いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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544:危機管理

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「・・・ダクツ。あとでゆっくり話をしような?
ワイプ殿、手数をかけてたな。
そうだな、食べ物のことなんだから、先に相談すればよかった。
どうして、ここに真っ先に来たのだろうか?」

ちっ!ラーフィングが望んだな?
もっと他のことを望め!世界平和とか!
・・・・ん?
違うな。個人的な些細なことだからだ。
だからだ。
そうでないと世界は崩れる。


「プニカとリンゴの砂糖漬けのことを知っているか?
それをな仕入れたいんだ。わかるか?」
「ええ。数はある程度あります。
資産院の方にいらっしゃってください。」
「そうか。ん?師匠?ワイプ殿が?
なるほど!ワイプ殿紹介してくれるか?」
「え?お話は済んでいるのでは?名乗りを上げていないのに、
彼女と話ができたんですか?
よっぽどのしょんぼり顔、プっ、だったんですね?」
「院の方だとは聞きましたよ?
お仕えしている主に、プニカとリンゴを持っていきたいと。
あと、カンターウォーマーとタオルとクッションを買ってくれました。
お得意様ですよ?」
「あなたのその線引きが分かりませんね?どうなのです?」

マティスに視線を移す。

「ここに入れたからだろう?
最初の応対はトックスがしたからな。
別に無礼でもなかった。だからだろ?」
「そうですか。明日も一緒ですよね?トックス殿、
2人のこと頼みますよ?ソヤもね。
ああ、もったいない人材を取られたもんですよ。
決算期の臨時雇いというのがありますからね。
考えておいてください。」
「どんな仕事?」
「数字との格闘です。楽しいのですよ。」
「ふーん。」

なにげにソヤを獲得しようとする師匠だ。
数字との格闘だなんてお金をもらっても御免こうむりたい。
お金をもらっても嫌だシリーズにマラソンもある。


「では、紹介しましょうか。」
 「師匠、それは今度で。
この方はコットワッツの商品を買ってもらったお客さんだ。
肩書付きで紹介される必要はない。今は。」
「それもそうですね。では、必要なことだけ。
彼女と、彼は私の弟子なんですよ、レメント殿。」
「私は便宜上だ!」
「そうですね。彼女の夫が彼なので、
一緒の方がなにかと便利なのです。」
「御夫婦か!お似合いだな!」
「これを。お茶に合う菓子だ。」

なんで、それだけで菓子を配るんだ?


「そうですね、とても素敵なお二人です。」
と、ダクツ。
「そうだな。旦那と奥さんは、ぴったりだよ。」
「だよね。2人はいつも一緒っておもうね。」
「そうですね。わたしの知っている夫婦で一番といえば、
あなた方ですね。」


1人ずつに、菓子袋を配っていた。
師匠にもだ。

トックスさんとソヤもそうだが、
ダクツとやらの頭の回転が速い。

レメントは戻れば、ここでの話をするだろう。
ラーフィングはきっと聞くだろうし。
そうなると、コーヒーの話はいい、
楽しみにしておけと言えばいいから。
内緒にして下さいといってもダメだろう、きっとばれる。
そうなるとどうなる?
また突撃訪問があるかもしれない。
そうなると師匠が死ぬる。

話して、お裾分けするには量は少ない。
食べてほしいレメントが食べれないということだ。
それはマティスががっかりするだろう。
喜んでほしいのだ、マティスは。

「あなた、ダーリン。それでは少ないですよ。
もう少しありますか?」
「ん?そうか?だったら、パイのほうがいいか?」

「そうですね。それがいいです。」
師匠が答える。

「・・・届けてある。」
「それはうれしい。」

師匠は満足そうだ。

レメントさんに
みなでどうぞとプニカのパイとアップルパイのお裾分け。
日持ちはするだろう。
んー、冷蔵庫を売るか?
いや、それは、またセサミンが卒倒したら困るからやめておこう。

「これは主が喜びます。」
「そうですか。あなたの主は甘いものが好きなのですね。
甘いものはみなと一緒に食べるのと、さらにおいしいですよ?
ご一緒に食べてみては?」
「ははは!それはできないのですよ。主はいつも一人で食べております。」
「ん?そういう決まり?食べるところを見ると死ぬとか?」
「いえそうではないのです。」
「決まりじゃないのなら聞いてみれば?
ご一緒によろしいですか?と。その時に好きな食べ物の話をすればいい。」
「決まりが、あるわけではないのですよ。ええ。」
「だったら、ご一緒に。きっと、楽しいですよ?
師匠、あとはよろしくお願いします。
師匠には、ご迷惑をかけてしまいました。」
「いえ、それはかまいませんよ。しかし、どのような経緯で?
わかりますか?」
「んー、知らない人の話は聞いてはダメだと、
夫と師匠と母にいわれてるって言ったからかな?」
「・・・・。わたしは勤め人です。
上からの指示には逆らえないのですよ?」
「でも、わたしの師匠ですから、紹介していい人と、悪い人は
餞別してくれるでしょ?」
「当たり前です。さ、レメント殿、急ぎましょう。
茶会に間に合いませんよ?
うちの弟子が作ったパイはあなたがいう、
主と一緒に食べてもいいですが、
個人的に楽しんでくださいよ?
念を押しますが、彼らはわたしの弟子です。お忘れなきよう。
ちなみに彼女が一番弟子で、彼は末席です。」
「ははは!ええ、わかっております。
そうですか、一番弟子ですか。それは素晴らしい。」

では!ということで、資産院の方に戻っていった。

しかし、リンゴと、プニカの砂糖漬けをごろんと出すのかな?
お酒と?
洋酒と合うかもしれんけどね。
ザバスさんの大人のお菓子シリーズで洋酒で作ってもらおうかな。
うん、そうしよう。


あとは、昨日作った食料を師匠のところと、ガイライのところへ。
改修した館は、セサミンが来た時にお披露目だ。
時間を作って、こっそり4階の改装をやっていこう。


「レメント殿が?」
「知ってる?たぶん王さんの御付きだね。
わたしも聞かなかったことにしたけど。院で主って王さん?」
「そうなりますね。1人で?誰と?」
「御者のダクツさん。」
「あれは強いな。」

と、マティスがいう。

「え?そうなの?わかんなかった!」
「彼は王の護衛のひとりです。
中央に行くときは必ずついていきます。
彼がいるから、軍部からの派遣は言葉が悪いですが、
誰でもいいのですよ。
その彼が、レメントと一緒に?珍しいな。」
「いつも王さんといっしょなの?
だったら、彼の分も料理出したのに。」
「聞きましたよ?王に食事を振舞ったと。」
「うん。師匠にも説明したつもりが抜けてたみたいだね。
食べ物関係は必ず報告してくださいって。
新作は先にみんなで食べるのにね。」
「いえ、そういうことではないですけど、それでいいでしょう。
ダクツはあなたを見に来たんですよ。
プニカとリンゴなんて、調べればすぐわかるし、
ワイプが調達したことも知っているでしょう。
王の行動は把握しています。そこで、食したものはなにか、
それはどんな人物かを確認ですね。」
「じゃ、プニカとリンゴがいるというのは?」
「それは本当でしょう。今日の茶会は王族の上層部と中央院が集まる。
雨の日前だ。中央に要求する内容を詰めているはずだ。」
「仕事してるんだね。」
「それは分かりません。王はただ座っているだけだ。
わたしも出席していたんですよ、
今まではね。」
「あ!わかった!退屈だから、おやつが欲しかったんだ!
それだよきっと。
その茶会でずっと口をもぐもぐしてるよ?ちょっとお行儀が悪いね。」
「行儀が悪い?あの王が?あははははは!!!」

いつも取り澄ました顔をしているから、想像したらおかしかったのだろう。

「そのお茶会?ガイライの代わりに、あの両家が?」
「でしょうね。わたしもこれから出席です。
引継ぎを済まさないと。」
「おお!頑張ってね。そういう仕事はきっちりとね。
でも、なにか頼まれてもきっちり断るんだよ?
分隊はなんでも屋じゃないんだから。
じゃ、パクっと食べれるおやつと、水筒にコーヒー入れておくね。飲み頃の。
口の中に移動させればいいから。」
「お!それはいいな!俺は酒を移動しようかな?」
「もったいないよ。お酒は楽しんで飲まなきゃ。
カレーもあるからね。晩御飯に温めて食べてね。」
「今日は泊りですよね?明日はタトート?」
「うん、べリアバトラスの荒野に泊るの。肉狩り。」
「野生化したボットがいるという?」
「うん、ウサギ、豚もいるよ。ほかにもいるかもしれないしね。
肉と皮が手に入る。雨支度っていうの?それね。」
「トックスとソヤも一緒に?」
「うん。ちゃんと安全な場所を作るよ。
砂漠石に寄ってくるようだからね。
木で高台組んで。」
「楽しそうだ。茶会がなければついていくのに。」
「うふふふ。いつでもいけるんだから。また今度ね。」
「楽しんできてください。」
「うん。」
「モウちゃん?荒野にはほんとに大型の獣がいるってはなしだ。
そういうのは脚を狙え。こかせばすぐには起き上がれない。」
「おお!それもそうだ!しかし、大型!どんなだろね?おいしいかな?」
「そうだな。大型でうまい肉の代表はクジラだが、
シシはまずい。街の近くにいるものは特にだ。
あとは、うわさだがその大型っていうのがトラらしい。」
「トラ!奥さん!それだ!」
「トックスさん、奥さんてのはやめて。姪っ子になるんだから。
あー、タトートは甥っ子か?ややこしいな。んー、どっちでもいいか。」
「ああ、そうか。モウ、な。トラだよ!トラ!
この大陸で一番いい毛皮だって言われてる。
俺も2度だけだ。見たのは!狩ろう。」
「俺も知ってるぞ?トラ。
肉も普通だけど、皮がものすごく丈夫だって。
1枚あれば、燃えない限り使える。しかも燃えない。
水もはじくから漁師がものすごく高値で買う。
王様も貴族も買う。
だけど誰も売らないらしい。それほど価値があるって。
持ってるだけでいいんだって。」
「そうだ!その毛皮のコートを着ていけ。な?」
「え?それはどうなの?きっと柄は派手だよ?
わたしのドレスは白だから。あわないよ?」
「あー、そうだ。それはないな。もったいないな。」
「あははは!なにも雨の日の夜会がすべてじゃないし、
それにいるかどうかも分からないんだから。
捕らぬトラの皮算用だよ?」
「?あああ!面白い言い回しだな。それもそうだ。」


トラが出たら教えてくれとニックさんに言われ、
いざ出発。


大門横から出ていくところで引き留められた。

「トックス様でございますね。」

おお!トックスさん有名人!

「あぁ?違うが?」

すごい、柄が悪い。

「え?」

向こうも驚いている。

ほれ、早く帰ろうと、
トックスさん先頭に外に向かう。

「お待ちください。
ジットカーフのトックス様ですよね?
今はコットワッツに店を構えていらっしゃる。」
「違うね。」

店は構えていない。任せているんだ。

「いえ、トックス様です。
主がお待ちしておりますので、どうぞいらしてください。」
「俺はとっくすでもないし、誰が待ってようが、しらんよ?
ほれ、お前たち、ボケっとしないで、門を出ろ!」
「へーい。」

わたしたち2人は職人風の装いのまま、
気は極力落としている。


「職人風情が偉そうに!捕らえろ!」

「なにやらかしたの?」
「こころあたりが有りすぎてわかんないんじゃない?」
というのはソヤだ。
手伝いながら、トックスさんの若かりし頃の冒険譚を聞いていたそうな。

「お前、昔のことを今持ちだしたらダメだぞ?」

一向に歩みをとめないので、
向こうさんは廻り込んできた。

「止れ!お前ら全員だ。」
「待て。人違いだろ?
あなた方はいかにも身分のありそうな方々だ。
そんな方々が、一国民に用事など、しかも待っているなぞあり得ないだろ?
そして、その権力を使ってこちらを捕えるというのも間違っている。
そんなことをすれば、主とやらの程度がしれるというもの。
あなたが用事のある方が、コットワッツにいるならば、
コットワッツを通して話を聞けばいい。
人違いで罪のないものを捕えるなんぞ、いい恥さらしだぞ?」

これをかなり大きな声で言った。
廻りは月が昇る前に外に出る者たちがかなりいる。

あれはどこの人間だ?
フレシア?
いや、横にいるのはタレンテ家の人間だ。
軍部隊長になったのだろ?
いや、まだ誰がというのは決まっていないぞ?
こんなところに来てるひまなんぞないはずだ。
あれだろ?茶会だろ?
ここに来ているということは外されたか?
では、スダウト家一本で?
知ってるか?軍は分かれても予算は今まで通りらしいぞ?
ああ、しかも軍で働く国民の給与優先だ。
辞めたやつもまた働くそうだ。
それはいい話だな。

そんな話を皆が大声でする。
あまり評判は良くないようだ。

「では、失礼。」


ここでとらえることもできずに、
そのまま黙って見送られた。


「すごいね。」
「こういうのはしょっちゅうなんだよ。廻りの味方につけるのが一番だ。」
「でも、トックスじゃないっていいきったらまずくない?」
「俺の名前はトゥックスだ。」
「え?トックス?」
「トゥックス。」
「トゥックス?」
「そうだ。ジットカーフなまりだな。だからここの発音で言われても違うってことさ。」
「うーわー。」


トックスさんの危機管理能力に感服しながら、
ちょっと、樹々が少しだけ生えている野営場に行った。
王都の大門に守衛が一日中いるわけではない。
出入りはできるらしいが手続きが面倒らしい。
なので、門が締まっていれば、ここで待機するのだ。
一応井戸はある。
そこに入り込んで、トックスさんとソヤの方に触れて
移動した。
きっとこの野営場を抜けたあたりでさっきの人たちが待機しているだろう。
待ちぼうけだな。









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