いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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525:玉座

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曲が変わる。

マトグラーサ領主のあいさつだ。
当たり障りのない挨拶。
そこから明日の投票の話になった。
良い機会だから、両家の考えを聞いたほうがいいと思い、
呼んでいるそうだ。

・・・いらんことを。
校長先生が地域のえらいさんを呼んだんで
お話を聞きなさいといった感じだ。
ブーイングが起こるぞ?

・・・みな大人だった。


ここで帰るもの、残るものに分かれるのか?
「マリー!」

テール君だ。
もう、ねむねむだ。
が、カーチもマーロも困り顔だ。ん?
ああ、頑張るって言ってるんだな。

「さすが、テール様。
この後は信頼のおけるお二人にお任せして
引き上げるのですね。さすがですね。
わたしは護衛という仕事がありますので、まだまだ帰れません。
残念ですよ。トホホホホ。」
と、泣きまねをしたのがまずかった。
「!セサミナ殿!これはどういうことだ!
マリーは帰りたいと言っているぞ!帰すべきだ!」
「え?ちょっと!姉さん!」
「えーん、帰りたい。」
こうなったらダメ押しだ。
「な!わたしだって帰りたい。だけど帰れないのです。えーん。」

セサミンも同じ泣きまねだ。

「なんと!わたしのように任すことのできる従者は?」
「ドーガーではとてもとても。えーん。」
「ドーガー殿?これは問題なのでは?」
「ええ?わたしですか?えっとその、申し訳ありません。」
「マティス殿は?」
「私は護衛なのですよ。愛しい人と同じで。
主、セサミナ様のお傍にいなくてはなりません。」
「では、ドーガー殿がもっとしっかりすればいいのでは?」
「ええ、そうです。が、カーチ殿マーロ殿に比べれば、
まだまだ。育てていくのも領主の務め。仕方がないのです。」
「そうか。コットワッツもいろいろあるのだな。
しかし、ドーガーがもっと頑張ればいい。ちがうか?」

くははははは!
ここで笑っちゃいけない。
テール君?ドーガーはお兄ちゃんなんだよ?


「はい。お話ごもっと。
このドーガー、テール様のお言葉、深く心に刻み、
これからも精進したいと思います。」
「テール様、もうその辺で。
館に戻り、ここはカーチに任せておきましょう。」
「そういえば、ボルタオネの護衛の方は?」
「ああ、外で待っていますよ。中には入れないと。緊張するそうで。」
「そうですか。コクは?」
「ええ、外で待っています。」
「ああ、なら安心ですね。」
「ははは。うちの護衛より、コクのほうが信頼できると?」
「ええ。もちろん。」
「!そうですか。そうですね。」
「では、テール様、おやすみなさいませ。
マリーは頑張りますから。」
「無理はするなよ?マティス殿、マティス殿だからマリーをあきらめたのだ。
守ってほしい。」
「ええ。ご安心ください。
マリー、愛しい人は私の唯一なので。」
「うん。」
「さ、マリーにおやすみのご挨拶をさせてください。」

両手を広げると飛び込んできた。
ポンポンってすれば、即だ。
それをマーロに。
心なしか、ずっしりと重くなったような気がする。


演奏が、一つ、2つ終わって、
詩人も歌う。

詩の朗読だと思えば、それでいいのだが、
内容がね。

グラシオル大陸で一番の国、ニバーセル
我らが王、我らの主
唯一の王
繁栄あれ

そんなことが繰り返し。
これを中央院院長あたりが歌うとまずいね。
王様とかも。
となると、感情をこめないで詩う詩人は、一種のプロか。
なるほど。


それから、やっと出てきました。
軍部隊長候補たち。

中央院院長もいる。
彼の中でわたしのことはなかったことになっているらしい。
また挨拶から始めるのだろうか。

では、そろそろというときに、
真打登場。
王が来た。
え?くるんだ。こういう場に。

護衛職以外は皆が頭を下げている。


すばやく玉座が用意される。
えー、わたしも座りたい。が、長話になるのもいやだ。
軍部はノータッチじゃないの?
気になるから来たとか?
中央に出向く時の護衛はガイライだったはずだ。
一番のえらいさんだもの。
ああ、だったか。
王さんが誰でもいいように、
王さんも軍部の隊長は誰でもいいとおもってるんじゃないの?


中央院院長が説明している。


事務方が大慌てだ。
あれかな?
ここで投票をしろと言われて、できませんとは言えないからとか?
言ってもいいと思うけど。
なんせ、王様がここに来ている。

クロモさんが慌てて指示を出している。
投票権を持つものは一応残っている。
テール君はしかたがない。カーチが代理だ。
ここら辺は子供に寛大。別にだから子供はということは言わない。
代理がいるんだったらいいんじゃない?
だって子供だもの、となる。
子供は見守る、女は守る。
当たり前と考えているのだ。
では、男は強くて当たり前、女は弱いのが当たり前、とはならない。
そういう場合もあるよねとなる。
テムローサの場合は、多少の僻みだ。
そんなことで一々凹んでいたらキリがない。
笑って流せるのも強さだ。

自分が育った環境、そうであるべき事柄、
それが違うからと頑なに否定はしない。
そういうこともあるなと受け入れている。
概ねは。
その許容範囲は人それぞれだ。
受け入れられないということも受け入れないといけない。
当事者ならなおさらだ。




今回ものすごい追徴課税をいわれたナソニールは
棄権ということだ。
領国の存続危機だ。軍部なんてどうでもいい。

(王さんってこういうときは来るの?)
(謁見と会合、任命式の時以外で見るのは初めてです)
(働けよってことだよね)
(そうなんですが)
(こっちを見ているぞ?)


キョロキョロしている王はわたしを見つけ笑顔になる。

さらなるどよめき。
アウトだ!レッドカード!即退場!

(やめろ!目立つだろ!)
(!)
(声をだすな!)
(!)
(そのまま視線は会場全体を見るんだ。笑顔のままで!)
(?)
(うん、うん、って頷け!)
(?)
(それでこういうんだ。
こうやって、皆が熱心に国のことを思ってくれているというのは
王として頼もしい限りだって)

「皆が熱心に国のことを思ってくれているというのは
王として頼もしい限りだ。」

皆が、片膝をついた。
うわー、師匠までしてるよ。
立っているのはわたしとマティスだけだった。
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