いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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280:行商

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20リングの稼ぎです。
ご祝儀があったとしても、素晴らしい稼ぎです。

ただ、一度すれば、そこでは二度とできない。
おひねりを回収するまでものすごく時間がかかる。
その光景は地獄絵図。


「先にもらうわけにもいかないしね。」
「諦めよう。私も腹が痛い。」
「そうかー。」

あのあと、落ち着くまでかなり時間がかかった。
気を利かせて氷を用意してくれていなかったら
折角の新鮮さがパーだ。
皆に、手を振りながら、かなりの速さでデイの村を離れた。

人気が無くなったところで全部収納。
とにかく、1日でイリアスに入らないと、
あとから聞かれたらややこしいことになる。
赤馬の1日の距離が砂漠の民の1日なのだから。


「しかし、縁てあるんだね。テムローサの師匠がニックさんとは。」

マティスがテムローサの槍筋をみて師は誰だと聞いたのだ。
「イリアスのニックさんです。」と答えた。
去年、イリアスの王都にハムを納めに行くのについていったときに
泊った宿にいたそうだ。3日ほどだが、手ほどきを受けたという。
それまでも自己流で槍を使っていたが、基礎からきっちり。
これからやることを3日で教わったそうだ。その時彼女は11歳。
すごいな。彼女も天才の努力家なのだ。

なので、イリアスの王都に向かうことになった。


かなり時間を食ったが、気配を消して、飛べば何のことはない。
月が昇る前に国境についた。
ここも誰もいない。行き来は自由のようだ。
次のイリアスの村では同じような問答があるのだろうか。


「せーの!」

赤いレンガの線を二人で超える。
このまま少しいけば最初の村だそうだ。
今日はそこに泊まることになる。
また、荷車を出して、売ってもいいだけの荷をのせる。
行商だ。
デイの村長の話だと、
イリアス最初の村は、
自給自足の村で新鮮な乳や卵があれば喜ばれるだろうといわれた。


「すいませーん。デイの村から行商に来たんですけど、
ここで商売していいですか?」

こっくり寝てる守衛さんを起こしてみる。
「ん?行商?へー、それはありがたいな。なにがあるんだ?」
「ええ、デイで仕入れた、卵と乳とチーズ、干し肉、あとはデイ名産のハムですね。あとは豚。」
「え?乳と卵はダメだろ?赤馬で来た訳じゃないんだろ?」
「ああ、わたしたちは砂漠の民です。
赤馬で1日の距離は砂漠の民の1日と同じなんですよ。
足の速さと力もちが自慢です!」

勝手に砂漠の民仕様が出来ていく。

「そうなのか?砂漠ってマトグラーサ?」
「ニバーセルが一領国、コットワッツのサボテンの森から来ました。」
「そういわれてもどこかわからんな。ま、歓迎するよ。イリアスの端の村にようこそ。」
「端の村というのが村の名前なんですか?」
「ああ、デイから来たら最初の村っていったほうがいいか?名前は特にない。
何もないが何も起こらない。のんびりできる村だ。」
「へー、宿はありますか?」
「そんな大げさなものはないが、村長のところに行けばいい。
商売するんなら、悪いが税も納めてもらう決まりだからな。」
「なるほど。」
「案内するさ。そろそろ月が昇る。商売は明日からすればいい。
村長のところには氷室がある。そこに乳も預ければいい。」
「すごいですね、氷室があるなんて。デイでもあるって。」
「ああ、砂漠の民はしらないか。デイは近くに氷の山があるからそれを使ってるんだろ。
ここらは少し掘れば土が凍ってるんだ。
穴を開ければ氷室だ。」
「おお、永久凍土!」
「は!うまいこというね。まさにそうだ。ずっと凍ってる。さ、こっちだ。」

今回のやり取りは勉強のためわたしがやることになってる。
マティスは黙って見守ってくれているのだ。
まだ、ズンタッタの後遺症で、
どのタイミングでぶり返すかわからないからとは言わない。


守衛さんは前を歩いて案内してくれている。
店屋はなく、それぞれの家の前の畑を耕して生活しているようだ。
作業をしている人たちは、みな年老いていて、
守衛さんに笑顔で挨拶している。
守衛さんはわたしたちを砂漠の民で新鮮な卵と乳を売りに来た行商だと紹介した。
みなが喜んでいる、ちょっとうれしい。

「もどったぞ!」

守衛さんは村長さんだった。
「村長のライバーだ。ようこそ。端の村、最初の村へ。」

なるほど、兼務ですね。
階段を降りたところが氷室で、さすがに寒い。
そこに荷物を下す。

「いらっしゃい。ゆっくりしていってね。」

可愛らしい奥さんが歓迎してくれた。
「お世話になります。」

夕食までご馳走してくれるそうだ。
そうすると、なぜかご近所さんもどやどやとやって来た。
デイからの行商はあるが泊っていくのは珍しいらしい。
素朴なお味のご飯を頂きながらそんな話を聞いた。
そしたら、なにか面白い話をしてくれという、無茶ぶりをもらう。

ここで、アヒルの歌を披露すると本当に死者が出そうなほど
高齢な方々なので、寿限無を披露。

ここの人たちは涙腺が弱く笑いの沸点が低い。
ばーさま大丈夫?というぐらい笑ってくれた。
きっとありがたい言葉ばかりだから健康にいいんじゃない?ということで、
歌声喫茶のように、皆で寿限無寿限無と大合唱。

最後、みんなでちょうすけ!と声がそろって
皆が涙を流して笑った。

その日はこれでお開き。
明日はよろしくお願いしますと、皆を見送った。


「ああ、たのしかった。」
奥さんも喜んでくれてる。
「そうですか?お間抜けな話をしてしまって。」
「いいえ、ここは何も起きないけど、何もないの。
ここで生まれた子供たちはみな出稼ぎに出て戻ってくることはない。
行商の方が来ても月が昇る前には出発してしまう。
それに、今日は村人ほとんど来たんじゃないかしら?」
「おまえ、それはないだろ?
全員がここに座るだけの椅子はないからな。」
「あら?そうね。うふふふふ。」

かわいらしい奥さんだ。


来客用の離れを貸してもらう。
お風呂もあるという。
やはり樹石と言われるものを燃やす。
しかし、ここは寒いので水の確保の方が大変だと。
雨の日、ここでは雪の日に降る雪を固めて氷室に保存しておく。
この仕事が一番大変だといっていた。水の確保。
もし足らなくなったら、凍った土を、切り出し、溶けだした水をろ過して使う。

土の中に丸い石がある。それが樹石。
これに砂漠石で火をつけてると、燃える。炎を出さずに高熱になるそうだ。
それを風呂桶の水の中に入れてお湯に変える。焼き石をいれるような感じ。
料理の時はその上に鍋を置けばいい。
ここでは、その火をつけるときと、夜の明かりにだけ
砂漠石を使う。
一番シンプルな生活だと思った。それがイリアスの生活。

風呂桶に、固めた雪の板を入れてもらった。
わたしたちのために貴重な水を使うのはダメだと遠慮したが、
客人は素直に受けておけばいいと豪快に笑われた。
遠慮なく、お風呂を堪能する。
使った水は、やはり管で外に出す。
ろ過して、畑にまくそうだ。

肩までつかれる、ゴエモン風呂のようなもの。
木でなく、セメント?モルタル?
聞けば、樹石が燃えた物を砕いて、固めればこうなる。
ああ、いいな。無駄なくものが使われている。
実際に生活すれば大変なのに、
都会の人間があこがれる田舎暮らしがここにあった。


「愛しい人?嬉しそうだ。」

いまはマティスと一緒にお風呂に入ってます。
冷めれば、また、一つ燃えた樹石を
入れればいい。やけどしないように、それを入れる場所もあるのだ。

「うん、このお風呂いいね。
それに樹石がいい。砂漠石の燃えることに特化したものだと考えればいいかな。」
「そうなのか?」
「うん、見てて?」

予備に置いてある黒く丸い石を手に取る。

「あたたかく」
「!やけどするぞ!」
「大丈夫。いまのは言霊じゃないよ?でも、握ってみて?
あったかいでしょ?
ね?別に砂漠石はいらない。砂漠石を使うときみたいに、お願いすればいい。
しかも温度調整もできる。逆はダメみたいだけどね。」
「逆?冷たくか?」
「それが出来たら、コットワッツ危機だよ?
そういえば、どれぐらい持つかは聞いてなかったね?温度調整版。永久じゃないだろうけどね。
ああ、それでね、この樹石は燃える。
ここの人たちの使い方は一気に燃やすことにしか使わない。砂漠石を使ってね。
砂漠石をあてて、燃えろって考えるからかな?
でも、これも砂漠石の一種だ。自在に温度は調整できる。
ただ、そうしないだけ。」
「・・・。」
「この世界は砂漠石ありきなんだよ。とにかく砂漠石で制御をしている。
海峡石はその枠からはみ出したもの。この樹石もそうなれば、イリアスはすごいことになる。
樹石ってイリアスしか取れないんでしょ?」
「そう聞いている。」
「んー、でもほかのところはあるけど、砂漠石があるから採掘しないだけで
あるかもしれないね。また、かもしれないって話だけどね。」
「では冷たくなる石もあるかもしれないと?」
「んー、そこだよね。あったとしても、温度調整版の敵ではないな。
コットワッツのは廻りの温度を調整するからね。
熱くなる石、冷たくなる石、これらがあっても、温度が変わるのは石そのもの。
冷蔵庫ほどには便利にはならない。使い方次第だけどね。」
「使い方?」
「そう、この樹石。触ってもやけどしないくらいの温度で入れておけば、
ね?冷めてないでしょ。一気に温度を上げるより、長持ちする。」
「ああ、なるほど。」
「軽石みたくなるまで使えるんだったら、もう温めてなくていいなら、そこで止めればいい。」

入れていた石にいう。

「もう、いいよ。ありがと。ほら。」
「熱くない。」
「ね?便利だ。しかし、土中に樹石に対して、”燃えろ”って言っちゃうと
大惨事になるな。だから砂漠石で制御してるのかな。」
「燃えろといって燃えるのなら、消えろと言えば消えるだろ?」
「ま、そうだけどね。それでも、火に置き換えれば怖いよ。
うん、一気に燃やすのではなく、温度も制御できるってことのほうがいいかな。
やっぱり砂漠石は必要だね。」
「教えるのか?」
「ん?それは必要ないな。ここでは生活が完結している。
乱すことはしない。お礼はしたいけどね。」
「アヒルはダメだぞ?」
「そうだね。プリン問答でもしようか?プリンを食べてもらう?
そしたら、乳と卵が売れるかな?」
「飛ぶように売れるとまたどこかで仕入れないといけないぞ?」
「そうか。でも、最悪無くなれば王都に行けば買えるしね。」
「そうだな。では、月が沈めば作り始めよう。
そうだな、50人ぐらいか。出来上がれば氷室を借りて冷やそう。」


お風呂を堪能して、小さなベットでくっついて寝た。
2つあったけどね。


「ここの2人、いいね。
あんな風になりたいね。」
「そうだな。なれるさ。」
「うふふふ。」







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