いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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「兄さん、明日は一度一緒に王都の門から出てくださいね。」
「ああ、わかった。そうだ、セサミナ、
これはなにか知っているか?
良い香りがする。」


彼女を寝かしつけた後、机の上を見れば木片が置いてあった。
これが、あの馬、彼女が言うコクがくれたものだろう。

セサミナは手に取り、匂いを嗅ぐ。

「どこからこれを!!」

またセサミナが吠える。
なんだ?私はそこまで世間知らずだったのか?
しかし、ガイライとワイプは知らないと首を振る。

「ボルタオネのあの黒い馬が彼女にくれたそうだ。
水と茶葉の礼だと彼女は言っていたが、
ボルタオネの連中には見つからぬようにと。」
「香木チャンナダです。領主受継ぎのときにニバーセル国から祝いとしてもらうものです。
なんでも、不老長寿の妙薬だとか。
わたしのときにもらったのは
小指の先ほどのものです。宝物殿に入れてあります。
ボルタオネの森林の管理はこの香木の管理も含まれています。
しかし、父の代以前から新たに発見されていないと聞きます。」
「ボルタオネの森林?これはおそらくあの馬がこの向こうにある森から持ってきたものだぞ?」
「未開の森ですよね?そこから?」
「森の向こうに散歩に行ったらしい馬が持ってきたらしい。」
「で、ボルタオネの方たちには見つからぬようにと?あの黒馬が?」
「そうだ。彼女に色目を使うから脅しておいたがな。」
「馬相手に何をやってるんですか?
姉さんのもとには様々なものが集まりますね。コールオリンもそうですし、これもだ。」
「持っていてまずいものなのか?」
「いえ、それはないと思います。
なんでも、これを火にくべ、その煙を吸えば寿命が延びるとか。
要は縁起ものですね。」
「火に入れたのか?」
「ええ、一応そういう決まりなので半分だけ。」
「半分?」
「どんなものか研究してみたかったので。結局、木片だということしかわからなくて
そのまま宝物殿に。」
「国からもらったらすべて燃やす決まりなのか?」
「そうでしょうね。そういう細々したしきたりがありましたよ?」
「彼女がな、最初のころ、砂漠石や月のことに疑問を持たないのは
昔からの誓約なんだろうと、真名の宣言のこともな。
なにも疑問に思わずにむかしからそうだということでやっていることが
彼女にしてみればおかしいらしい。
お前は決まり事ではすべて燃やさなければならない香木を半分しか燃やしていない。
だから、王都に対して反発するのか?いや、反発できるのか?」
「そんなこと、そんな考え方は!だったら、変動が起こるとわかって砂漠石をためていたのは?
父も、その前の祖父も半分にしか燃やさなかったと?」
「いや、ちがう。燃やしていたと思う。砂漠石を蓄えるのはいいんだ、王都にとっても。
最後にそれを自分たちが手にすればいいんだから。」
「なんてことを!」
「いや、わからん。とにかく、王都がらみはなにもかも疑わなくてはダメだ。
彼女のまじないも唱えて、疑問に思え。
砂漠の変動も他の砂漠では起きないのかと聞かれて初めて疑問におもった。
お前もそうだろ?なんで、コットワッツの砂漠だけ、800年という周期で起きるんだ?
他の砂漠は?ワイプ、調べたんだろ?」
「ええ、しかし何もわからなかった。しかし、あれと同等の変動がないとは言い切れない。
だって、800年前の記録もなかったのですから。」
「何もしらないならそれでいいだろう。
これからの600年が辺境にとってはつらい600年になるだけなんだ。
事実800年前に草原をつくり砂漠の民を内陸に住まわせ、草原の民という、
権利だけを主張する人たちを作ってしまったんだ。
同じように蓄えた石を王都に取られたんだろう。
取られていなければ、なにもあんなところまで砂漠人を追いやることもない。
砂漠のそばで開拓すればいい。彼女のことがなくても、領主の力と砂漠石があれば
お前ならそうするだろう?
そう考えるほうが話は通る。
取られていなければ、草原の民なんかいない、もっと発展していてもおかしくない。」
「兄さん、まって、まって!」
「なにもかも確証はない。何もかも疑っていけばキリがない。
彼女のことも疑問に思わないといけなくなるが、それはないんだ。緑の目の対象だからだ。
じゃ、この緑の目というのはなんだ?」

「マティス!」


彼女は薄い綿の上着だけ羽織ってこちらに来たようだ。

「起きたのか?」
「うん、そんだけ、こころのなかをざわつかせたら起きるよ。」
「そうか、すまない。」
「ううん、謝らなくてもいいよ。
いろいろあるよね。でもマティス、そんなことを知ってどうするの?
世の真理をすべてしらなくてもいいんだ。
何もかも受け入れなくていいし、何もかも疑わなくてもいい。
わたしだってこの世界の疑問はたくさんある。
海の向こうはどうなってるのとか、
月のない時は何が光ってるのか、星はなぜ動かないのか。
元の世界でもあるのよ、わからないことが、
宇宙の果てとか、その始まりとかね。
そんなことを考えていたらそれこそ、夜しか眠れないって奴だよ?」

「姉さん。・・・?夜しか?ぶ、ぶははははは!」
「え?どういう?あ、夜しかか。あはははは!」
「な!我が弟子モウはうまく言葉を使う!あはははは!」
「あははは!そうだ、そうだな、夜しか眠れないだ。」
「うん、今はその夜だ。みんな、寝よう?
セサミンも。明日ここを出るのはいつ?」
「ええ、半分過ぎです。入って来た門の横から出ます。問答はありませんが、
人の出入りは確認していますので。」
「なるほど。で、コク、あの黒い馬さんにもらったのはまずいもの?」
「いえ、香木チャンナダは昔からの縁起ものです。
国から領国に贈られるものは兄さんの言うようになにか施されているかもしれませんが、
他の国では高級香料として取引されています。
この大きさだとそれこそ国家予算ですよ。南のルポイドでとくに重宝されています。
ああ、ルポイドがコーヒーの産地ですよ。」
「へー、そうなんだ。じゃ、」

彼女は木片をバキリと2つに割ってしまった。


「姉さん!」
「ん、これ、もらっとき。そのルポイド?となんか取引するときに
土産だとかいって渡せばいい。
ああ、じゃ、これも。」

テーブルの上に28個のモモの殻と6つのコールオリン。

「ちょっと試したけど、自分のコールオリンだから蜘蛛の糸先で撫ぜたら開く。
別のモモの中にいれたら簡単に開いたよ。
セサミンが見せてくれたのはうまく自分のコールオリンだったわけだ。
身の中にある場合にナイフでこじ開けられたらどうしようもないようだけど。
モモ的には蜘蛛の攻撃を受けたら、コールオリンを吐き出して
自分の身を守るのかもしれない。蜘蛛はモモも食べるけど、
このコールオリンが好物かもしれないね。吐き出したらその時は逃げれるけど、
無ければ食べられしまうとか。
その蜘蛛の吐き出した蜘蛛の糸が操りの糸だ。
便宜上砂漠蜘蛛と呼ぶけど、
師匠が預かってる砂漠蜘蛛は砂漠石を食べて操る糸を出してるとすると、
本家の海蜘蛛が食べていたこのコールオリンも砂漠石と同じ力があるかもしれない。
だからジットカーフは高いお金を出して買い取ってるかもしれない。」
「モウはいつも怖いことを言う。」
「師匠、でも、何もかもが、かもしれない、止まり。
それで、世界が廻ってるならそれでいい。
ただ、利用できるなら利用すればいい。
これはきれいだから2つもらうね。自分の殻と違う殻も。
あとは師匠が研究するなり、ジットカーフとの取引にセサミンがつかって。
ああ、これ、コールオリンがでなかった殻は普通にきれいだから装飾に使えるよ。
閉じたら力を入れないと開かないしね。
中にきれいな布を詰めてそこに金剛石を入れてもいい。
ガイライも1つもらって?例の耳垢、持ってるんでしょ?
これにいれたら?なんか、すごい石に見えるよ?垢なんだけど、ぷくくく。」

彼女は器用に赤い絹地をくるりと丸め、殻の半分に摘め、
ガイライに渡している。
ガイライは懐から小さな石、耳垢だが、それを出し、その上に置いた。

「なんと、ものすごく高価なものに見えますね。」
「ね?これが金剛石だったらもっとすごいよ?色は考えてね。
今度持っていくときにこれにいれたらいい。
誰もこれがモモの殻なんて気づかないんじゃないかな?」
「しかし、コールオリンがモモから出るということは秘密にしておいた方がいいでしょうね。」
「そう?そうだね。それでも、セサミンもモモの味が気に入ったから
お取り寄せできるようにしといたら?トックスさんみたいに。
あろうとなかろうと、モモのコンポートはいいよ?」
「ああ、それはセサミナ殿、わたしが手配しておきましょう。
ジットカーフのアスナ漁港に知り合いがいるのです。
今回のモモもそれから送ってきたんですよ。」
「そうなんだ、あ、ちらし寿司どうだった?あの丸いの魚の卵なんだよ?」
「ええ、おいしくいただきました。半分のころ、ここの食堂で、
ワイプとトックスとで3人でいただいたときに聞きました。
おもしろいですね。捨てるものが食べれるのは。それもうまい。」
「そうだね、イリアスもそんなのがあったらいいね。ね?マティス?」
「ああ、そうだな。さ、下にいって寝よう。」
「うん、じゃ、みなさん、おやすみなさい。」

愛しい人は私にもたれるとそのまま寝てしまった。

「姉さん?寝たのですか?」
「そうだな。本当なら月が沈んでも寝ているはずなのに、
起きてきたのは私の心がよほど荒れていたんだろう。
私もこのまま寝るから、お前たちも早く寝ろ。
月が沈めばここでの最後の朝ごはんだ。」

彼女を抱え寝床に戻った。




「マティス?」
「寝てていいぞ?」
「うん。マティスはわたしのことも疑うの?」
「聞こえていたか?疑えないし、疑う必要もないといっただろう?}
「それは緑の目の対象だから?」
「緑の目でなくてもあなたのことを疑うことはないな。あなただからだ。」
「うん、わたしも、マティスだから疑うことをしなくていい。安心だ。
なにか信じるものがあれば人は安心するもんだ。それがマティスでよかった。
明日はわたしもいっしょにご飯作るから起こしてね。
マティス、おやすみなさい。」
「ああ、おやすみ。」

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