいたときにちょっと食べるお菓子です。
それと、これは、コットワッツ、ティータイの雑貨屋サバスで扱っている耳かきです。
予備であったのを差し上げます。こう、中にいれてかき出すように。
工業国スパイラルの商品だそうですよ。お気に召したらここで買ってやってください。
あ、あまり、がしがししないでくださいね。今度は傷がつきますから。
ほんとは耳垢って自然に外に出るものなんですよ。でも、この耳かきいいですよ。
マティスもセサミン、ああ、セサミナ様もお気に入りです。どうぞ。」
「こう、ですか?ああ、なるほど。あ、これが耳垢・・」
「あ、あの、やはり垢なので、こう紙で受けるように。」
「ああ、これはまた、申し訳ない。
モウ殿、拳術を極めたものは少ないので、また手合わせをお願いしたい。」
「ええ、もちろん。こちらこそ、よろしくお願いいたします。
師匠は拳術は不得手で、マティスもわたしが流されるのですが、実戦向きではないと。
ぜひに、実戦のお相手を。」
「それはマティスを守るために?」
「?ええ、もちろん。」
「マティスはあなたにとってなんですか?」
「あれはわたしで、わたしはあれなのです。」
「なるほど。」
「ふふふ。」
「ああ、その笑い方も母にそっくりだ。」
「そうですか?きっと、こころからうれしい時の笑いでしょう。」
「ああ、そう、そうなのですか?母は軍部に入ることに反対していました。
それでも、入隊して初めて手柄を立てたと報告したときに、
その時はなにも言わなかったが、母が一人になった時に、そのような微笑みをしておりました。」
「そりゃ、うれしいかったのでしょう。わたしのはわかってもらえたうれしさですよ。」
「ええ、では。その、モウ殿?」
「ん?おいで?ガイライ、今日は早く寝なさいよ?おやすみ。」
「ええ、母さん、おやすみなさい。」
きゅっと抱きしめて、おやすみのあいさつをした。
「愛しい人。」
「んー。マティス。抱きしめて?」
「ああ。帰ろう。」
「うん。」
お母さんはいいね。
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