いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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528:徒歩

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残りの砂漠石を全部使うようだ。

「ここにいるのは100人ほど?では、部屋の隅に。
みなを、対面に移動してもらおうか?」

おお!!爺だ!爺の声!!
面布を付けて、くぐもっているからさらにそれっぽい。

「それも移動すればいいだろ?」
タレンテ家側が言う。

「ではその分の砂漠石を出すか?」

うわー、いやな奴!
わたしってあんな感じだったんだ。

みながぞろぞろ移動。
なんか、ゲームをするようだ。


石に手を置き、爺が話し出す。
詩か?
詩人が朗読した詩を読み上げる。
皆が、ん?となってから、

『偉大なる王、我らの主
我は王の代理
王が求める
部屋の隅まで移動しろ』

へ?
さっき本物の王さんが来たんだよ?
で、ごく当たり前のことを言っただけで、皆が膝を折ったんだ。
主が褒めてくれたから。
王だからだ。
誰がなっても同じといわれる王だけど、
実際になっているんだ、やはり王は、王なのだ。

その余韻もまだ残っている。
で、代理だっていわれても、さっき本人いたじゃん。
あとは頼むぞって言ったじゃん。
それで、セサミンもあの師匠も頑張らねばって思ったはずだ。
代理が来るからそれに従ってねーとは一言も言っていない。

そんなんで、移動するの?
その移動はまさしく移動、徒歩だよね?

ざわつく場内。

「はははは!これはこれは!
王の代理が向こうへ行けというのなら歩いていきますが、
お前は王の代理でもない。
代理と名乗るのは不敬ですよ?
エボニカ殿?この不始末どうしますか?」
「・・・・。」

エボニカが手をあげると、傍にいた従者が銃を取り出す・

パン パン

「きゃーーーー!!」

銃声と同時に声も上げずに倒れ行く。
一呼吸おいてから、ましく赤い塊を見て悲鳴を上げる者たち。


(なにもしなくていい)


「どうやら騙されたようだ。
やはり、石使いというのはたいしたことはないな。」
「だまされたことのほうが問題なのでは?
仮にも軍部隊長に名乗りを上げているのに?」
「ものは試しとな。
問題があればすぐに対処できる。
即断力が必要ということだ。前任、ああ、前々か?
ガイライにはできなかったことだ。」


耳に入るガイライの名前。
まだいうか?


「うぎゃーーーー!!
は、は、は、は、 いき、息が」


のたうち回り、喉を掻きむしる。
足つぼとふくらはぎを押しただけ。
廻りの空気を鍛錬を行なう最初の薄さにしただけ。

タフトの領主がすかさず叫ぶ。
「またしても毒にやられたのでは?恐ろしい!!」
「いや、そう何度も毒を喰らうことなどないだろう?病気なのでは?」
「病気!軍部隊長など務まるのか?」

スダウト家の方からも声が上がる。
会合の時と同じように、担架で運び出された。

赤い塊の方は中央院クロモと師匠が検分している。
面布を取れば、若くはないが、爺でもない。
おっさんだった。

(師匠?)
(生きてますよ。まだね。処理を任されるでしょうから、
砂の抜出実験体になってもらいましょう。
任せてください。
モウ?気に病むことはないんですよ?
王の代理だなんて、そう言っただけでこうなるんですから)
(うん)
(では離れます。ああ、ツイミとオート院長はカップたちがついてますから)
(うん)
(明日には、クーとビャクが帰ってきますよ?遊んでやってくださいな)
(うん)
(マティス君、あとはおねがいします)
(言われなくても)



師匠がしなくてもわたしなら、この場で砂弾もなくせるし、
血止め、傷口も塞げる。
でもなにもしない。
銃を構えたのもわかった。
わたしのしたことはセサミンの前に立つことだけ。


「エボニカ殿はご病気のようですね。
銃の素晴らしいさもお披露目できたことですし、わたしとしましては、
この夜会を開催いたしまして大変満足しております。
王の来訪も喜ばしいこと。
なお、先ほど使われた銃は最新のものですね。
あの距離からの命中率は随一の物です。」

マトグラーサ領主が銃の素晴らしさを話し出す。

「明日の投票の話は?
ああ、スダウト家のエボニカ殿があのようになってしまったので
棄権するということで?」
「なにをおっしゃいますか?
我がスダウト家はエボルタだけではない。わたしが名乗りをあげよう。
スダウト家、クラビットだ。エボルタの弟になる。」
「そうですか。ではあなたが当主になると?」
「だろうな。あのように肝心な時に、奇声をあげる姿なぞ、
弟としても恥ずかしいだけだ。
近いうちにはっきりするだろうな。
我が娘の婿取りと同時期に発表があるだろう。」

ん?
この人の娘さんも結婚適齢期なの?

「雨の夜会ですか?
噂が出ていますよ?その婿となる人物の名前は
いろんな方々から聞いている。同じ名前です。
はたして、皆を嫁にするんでしょうかね?」
「我が娘以外は勘違いしているのではないか?」
「あははは!そうかもしれませんな。
他国の方々の前で恥をかかぬようにしてもらいたいものだ。
何でしたら、ここではっきりさせては?」

おお!

これさ、やっぱりマティスのことじゃなくて、
もっと別の男の人のことかも、
ルカリさんもガイライも、ニックさんも独身だしね。

そう思うと、なるほど、楽しいな!おい!

「誰のことだろうね?」
「姉さん、その楽しそうな笑顔やめてください。
わたしは腹のあたりが痛みます。」
「それはいかんね。おなかすいてるからだよ。帰ろうか?
帰って旅館の朝ごはんを食べよう。」
「宿のごはん?」
「温泉卵と、卵焼き、焼き魚と、お味噌汁もどき。
海苔と、つくだ煮。あとはさらご飯ね。」
「いいですね!帰りましょう。」
「投票は?半分過ぎ?」
「そのようですね。それが済んだら、コットワッツに戻ります。」
「うん。わかった。草原の話し合いは?」
「わたしが先に帰るとして、3日後には来るとおもいますよ。」
「代替の話もその時だね。その時は呼んでくれる?
それまで、館の改造しておくよ。」

コットワッツは旅館の朝ごはんの話に夢中だ。
ドーガーはお味噌汁もどきが飲めると喜んでいる。
そうだ、焼きおにぎりを普及しないと!
天むすもいいな。
海苔だ、海苔!
採取の季節はいつがいいんだろうな。
トックスさんが言う、いそがしいな、おい!だ。

「愛しい人、楽しそうだ。」
「うん、することがいっぱい。しかもみんな楽しいこと。うれしいね。」
「ああ。うれしいな。」


広間の話題は、ここで、その噂の人物の名前をいうか、言わないかで
盛り上がっている。
視線の先はコットワッツ組だ。
それを意識してか、いや、元からなんだけど、
マティスが絡むように、わたしにくっついている。
髪を触り、あらわになった首筋に触れるように何かをささやく。
話していることは、だし巻き卵が食べたいとかだけど。
そうだ、手羽先の甘辛煮ができるね。

お醤油万歳!


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