いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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428:刺繍

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絹のバサールに行くと、
刺繍を施したものがあるのだ。
マティスが飛びつく。
それぞれの色、共色での刺繍がきれい。
これは売れるだろう。
が、今までに見たことがなかった。なんでだ?
高い?いや、一束3リング。刺繍の手間を考えれば安いだろう。
ここの人たちも着ている。とてもおしゃれだ。

「デルサートルでも見なかった。こんなにきれいなのに。」
「ここの国だけなんだよ。国境を超えると、後はこの刺繍がほどけるんだ。
使い道がないだろ?裁断してもダメなんだ。
それも次の月が沈むまで。何もしなくてもほどける。
いままでいろんな行商が試したのよ。
ダメだったの。
だからこの布地で作ったドレスを着るためにここに来る金持ちが多いのよ?」
中央に近いところは他国の貴族の別荘地。
むやみに近づいたらダメだよ?」
「え?そんなことより、ほどけるってなんで?」
「昔、ここの王様が願ったんだよ。
この刺繍布が不当に扱われることがないようにってね。
だから大事に扱ったものさ。だけどそれは昔の話。
みな好きなように切ったりするだろ?だからほどける。って言われてる。
昔話だよ?しらないかい?」

ぶんぶん、と首を振る。

それ、治める力が変に今も影響してるってこと?

「今の王様に頼んで解除してもらったら?」
「そんなの出来たらとっくの昔にしているよ!
でも、そのおかげで、別荘地ができたしね。
売れるのならどっちでもいいんだよ。」

これか、トックスさんが言ってたのは。
紅茶屋のお姉さんも布を切るなんてもったいないと言っていた。
ここの話が伝わってるんだな。

土下座級でお願いしてみようか?
きっと最初は純粋なお願いだったはずだ。
どこかでゆがんでしまったんだ。
別荘地で限られた人たちが着る布地の方がいいのか、
タトートの刺繍布が有名になるのほうがいいのか。

では、絹糸に意思がある?
作り手の思いもあるだろう。
どっちになるか。わからんけど、レッツトライ!


ダメもとで挑戦します!というと、
こっちは売れるからどっちでもいいよと言われた。
文句はいいっこなしだよとも念押し。

店によって刺繍が違う。
元になる絹地も。
ここでも真綿が売っている。
真綿はフレシアで買うからいいか。

香辛料と植木鉢で背負子は一杯だ。
それにもうすぐ月が昇る。

一度宿に戻って、
明日は絹のバザールからスタートだ。

マティスはもくもくとスケッチをしていた。
アイデア爆発なのだろうか?

「素晴らしい!」
「楽しみだね。じゃ、いったん帰ろう。
明日は布を買おうね。」
「ああ!」

宿の戻り、鉢植えは、マティスの植物園の横に新たに部屋を作って移した。
料理に使うハーブ類の横。
ほとんどの木々はサボテンの森にいるから。

1階の食堂の食べものは、なるほどこってり系だ。
駱駝馬?と聞くと、今はないねとの返事。よかった。

「最近なんだよ?昔は駱駝馬の肉を食べていたんだ。
でも食べるところは脂身が多いところだけ。
他は固くて食べるのに歯が欠けるって言われた。
で、ポットや豚の肉が入ってくるようになってね。
赤身が売れた。しかし、やっぱり脂身の味が恋しくなってさ。
同じようなところも食べるようになったんだ。」
「入ってくるって、育ててるってこと?」

流通はできない。腐るはずだ。まだ。

「そうだよ?ベリアバトラスで育ててる。
もともと、誰も済んでいない土地に放牧したんだ。
勝手に増えてる。ボットも豚も。
それを狩るんだ。」
「豚って繁殖がえげつないって聞いたけど?」
「それはいいね。増えれば増えるほどいい。」

・・・管理してるわけじゃないんだ。
うわー、大繁殖したらどうするんだろう?

「くわばら、くわばら。」
「なんだ?それ?」
「んー?まじない?
風神、風の神様ね。で、雷神、雷の神様。
雨の日って雨が降るだけ?なんか、空がぴかって光ったりする?
で、ものすごい音がするとか?」
「知ってるのか!!」
「ぶは!!」

ニコルさんのものまねはやめって!!
「似てるーー!!」
「ふふふふ。横で観察したのだ。
こう、顎を引いて、目をカッと開く、で、
知ってるのか!!」
「ぼくも!!」

「「知ってるのか!!」」

ちょうど料理を持ってきてくれたお店の人に聞かれてしまった。

「ぎゃははははは!
ニコルの旦那だろ?それ?似てるよ!
俺にも教えてくれ!!」

3人でやってみる。

「「「知ってるのか!!」」」

ぶはははははは!!!

たぶんあんまり似てない。
けどみんなでやるとおかしい。

「はー、本人がみたら怒るな。
あははは!あんたたちの宿泊代と飯代は先にもらってるんだ。
ゆっくり楽しんでくれよ。」

お!食事代もか!
うれしいね!
ニコルさんはいじられキャラのようだ。

ポットや豚の内臓、脂身を食べる。
これは太るな。そしてうまい。
香辛料は食欲増進、消化不良をなくすもの、
それらが入っているのか、臭みもなくおいしかった。

湯あみの石を買い、2人で入った。

「結局みずむしというものなのか?」
「たぶんだよ、ほんとに。その菌を見たことがあって
同じならそれを殺すことはできると思うけど、知らないからね。ダメだね。
部長の話でね、竹酢液がいいって聞いたことあるんだ。
竹炭を作るとき煙が出たでしょ?
その煙を集めて。冷やすと竹酢液ができるんだよ。
3か月ぐらいかかるそうだけどね。今度作ってみるよ。
うちの身内で水虫になったら難儀だから。」
「そうだな。うつるというのは怖いな。で、らいじん?あの話は?」
「途中になったね。マティスが笑かすから。
今度本人が言ったら、腹筋が割れるよ?
えーと、その光はなんて言ってる?」
「名前なんぞない。」
「そうか。かみなりっていうの。で、雷の神様で、
それを縮めて雷神。
雷神がね、桑畑に落ちるのよ。
で、畑仕事をしてた人たちがびっくりして、井戸にとじ込めちゃうの。
助けてやるかわりに二度と落ちてくるなって約束をさすのね。
雷が落ちると火事になることがあるから。
で、雷が鳴ったら、ここは桑の原っぱ、くわばらくわばらっていって
落ちてこないようにつぶやくのよ。
そこから、怖いな、ってなんかありそうだなっておもったら
つぶやくおまじない?
いろいろ説はあるけどね。わたしはこの話がいちばんしっくりくるかな?」
「桑?桑畑?」
「んー、そうなのかな?雷避けに植えるってところもあったらしいよ?」
「面白いな。」
「こんな話をね、動く絵で見せてくれるのがあったのよ。それ好きだったんだ。」

理不尽な話も少なくなかったけど。

「でも、雷、稲光って好きなんだ。きれいだよね。」
「きれい?」
「見たことない?」
「音と光だけだ。窓も揺れるんだ。」
「空を見たらきっとこう、光が走ってるはずだよ。
後ね、その光が落ちたところの木のうろにはお酒ができるとか、
砂漠に落ちると、石ができるとか。」
「それを探すのか?」
「ん?これはお話だけだよ?雨の日はいろいろでかけるけど、
ずっとくっついてるんでしょ?そんなことしてる暇ないよ?」
「ふふ。そうだな。」




朝一番で絹のバサールに向かう。
香辛料は見向きもせずに。

「おや、来たんだね?」

昨日説明をしてくれた店から、少しずつ買っていく。
やっぱり大量買いはちょっと躊躇する。

刺繍が取れるから、持ち出すんならこっちにすればいいと、
心配しているのか、さらに高い布を勧める店もある。
いや、単色ならフレシアの方がいい。
ここはあくまでも刺繍だ。


一番奥が一番高い店のようだ。

「買うのかい?ここは貴族専門だよ?」
「買えないんですか?」
「はは、それはこっちも商売だ。かまわないよ。」
「お兄ちゃん、いいって。選ぶ?」
「そうだな。少し仕入れておこうか。」
「ん?お兄ちゃんは?いいの?」
「俺は3軒目店で買ったものでいい。」
「そうなの?こっちの方が高いよ?で、見た目豪華だ。」
「そうだがな。組み合わせの問題だ。」
「ふーん。んじゃ、ぼくはお土産用にかっとこうかな?。
小さい袋を作ろうかな?あの巾着。
女の子たちが喜びそうだ。」
「・・・前々から思っていたんだが。」
「ん?」
「女に甘いな。タロスもそのように言う。
女の子たちが喜びそうだ、とな。」
「ぐふふふふ。女の子好きだからね。さすが、タロスさんだ。」
「そうなるのか?」
「お兄ちゃんは?」
「好きな女以外はなんとも。」
「・・・お兄ちゃんはそれでいいよ。」


おばかな話をしながら見ていると店の人が声を駆けてくる。

「弟のほうはもてるのかい?兄さんも見習ったほうがいいよ?
うちのが一番丁寧だ。値ははるが喜ぶよ。
だが、ここを出たら刺繍はほどける。
穴の開いた布地を売るのかい?行商だろ?」
「頑張ってみようと思います。」

買った店全部でこれを言われる。
どっちがいいんだ?ここでだけ?ほかでも売れたほうがいい?


「時々いるよ。そういう行商。
でもダメなんだ。それで、二度とここまで来ない。
来るのは貴族相手の縫製屋だけだ。
頑張って外に出せるならいいんだけどね。」


バザールの入り口付近はここに住んでいるものも買うのだろう。
結構賑わっている。
だが、ここの品は1束安くて10リングだ。
博打は打てない。

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