いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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310:攻防戦

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彼女はやはり丸2日寝ていた。
起き抜けの様子を、寝床の横で見ることが出来たので大満足だ。


「ふわー、あー、んー、おなかすいた。んー。
あれ?マティス!おはよう!んー。久々の爆睡だ。
あれ?わたしどんだけ寝てたの?ここは家だよね?どこ?」
「オハヨウ、愛しい人。コットワッツだ。タロスの家があったあたりだ。
2日だな、良く寝ていたよ。」
「え?そんなに?じゃ、マティスのご飯を6回も食べ損ねてるの?
なんたること。」
「あはは、そうなるな。すぐに用意はできる。風呂にでも入っておいで。」
「うん。あの、マティスはその間、何してたの?」
「おまえがいうごそごそだな。食料関連の整理をしていたらあっという間だ。
セサミナには先に顔を出すと言ってある。
ドーガーはお前と槍で勝つ気でいるぞ?」
「なんと、生意気なドーガーめ!いや、経験は向こうの方が上か。
うん、頑張ろう。お風呂入ってくるね。あ、その前にトイレだ。」

彼女はバタバタと身支度を始める。
ふれんちとーすとハム類を出そう。
コーヒーもだ。



食事ときにセサミナの奥方が会いたがってると伝える。
「奥方様たちと会うのはなー、苦手だな。
喜んでもらえたことが分かっただけで十分だとしておこう。
セサミンからうまくいってもらうよ。
また、機会があったらね。
ふふふ、この言い方、会う気はないって意味なんだけどね。」
「そうなのか?遠回しな言い方なんだな。」
「うん。変だよね。さ、じゃ、セサミンに報告事項はあるし、行こうか。」
「ああ、それと家を探そう。ここに一つ建てておこう。」
「え?家を買うの!すごい!どんなどんな?」
「好きなのを買えばいい。」
「うわー素敵!うちの旦那様はなんて甲斐性があるんだろう。
楽しみ!!行こう!早く行こう!!」


(セサミナ?今いいか?)
(兄さん!今はあまりよくない客が来ています。少し待っててもらえますか?)
(誰?)
(上の姉レンシと下の姉メイクナです。)
(何しに?)
(金の無心です。)
(あははは!そりゃ来るよね。セサミン、久しぶり、元気じゃなさそうね。)
(姉さん!)
(その攻防戦見学してもいい?)
(もちろん!勝ってみせますよ!)


気配を消して執務室に行くと、
姉2人とその息子。
どこからか持ってきた椅子に座っている。
立っているのは従者か、それが4人。
合計8人。狭い。

セサミナは長椅子に一人座っているのでその横に座る。
彼女はセサミナをまた後ろから抱きかかえている。
今回は許してやろう。

姉2人はこんな顔だっただろうか?記憶がない。
いや、化粧をしているのか、年をとったからなのか?
わからんな。

(姉さん!姉さん!)
(ふふふ。なんだ、元気そうだね。で、このお二方が姉上なのね?)
(そうです)
(前に来た2人より上?下?)
(下です。この2人の下にリップルです。)
(へー)
(メジャートとナソニールの豪族に嫁いでいます。)

「セサミナ?聞いているのですか?」
「ええ、もちろん。しかし、なぜ、コットワッツがメジャートとナソニールに
融資をしなくてはいけないのですか?」
「違います。コットワッツがではなく、セサミナ、
あなたがわたしたちに融資をしなさいと言ってるのです。」
「なぜ?」
「あなたにここの20年分の年予算が入っているのはみなが知っていること。
それを少しくらい出しても問題ないでしょう?」
「ですから、なぜ?と問うています。生物学上我が父の血を引く方だ、
便宜上姉上と呼びますが、嫁ぎ、父上が亡くなり、
わたしが領主となった時点で他人だ。
領民でもない。メジャートとナソニールの豪族として、
なにか事業を起こし、その融資をしてほしいというのなら
まずはご自身の領国領主に頼めばいい。
なぜ、他領国に?
父が生きていたころにもこちらに戻ってきたことはないですよね?
ティータイの宿でわたしの名前を出したそうですが、
宿の支払いはきちんと払ってくださいね。」
「何を言うのですか!わたしたちは前コットワッツ領主の息女。
招待されてもおかしくない地位なのですよ?」
「おかしいですよ。我がコットワッツには何の関係もない。
で、姉だ、弟だということでの融資はあり得ません。
それだけしかお話がないのでしたらお帰りください。」
「なんとかわいげがないこと!昔はあんなにかわいかったのに!」
「申し訳ない。記憶にないのですよ。嫁いでから、
一度もここに戻って来ていない。父上が亡くなった時にも。
申し訳ないが顔も覚えていない。」
「・・・兄2人の事業には大々的に融資したと聞きます。
それと同じことを姉2人にもできるでしょ?」
「あはははは!兄上お二方はコットワッツに住んでいた。
それにあの変動の後、すぐに駆けつけてくれているのですよ。
なにか協力できることがないかとね。
あなた方は?40数年ぶりに来られて
いきなり融資しろはないでしょう?
先ほどからいっておりますが、ここでお会いし、
時間を割いているのはメジャートとナソニールの豪族だからです。
わたしも領主として忙しい、それで?話はこれだけですか?」
「母上、これ以上は。
改めまして、メジャート領国ワーサ領主の甥にあたるアバサネです。」
「ワーサ殿の右腕ライール殿のお加減はどうですか?」
「?」
「ああ、結構。そちらは?」
「ナソニール領国領主スホームの甥でルコールです。」
「スホーム殿はあれから領土に戻られましたか?
望郷の呪いの恐怖に震えていると聞きましたし、
正式な謝罪もないですよ?いりませんがね。」
「なにを?」
「領主の甥だと名乗るのなら少しは自領国内のことは
調べるべきですよ?ライール殿は銃で撃たれ、
あなたの伯父上がわたしに向けて銃を撃ったんですよ、王城内でね。
知りませんか?」
「!!」
「は!箝口令も出てないというのに知らないとは。で?お話というのは?」
「・・・融資というか、土地を買っていただきたい。」
「土地?あなたたちが権利を持つ土地ですか?領国の許可は?」
「もちろんあります。ここコットワッツに面している湿地です。」
「湿地?あの?なにもない?どうして?」
「あの湿地は樹石が取れます。コットワッツは砂漠石が主な産業だったでしょ?
それがあの変動で枯渇した。次の産業を模索していると聞いています。
樹石は主に北方地方で使っている燃料です。
我々には豊富な砂漠石があったので使っていなかっただけだ。
これからはそれを使えばいい。その権利を買っていただきたい。」

(樹石だ!やっぱりあるんだ。)
(姉さん知ってるんですか?差別的ですが、樹石は貧乏人が使う石ですよ?)
(らしいね。ま、このままだまって話を聞いてるよ。)
(ええ、お願いします。)

セサミナは偉そうにふんぞり返っているが、胸に頭を押し付けているだけだ。
私が黙っているのはセサミナと私を抱えるように愛しい人が肩を抱いているからだ。


「それこそなぜ?燃料に使えるならばそうすればいい。
コットワッツの領土内にも十分湿地はある。
必要ならそこから取ることもするでしょう。
なので、お二方の土地はいりませんよ。」
「ですが、樹石を使うことになれば争いが起きる。
その前に手に入れておく方が得策でしょ?」
「だったら、買いますか?コットワッツの湿地を?」
「い、いえ。我々は確固たる産業あるので、砂漠石は豊富に手に入る。
コットワッツこそが必要なのが樹石なのですよ。」
「コットワッツで必要となるならあなた方の領土でも必要でしょ?
それをなぜ勧めるのですか?
親切心ではないですよね?土地がこちらに移行すれば、
ニバーセルに納める税は増える。
それを上回る利益が出るとは思えない。逆に利益を生まない湿地を手放せば
そちらは納める税は少なくなる。そこまで、両領国は金に困っているのですか?
会合ではそのようなことは出なかったですよ?」
「セサミナ!豊富な資産があるのですから、買ってくれてもいいでしょ!」
「だからなぜ?と聞いているのですよ。税が上がったのは知っていますよ。
会合で了承してましたから。それが、豪族、領民の負担になるのも。
砂漠石も値上がりします。それはどこでも同じだ。
どうしてそこまで、一豪族のあなた方に金が必要なのですか?
それに、あなた方の父上はなんとおっしゃっているんですか?
「・・・銃ですよ。銃を大量に買う。そのために金が要る。
一番多くの銃を集めたものがそれにふさわしい地位に就く。」
「メジャートもナソニールも?」
「そうです。それこそ、調べればわかること。
銃をルカリアから大量購入していないのはコットワッツだけだ。」
「ああ。で?湿地を売って金に換えようと?どうしてそこでわたしが、
コットワッツが了承すると考えたのですか?」
「・・・・。」
「一番の間抜けで金を持ってるから?」
「・・・・。」
「もう少し話を作ってからくるべきでしたね。お帰りください。」
「だ、ダメです。ここだけなんだ。金を出しくれそうなところは。
聞いてください!わたしたちは母親同士が姉妹で、年も同じ、
立場も領主の弟が父親で同じような境遇なんです。
管理する土地も近いので兄弟のように育った。今回の会合後、
争うように金を集めることになったのはお話したように銃を買うためです。
ここで、よりよい地位を2人でとることが出来れば、
2人で土地を管理することもできる。
そのためにはまず、金が要る。融資してもらえるとは思っていないし、
その見返りとなる事業もない。売れるのは湿地だけだ。
湿地だが、土地は土地だ、埋めるなりなんなりすれば
使い道はあるだろう?買ってくれ。2つ合わせて2万リングだ。
それだけあれば他の兄弟より上に行く、当主になれる。
頼む!」
「それ、コットワッツには関係ないことですよね?」
「・・・。」

(その2万リングって妥当な金額?)
(まさか。湿地ですよ?5千でも高いくらいだ。)
(ふーん。土地こっちにきたら税金が上がる?)
(ラルトルガの農地でもないので、微々たるものですよ?)
(あとですごく価値が上がっても?)
(申請した時点の価値です。)
(ふーん。セサミン、わたしが買うよ。2万で)
(え?どうして?樹石ですか?)
(うん、それ。豊富に取れる?)
(ええ、一度調査したことはあります)
(さすがだね)
(埋蔵量はかなりありますが、植物もない虫もないメイガもいないんですよ?)
(上空土中すべての権利。樹石の権利をすべて。それで買って)
(ちょっと待ってください!)


「話は以上ですか?」
「セサミナ殿!」
「2万リングと数字もどこから出たんですか?あの湿地の価値?違いますよね?
あなた方が欲しい金額だ。そこからが間違いですよね?
お帰りください。明日、半分過ぎに出も、もう一度お話は聞きましょう。
その時はきちんと適正価格で交渉してください。
ルグ!お帰りだ!」


これ以上交渉しようがないと踏んだのか黙って帰っていく。
母親同伴というのがまず間違いだ。


「ドーガー気配を消して、あいつらの話を聞いてこい。
見つかりそうになったらすぐ戻れ。」
「はっ。」

ルグが送ったのか戻ってきた。

「ルグ、悪いが湿地に行ってこい。
そこで、樹石、知ってるな?それを取ってきてくれ。
あと、周辺の様子も探ってくれ。変わりなければいい。
植物、虫、以前調べたときからなにか変化がないか。
行ってこい。だれにも気取られるな。」
「はっ。」



「姉さん?」

彼女がセサミナの横に座り姿を現す。

「姉さん!姉さん!」
「セサミン!相変わらず厳しいね。2万で買ってもよかったのに。」

セサミナは彼女に飛びついて、彼女もセサミナを抱きしめている。
「何度言えばわかる!離れろ!」
「もう!挨拶なんだから!」

「はー、姉さんだ。元気そうで何より。
湿地の件はあの段階で言うままに出せば、同じような輩が群がります。
価値としては5000無いんですよ?どうしても買ってほしいなら
明日、5000か6000あたり交渉に来るでしょう。
それでも高い。本当に買うのですか?
いえ、姉さんが必要なら2万で買ってもいいんですが、あの段階ではね。」
「そうだね。ルグとドーガーが戻ってきてから詳しく話すよ。
ああ、食の祭りの日取りも聞いたよ。楽しみにしてるね。
それと、奥さんたちに会うのは遠慮しておくよ、
喜んでくれてうれしいとだけ伝えておいて。
ありがとうね。」
「そうですか。それは残念がるでしょう。
しかし、姉さんがそうおっしゃるのなら仕方がありませんね。
ああ、ほんと久しぶりです。」
「ふふ、ほんとだね。おしいもの沢山出来たよ。晩は皆で食べようね。
トックスさんも呼んで?」
「ええ、そうしましょう。2人が帰るまで、コットワッツ製品を見てください。
来月には量産に入り売り出します。ボルタオネのタオル納品もすぐです。」
「見せて見せて!」


彼女が楽しそうだ。
どれ、コーヒーでも入れようか。



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