いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

文字の大きさ
529 / 869

529:国外搬出

しおりを挟む
「コットワッツ!セサミナ殿!」


ここで名前を呼ばれたら、
その御仁がセサミンみたいじゃない?
セサミンの嫌そうな顔。

「はい?わたしはすでに2人の妻がいる身。
さらなる娶りはしませんよ?」
「そんな話ではない!あなたは雨の夜会に行かれるのか?」
「ええ、かなり前に招待状をいただきました。
今年ははやいんですね。
今回は妻たちと一緒に参加させていただきます。
そうなると、妻たちのドレスを新調しようということになりますでしょ?
大騒ぎでしたよ?
なんでも、タトートの刺繍布の国外搬出に成功したとか。
ここは夫として奮発しました。
そうしますと、結婚以来初めてではないかというほど、
興奮しまして、いや、その次の出来事の方がそれはもう、
思い出してはこちらも赤面するやらで、なんにしても
あれほど可愛らしくなった妻たちを見るのも初めてでして、
あの時は・・・」
「いや、セサミナ殿、その話はいい。」

セサミンの惚気話。そりゃ、さえぎられるわな。

「そうですか?残念です。
兄がよく惚気るので、自分も話てみたいと思っていたもので。」
「その兄だ。マティス殿も来られるのか?」

視線だけ、マティスに移す。
セサミンもマティスを見ながら答えた。

「ええ。なぜか一緒に招待状が来ましてね。
出る出ないは本人の自由ですので、来たことだけは伝えましたが?」

横にいるのに本人には聞かない。
護衛だからね。
マティスはずっと、だし巻き卵に赤根おろしが好きって言ってる。
うん、わかったから。
じゃ、明石焼きも好きになるね。うん、あの金物屋さんで作ってもらおう。

「雨の夜会に招待されて出席しないものはいないだろう?」
「嫌そうでしたよ?」
「そんなことはない!雨の夜会だぞ?
招待をされていることを知っていればいい。
それと、タトートの刺繍布?王族の前でのそのような嘘も不敬になりますぞ!」
「嘘ではないのですが。」
「あははは!これはおかしい。
あの賢領主と名高いセサミナ殿が騙されたんですな。
私のところには最新の情報が常に入るようになっている。
いまだかつてそんな話は聞いたことがない。」
「そうだったんですか。では、わたしは騙されたんでね。申し訳ない。」
「以後気を付けたほうがよろしいな。」
「ええ、そうします。」


タフトの領主はこのやり取りを聞いて、満足げに頷いてた。

タフトの領主、メラフルは、
あの馬車の中で、目ざとくセサミンのシャツが刺繍布だと気付いたのだ。
こちらから話をふったわけではない。
とある兄弟の行商が持ち込んだという話を伝える。
無造作に鋏を入れると今まで通りになるそうだが、
いいものを作ろうとすればいいらしい、という話を聞いたと。
ちょうど、タトートに廻っている行商に連絡を付け、
買い付けてもらい、シャツに仕立ててもらったのだと。
どうなるかわからないから、大体的に話をしたことはない。
持ち込んだ兄弟も、懇意にしている服飾屋だけに売ったらしい。
なんせ、今は良くても1日で粉々になるのが、
3日になっただけかもしれないし、このシャツがたまたまかもしれない。


「それは話だけではだれも信じないでしょうな。
現物を見ていないと信じられないですよ。」
「そうですか。では言わないほうがいいですね。」
「いや、言ってもいいんじゃないいですか?
が、きっと、嘘をつくなと言われるでしょう。その時はすぐに引きなさい。」
「どうして?メラフル殿はすぐにわかってくださったのに。」
「現物を見せろと言われれば見せればいい。
が、頭ごなしに、うそだ、騙されたんだという者がいたらね。
そんな奴は本物を見てもわかりませんよ。
余計に意地になるだけだ。」
「そうですね。なるほど。では、そういわれれば引きましょう。」
「そうしなさい。しかし、いいものだ。装飾石もそうだが。
もっと見たいですな。」
「ええ、是非にと言いたいんですが、急に滞在館を変更になりましたでしょ?
次のところはご覧になったように、手入れをしないと。
終わりましたら是非に。」
「中央院、天文院ね。手の込んだことをするもんだ。
ああ、もう一つ。中央院も派閥はある。天文院も。」
「ああ、そうでしょうね。」


メラフルのご贔屓は現当主の弟君。
息子たちではないということだ。

馬車を降りてすぐに、タトートに買い付けに行くように手配したはずだ。
わたし達や、トックスさん以外が仕入れてどうなるか。
金儲けはいい。
が、その前にいいものを作って儲けよう、というのが重要だ。
手を抜いてはいけない。


セサミンは忠告通りにすぐに引いた。
が、袖口から見えるシャツの布地に気付いたものもいる。
メラフルに近づいて聞いているものもいるようだ。
ここ王都でもオート君やツイミさん、師匠もカップ君たちも使っている。
オート君の彼女も見せびらかしはしないが、
使っていると思う。
見たものはいるだろうが、まさかと思っているのだろう。

王都ではタフトが仕入れた刺繍布が売れるだろう。
自国の街道でもだ。
いろいろ教えてくれた礼はこれで十分。
うちの息子からブラスの林を取り上げたことを帳消しにはまだできない。
始末終えなくて、軍部にまた押し付けるのだろうな。
そうなったら、また分隊に押し付けてくるのだろうか?
ガイライ達には住むところは勝手にどうぞというお達しだったしね。
行商という副業を獲得したのはさすがだったな。



「やはり、雨の夜会でお披露目がよろしいでしょう。
まずは、軍部隊長が誰が務めるかですからね。」


マティスが行けば、それでいいんだ。
どうやって承諾させるのかな?
今回の石使いの詩も、王さんが来なかったらどうなっていたんだろうか?

(愛しい人?そういうことはワイプが考える。心配するな)
(そうだね。師匠にきっちり報告だけしておこう)
(朝ごはんも食べに来るだろうからな。米を炊かないと)
(そうだそうだ。さらご飯!もう帰ってもいいのかな?)
(詩人がでた夜会の最後はまた詩人です。
それを聞いて夜会は終わりです)
(聞きたくないけど、早く帰りたい)
(そうですね。王、本人からの言葉もありましたし)
(やっぱり、王さんすげーっておもったの?)
(ね、姉さん!そういってしまうと一気に格式がなくなりますが、その通りです)
(はは!じゃ、やっぱり王さんスゲーだね。彼には彼の仕事があって頑張っているんだね。
じゃないと心からは思わないもんだよ)
(王は必要なんですが、誰でもいいとおもっていましたよ。
しかし、彼があの詩にもあったように、彼が我らが王なのだなと、はじめて思いました)
(はは!詩の効果がそこにでたのかもしれないね)
(詩ですか?)
(王の代理ということで動かそうとしたのかなって)
(あの偽物が?)
(分かんないけどね。あとは師匠の仕事ってことだね。)
(ええ、そのほうがいいですね)


「もっとほかにないのか?」

王さんスゲーって話をしている間に、
詩人が出て来たのに文句を言っている人たちがいる。
だれ?と聞くとフレシアの領主らしい。
フレシアとタフトは一緒のように考えていたけど違うのかな?
刺繍布だってフレシアの絹地にすればさらにいいものになるだろう。
それはあの白い布を見たドロインさんが言っていた。
流石、フレシアの布だと。
フレシアに刺繍用の布を発注すればいいのに。
なんだか、内緒にしているような感じだ。
タレンテ家推しでも、ご贔屓はまた違うのかな?
タフトの領主からはフレシアの話は一切出なかった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。 気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。 だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう―― ――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

 社畜のおじさん過労で死に、異世界でダンジョンマスターと なり自由に行動し、それを脅かす人間には容赦しません。

本条蒼依
ファンタジー
 山本優(やまもとまさる)45歳はブラック企業に勤め、 残業、休日出勤は当たり前で、連続出勤30日目にして 遂に過労死をしてしまい、女神に異世界転移をはたす。  そして、あまりな強大な力を得て、貴族達にその身柄を 拘束させられ、地球のように束縛をされそうになり、 町から逃げ出すところから始まる。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~

専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。 ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。

処理中です...