いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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結構早めに寝た為か、おなか一杯お肉を食べたからか、
お酒も飲んだし、たくさん働いたからか。

「今朝の目覚めはすっきりです。」


と、目覚めると、マティスはまだ寝ていらっしゃる。
昨日の、身支度全てフルオートで疲れたのか?
でも、起きてるよね。

ああ!ドロインさんが言ってた奴か!

「あんた、月が沈んだ後に飯を食う習慣があるのなら、
一度、飯の支度をしてから、旦那を起こしてやんな。
きっと喜ぶから。」


いつもは逆ですよーと返事したけど、起してほしいんだ!
だからトックスさんを起こしにいくのを止めたんだな?
愛い奴め!

「ん?んー、良し!ご飯だ!ごはん!ごはーん!!」


じゃ、朝ごはんは何にするか?
新米があるから、さらご飯と、お味噌汁もどきと、だし巻き卵。
で、焼き魚。温泉卵もだ。海苔は早急に作らねば。
カンランの酢漬けも出そう。で、緑茶。
んー、起き抜けはコーヒーが飲みたい。
ん!メニューばっちり!!



─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘



「今朝の目覚めはすっきりです。」

愛しい人が目覚めた。
起きる前は口をタムタムするので、
すぐに寝たふりをする。

「ん?んー、良し!ご飯だ!ごはん!ごはーん!!」


なんだ?その音階は?
笑いそうになるのをこらえる。
愛しい人は、ときどき、音階をつけてしゃべる。
独り言に多い。
またしゃもじを握って歌うのだろうか?

今日は、ごはん、ごはんの連呼と、海苔の連呼だった。



「んっん。マティ?マティス?ご飯ができたよ。」

部屋の入り口で小さく言う愛しい人。
もっと近くで。

「マティ?マティス?まだ眠い?起きよー。」
もっと。
「マーティス!」
頬に口づけ。いいな!
「おはよ!お、き、て!」
耳元で!!

「もちろん!」
抱きしめ、寝床に縫い付ける。

「ん!ジョリジョリマティスだ!」
「ああ、おはよう、愛しい人!素敵な目覚めだ!!」

胸元にグリグリしておこう。
このまま抱きたいが、飯が優先であろう。


「うふふふ。ご飯が冷めちゃうよ?
シャワー、浴びといで?コーヒー入れとくから。」
「わかった。」


少し苦めのコーヒー。
それからごはん、みそ汁。ああ、だし巻きは久しぶりだ。
彼女がいう、朝ごはんの贅沢版らしい。


「今日にもテルマが大門に着くそうだ。
ガイライとニックが分隊となっていないとなれば、ワイプを訪ねるだろう。
そうなれば、ワイプが呼ぶそうだぞ。
ついでに赤い塊の金も受け取りに行くか?」
「そうだね。じゃ、受け取りに赤い塊で王都に行こうか?
勝手に出入りできるって思われると問題だからね。」
「そうしようか。」
「ドーガー、セサミンたちはどうしてるかな?」
「昨日話したぞ?ガイライのことも。
ドーガーが休暇中ということだ、気配を消して傍についてる。
ポリックたち以外の情報屋がいればわかるだろう。」
「妹ちゃんには?」
「ドーガーがそのまま話すだろう。へたに修行に行ったとかいえば、
待ってるなってことになるからな。」
「そうだな。期待させちゃだめだろうね。
その前に、妹ちゃんもダメだって思ってたみたいだから。」
「ん?それを気にしていたのか?」
「ん?それもあるけどね。どうしてもお金が必要でさ、
4か月頑張ったらいいって思いで、マトグラーサに行った人もいると思うんだ。
それがね、なんか。」
「それはないな。」
「言い切るね。」
「それはそうだろ?どんな理由で金が要る?
正当な理由なら領主が出す。
病とか、店の改装とかな。もちろんあとで返していくぞ?
しかし、いつまでってこともないし、利息が付くこともない。」
「あ!そうなの?そうだね、なんかそこらへんはいいね。
なんだ、じゃ、はははは!」
「故郷では出ないのか?」
「出ないねー、借りるとしても利息がえげつないと思うよ?
その利息を払うだけでいっぱいってこともある。」
「意味がないのでは?」
「そうなんだよね。そうか、うん、良き制度だ。」
「普通だろ?そのための領主であり管理者だ。」
「うん。そうだね。セサミン偉いよ。
なんか喜ぶことしてあげたいな、何がいいだろ?」
「それが、兄弟での旅だろ?」
「そうだ!6日かかるって言ってたけど、
テルマさんは早いね。2日?道の整備がいいかどうか?」
「そうだろうな。それに俊足馬で来たようだ。駱駝馬ではないからな。
コクと同種だと思うぞ。」
「へー。会合もさ、そのまま出るって言ってたよね?
合わさりの後でしょ?いつぐらいに出発できるのかな?」
「合わさり、2日前ににルポイド入りだ。
実際6日も時間が取れないだろうな。
赤馬で行くとして、4日だと。
明後日出発だそうだ。」
「ん!了解。今日はテルマさんで、明日は食料調達?」
「それはセサミナと一緒でいいだろう。
4日間が食料調達だ。海苔とエビ、炭焼きも?
あの凧で中央砂漠を縦断してもいい。」
「そうだね!喜ぶよ!」



─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘


わたしも甘いが、マティスもセサミンには甘い。
凧をもう一台作らないと。

月無し石君と音石君のコンビでの伝達方法を教えてもらった。
原理は簡単だ。
音石君が記憶する。
月無し石は音石がだす音を、マティスに飛ばす。
月無し石君が話すことは理解するのが難しいが、
音をそのまま飛ばすことはできるようだ。ただし、一度音石君が記憶したもの。
月無し君は記憶と記録がどーのと最初に言っていたので
その関係だろうか?うん。深く考えない。
うまくすれば、電話みたいなのができるかもしれない。


テルマさんが来るならラーメンか?
ということで、中華風のご飯を用意する。

エビチリ、かに玉、ギョーザ。
このギョーザがうまい!!
唐揚げは中華?ではないが、油淋鶏に。
筍が手に入ればさらにチンジャオロースもできる。
ピーマンさがななきゃ!
ヤングコーンがあれば八宝菜もか!!素晴らしい!!

しかし、餃子は楕円のお皿だ。なんとなく。


「買いに行くか?あの店にあったと思うぞ?」
「行く!!」



「軍曹!」
「あ!!奥さん!あ!隊長!!」

奥さんも頭の回転が速い。
わたしに抱き付いてきた。


「報告を!」
「はい!すべて順調です。この街にある組合で取り組むことにしました。
みながあの化粧瓶の製法を知っています。ゴムの形も。
コットワッツから、成形したものも作れると打診がありました。
型を隠匿させてもらっています。これは双方同意の上です。」
「素晴らしい!出荷は?」
「はい。次の合わさりの月の後に。」
「ん?それは少し時間がかかっているな?手こずったか?」
「いえ、それぐらい時間をとらないと、他の仕事もできません。
隊長の仕事は別です。アガッターの噂はこちらでも聞いています。
前金でいただくようにしています。向こうがなん癖を付ければ、
返金無しの品物の破壊ということになっています。」
「では、こちらは手を抜き放題?」
「いいえ。それをすれば、信用にかかわります。それはない。」
「さすが!軍曹!!」
「ありがとうございます!!」
「「うふふふふふ!あははははははは!!!」」

2人で大笑いした。ほんとノリのいいことだ。

「よかった。順調ですね?」
「ええ。奥さんのおかげです。」
「どうして!奥さんのお手柄ですよ!」
「ほんと、ありがとうございます。あの、あの後起きたら、
顔が!」
「いいでしょ?マッサージしたのよ。
蒸しタオルの使い方あったでしょ?あれね。」
「もう一度してもらえませんか?えっと、わたし以外の誰かに。
やり方を覚えたい!!」
「あ!そうだね。じゃ、タオルの販売もしていい?なん人か集められる?」
「もちろん。」
「おい!お前、無理なこと言ってるんじゃないのか!」
「そんなことないですよ?こっちもタオルが売れればいいですから。」
「旦那?いいのか?」
「かまわんよ。で、この形の皿をくれ。この少し深いものも。」
「毎度!ラーメンもこっちに来ましたよ!器も売れる!
ま、皆が真似しだしましたけどね。絵柄はまねできない。
あの赤いのがいいって客は買いに来ます。」
「あ、絵付けって時間かかります?
買った奴に後付けってできます?」
「できるよ?画いて、砂漠石で定着させるんだよ。」
「あ、そうなんだ。そうか、砂漠石か。さすが、砂漠石だ。
ラーメン鉢とお揃いの柄をこう、ぐるっとお願いできますか?」
「ん?いいぜ?ふーん?なんかうまいもの関係だな?」
「愛しい人?」
「ギョーザはいいよ?カンランとミンチ肉だから。
辛い油と、お酢かな?大蒜は好みで。
あ、歯ブラシおすすめして?」
「わかった。ご主人、食べてみるか?」
「もちろん!おい!これに赤柄付けろ!!大至急だ!
出来たらうまいものだぞ!!」
「「「やった!!!」」」



マティスも絵付けの方法を教えてもらっている。
その間に軍曹が呼んだご近所のマダム。
実演販売のように、一番ご年配の方を実験台に。
若い人だと、若い人だからということになるから。

蒸しタオル、それからオイルでマッサージ。
もう一度蒸しタオル。
拭き取り後、化粧水。
適当だ。

「どうですか?何もしなくても蒸しタオルだけで疲れ目とかにいいですよ?
ご主人とか、眼がしら押さえたりしてませんか?
そういうときに。奥さんのお気に入りの香りを付けるのもいいかもしれませんね。」

結局集まった、軍曹入れて6人、全員に。
交代で?といったが、それはあとでと。
本職にしてもらいたとのこと。うん。わたしが本職ですか?そうですか。

ゴム紐とタオル。売れました。
マティスは餃子を食べた後つかう、歯ブラシも売れていっている。
奥様達にも好評のようだ。
マティスのお料理教室になっている。

「これは?」

最初にマッサージを施したご年配の方が、
クッションを指さす。

「クッションです。すわり心地よかったですか?」
「楽だったわ。これは売り物?」
「ええ。1リングです。なかの材料が特殊で。」
「結構するのね。」
「そうなんですよ。今ならカバーの色が選べますよ?
これ、フレシアの絹なんですよ?そう考えるとお得だと。」
「ま!フレシア!これだけでも1リングね!」
「え?それはどうでしょうか?
でも、ま、お買い得ということで。」
「青と、緑?ある?」
「ええ。ご主人と色違いですね?」
「ふふふ。そうね。」
「じゃ、2リング。おまけにゴム飾り付けますね。
これ、髪を束ねるのにいいですよ?」

安いタオルができたらヘアバンドも作ってみよう。

おまけが効いたのかクッションも完売だ。
いまアガッターさんの瓶づくりに携わっている人たちは、
ちょっと懐が豊かなのだ。

この勢いでコートも出してみる。
やりました!!完売でございます!!
というか、軍曹に委託。軍曹がすべて引き受けてくれました。
1割値引きしましたけど。軍曹の手間賃は1割のみ。
それでは申し訳ないので、例のセットを。

「ここれ!!!」
「うん。試作品。そこに小さな砂漠石を入れるとランプになる。」
「どうやって?」
「うん。土も置いとく。高温で焼くということしかわたしもわかんないの。」
「隊長が作ったんじゃないんですか?」
「まさか!できるんなら自分で作るよ。
研究してみて。でも、このことは内緒ね?ちょっとアガッターさんところともめてるんだ。
なんか探してるみたい。わたしたち行商を。聞いてない?」
「・・・・聞いています。ここに来るようなことがあればそれとなく居場所を聞けと。」
「うん。それで?」
「お金をもらわないとそんなことはできないと。500リング、先に。」
「くくくく。いいね。わたしたちはいつとはいわないけど近いうちにダカルナにはいくよ?
特定の居場所はないんだ。行商だからね。各地を回っている。
で、ここで、商売していったということで。」
「うふふふふ。はい!近いうちにここに視察に来るそうです。」
「そう。それ、見せてもいよ?もらったってね。
どうやってつくるんだろう?と相談に来たとね。」
「どうでるでしょうか?」
「わかんないね。あおるようなことはしたくないけどね。
盗まれても、ここに戻るようにまじないは仕掛けておくよ。
これを盗みに来ても誰もけがをしないようにね。
それは、あまり疑問におもわないで?
ますます、わたしたちを付け回すだろう。
逆にそのほうがいいんだ。行商の黒目黒髪の女、その夫、この2人が追われる方がいい。」
「危険は?いえ、隊長に。」
「くくくく。ないと言っていいい。また来るよ。
餃子?おいしかった?」
「ええ!作り方も!カンランがおいしいなんて!!」
「ラーメンとね、お米を炒めたのチャーハン、で、このギョウザ!
だいたいセットなんだよ。ラーメン屋さん教えてあげたら?
器、売れるよ?」
「隊長!さすがです!!」
「だろ?次回の報告を楽しみにしている、以上だ。」
「はい!!」
「「あははははははは!!!」」



「何やってるんだ?あの2人?」
「わからんな?」
「いやー、しかし、うまかった!歯も、すっきりした!いいな!」
「それはよかった。匂いはな、どうしようもないがな。ああ、お茶のガムもあるぞ?
たしか、コットワッツ、ティータイの雑貨屋で売ってる。これもにおい消しにいいぞ。」
「へー。納品に行くときに覗いてみようか。
おい!できたか!包んでくれよ!」
「絵付け代を入れていくらだ。」
「絵付け代はいいよ。飯も食わせてもらったんだから、器代だけで。」
「そうか?じゃ、遠慮なく。」
「また買いに来てくれよ。」
「ああ、そうしよう。」




師匠から連絡があったのは、軍曹と別れて、
無くなったギョウザを再度準備し終わった時だ。

リーンリーンリーン


「師匠だね?話すよ?」
「ああ、頼む。これを焼いてしまうから。」

(師匠?)
(モウ!よかった!すぐにこちらに来れますか?
お忍びといえど、ルポイドの元首が来ました。ニック殿は顔を知らなかったんですね。
大騒ぎです)
(あ、元首だったんだ!で、なぜに大騒ぎ?)
(香木を売る条件に赤い塊を出せと)
(なんで?てか、赤い塊は王都に住んでるの?)
(偽赤い塊の話を出しています。そう聞いたと。それは偽物だと言えば、
どうしてそれがわかるのかと。あの人、わかってやってるんですよ)
(困ったちゃんだね。赤い塊で行くつもりはしてるから、師匠はどーんとまってて?
お金もらいに行くつもりだから)
(それはもちろん。テルマ殿が中央院の態度と、ガイライ殿達を分隊にしたことにも怒っていますね
会うのを楽しみにしてたようです。いま、呼びだしのトリヘビを飛ばしていますよ)
(わがままなじじいだな)
(じじい!そうですけど!マティス君!モウに注意を!)
(いや、その通りだからいいだろう?かまわんよ。
元首は赤い塊とモウが同一人物だと知っている。テルマは知らんだろうな、
話していなければ)
(テルマ殿はモウを出せとは言わないが、マティスはどこだと)

リーン

(セサミナ?)
(兄さん?王都からトリヘビが来ました。マティスはどこだって)
(速いね。白い?)
(いえ、姿は見ていません。気付いたら手紙が)
(ビャクも移動ができるからな、それもできるかもしれんな)
(執務室に入れるのなら害はないよ)
(急ぎの時だけに使うトリヘビですよ。めったにない)
(返事はどうします?)
(知らんと答えろ。実際知らないだろ?)
(ふふ。そうですね)
(2日後に出るからな、仕事はある程度済ませておけ)
(ええ!!)

(じゃ、着替えていきますよ)
(お前が焦るのは珍しいな?)
(わたしが分隊に落としたと聞いて、ものすごい圧なんですよ!
皆の前で説明するわけにはいかない。ほんと勘弁してほしい。反撃しそうです)
(あははは!その姿が見たい!愛しい人急ごう!)
(はーい!師匠!今日のご飯ははラーメンに合うおかずですよ!)
(うれしい!耐えてますから、早く!!)

正式に大門から入るんだけど、恐怖の問答がある。
これ、心のなかを見られたらまずくない?

「今度こそ、私に来るようにできるから大丈夫だ。」
「お願いします。」

かいもーん


マティスのじいちゃんバージョンの声だ。
渋い。

戸車も改良されている。
スムーズに門が開いて、
2人の衛兵が出てきた。

良し!マティスの前だ!


『もんどー
汝、どこからきて、何用でニバーセルが王都の門を叩くか!』


『我ら2人赤い塊と呼ばれしもの』

「え!赤い塊!あ!お、お待ちを!!」

え?それだけ?

(なにしたの?)
(ん?いま、みなが探している赤い塊だと念じた)
(お!その方法良いね!さすがだ!
(ふふふ。続きは?)
(好き好き大好き!チュゥは後で!)
(うむ、ワイプが来たな)

スーに乗った師匠が颯爽と現れた。
馬から降り礼をとってくれる。

「赤い塊殿でございますか?
わたしくしは、資産院ワイプと申します。先にお聞きしますが、王都には何用で?
『ん?問答の途中で待っとけと言われたんだがな。
資産院なら聞いていよう。こちらの軍部隊長ガイライ殿の仕事をしてな。その金をもらいに来た。
ガイライ殿にお目通り願いたい。』
「そうですか。報酬の受け渡しの話は聞いております。
それとは別に、少しお時間をいただきたいのですが、ご都合いかがでしょうか?』
『それは仕事か?内容に寄るな。その話はまず、報酬をもらってからしようぞ』
「わかりました。ではこちらに。」


(資産院の鍛錬場はしょっちゅう出入りさせてもらったけど、
資産院は初めてだ)
(先に言いますが、先代の趣味ですからね。恥ずかしくて案内できなかったんですよ)

師匠が嫌がってる。
建築が好きな師匠が恥ずかしがるってどんななんだろ?


(・・・・なるほど。統一性がないんだ)
(お恥ずかしい。あの妹の思い付きのまま改修ですよ。あーいやだいやだ)


どこに行きたかったのかわからない建物だ。
最初の建物はさぞかし、立派なものなんだろう。
いたるところに、男性像が立っている。それと同じ数だけ女性像が。


『神?』
「らしいですよ?どうぞ中に。」

建物に入ろうとすると、馬が4頭やってくる。
ものすごい勢いだ。
なるほど、コクと同種だな。
色は違うが。大きさが。


「あれ?赤い塊殿?」
『これはエデト殿か?元気そうで何より。テルマ殿もあの子が世話になったそうだな。
礼を言う。』
「え?」

(おりこうでないエデト?モウのことは黙っておけ。
テルマおじいさまに口止めを。後でうまいものが食えんぞ?)

「テルマ、ここは私が。赤い塊殿の気配がしたので。
赤い塊殿、その節はいろいろとありがとうございます。」
『なに、仕事をしたまでのこと。ここには良く来るのか?
元首というのはあまり動かなものと思っていたが?あ、それはこちらは関係ないことか。
それよりも、この馬たち、何とかしてくれ。』


もう、じゃれすぎです。4頭の馬がかわりばんこにする寄ってくる。
マティスにもだ。

2人の従者が制しようとするが、さくっと無視だ。
スー兄、助けて!!


スーがかなり大きな声で嘶く。
下がれと。

4頭が一斉に下がった。さすがスー兄!
なにを言ってるかわからないのだ。ものすごく興奮して。


『いや、我は馬に好かれることは多々あるんだが、
どうした?落ち着け?ん?ああ!そうか、そうか!
最近な。ああ、元気だ。ああ、2人とも持ってるな。そうか、匂いか。
ああ、いっておこう。』

コクの匂いと香木の匂いがして、
ここは変な匂いもするしで、どういうこと?ということらしい。
コクに我らは元気だと伝えてほしいと。
それでわかるのか?

(ん?名は?ないのか?
コクは闇だが、朝霧のようにきれいな毛並みよな。やわらかい色だ。
お前たちは。ん?4頭で?あはは。そうか?アサギリだな。
アコとサコとギコとリコだ。コはコクからな。いいだろ?
あとで茶葉をやろうな。うまいぞ?)

『ほれ、戻れ。』
「赤い塊殿?馬と話ができるのか?」
『分かるほどではないが、なにか我らにうまい匂いがついていたらしいとしかわからんな。』

「赤い塊殿?先ほどのお時間をいただきたいというのは、
ルポイド元首エデト様が取引の時に赤い塊殿を同席せよと。」
『あぁ?エデト殿?それは仕事か?2万要求するぞ?
どういういきさつでそうなったか知らんが、勘違いをするな?』
「しかし!!」

(今日はお間抜けなエデトなのか?ガイライはわたしの息子で、今回の分隊のことも
みな納得している。そう持っていった師匠、ワイプ師匠に礼を言っている。
ここで話すこともできないだろ?師匠に殺気を送るなとおじいさまに。
あまりひどいと、反撃に出ますよ?わたしとマティスも?
さ、早く仕事を終えておいで?
ガイライとニックさんも呼んでいる。師匠の家で、おいしいものを食べよ?
歓迎するよ?ようこそ、ニバーセルにだ。)

「!!!ワイプ殿、用事を思い出した。
早く終了したい。同席の件もなしだ。」
「了解しました。オート院長、エデト様を。わたしは支払いが終わればすぐに。」
「わかった。エデト様、では、こちらに。馬たちは?ご一緒なのですね?」
「もちろん。ん?え?行くぞ?
・・・・ここに。あとで迎えに来る。」
『これこれ、行っておいで?ん?さきにやろうか?
エデト殿?どうやら我の持ってる茶葉が欲しいらしい。
食べさせてもよいか?』
「茶葉?え?食い物で?」
『うまいらしい。馬がじゃれるでな、いつも持っているんだ。
ん?持っているからじゃれてくるのか?わからんな?
よいか?』
「エデト様!先に毒見を!」
2人の従者が言う。当然だ。

『良いな。うむ、食べるか?ほれ、我らも食べよう。』

面布の下から食べる。口元が見えるが、
見せないと食べているかどうかわかんないからね。
あら?おじいさまが気付いたよ。気を読むのは元首の方がうまいようだ。


「あ、おいしい。なんだか、すっきりしますね。」
従者の一人が言う。
妖精の匂いがするからね。

『気に入ったか?この茶葉を使ったガムと飴もある。
よかったらお食べ。ここの匂いは慣れぬ者には甘いらしい。』
「え?エデト様?」
「頂いておけ。わたしたちにもいただけますか?」
『ん?葉っぱか?』
「できれば両方。」
『あははは!かまわんよ。では、馬たちにもな。
ほれ、お食べ?ワイプ殿の馬にもな。先ほどは助かった。さすがだな。』

当然とのこと。うふふふふ。

資産院の前は馬も人もポリポリ葉っぱを食べている、
ちょっと異様な光景だ。



オート院長とツイミさんは、ルポイド一行のご案内。
見送っているときにエデトさんにオート君は公にはできないが、
マティスと同じ団体に属していて、わたしのお気に入りだと伝えておく。
これで、無茶な要求はしないだろう。


中に入ると、爆笑の連続だ。
なぜにここに噴水があるんだ?
なぜにアーケード?
なぜに川が流れているんだろうか?


『斬新ですな。』
「・・・・これ、元に戻すのいくらかかりますかね?」
『金ではないな。元に戻して、どうやって戻したのか?という口止めのほうが
大変だな。囲いをして工事期間を数日は装わないとな。
赤い塊はせんぞ?』
「それでいい!ちょとお願いしてみようと思います。」
『赤い塊はしないと言ってるだろ!』

マティス、語尾を変えないと。
ものすごく渋いおじい様だよ、それだと。
師匠が言ってるのはモウに頼むということだろうね。

『それでも金は取られるぞ?囲いと撤去費は確実だ。
動線計画というのはなかなかに難しいからな。』
「もちろん。それは別口で。」
『オート殿が出すのか?』
「この件に関しては職員一同同意見です。」
『ははははは!では、ついでに、改善要求をまとめておくんだな。
改修してなにが腹が立つかというと、ここもしてくれればいいのにという言葉だ。
知らんがな、といいたいわな。先に言えよとな。
高額な金の絡む要望はダメだぞ?ついでのことのみだ。』
「ああ、赤い塊殿、今ものすごく共感できました。
まさに、知らんがな!先に言えよ!です。常に!!
こちらは予算内で動くんですから、勝手なことはできないんですよ!
はー、叫びたいですね。」
『あはははは!無理だな。』
「ええ、無理です。と、この部屋に。王都内で一番安全ですよ?」


石で防音、気配消しも施しているのだろうか?
扉をしめた途端にマティスが面布をとった。
安全なんだ。


「赤い塊ではなく、愛しい人に仕事を依頼するというなら、
正当な金は払えよ!」
「もちろん。見積もりは取っているんですが、
人の出入りがあるのはよろしくないんですよ。
囲いと、その撤去のみなら、時間もかからない。
囲いがあっても職員はほぼ気にならない。
困るのは人の出入りだけなので。」
「囲いと要望書が出たら、1日、休日取れますか?
その間にしてしまいますよ?」
「わかりました。はー、よかった。ああ、お金はきちんとね。
それはもちろん。準備出来次第お願いします。」


奥の壁が開くようになっていて、そこからお金が出てきた。
金庫だ!すごい!


「では、5000リング。
えー、お預け入れなどをお勧めしておりますが?」
「ぶは!まさに銀行?利率は?」
「利率?」
「愛しい人、預けるだけだ。安全というだけ。
収納ができるのなら意味はない。」
「意味はなくはないですよ?ニバーセル資産院にお金を預けているというのは
一種の保証です。信用もありますよ?
問い合わせが来れば答えますし。」
「え?じゃ、どこそこの誰それさんってお金いくら預けてる?ってきいたら
本人の承諾なしに答えるの?」
「もちろん。」
「うわー。それはなんかすごいね。」
「そのかわり、問い合わせに来た者を徹底的に調べられますがね。
どうしてそのようなことを聞きたがるのかと。」
「あ、それは嫌だ。」
「なので、めったにないですがね。」
「私がワイプの資産を問い合わせれば?」
「あなたを5人体制で調べます。わたしも駆り出されるでしょう。
それで、お教えする答えは、内緒ですよ?
0です。となりますね。」
「師匠!?」
「あなた、考えてみなさいよ?人様のお金を集めて
貸出するんですよ?わたしは、一度自分の物になったものが、
人に貸し出されるというんは嫌なんですよ、数字の上だとしてもね。」
「ああ、わかるような、わからないような?
でも、それをわたしに勧めるんですね?」
「ま、仕事なので?」
「マティス?いい?」
「?預けるのか?どうして?」
「これ、師匠の成績に影響する。」
「ああ、モウ。申し訳ない。その通りです。」
「ふふふ。赤い塊に、そのままお金を渡したなんてことになったら、
引き留めることはできなかったのかって責められる。
5000リングとはいえ、赤い塊の資産をニバーセルが預かっているというのは
ま、聞こえがいいよね。ニバーセル的に。」
「仕事の依頼があれば、こうやって取りに来なくても、
ニバーセルの資産院に入れてくれというだけでいいですよ?
期間を設けて、その期限ないに入金がなければ、手数料一割で、回収しますから、
どんなことがあっても。」
「ニバーセルのみ?」
「大陸ですね。各国の資産院は提携しています。」
「いいですね。じゃ、お願いします。
んんか、証書みたいなのあるんですか?」
「それはないですよ?石を使いますから。」
「その石代は?」
「もちろん、そちら様で。」
「「・・・・。」」
「愛しい人?おかしいぞ?」
「うん。そう思うけど、故郷もこんな感じ。
タダより高いものはないから、うん。石はこちらで用意しても?」
「ああ、そのほうがいいですね。大きさは合わさりの大きさ、
合わさりの時に回収する石の大きさで、2つですね。」
「いま、これの価値って?」
「10というところですか?変動前は5ですね。かなり値上がりしてます。
で、爆裂石が1銀貨。これは変動前と変わりません。」
「爆裂石がかなりお得だね。
中央砂漠でもっと集めようか?」
「そうだな。そうしよう。」
「間の砂漠は?あの光る?」
「わかんないままですね。もう、そういうものだとしか。
トックスさん的にはどうなんだろ?間の砂漠でも集めてみます。」
「無理だけはしないでください。」
「はい。じゃ、これは赤い塊として?」
「ああ、モウでも、赤い塊でも。1つをお返しします。
これを持っていれば、引き出せると。」
「落としたら大変ですね。」
「ああ、それはできない。別のものが石を持ってきても、ダメですよ。
本人かどうかは石が確認してくれますので。」
「さすが砂漠石先生!!じゃ、マティスが持っとく?」
「これは愛しい人が稼いだんだから。」
「2人でだよ?」
「モウ、あなたが持っていなさい。マティス君は悪いんですが、お金に無頓着だ。」
「ああ、それは。あれだよね。うん。育ちだよね。」
「?」
「お金で苦労したことがないってこと。悪いことじゃない。感謝しないとね。」
「愛しい人は?」
「あれを苦労とは言わない。頑張れば、お金は入ってくる環境だった。
わたしも感謝している。1リングの価値は1リングだけど、
その価値は1リング以上だ。」
「1リングは1リングだろ?」
「もちろん。師匠?ではわたしで。この2個の砂漠石。これでいいですか?」

マティスは首をかしげているが、説明するのも難しい。

「はい。では。」

『大陸を巡る価値あるもの。それを預かりしもの。
その者たるものの証明。ここに。』

これは、なかなかに厨二病だ。
笑いがこみ上げる。
えー、わたしが行ってる言葉もよそ様からすれば、結構わらっちゃうね。

「モウ?なにがおかしいのですか?これ、お渡ししますね。」
「いえ、何でも。ぶっ!ぶひゃひゃひゃ!!!」
「マティス君?」
「わからん。こうなったら長いぞ?」
「ぶ、ぶーー!!もう!大丈夫!!
師匠の家にいって、晩御飯作っておきますね。
あのご一行呼んでくださいな。ガイライ達は?」
「移動で来ませんでしたから、もうそろそろ。」
「やっぱり大門で?」
「そうなりますね。あなた方はまた、大門から出てください。
おそらく引き留めはあると思いますが、怪我はさせないように。」
「しないようじゃないんだ。」
「そりゃそうでしょ?」





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