いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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496:仁王立ち

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「!!!!!!!!!うーーーーーーーーーー!!!!」


「どうかな?これね、作れるのはわたしだけなの。
頑張ってくれたらもっと特別なものねみんなで食べよう。
でもね、ものすごくいい条件を言って来るかもしれない。
その時は考えて?で、その物を目の前に見てから。
口約束はダメだよ?ね?
自分で考えたのならいいからね。
そうだね、わたしなら、ものすごくいい条件ならそっちを選ぶね。
だって、それを提示できなかったわたしがへたを売ったってことだから。
そこは気にしないで?」

口を押え、うん、うん、と頷き、
コットワッツのコンテナの上に登って、仁王立ちをしてくれた。

「無理はしないでね!暴力に出られたら、呼んで!ソヤ!

我が声に応えろ!いでよ!モウ!

ってね。」
「呼ばれる方だな?マティスでもいいぞ!ソヤ。」
「わ、わかった!!」

「初めてのチョコレート!!ああ、わかりますね、あの気持ち。」
どこかに行っていたドーガーもうん、うんと頷いている。
怖いな、チョコレート。

コンテナは実際には重くて持ちあがれないし、開きもしない。
無理に開けようとするとくっつく仕様。
泥棒ホイホイだ。

しかし、お醤油が手に入ったのは素晴らしい。
同じものができたということは際限もなくできるということだ。
ソヤがつくるソース。まさしくソイソース!

トウモロコシの醤油焼が売れるよ!
みたらし団子も作ろう。これ、あったかスイーツ。
それから醤油ラーメンも!!
すき焼きも広めちゃうよ?
焼鳥も焼肉にも!!!


お醤油万歳!









─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘

「おい!」
「なんだよ?」


俺はソヤ。
マトグラーサとイリアスの国境沿いの村。
何もない平原で主に豆を育てている。
近くにある湖は小さい海で、塩の岩が簡単に手に入る。
それを売るか、豆を売るか、
大人は皆、マトグラーサの中心サーマーサか、
王都まで出稼ぎに行く。
子供は背丈が大人ぐらいになればみんな独立。
自分で畑を開拓して食べていく。
俺の親は出稼ぎに行ったまま戻らず。
別に珍しくもない。周りはほとんど同じようなものだ。
この村の唯一いいところは、なぜかサーマーサの話や、
王都での話が聞こえてくる。大半はろくでもない話だ。
砂漠で働けば大金持ちだとか、塩の岩が出るとか、
糞を盗む奴がいるとか、リンゴの根っこは食えるとか、
ニバーセルの端の砂漠で砂が舞い上がったという話も聞いた。
嘘かほんとかわからないそんな話だ。
爺どもが言うには、、
イリアスに向かう途中に零れ落ちた話だろうと。
ここはイリアスの向かう道も通っているからだ。
そんな嘘かほんとかわからない話にみんなつられて村を出ていく。
戻ってくるのは半分だ。
そして口をそろえて言う。
外に出るもんじゃないって。
しかし、戻って来ていない奴もいる。
死んだか金持になったかだ。
俺だって、金持になったら戻ってこない。
今はまだ早い。準備はしている。
薄暗い、噂話ばかりする戻り組の大人たち。
出ていく人をあざ笑う人たち。
だから金持になっても、成功しても戻ってこないんだよ!

からだが大人になって3年目。
発酵させたものを王都で売ることが出来るらしいと話が出た。
往復で10日ほどか?
蓄えはある。今の時期は畑は育つのを待つばかりだ。
いっちょ行ってみるか?
どうせなら大きな樽で持っていこう。



発酵じゃないのか?酒?

王都に付けば、これは違うと言われた。
酒を求めているそうだ。

なんだよそれ!

しかし、これで帰るわけにもいかないから、
誰かに売りつけよう。
しかし、なんで、こんなに黒くなって、ビシャビシャなんだ?
ちょっと水が出てるから、酒と言えば酒と思うかな?


「からい!!」
「オエ!!」
「どうしてくれるんだ!!!」

味見をした男たちが次々文句を言う。
仕方がない。俺だっていうよ。


眼をつぶって鼻をヒクヒクさせた女がやって来た。
口元を布で覆っている。どこの部族だ?
後ろにはちょっと近寄りがたい男どもを引き連れていた。

俺を子供扱いせずに丁寧に聞いていく。
後ろの男が女に保存食だと教えていた。

女はそれでもニコニコと味見をさせろという。
男が目で言うとおりにと圧をかける。こえーな。

呑んだらまた怒鳴るのだろうか?
舐めるだけにしとけと注意はしておこう。


小指に付けたのか、それを舐めていた。

「ビンゴ!!!」

女がものすごく大きな雄たけびを上げた。

全部買うというし、
年齢を聞かれ10だと答えると、
親はどこだというし。


「うん、そうだよ?どうしたのこのねーちゃん?」

ご祝儀で5リング!!すごい!
荷車なんて帰りには邪魔になるだけだ。
金をもらうとマトグラーサの人間に盗られないように、
とっとと村に帰ることにした。
これで、欲しかった本が買える。
出るときは皆が笑っていたが、どうだ!
2リングって言ってもそれはないなって自分でも思ったのに!
5銀貨は欲しいなって。それの10倍だ!

村の連中には内緒だ。ダメだったって言っておこう。
笑い者になっても構わない。
しまった!あのねーちゃんたちはどこの人だったんだろう?
あのねーちゃんがえらいんじゃいよな?
その後ろの人間がえらい奴だ。
買うのはコットワッツの連中だけだといっていたか?
次の会合にも来るのかな?

その時も持っていけば買ってくれるかな?
ちょっと同じように作っておこうか?
あれは絶対に気に入ったんだ。
豆はそれこそ腐らせるほどあるんだから。



「次の会合で特産品を売ってもいいって話、聞いたか?」
「いや?次っていつだよ?」
「合わさりの後だろ?」
「だったらすぐにでも出ないと間に合わないな。」
「行くだろ?」
「どうしようかな?」
「え?行かないのか?」


俺が畑を離れたら残ってる豆は盗まれる。
この前の時も豆は出来ていないのに、
苗ごと取られた。
根付くわけないのに。
今回は収穫時期だ。
黒水は出来てる。
豆の塩漬けもほとんど作った。
王都に行くということは残りの豆を捨てるってことだ。

「考えとくよ。」


ニヤニヤとその話を持て来た奴は、
ろくに働きもしない、外にもいかない。
いろんな奴に声を掛けて、どこかに連れていってる。
外の仕事を紹介しているらしい。
誰も戻ってこないから、死んでるか、成功しているかだ。
俺はみんな死んでいると思っている。

1日考えて王都に行くことにした。
残った豆はそんなに大きくは育っていない。
畑の栄養分もそろそろなくなっている。
大幅に改良しないといけない。どちらにしろ金が要るんだ。
ダメならそのままどこかほかの領地に行ってみるのもいい。
あのコットワッツはいま仕事が豊富に仕事があるらしい。
ねーちゃんを見つけて頼んでもいいな。
いなけりゃ、それでもいい。
出発の準備をしなきゃ。



前回同様、サーマーサで王都に出発する一行に付いていく。
付いてくなら働けと言われた。
それぐらい簡単なことだ。
飯の支度も率先してする。少しずつちょろまかしてもわからないからな。
俺の荷車を見て、俺を指さして皆が笑う。
自分の荷を引いているのは俺だけだ。
もっと人が集まっていると思ったのに。




「ダメだ!ここはマトグラーサの銃関連製品を展示販売する場所だ。
領国公認の品だけだ?」
「あ?そんなこと道中でも言ってなかっただろ!」
「知らんよ。勝手についてきて、勝手に手伝ってたんだろ?
道中野盗に襲われなかたんだ、
こっちは金を請求してもいいくらいなんだぞ?ははははは!!」

くっそ!また話が違うじゃないか!
・・・ああ、俺が悪い。ほかの人に確かめなかった。
あいつだけの話を聞いて判断したんだ。ちくしょう!!
村に帰ってもきっと畑の豆は取られて、家もなくなってるかもしれない。
どうする?



「おい、あれが赤い塊か?」
「護衛の女だろう?男か?」
「服装は男と揃いだが、見ろよ、胸とケツを見れば女だ、いい女!」
「男が剣のマティスか?ほんとか?強いって感じは全くしないぞ?」
「そんなの何十年も前の話だ。前の武の大会も途中で棄権したらしい。」
「なんだ。昔の話なんだな。」


荷車を引きながら場所を探しているとそんな声が聞こえた。
どこ?あ!!


「ねーちゃん!」

見つけた!今度は口を隠してないが目を隠している。
ほんとにどこの部族なんだ?

目元は隠しているが笑っているのがよくわかる。

「おお!お久!元気?今回も会合に?」
「うん、手伝いだよ。今回は特産品を売れるんだろ?」
「うーん。マトグラーサはあれだね。
どうも連絡の伝達がうまくいかないようだね。」
「へ?」
「うん、へだよ。セサミナ様!」


セサミナ。
コットワッツの領主だ。
剣のマティスの弟。つまり剣のマティスは領主の兄。
それぐらいは知ってるさ。
で、このねーちゃんは剣のマティスの奥さん。
こっちに来る間に散々聞いた。
コットワッツの景気のいい話。
それ以上に妬みの話。
なんで素直にすごいって思わないんだろう?


ねーちゃんは自分のことをおばちゃんって呼ぶ。
で、俺のことを少年と呼んだ。
名前を名乗るのはよっぽどだ。
そう呼ばれたいと思ったんだ。

ねーちゃんの声で名を呼ばれる。
なんだかうれしい。
黒い水も作ったというと、すぐに、全部買うと言ってくれた。
やったよ!!
前回より半分ぐらいだ。2?3は行くか?

横のセサミナと話をしている。
主なんだな。後ろの男、旦那が廻りの気配を探ってる。
俺はそういうのが分かるんだ。
弟と嫁さんに害がないが探ってる。
なにが何十年も前の話だ。
横の男になにか指示を出してるな。声も出さずに。

「へー、ねーちゃんの雇主?そっちは?」
「この人はわたしの夫ですよ。」
「ああ、だとおもったよ。」
「少年!これをやろう。」


懐から?だと思うんだが、そこから小さな袋を出してきた。
甘い匂いがする。
え?これが代金?それは困る。

またしても5リング!
しかも、見張りをするだけでさらに5リング!
で、合計10リング!!すげえ!!
しかも、男がくれたものがうまい。甘いんだ。うわー。

え?10リング?20リング?
断るの?
え?
これより?




俺は自分で言うのもなんだが、この年で一人で生活しているせいか、
余り食い物には興味はない。
満たされればいい。
甘いものは好きだが。
男がくれたものは甘かった。
口の中でホロホロと溶けて、乳の味がする。

今度は20リングの誘いがあっても、
断れと、その代わりのおいしいものだというものを
口に入れられた。
え?それなに?

「!!!!!!!!!うーーーーーーーーーー!!!!」



ヌっと口の中で解ける。
噛んでみると甘さ?甘さではない甘さが広がる。
うまい?甘い?わからないけど、うまい!!

ねーちゃんだけが作れるらしい。
これ以上の条件が出されたら仕方がないが、頑張って見張りをしてくれという。
もちろんだ。任せてくれ。

ああ、溶けてなくなる。
唾までもうまい。

いい条件が出たら、目の前に見てから考えろと。
そうだ、口約束はダメだ。
考えるんだ。

暴力を振るわれたら呼べと。

我が声に応えろ!いでよ!モウ!マティス!

剣のマティスを呼び捨てで呼ぶのか!
赤い塊のモウも!


いいな!かっこいい!!
2人が名前で呼んでくれたのもうれしい。

我が名はソヤ!
我が声に応えろ!いでよ!モウ!マティス!

駆けつけてくれるのかな?
怖いけど、そうなったら遠慮なく呼んでしまおう。





─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘



(ドーガー、悪いがマトグラーサの荷を運んできた者たちを見てきてくれ)
(注意点は?)
(こいつをタダで使うために同行したのか、これすらも仕込んでいるのか)
(わかりました)


お醤油を作った少年が声を掛けてきた。
前回は口元を、今回は目元を隠しているのだが、
彼女だとわかるらしい。
当然だな。
私は彼女の夫だとわかるのだな。
よし、よし。クッキーをやろう。


またお醤油を作り、うまく彼女がいれば売れると踏んだようだ。
彼女は大喜び。
セサミナもこちらに囲い込もうとしている。
マトグラーサの一団と一緒に来たようだが、信用できるか?
彼からは悪意は感じないが、知らずに利用されているのかもしれん。
ドーガーに探りに行かせた。


チョコを口入れれば、ツイミ兄弟や、ドーガーのよう反応だ。
いや、それ以上か。

箱をよじ登り、見張りの気をまき散らしている。
ほう!気を操るか。無意識だ。これはいい。
ガイライとニックが喜びそうだ。


(どうだった?)
(いいようにこき使われたようですね。
帰りもうまく言い含めて雑用を押し付けようとしています)
(間抜けだな。セサミナは連れて帰るつもりだ)
(お醤油のためですか?)
(それもあるが、気を使えるようだ。わかるか?)
(え?マティス様のじゃないんですか?)
(私はなにもしていない。近寄りがたいだろ?)
(ええ)
(無意識というのがいいな。ドーガー?鍛錬しろよ?)
(うー、精進します)



彼女が心から楽しんでいる。
遠慮して少しずつしか使えなかったからな。
私も楽しみだ。

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