いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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497:協定

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彼が呼べば移動する。
実際には月無し石君に呼んでもらうのだが。


「呼ばれれば私が行こう。
愛しい人がいなくなれば目立つからな。」
「それはマティスも同じでしょ?」
「そんなことはないぞ?皆が見ているのは愛しい人だけだ。」
「そうなの?今は護衛で、いつもより強いんですって気を出してるけど、
普段は目立ちたくないんよね。マティスがするみたいに。
わたしも練習しないと。ニックさんの修行で習得できるかな?」
 「できるだろう。素質はあるんだから。」
「モウ様?修行って?」
「ああ、ドーガーはいなかったか。会合が終わって、離れはじめまでは
カップたちが、それから会わずの月までが、
ニック殿がティータイで稽古をつけてくれる。
ルグとルカリ殿も一緒に。頑張れよ?」
「おお!!それはいい!」
「ドーガー頑張れよ?私とモウはその後だ。
集中して稽古をつけてもらえ。」
「え?別なのですか?」
「付きっきりのほうがいいだろう?遠慮なく師事しろ。
ニックは教え上手だし、隠れた才能を伸ばすのがうまい。」
「はい!」


そうなのだ。
ニックさんは教え上手なんだ。さすがだな。
絶対に教官クラスで必要な人材なのに。
ニバーセルは馬鹿としか言いようがないね。



今回の会合は前回よりも大所帯。
見本市の準備、荷物運びの人員が多い。
それらの大半が会合にもでる。
コットワッツは2人が病気で帰ったと報告。
前回より少ない人数だ。
が、遠慮なく3人で気を出している。
いらんちょっかいはかけるなよ?的な。

「3人とも、今はいいですよ?向こうから来たらそれで返してください。
出ないと、こちらから攻撃できないでしょ?」
「「「はーい。」」」

なので、4人はのんびりムードだ。
お醤油でできるあれこれを話していく。


「では、なんでもお醤油?」
「そうだね。テーブルの上にお醤油は大体ある。
お店屋さんで。それで、自分の好みの味に仕上げるね。
あんまりかけすぎると、塩分の取り過ぎで良くないって言われるけど、
もともと、素材の味をそのままおいしく引き出して、
で、ちょっと塩をたすのに使ってたからね。
何事にもほどほどにだ。」
「そのみたらし?あの米をつぶしたものにかけるんですか?」
「想像してみ?あれにテオブロマの蜜か、土蜜がかかった状態を。
で、それがあまじょっぱいんだ。ダメだろ?」
「!!!ダメですね!!」
「とろみ付けるのに片栗粉、ないから芋から作らないとね。
ああ!楽しみ、お茶に合うんだ!
メモっとこ。芋、でんぷん、片栗粉。」


何とか皆が席に着き、開始の合図が響き渡った。


「かーい。かーい。」


前回同様、王様のお言葉から始まる。

「今期の会合も滞りなく進むことを願う。
よろしく頼む。」


収支報告は前回で終わっている。
今回の主な内容は王都から報告。

その前にボルタオネの領主が代替わりしたこと。
ファンファンの復帰。
ナソニールの領主欠席、全権は弟にあるとのこと。
それが終わって、各院からの報告だ。

まずは、雨の日こと。
天文院の報告では
20日間ほどの雨が降ると予想ではなく結果が出たとのこと。
なんだ?占い?
1日の長さは会わずの月の日の前日同じぐらい。
つまり20時間ほど。それが20日。
平均の倍だ。
食料確保に抜かりなくということだそうだ。
次は各院の人事について。
軍部のこと。
ガイライとニックさんが部下の暴走を止められず、引責辞任。
が、これまでの功績を配慮して分隊に。
新しい隊長はスダウト家の、エボニカ。
副隊長は彼が新たに任命する。
タレンテ家クラサのことはだれも触れてはいない。

「私が軍部を任されたからには強固な軍隊を作り上げていきたいと思う。
まずは一般隊員の募集廃止。
一から訓練せずとも、貴族子息で事足りる。
彼らは日々有事に備えて鍛錬しているのだから。
しかもこれからの兵器、銃がある。
ガイライはそれを拒否していた。
そうであろうな、己にまとめる技量がないから、
あ、あ、あーーーーーー!!!」

紹介され、演説を始めたエボニカは膝から崩れ落ちた。

一同騒然だ。
涙を流して、丸く縮こまっている。

とうとう担架かで運ばれてしまった。

(なにをした?)
(んー?)
(え?姉さんなのですか?)
(不健康な人には痛いという奴だね)
((????))

足つぼ押しただけだ。
あんなでっぷりの体系でなにが鍛錬だ。
昔のわたしのようにどこを押されても痛いだろうな。
それも力任せに押したんだ、素人が。足がつったようだね。
それの対処もできないなんて隊長が聞いてあきれる。

廻りの人間もわからなかったんだろうか?
足の親指を立てて伸ばすんだよ。ばーか。

タフトの領主が大声をあげた。

「こ、これは毒を盛られたのでは!
軍部隊長が毒を摂取してしまうなぞ!情けない!!」

誰かの安易な発言が確定される。
結果、毒を飲んでしまったエボニカは不適切だろうとなった。
タフトはタレント家が贔屓にしている。
タフト領主の奥方はタレント家の娘なのだそうだ。

ということで、軍部隊長を再選出ということになった。
が、タレント家かスダウト家どちらかしかないだろうと。
どちらかがふさわしいか投票で決めれば?と話を持っていったのは
マトグラーサ領主だ。
マトグラーサはスダウト派。
スダウトは軍に銃導入を明言していたからだ。

投票権は王都各院の院長、各領主、主だった貴族達で、
3日後投票ということになった。
中央院、事務部クロモ殿のあの嫌そうな顔。
その準備をしなくてはいけないからだ。
差し入れを持っていこう。

そして次。
樹石の話だ。
研究院、院長が発表。
この件は先に、樹石が取れる湿地を買ったコットワッツからの報告で、
薪変わりに使いますと言ったことから
研究院が研究した結果わかったことだと、
自慢気に発表があり、
そのコットワッツが買った湿地からすでに樹石は出なくなった。
ここは甘んじてコットワッツは笑われたのだ。
いいんだよ、この笑いは。
ばっかーでーぇ、っていうのはね。
購入はイリアスからということで、
特別参加でイリアスの次期国王と目される
第3王子の紹介から始まり、樹石は燃えるだけでなく、



「樹石の利点は温度維持ができるということなのです。」
と報告があった。
第3王子も頷いている。
みながおお!と声をあげている。
が、よく考えろ。で?って話だ。
使い方を提示しないと最初はいいけど後は誰も使わないよ?
コットワッツは使うけどね。
竹炭とうまく使い分けないと。
ホットクッカーもいいんじゃない?
熱源というのは素晴らしい。それが分かっているのか?

「発言よろしいか?」

セサミンが手をあげている。
「どうぞ。」

ここからはセサミンの演説となった。
砂漠資源枯渇になったので、樹石を薪かわりに使おうと画策したが、失敗。
価格高騰を抑えるために前もってイリアス側と協定を結んだが、
聞いた話によると、それよりも安く他国に販売していると。
これはわたしの勇み足だった。
が、約束は約束ですので、向こう1年は協定の金額でお願いしたい。


「協定とは?」

天秤院のランサーの発言。

そもそもこの場に天秤院がいることが珍しいということだ。
だって、会合でうそを言ったらばれるもの。
それを黙っているのもあとでばれれば、天秤院の名が廃る。
だからよっぽどのことがない限り同席はしない。
今回はどうして?とざわついた。

「ああ、各領国が新たなる商品の発表をすると聞いたのでな。
我らが物知らずでは公平な判断はできないからな。
勉強のために参加させてもらった。
その他のことには発言もしないから安心を。」


「ええ、もともと樹石はバケツに20個これが1銀貨ですか?
それを月に6,7杯で炊事と風呂に使っていたと。
温度維持ができるということで、1杯6銀貨設定としたのです。
いままでイリアスは燃やすだけだったのが温度維持をすることで、
使用料は減る。なので、イリアス国民にとってはこの方法を知ることで、
安くなる計算です。
それに、これの方法が広まれば余った分を国外に販売できると。
そういう協定ですね。そうですね?ロマーカ殿?」
「ええ。おかげで国民はみな喜んでいますよ。他国に販売した価格は、
お試しですね。この先ずっとその価格ということはない。」
と、第3王子。
「そうでしょうね。1杯2銅貨というのは驚きましたが。」
「・・・。」
「いえいえ。最初にお安く売るのは商売の基本ですから。
お約束通り、1杯6銀貨でお売りください。」
「では、他国では2銅貨で、わが国には6銀貨?」

それはあまりにひどくないか?とそれは言われるな。
で、その矛先がこっちに来る。

「コットワッツがいらぬ協定を結んだからでは?」
「そうなりますか?もともと温度維持のことを発見したのは我が領民です。
隠匿しても良かったんですよ?それを一番にイリアス国にお伝えしたのは
領民、国民の為です。違いますか?」

そうなると、今度はイリアスの分が悪い。

「ははは!もちろん、感謝しておりますよ。
2銅貨で売るのはもうないですね。
が、6銀貨もない。」
「といいますと?」
「ええ、効率よく採取する方法も見つけましたし。」
「ああ、船ですね。」
「!」
「我が湿地ではブラスを組んだ物を湿地に浮かせましたが、
そちらは木で組んだ船をお使いだとか。
流石ですね。見聞きしたことを取り入れる柔軟さは感服いたします。」
「・・・。」
「ちょっと待ってください!船?木の船?沈むでしょう?」

研究院が食いつてくる。
ほんと調べないよね。樹石の研究するなら現地に行けよ。

「それはあとでロマーカ殿にお聞きください。
それで?効率よく採取でる樹石はおいくらで?」
「・・・ええ。3銀貨前後と考えております。」

わーっとコットワッツ組が拍手する。
拍手って釣られるよね。

「うれしいお返事がいただけました。
さすが、次期国王と噂されることがありますね。」

ん?言われた本人はうれしそうに頷いているが、
それってものすごく嫌味じゃない?

(さすが世界のイヤミン)
(恐れ入ります)
((?))
マティスとドーガーは分かっていなかった。

(噂されることがあるだけってことで次期ではないということだよ)
((ああ))

ここからが長丁場だった。
中央院の発表。

国としての銃の導入、砂漠での労働許可。
それらはマトグラーサとルカリアしか恩恵はない。
ニバーセルの南の砂漠、
コットワッツの砂漠はもう何もないと言われているから。
鉱石が出るということは、結局極秘扱いとなった。
いま発表することではないと判断したのだ。

続いて生産院。
これは特になし。
いやいや、ミノラが病気となったので副院長が代わったと発表。
メディングだ。
痩せたな。

皆が冷ややかだったがコットワッツ組は大絶賛。

「発言よろしいか?」

と、これまたセサミン。

「どうぞ?」

「メディング様!よくぞお戻りで!あの資金提供がなければ
このセサミナ、何をできることなく朽ち果てておりました。
このご恩は、我が領国民皆が感謝の気持ちを持っております。
そして兄との和解の切っ掛けをくれたのもメディング様!
あの大会はまたあの時期に行いたいと考えております。
もちろん大会の名はメディング祭り!ぜひいらしてください!
姉さんも礼を。」

ここはあえて姉と呼ぶ。

『メディング様。お久しぶりでごさいます。
いまさらの返答になりますが、
横にいた男というのは、我が夫でセサミナ様の兄でございました。
あの勝負の後、もしわたくしが敗れれば、
夫との命懸けの勝負となったことでしょう。
あのあと、体調を崩されたとか。
これからどうぞお心健やかにご自愛くださいませ。』

何のことだかわからないギャラリー。

剣のマティスとの一騎打ち。
武の経験がない自分は即死だったろう。なにも仕込めないしね。
少し身震いしてから、メディングが答えた。

「いや、話の流れでそうなっただけだ。
どうぞ、お気遣いなく。これからは生産院副院長としてのお付き合いを。」
「さすが、メディング様だ。ありがとうございます。
ああ、またしても私的なことに会合の時間を使ってしましまいました。
どうぞ、続きを。」

心健やかという言霊がどこまで効くだろうか。
いいように働けばいいな。

次は資産院だ。
これが長い。前回の決算報告の確認から
年末に支払う税金額がここで発表される。
だったらラルトリガの報告はすぐに嘘だとわかっているのでは?となるが、
多く報告している分には、多く税をもらうので無視する。
ラルトルガに王都資産院の介入がったのは税が納められない事態になるからだ。
少ない報告はもちろん即是正が入る。こわいー。

概ね前年度より前回約束した税率のアップ分だ。
コットワッツは税率のアップは免除されたものの、
ラルトリガの土地移行分、湿地購入分、でそれなりアップしている。
ルカリアとマトグラーサは銃製造で、かなりの利益を上げるだろうが、
それは来年度だ。
で、最初に問題となったのはボルタオネだ。
売り上げが落ちている。それに嘘はないが、大丈夫なのか?ということだ。


「問題ないと考えています。
あとでお披露目がありますが、先に配りましょう。
亡き父が開発したペンです。イスナペンと呼んでおります。
手軽に紙に文字や絵が描けます。
ちょっとしたことを書くことができるのです。
そして消すことが出来る。これはコットワッツのゴムから作ったものです。」
消しゴムと鉛筆はセットだろうと、コットワッツはゴムの提供だけだ。
ゴムにオイルを混ぜている。
消しゴムのゴムとして提供するのはボルタオネだけ。
今回の会談での取り決めだ。

皆に鉛筆と消しゴムが配られる。
もちろん全員にはいかないが、かなりの数を用意しているようだ。

「単価は安いのですが、なので、皆に提供できるものと考えております。」

みなが紙に字を書いて、消しゴムで消す。
これはいい。と早速の注文が入る。

「ええ、この後の外で販売したいと思います。」
「なるほど。これは便利だ。ぜひ資産院でも購入したい。」
あのメモ帳とセットするのかな?
「よろしくお願いいます。数があれば名前入れもできますから。」

3歳。後ろにカーチとマーロが付いているが、
立派です。


次、ナソニールだ。
これを発表しているのはツイミ。
副院長代理という肩書だ。
ナソニールを首になったものを即、王都で雇うわけにもいかないので、
いまは代理という立場だ。
だったら、ワイプを戻したらの声に、

「ワイプ?使えませんよ。」
という、オート君の弁。
マティスが一人頷いていた。

使えない。
その意味ではない。
副院長の立場に師匠を縛るのはもったいないのだ。
天秤院のランサーと同じ。肩書がないほうが動きやすいということだ。

ナソニールの売り上げに偽造はない。
銃の開発で来年度は落ち込むだろうが、これは努力あるのみ。
問題はその売り上げ以上の支出があるということだ。
どこから収入を得ているのか?
これを説明していただきたいということ。

ツイミさんは1年前から帳簿はそのまま記載している。
ガイライがカップたちの才を見抜き、
声を掛けたあたりからだ。
自分自身が不正に加担すれば軍に入るかもしれない弟たちに迷惑がかかるから。
それほど限界だったのだ。




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