いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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256:カエル

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「愛しい人?起きるか?」
「うーん、ん?起きるけど、あと、5分。」
「愛しい人、これがその5分あとなんだ。
やはりまだ寝ておけ。あさごはんは作ってくるよ。」
「!!いや、起きるよ!ごめん!起きたから!ん、マティスおはよう。」
「ああ、おはよう。愛しい人。」
「ふふふ、さ、朝ごはんは何にしようか?」


とりあえず、パンとご飯。おにぎり、卵焼き唐揚げ、
ソーセージに煮卵、ゆで卵。
肉巻きに窯焼き。ハンバーグにハンバーガー、ホットドック。
あとは焼くだけ、温めるだけのものは皆出した。
余ればセサミンが持って帰るだろう。
鶏館にある師匠の荷物も皆中庭の家に運んである。
トックスさんの荷物も小袋にいれればいい。
コットワッツに戻る月無し石は3つ。
師匠についていった石はここに残るそうだ。
範囲が広くなるからもう少しここに残るらしい。
いつの間にか、ボルタオネのコクについていった石もいる。

朝ごはんを作っている間、上のジャグジーに入りたいというので
石を入れたら、そういわれた。
いいよ、好きにしてください。
でも、なにかあったら教えてね、とだけお願いした。


みなが上がってくる前に、コットワッツ製のタオルで
磨きながらまた腰の袋に戻っていく。
この石たちのこともやはり謎のままだ。



朝ごはんは余るかなと思うこともなく、ほぼ完食。
ガイライは来なかった。すこし取り分けておこう。
あとは一つ、2つだけ残していた。
道中用?と聞けば、これを持って帰って研究するとのこと。
ルグと2人で考えた泡だて器は、隠匿は掛けずに食の祭りに売り出す予定。
それはいいことだ。

トックスさんもいるので馬車で帰る。
とりあえず送ろうか?と聞いたが、
途中、ラルトルガの様子も見るそうなので、
クッキーを渡しておいた。


「兄さん、ボルタオネから椅子の出来上がりの連絡が来ればどうすればいいですか?
それにまだ日取りは決まっていませんが、食の祭りにも来ていただきたい。
兄さんからの連絡はいつでも受けれるので遠慮なく、来ていただいてもいいし、
声も飛ばしてください。でも、こちらからはできませんよね?どうしたらいいですか?」
「そうだな、緊急な時はわかるぞ?な、愛しい人。」
「うん、急ぎとかね、それはわかるんだ、安心して?でも、食の祭りだよーってのは
ちょっとわかんないだろうな、ま、そんなことは気にせず、頑張って?」
「そうなんですか?いつでも連絡くださいね?」
「うん、もちろん。」


移動で手紙を飛ばすことはできるだろうが、
いまはいいだろう。緊急時は月無し石君たちが連絡してくれるんだから、お願いしておこう。



それぞれの片付けもして、鶏館の収納はどうするか?
「んー、この鶏館はセサミンが管理して?上の植物園は持っていくけど。」
「え?でも、これは姉さんが気に入った物でしょ?」
「でもさ、ここにこれがあるというのはもうみんなが知ってることだし、
急に王都に来ることもあるかもしれないでしょ?そのときは例の水筒から出しましたーっていえばいいしね。
うまく使って?」
「姉さん、ありがとうございます。」
植物園のドームだけ収納。あとはセサミンが収納だ。
砂漠石の膜も外しておく。
こちらに入れないことを疑問にもたれても困るから。


「テン、チャー、ロク。お疲れ様。
なんか、おいしいもの話聞けた?うん、北方面で。
ああ、辛いの?へー。
うん、探してみる。ありがとう。」


大量に食べるのはダメだが、少しなら体があたたまる食べ物があるらしい。
唐辛子か、生姜かな?

「ああ、ボルタオネの黒馬さんに水と茶葉あげたよ?
喜んでた。うん、それだと思う、もらったよ?
え?へー、そうなんだ。」

香木を見つけるのは黒馬の仕事らしい。
ここにあるような匂いはするが、別の匂いでよくわからないと言っていたから、
茶葉ににおい消しの効果があると教えたそうだ。
そうか、だからいきなり欲しがったのか。



やっとニバーセルを出ることになった。
門でも恥ずかしい問答もいい思い出だ。そう思っておきたい。
銀のスーとホー。
赤いテンに乗るセサミン。チャーとロクで引く馬車にルグとドーガーとトックスさん。
徒歩で赤い塊のわたしたち。

門にはガイライが見送りに来てくれていた。

「ガイライ!」
「モウ。あれからどこか痛くはなりませんでしたか?」
「うん、打ち身はいっぱいあったけど、マティスが治してくれたから。」
「そうか、マティスもできるのか。」
「ふふ、わたしにだけね。
朝ごはん来なかったでしょ?ちょっとずつ入れといたから、
日持ちはしないから今日中に食べてね。お醤油も別で入れてるから。
間違えて飲まないようにね。クッキーとかの甘みも入れてるから。」
「ああ、ありがとうございます。
わたしからはこれを。あなたは何でも作れるそうなので、手甲の材料にしてください。
見本にわたしが使っていた手甲ももらってください。」
「うわ、うれしい。
ありがとう。なんの革なんだろう?これもいいの?うわ、やっぱり大きいね。」
「ああ、北の遠征の時に仕留めたカエルです。」
「え?カエル?え?」
「ご存じですか?」
「うん、その音は知ってる。でもきっと大きさとか姿は違うと思う。
そうか、カエルの皮は貴重なのか、覚えておくね。」
「ええ、北、イリアスで狩ることが出来きますよ、あなたなら。」
「そうなの?肉は食べられる?」
「ああ、皮ではなく、羽根ですね。身はほとんどありません。」
「わかった。カエルという名のなにかだ。
鳴き声ゲコゲコかケロケロだね?」
「ああ、やはりモウは博識ですね。そうです。そういう風に聞こえますね。」

味か鳴き声か、姿かたちか。
卵は卵だった。そういえば、鶏の姿は見ていない。
肉になった状態のみだ。

カエル、にわとり
一応マティスに聞いておこう。


「愛しい人、なにをもらったんだ?」
「カエルの羽根?」
「ガイライ、いいのか?」
「ああ、いいんだ。」
「え?すごく貴重なものなの?だったら、このガイライの使ってた手甲で十分だよ?
ここからわたしの手に合うように作れるから。」
「ああ、いいんですよ。もらってください。」
「愛しい人、もらっておけ。それは虫除けにもなる。」
「ほんと?それはうれしい!ありがとう!
もうね、虫はダメね。ん?羽根があるということはこれは虫?」
「虫ではないですね。鳥といったほうがいいでしょう。」
「おお!マティス?あとで、カエルとニワトリを絵に書いてね。」
「ああ、わかった。」
「それで、ガイライの後ろに控えてる人たちは?昨日鍛練場にいた人たち?
わたしもさ、師匠じゃないけど、顔とか名前覚えるの苦手なの。」
「ええ、昨日の。わたしの配下です、一番隊です。」
「そう。数人は別だけど、残りの視線がものすごくうざいね。
ほんと、カーチャン心配よ?大丈夫?つぶしとく?」
「いえ、そこは息子に任せておいてください。この後軍の再編があります。
そのまま鍛錬に入ります。それで、大丈夫でしょう。
カラームは目を覚ましましたが、糸のことは何も言わない。
砂漠石を使っての問答もしましたが、もらった糸だとしか答えない。
どこで、だれからだということも答えない。
問答対策はかなり周到にしてあるようです。そもそも糸を使うことは違反ではないので、
あれ以上は無理でしょう。
それにほぼ廃人だ。目を覚ましたが、寝床から出ることはできないのです。」
「ああ、天文院の者は起きれるまで回復していますよ。石使いが治しています。」
「そうですか。クッションは差し上げますと伝えてください。」
「わかりました、そう伝えておきましょう。
彼らは院長の仕事を手伝っていたはずなのでね、資産院で預かります。
良い手駒が手に入りました。」
「うわ!師匠怖い!」


入都の時とは違い、横の門から出るだけでいいみたいだ。
王都に住んでいる人は通常ここから出入りする。
そりゃ、毎日あんな問答やってられないもの。

ガイライとお約束のハグをして、また拳での手合わせをすることを約束した。
ではではと、門をくぐろうとすると、
こっぱずかしい問答をした若い衛兵が手招きしている。
え?脅されるとか?
「愛しい人?あれか?始末するか?」
「また、そういうことを!でも、
犯罪以外口外しちゃダメなんでしょう?
あれ?わたし何か犯罪犯してたのかな?
思い当たることが多すぎて、どれがどれやら。
ちょっと、気になるから聞いてくる。」


「あんた、赤い塊。よかった、俺の当番の時に通ってくれて。」
「えっと、なにか?」
「いや、そう、身構えないでくれ。
その、ま、問答なんてあんなもんなんだ。
もっと、露骨なものもあるし、
えー、本人の許可なく他人に内容を言うのは石の契約でできないから安心してくれ。
それで、あのあと、考えた、戸車?あれを大門に施したいんだ。
理屈はわかった。なんで気付かなかったか不思議なくらいだ。
あの考えをみなに話したいんだ。それには本人の許可がいる。
使ってもいいだろうか?」
「ああ!戸車!ええ!もちろん。どうぞ。
軌跡に薄い鉄かなんかを引けば滑りがよくなってもっといいですよ。
あまり、軽くなると問題かな?そこらへんはお好きに。」
「ああ、そうか。すごいな。ありがとう。
大門は重い上に、そのあとの問答で、体もそうだが、
気持ちもつかれる。次に王都に来た時は戸車がついてるだろう。」
「大変ですね。えーと、その、頑張ってくださいとしか言いようがないです。」
「ま、それが仕事だ。あんたの試合も見たんだ。赤い塊。
強いんだな。それが、あんな、、、。」
「えっと、ちなみにわたしどんなこと考えたんでしょうか?」

この際だ、聞いておこう。

「いや、その、いやらしいとかはないんだ。
あの旦那と幸せそうだったんだ。ものすごく。結婚するというのはああいうことなんだなと、
こっちが照れただけなんだ。」
「あ、そうなんだ。なんだ、よかった。うん。よかった。」
「いや、まぁ、そこから、濃厚な感じにはなっていったがな。」
「・・・・」



やっぱり、ペコペコ謝りながら門扉をくぐり屋っと外に出た。
「聞いたのか?」
「いや、ギリギリ大丈夫だった見たい。マティスが幸せそうだったんだって。」
「私がか?あなたが思っていたことがそれなら、うれしいな。
まさしく幸せなんだから。」
「そう?へへへ。よかった。」


王都の外にある街を横に身ながら、ある程度人気のない街道まででて、そこで別れる予定だ。
師匠も一緒なので安心だ。

「ん?じゃ、例の砂漠蜘蛛は?資産院においてきたら危なくない?」
「ええ、ここに持ってきてますよ?見ますか?」
「え!いえ!結構です。」

朝ごはんと昼ごはんは兼用、というか大量だったので、ここでは食べない。

「じゃ、ここで!」
「ええ、姉さんもいつでも連絡くださいね。」
「うん。そうするね。」


『気を付けて!無事にコットワッツに帰ってね!』


皆との別れを済ました。



「さ、王都に戻ろうか?」




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