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618:名演技
しおりを挟む竹刀やひとひねり、土蜜は面白い商品だが、
ニックさんが言う面白い商品ではない。
一応見せてみるが、
ニコニコと応対はしてくれる。
「いや、わかってるよ。
これは10番で売ろうと思う。ま、先にな、見せておいたほうがいいだろ?」
「お気遣いありがとうございます。
そのほうが売りやすいことは売りやすい。
が、この商品を見せて、わたしに先に見せたというと
がっかりする店もあることはありますよ?」
「昔では考えられんな。」
「いまは過渡期ですね。が、残るのはわたしですが。」
「そうか?俺の読みが間違ったかもしれんな。」
「それはいずれわかるでしょうな。」
「そうだな、まだ、早いか。」
「ええ、まだ、です。
シナイ?これは、お好きに。土蜜はそうですね、500?
800でいいでしょう。そこから交渉しなさい。
それで、これ。
本当に外れるんですか?」
いまだ、だれも外れず。
「外れますよ?」
ガイライが後ろを向いてカチャカチャとふり、外したものを見せた。
「「「わかった!!」」」
音を聞けば気付くだろう。
わたしもそうだった。
ガイライは手に取り、ひっくり返しただけで気付いた。
水平の心棒も動いた音がしたと。
「そうか!だからひとひねりか!」
「え?!ひねる?あ!」
これで、カリクさんも外すことができた。
「これは楽しい。」
「解き方がわかれば、それまでです。
あとは知らないひとが解こうとしているのをみる楽しさだけでしょうか?」
「それも楽しいですね。
しかし、これらは街道に来る客向きではないですね。
どうぞ、お好きにお売りください。
ああ、これは先にわたしが買います。」
1リングでお買い上げだ。
高い!が、パズル的なものはないからいいのかな?
あと、竹刀と土蜜も買ってくれた。
「ワイプ様は?あのアバスクと拡大眼鏡は?」
「あれは資産院で売り出していますからね。
ここでは売れないでしょう。
資産院で買うほうが印象がいいという噂も出ていることですし。」
「え?いいの?だったらわたしも買おうかな。」
「愛しい人、噂だけだ。それも、資産院自身が流している。」
「ああ。」
「あたりまえでしょ?印象も何も納税はきちんとね。
が、そうもいかないことは十分承知しておりますカリク殿。」
「さすがはワイプ様だ。では、ニック様が言うおもしろいものとは?
お嬢さんがお持ちの物ですか?」
「いや、お嬢さんってそんな年齢ではないんですが、
さきに自己紹介をさせてください。
えっと、その、わたしはここにいるマティスの妻で、モウと言います。
マティスはコットワッツ領主、セサミナの実兄です。
それはもちろんご存じですよね?
あと、愛しい人問題も?」
「ええ。もちろん。楽しいことになっておりますね。」
「あははは。
で、混合いはじめの会合のあと、コットワッツの商品、
宝石類の販売があります。
それを買いにその愛しい人問題の参戦者がこちらの10番街にお泊りに来るとか?
国外からも。こちらの商品は素晴らしい。
それは分かります。領主セサミナ様も、本格的に高級品というものを売る。
勉強になることでしょう。ただ売れればいいだけではない、
付加価値をつけないといけないということを学ぶと思います。
こちらは、その一つが金額だ。
高いほど価値がある。実際によい商品、高くていいもの。
一生ものの商品でしょう。
それをお買い上げいただくのは、コットワッツの滞在館でも、
ここでも構わない。わたしは義姉とはいえ、行商を生業としてますから。
しかし、そのお買い上げのお金がニバーセルの財政からでるというのは
どうも、庶民のわたしには許されんことなんですよ。
あと、やはりかわいい弟には、迷惑はかけたくない。
商品の出所とかでね。
そこで、ここではそちらの言い値で卸します。
それはあなたの審美眼を信用できるからだ。
彼女たち、愛しい人問題の参戦者たちに売るということと、
あなたが直接、現金で売ってほしい。
資産院の後払いは断って。それが面白い品を売る条件です。」
「あははははは!
これは驚いた!このわたしに売り方を指図するのですか?
ニック様?よろしいのですか?」
「いや、なんとも。モウちゃんがそれで売りたいっていうから、
ここに連れてきたんだよ。もともと、来る予定にはしていたけどな。
その売り方でダメなら、しかたがないんだが、
まずは商品をみてからだろ?」
「ええ。どこぞの女商人のような過ちはしたくはないですね。」
「先に言うが、その売り方で売れるかどうかは、ここにいるものはみな
首を傾げたんだ。モウちゃん?話していたやり方で売ってみな?
俺たちはそれがいいかどうかは本当に判断できないから。」
「ではちょっと準備しますんで。お待ちください。」
売るものはクジラの骨、砂トカゲの牙、
コールオリン、サンゴ。
それを、ボットの裏側、スエードを張ったケースに入れている。
コールオリンの廻りにダイヤをつければさぞかしきれいだろう。
が、それはセサミンの分野だ。
コールオリンがはまるサイズのアクセサリーは作成済みだ。
そしてコールオリンには言霊を掛けている。
食われるなと。
雰囲気は大事だからね。
テーブルとソファーも用意してもらう。
で、カリクさんはゆったりと座ってもらって、
その後ろにはニックさんと、ガイライに立ってもらう。
で、執事は師匠。
マティスとわたしがモウモウ商会の商人ということだ。
「マティスがんばろうね!」
「任せておけ!」
台本も渡す。
わたしが読み上げたものをマティスが書いてくれた。
まだまだ文字は苦手です。
それをお願いでコピー。
紙と鉛筆があればいい。
「モウ?この設定必要なんですか?」
「もちろん。じゃ、始めますね。
カリクさんはどこぞの大富豪ね。
自分のお金っていう感覚がないお金持ちね。」
「あははははは!ええ。我々のお得意様ということですね。」
「そそ。で、ガイライとニックさんは護衛兼、従者ね。
主の無茶ぶりは一応止めに入ると。
師匠は、辛辣すぎるから、だまって心の中で笑っている執事ね。」
「はいはい。」
「じゃ、いっくよー!」
「カリク様?珍しい商品を売りたいと、行商が来ておりますが、
いかがいたしましょうか?」
「え?これを読むのですか?
んっ。
珍しい?うふふふ?どういったものかしら?え?女?変えても?よかった。」
ということがあり、なんとか、部屋に入ることができた。
ちなみにテイク5でだ。
一見さんの商人ではダメだろうが、
これをするのはカリクさんだ。
どこでも売り込み自由だろう。
「今日の私どもはとても幸先がいい。
素晴らしき良いものが手に入り、これを持つにふさわしい方が目の前にいる。
このものたちもあるべき主の手元に、そして私どものには、
これを手に入れた労力が報われる。
当然、これを手にした方々は満足を得られることでしょう。」
「それは見てみないとわかりませんね。」
「もちろんでございます。ここに。お出しして?」
「はい。」
マティスに薄い箱を開けてもらう。
蓋の内部には鏡があり、それを立てかければ、己の姿が映る。
こうすると、自分の姿を意識してしまうのだ。
が、これくらいの鏡は皆見たことがあるだろう。
「いかがでしょうか?
どうぞ、飾りとして加工したものもございます。
手に取ってみてください。
鏡にはそれは美しく輝くものを見ることができますでしょう。
このものたちも、ふさわしきものに身に付けられてこそ、
己が輝くことを知っております。」
カリクさんはやはり、笑顔のままだ。
「コールオリン?」
「それはどうでございましょうか?
私どもは現物を見たことがございませんので、なんとも。
みなさまのお話にでてくるものとよく似ているなとは思います。
これを持ち込んだ者もなにも申していませんでしたし、
こちらも聞いておりません。
その価値にふさわしい金額で買いあげたとだけ。
あの者も、今年の長い雨支度を十二分にできると喜んでおりました。」
「・・・・ジットカーフに持っていけば、
あなた方が払ったであろう金額の数十倍手に入るのに?
酷なことをなさいましたね。」
「そうでしょうか?かの者は、いま、いまですよ?
いま、お金がいるのですよ。
いまから、ながい道のりを、護衛をつけ、数日の野宿の用意をし、
ジットカーフに行くよりも、
その準備で何か持っていると気付いたよからぬ隣人に
殺されるよりも、すぐにでも買い取る我らを信頼してもらったんですよ。
数日後のリングより、今使える目の前のリングなんですよ。」
「そのものはまた持ってくるでしょうか?」
「いいえ。かの者には、これの価値を教えていません。」
「?」
「そんなことを教えれば、彼は畑を耕さずに、一日中海岸を歩いている。
これはたまたまてにいれた、きれいなもの。彼には過ぎたるものだ。
彼の誠実さに感銘を受けて金を渡しました。
年老いた両親に雨支度をしてやりたいと、
きれいなものなんだが、金にならないだろうか?
と聞かれましたので。
タダでやることはできないので、これを買い取るということにして。
同じようなものを誰かが持ってきたとしても我々は買わないでしょうね。
いま、この時だからです。それが縁というもの。」
「この時?」
「雨の日前の雨の夜会に身に付けれるだろうこの時期です。」
「ははは!なるほど!
この白いものは?そしてこれも美しい、半透明だ。」
「これらも似たり寄ったりの経緯で手に入れました。」
「赤いものも?」
「ああ、これは海の物です。
少しご縁がありましてね、タトート、タトーロイン卿に進呈いたしました。
これはさきにお話ししておいたほうがよろしいかと。
同じ飾りを身に付けるのを控えるか、己のほうがよりよく輝かせるか。
これはご本人しか分からないことですし。」
「タトーロイン卿ですか?これはこれは。
此度の夜会に久しぶりに出世なさるとか。」
「えっと、カリクさん?たぶんね、お嬢たちはしらないんじゃないかな?
卿のことは。誰それ?ってなるかも。
でも、先に言っておくほうがいいと思うのよ?
ちなみにわたしの身内で、まだご存命だったとかなんとかいって、
ここをお前の死に場所にするのか?って言われてたけどね。」
「ぶ!」
「だめですよ?わらっちゃ。んっ、んつ。
いかがでしょうか?」
「どれも素晴らしい。すべて買い取りましょう。
金子はのちほど届けましょう。」
「ああ、申し訳ない。先ほどもお話したように。
今、今なのでございます。
いま、この扉を出るときに、
このものたちを手放した分のリングが必要なのでございます。」
「どうして?」
「それはお話しすることはできないのでございます。
今この時の縁を大事にしていただければと。」
「だったらいらないわ。
えっと、これはこう書いてあるからですよ?念のため。」
「ふふふふ。もう!笑かさないで!ふーっ。
「そうでございますか。
このものたちも今まで以上に輝いたのに残念だ。
片付けて他を廻ってみようか?
王族の方々いえど、ないものはないということか。残念だ。」
「しかし、他国の方もいらっしゃってると聞く。
そちらがこの者たちの主ということでは?」
「そうか?そうかもしれないが。ああ、本当に残念だ。
では、これにて失礼します。」
「・・・・。」
「と、こんな風に売ってほしいのです。」
「はー、なるほど。」
「え?モウちゃん?俺たちは?」
「それパターンBですよ。じゃ、パターンBで行きましょう。」
「え?これですね?
わかりました!すぐに持ってこさせましょう!」
「あ!俺だな?
なりません!
出所の分からないものを即金で買うなぞ、王族のなさることではありません。」
「黙りなさい。欲しいというものを買ってなにがいけないの?」
あ、カリクさん、セリフそのまま読んでる。
「この場で金が欲しいなんてなにかあるに決まっております!」
「あはははは!それはそうでしょ?
商売とはそういうもの。それを見極める力がないというのならそれまで!
御付きの方々も残念ですね。
いえ、これは当然のこと。お嬢様は見る目があるというのに。」
「黙って用意しなさい!!」
フンヌーとカリクさんが演じきったという息を漏らした。
名演技だった!素晴らしい!
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