いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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きつい。
その一言。


ジャージに砂漠石の糸をまんべんなく編み込んで、
重さを変えていたが、
それだと、足先までは制御できない。
それを言うと、全身ぴっちりの全身タイツ仕様のものを作った。
マティスが。
それの重力指示権をニックさんが持っている。
鍛練中譲渡した形だ。

着地する瞬間に切り替わることはないが、
わたしが力を入れようとするほんの少し前に切り替わる。
ということはその動きがニックさんにはわかっているということ。
フィギュアスケートでジャンプに入るタメがバレバレって奴か?
なので、一気に力を入れてはダメなんだ。
素早く、穏やかに、カーブを描くように。
瞬間に元に戻るときはそのまま、維持をする。
わたしの瞬発力、蹴り、腕の振りを
重さに頼ってはダメだということ。
フラットな状態があり、それを瞬時に増減する。
己の重さに頼ってはダメということ。
頼るんではなく、使う!

半分の半分。
水分休憩。
それとおトイレ休憩。


ほんとうの体重を感じる時間。
わたしの重さってこんなの?
なんか重くない?あれ?


「じゃ、次な。
俺も、本気で行くから。
死なないでくれよ?モウちゃんが死んだら、きっと俺も死ぬ。
で、マティスも死ぬ。ついでとばかりワイプも死ぬ。」
「あはははは!それはあり得る!!」
「あなた、それ冗談ですよね?復讐とかないんでしょ?」
「いやー、それは分かんないよ?
たぶん、自分が死ぬとき廻りも巻き込むんじゃない?
わたしも気を失わなければ、Gの何千倍が出ると思う。
逃げてくださいね?」
「ちょっと!あの下着付けてますか?ニック殿の槍は鋭い。
死なないでくださいよ?」
「愛しい人、死ぬときは死ぬ。
すぐに追いかけるから、輪廻を廻るときは一緒に。
ニック、鍛錬だ。それは仕方がない。」
「お!だったら、いいな!」


なんで、死ぬ前提なんだ?
まさしく、死なないように頑張ろうだ。

「あ、マティス?髪結い上げて?」
「そうだな。切らないんなら、きっちりと止めとかないと。
いや、おろしておけ。
髪の先まで意識しろ。」
「え?それで本気はちょっと怖い。慣れるまで、待って!」
「じゃ、徐々にな?」
「はい。」


これまたきつい。
髪が邪魔だ。
髪をかき上げるわけにはいかない。
前髪だけ止めさせてもらって再挑戦。

ニックさんの本気。
殺気か?
最初に浴びたものでもない。
警戒の気ではない、殺す気ではなく、
なんだろう?ああ、闘志?圧だ。
強い。

恨みとか、そういうのはないんだな。
仕事としての殺気だ。滅することが仕事。
軍人だ。
闘う人。
高原の民とはまた違う。
国を守る人は、ここまで心を殺せるのか?
そうしないと、普段の生活ができないからだ。
臣の腕を捧げるのも、よりどころを求めるからだ。
主の為の行い。
ああ、悲しいな。
ああ、これは、失礼な考え方だ。

なにか、なにか。

ニックさんの何かが、こっちに流れ込む。

なにか、なにか。

髪の引きが遅く、そこにニックさんの槍が絡まる。
捻りながらついているんだ。
その回転と同じ向き、同じ速さでわたしも廻る。
一瞬の間。
髪がほどけると同時に下から蹴り上げ、喉仏に。





─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘






愛しい人の勝ちだ。



「参った!」
「あ、ありがとう、ございま、した。」
「・・・モウちゃん?
あー、泣かなくていいんだ。いいんだよ。」


そのまま、ニックに倒れ込み、わんわん泣いている。
ニックは、頭を撫で、ニックも泣いていた。

「マティス!」

魅入っていた。
呼ばれるまで動くことができなかった。



「愛しい人、大丈夫だ。」
「マティス?マティス!!!ああーーーーーああーーーーーー。」
「素晴らしい動きだったぞ?どうした?」


そのまま、愛しい人は寝てしまった。
いつもより小さく丸まり、私に縋りついている。


「マティス?モウちゃんをさ、俺にくれないか?
酒風呂なんかより、モウちゃんが欲しい。」
「死ね!ニック!!」
「ニック殿、さすがですね。
わたしは思っていても言えませんよ?」
「ワイプもついでに死ね!」
「いや、今回みたいに、定期的でいいんだ、俺に預けてくれればいい。」
「ダメだ。体力が戻れば、お前と舞えるだろう。
つまりは同格だ。教えることはないだろ?」
「そんなことはないぞ?場数が違うんだから。」
「・・・どうして泣いたんだ?」
「だから、欲しいんだよ。
あー、わかったから!気を膨らませるな!!
だったらこれからお前が気を付けてやれ。モウちゃんの思いが外に出てくる。
動きを読み取られることはない。
まったく別のことを考えてるんだ。動きと思考が別だ。
それはいい。だが、その思考がこっちに流れ込む。
あー、怒るなよ?
それがな、心地いいんだよ。
抱いてる?いや、抱かれてるような、って気を膨らませるな!!
そう感じるって話だろ?
お前は?そう感じたことはないのか?」
「・・・ない。」
「そうだろな。お前、モウちゃんと本気で、
殺してもいいって気持ちでしたことないだろ?」
「ニック殿はしたんですか?」
「でないと上達しないだろ?」
「・・・・。したことはない。それに、できない。」
「しないと、遅れをとるぞ?お前ももっと実戦を積まないと。
鍛練、手合わせじゃない。戦闘なんだよ。
だが、ギリギリで止められる。
ワイプとの手合わせも所詮鍛錬だ。あれ以上だ。
それをモウちゃん相手にするんだ。
でないと、お前たちは俺より早死にするぞ?
それは勘弁してくれ。」

そんなことできるのか?

「マティス君?
モウと話し合いなさい.
お互いに納得すれば問題は無いでしょう?」
「・・・・。」
「それで、鍛練になるのならいいんじゃないんですか?
あなたの鍛練にもなるでしょ?
あなたが相手をしないとなると、わたしがやりたくなってしまいますよ?」
「死ね!!」

─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘


モウを抱えてながらも、器用にテントを広げていく。
それを未だ座り込んでいるニック殿の横に座り眺めていた。

「いらんこといったよな?」
「そうですねー、でも言わないと。
しかし、殺してもいい?そんな気配はしませんでしたが?」
「ははははは!そりゃそうだろ?
恨んでるわけじゃないんだから。お前もそうだろ?」
「そういわれればそうですね。あなたが泣いたのは?」
「ん?なんだろうな。
お前もモウちゃんと一戦交えればいい。手合わせではなくな。」
「あなたが余計なこと言ったからマティス君がさせてくれませんよ!」
「そうだな。いやー、いい経験させてもらったよ。
あれな、たぶん、臣じゃダメだ。
セサミナ殿はモウちゃんの域まではいかない。
ガイライは行くが、臣なんだ、無理だろうな。」
「分かるような、分からないような。
もう、半分すぎてますよ?この辺り?向こう気配はなんとなくありますが、
あれでしょうかね?
モウが起きるまで待ってましょうか。
あれ?マティス君から殺気が出てますよね?
なんで?おなかがすいてるんでしょうか?」
「それはお前だろ?」
「そうですね、あさごはんはうまかったのですが、
あれは、すぐに消化してしまう。
マティス君!軽く何か食べましょう!!」

─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘

とにかく、横に寝かさないと。


本気で?
殺す?
そんなことは考えられない。
つもりではやはり違うだろう。
ワイプ相手でも、所詮つもりだ。
おかしい。
いや、そんなことはどうでもいい。

愛しい人と話し合って、もし、それで傷つけてしまったら?
自らの手で殺めてしまったら?
死ぬまで生きると誓い合っているのに、
己で終わらすのか?そこまで、強くならないといけないのか?
いや、私が弱いからだ。
ニックはやってみせた。
できるんだ。
まずは、ワイプ相手ですればいい!
殺してしまっても、仕方がない。
良し!


「マティス君!軽く何か食べましょう!!」

そうだな。なにか、チーズのを作ろう。
愛しい人もおいしい匂いで起きるだろう。



─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘




「ここは?」
「旧王都の近くだな。区画番号でいえば、32だ。
いま、ここに住んでいる。」
「・・・・ぼろい。」
「なかはきれいだぞ?」
「32か。昔の宿屋が集まっていたところだな?
そのまま借りたのか?」
「そうなるな。この一帯を借りている。」
「監視するんだろ?」
「ああはいったがな。ここで、何をしようと別に構わない。
先に用事を済ませればいい。
わたしはわたしで、することはある。
ああ、門から入っていないからな、そこは気を付けろ。
身元引受人はわたしの名前を出せばいい。
旅の途中であったことにしておこうか?」
「・・・・。
移動ができるというのは?」
「コットワッツの血筋だといっただろ?
それは、中央院も軍部も把握している。
が、距離等はだれもしらない。どれだけの物を移動できるかもな。
セサミナ殿は領主の力を公開する必要はないとの一点張りだ。
把握するなら、あらゆる領主のあらゆる領主の力を公開せよとな。
それは無理な話だ。だから、誰も把握できない。
マティスはそれがうっすらとできるという認識だな。」
「よくいう。」
「はは!マティスの方が融通は聞かんぞ?
あれは、モウの為だけだ。わたしがモウの臣だからだ。
モウがお前を気に掛けているというのは本当だぞ?
でないとお前は2回死んでるからな。」
「は!あの程度でか?」
「そうか、お前も分からないか。
そう思うのならそれでいいさ。
混合いはじめの月の日に資産院に来なければ、
次に姿を見せたときに、ワイプに始末されると思っておけ。
事情が変わればそういえばいい。協力できないのならそう言え。
裏切るな、それだけだ。」
「お前は?」
「わたしは、軍部に顔をだすが、途中まで一緒に行こうか?
実家にも近いだろ?」
「・・・・。」
「お前の噂話は知っている。お前との付き合いだったんだ、
親のことは関係ないとおもっていた。
お前が出ていってからのスクレール家は表に出ることはなくなった。
跡取りが出ていったんだ、そうなるだろうなとしか思わなかった。
父親が誰かというのは知らない。
だが、ハニカのことは知っている。
下町を見回ればよく声を声をかけてくれたよ。
些細なことも教えてくれた。
ニックがいなくなってから特に。小さないざこざも、
どうすればいいか教えてくれた。
コットワッツから馬車を譲ってもらってな、
それで街の案内を最近しているそうだ。
白い馬車だ。今度一緒に乗ろうと言われているんだ。
楽しみにしているんだ。」
「・・・・。」
「これは、半分過ぎに食べるものだ。
うまいぞ。」
「・・・・食い物がうまいな。コットワッツ?」
「いや、モウの故郷のものらしい。あまりこちらでは食べないものだ。
馬の餌のトウミギあるだろ?
あれがうまいんだ。」
「馬の餌?
馬の餌の葉物を買って来いと言われていたな?
戻るんだな?」
「そうだ。また、マティスが運んでくれるだろう。」
「俺も戻る。」
「そうか?
では、明日の半分までにここに戻って来てくれ。
半分すぎても戻らなかったら、置いていく。
その時は混合いはじめに資産院に。
ゆっくりしてもいいんだぞ?」
「いや。」
「そうか?」
「先に下町に行く。」
「そうか。」




軍部に行き、ルカリに事情を聞けばいいか。
リグナはここにいないとなると、コットワッツ館か?
・・・・。
ハニカが父上だったんだな。言われてみればよく似ている。
スクレール家のことも聞かなければ。



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