いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

文字の大きさ
上 下
660 / 841

660:意地

しおりを挟む
リグナ?
どこだ?向こう?いた!
糸をつけて、それを手繰っていく
そこへ


「リグナ!ん?
やはりコットワッツの館か?
ああ、ちょっと戻ったんだ。
見回りご苦労。」

モウに持たされている水を出す。

この庭の一角に植えている茶葉は
勝手に食べていいことになっているようだ。
艶がいいな。

モウのいう通り気配を探ればそこに移動できる。
便利だ。
が、気配をどこまで手繰れるかだな。
誰でもというわけではない。
離れすぎてもダメだ。

ニックは離れすぎている。
タンダートはまだお互いが信頼しきっていない。
ルカリは?
軍部か?
ダクツは?
あれは意図的に消しているか。
王都内なら音を拾ったほうが早いな。
まだまだということだな。

ん?

足元?
空間があるのか?

「え?いいのか?モウの?
なるほど。わたしが気付いたことは黙っておこう。
お前もいうな。これは別に臣だからというわけではない。
女性が秘密にしていることは命と天秤にかけても秘密なんだよ。」

半分まで、リグナと馬上鍛錬を。
持たせてもらったべんとうを食う。

先に買い物を済ませておこう。
それと音を拾う訓練だ。

馴染みになっている乳と卵屋と。
リグナがいれば馬の餌だと思うだろう、葉物と。
大量に買っては、道を逸れ収納袋に入れていった。


噂話はやはり軍部のことか。
それと愛しい人問題。
負傷した護衛は戻って来たようだな。
ワイプが参戦者同士の争いだと噂を流しているのか?
ツイミ兄弟か?
ツイミをワイプに取られたと思ったが、
違うな。ツイミは資産院に必要だ。
モウはツイミが一番腹黒いと言っていたしな。

ルビスか?わたしの前を横切る。
問題は無いと、合図を送ればそのまま消えていった。
さすがだな。
ツイミ兄弟。
素晴らしい人材を取られたものだ。



リグナに乗り、軍部に向かう。

分隊と軍部は別物。
中に入ることもできない。

「分隊、ガイライだ。
ルカリ殿に取次ぎを!」
「ガイライ、殿。お待ちを!」

貴族ではない、都下の人間だ。
よかった、給与が出るようになったんだな。



「ガイライ、た。よかった。お戻りなんですね?ニック、は?」
「先ほどな。ルカリ殿?少しお時間いただけないか?」
「え?あ、いえ、中央院から出頭命令が出ています。」
「後ろめたいことなんぞ今はしていないぞ?」
「今は!怖いことを言わないでください!
軍部再編のことで話があるということです。館にもいないので、
連絡のとりようがないと。
ここに連絡があれば伝えるようにと。」
「連絡はトリヘビがいるだろう?」
「それが、ほかのことに出払っているらしくて。」
「そうか。再編?とうとう首か!」
「やめてください!!2軍の内容がほぼ決まりました。
ただ、それは軍であって、軍ではない。
使い勝手のいい、手足になる軍がいるということです。」
「あはははは!それでは今までとは変わらないな。
では、正式に中央院から連絡が来れば伺おう。」
「王都にお戻りのことはお伝えします。」
「もちろんだ。それで、いまから時間はとれますか?」
「はい。おい!中央院に連絡を!
ガイライが戻っていると!」


連絡したところで、わたしの元に正式に連絡が来るのは、
早くて、明日の月入り。

「どこか、飯の食えるところ、騒がしいところがいい。」
「だったらシートが店を出しましたよ!そこに行きましょう。」
「それはいいな。あ、ちょっと変装はするから、一度館に戻る。」
「はい。」
「ふふふ。すまんな、この口調はよくないな。」
「また!隊長は隊長なんですから!」
「それはニックな。」
「あははは!ものすごく嫌がってますけどね。」


一度館に戻り、トリヘビ卵たちの様子を見る。
モウが言うように、話しかけ、元気に生まれてくるようにとひと撫でする。
もう一枚布を掛けるか?最近は冷えて来たからな。


かつらをかぶり、目にも色物をいれ、
服を替える。
リグナに後は頼み、下町の入り口まで移動すると、
ルカリはリカの兄貴で待っていてくれた。

「兄貴!」
「え?あ!」
「あははは!タケだ。」
「タケですか?」
「ブラスのことをモウの故郷ではタケというそうだ。あ、これ。
兄貴にやろう。それ、外れるから。」

ひとひねりを渡して、下町に。
中に入ってしまえば、誰も気にも留めない。
わたしをつけていたものは、まだ、館の前で出てくるのを待っているのだろう。
ルカリにもつけておかなくては。
情けない。


「第3軍の話だな?」
「そうです。かなり短期間で噂が王都中に流れました。
2つの軍ができたことはさすがニバーセル国だが、
その2つの軍は煌びやかな中にこそあるべきで、
従来の軍の、その泥臭いことをするには似つかわしくないと。」
「あははは!では、別に作ればいいだろう?分隊を第3軍にする必要もない。」
「それが、やはり指導者不足で。
新たに作るとなると、それこそ予算が要ります。資産院は承諾しません。
だったら、自給自足の分隊を名前だけ変えればいいと。」
「それもそうだ。」
「そんなこと!予算も出ないのに、軍として機能するものですか!!」
「そこは持っていき方だな。予算が出ないんだ、逆に金を出すところの指示は受けなくていい。
中央院にもな。それでいて、軍の機能をもてるんだ。
さすがにうまいな。」
「隊長!」
「あははは!予算はな、何とでもなるんだよ。
それに、第3軍になっても隊長はニックだぞ?
そうだ、さきにな、モウが槍の相手をお願いしたいと。
マティスは戻ってきたら槍を渡せるそうだぞ?」
「うれしい!え?モウ殿とですか?
その、モウ殿は実際どうなんでしょう?わたしには分からないのです。」
「そうだな、実際に相手をしないと分からないな、モウは。
今日一日ニックと鍛錬をしているはずだ。ニックと舞えるだろうな。」
「ああ、なんてこと!」
「お前も相当なものだ。思いっきりやればいい。」
「はい。」
「それで、ここなのか?」


シートの店は、肉屋だった。
ここでも食べれるみたいだな。



「あ!兄貴!来てくれたんだ!
赤身のいいとこあるよ!」
「シート、えらい繁盛しているな。
今日は知り合いを連れてきたんだ。」
「あんがと!いっぱい食べてね!」

「あれか?ポットの解体後の肉か?」
「そうですよ。あのときに教えてもらった方法で。
安くて、さらにうまいんですよ。
わたしは、油肉は食べないようにしてますが、
赤身はいいと。これはモウ殿に教えてもらったんですよ。
筋肉をつけるには赤身がいいとか。」
「そうだな、見違えるほどにいい体になってるな。」
「ありがとうございます!」
「シートも鍛えているのか?肉付きも良くなってる。」
「鍛練はあのまま続けていますよ、わたしも相手をしています。
いまの軍部よりもよっぽど鍛えてます。」
「旅の者が10人抜きをしたと?一人100リングで? }
「ああ、ご存じでしたか?
センターをはじめ、主要なものはみな出ました。
貴族お抱えに。2軍構成になれば、それぞれが、また差し出す形になるでしょう。」
「お前は?」
「・・・・。」
「鶏館ではまずは槍を極めると。
ミーキのときもそう言っていたな?」
「それは変わりません。」
「鍛える場所か?それはどこでもいいだろ?」
「分隊に所属することができませんが、第3軍になるのならそこで!!」
「そうか。だがな、1軍2軍?そうはいわないのに第3軍なのか?
名前はいいか。その2軍の動きを知りたい。
残れ。」
「・・・・はい。」
「こうやってリカの兄貴とやり取りできるだろう?」
「はい。」
「頼りにしているぞ?そういえば、お前の生徒たちはどうしてるんだ?」
「その、かなりの人数が集まってます。」
「?どれくらい?10人ほどではなかったか?」
「いま30人ほどで。」
「・・・小隊だな。」
「どうしたらいいですか?」
「どうとは?」
「・・・怖いんです。」
「・・・。モウに相談しよう。大丈夫だ。」
「はい!」


あとは運び屋、白馬車の話、スクレール家の話、を聞いていく。

「白馬車は人気ですよ?
ただ、あの馬車を手に入れようとしている貴族が少なからずいます。
下町まで入ってくることはないのですが、
王都館廻りを通れば必ず止められます。
不敬だと。」
「それで?」
「ワイプ殿、資産院が正式に許可を出しました。
降りることならずという条件で。」
「資産院?」
「納税の為ですね。
そのほかもいままで何も言わなかったところを、
細かく指摘されています。」
「反発がでないか?」
「いえ、そこはさすがの資産院です。
まじめにやっているところは、いろいろ許可を出して収入が増える。
1割りを徴収されても儲けはでます。」
「そうか。」
「文句を言うと輩はいままでまともに納税していない者たちです。
大きくはでれません。」
「そうだな。」

「おまたせ!窯焼きだよ!」
「お!これはうまいんですよ!」
「ああ、うまそうだ。」
「ん?ん?」
「なんだ?シート?」
「ん?いや、ゆっくりしていってね。その、お連れさんも。」
「ああ。ありがとう。俺はタケっていうんだ。
兄貴がうまい肉が食えるって。つれてきてもらったんだよ?」
「そうなんだ!よかったら贔屓にしてね。
俺が世話になった人の声に似てたから!
驚いたんだよ。リカの兄貴!連れて来てよ?モウさんたちも。」
「ああ、近いうちにな。」
「あ、できれば前日に連絡ちょうだい。
モウさん、すっごく食べるから!いいとこ確保しないと!
お酒、おかわり持ってくるよ!」

「声か。気を付けないとな。しかし、いい肉だな?」
「ええ。ここに入る肉はあのハンバーグ屋のほうから卸しています。
シートのように真似をするところも出ていますが、
別のところからでは、ここまできれい残らないとか。
雑だそうです。
そのハンバーグ屋もモウ殿が贔屓しているところで。
もともとコットワッツ出身なんですよ、店主が。」
「そうか。でも、モウが贔屓しているということでやっかみはでていないか?」
「それが、モウ殿の師匠はワイプ殿なので、
税金のことはきっちりと査定がはいると噂で。
逆に気の毒がっていますよ。ワイプ殿の債権回収力は恐ろしいですから。
そうなるとへたなことはできません。
資産院ワイプ殿のにらみは商売人には太刀打ちできませんから。」
「あはは!なるほど。」
「ただ、それを踏まえて、オート院長にちょっかいを出す輩も出てますね。
ツイミ殿にもです。
ワイプに大きな顔をさせていていいのか、と。」
「ほう!それで?オート殿は?」
「あの人、さすが若くして院長に納まるだけのことはある。
そんな輩はすべて、ワイプ殿に筒抜けです。
いつのまにかいなくなってるとか。」
「すごいな!いや、お前のその情報力が!
いつの間に調べたんだ?」
「・・・・。怖いでしょう?」
「怖いというか、素晴らしいぞ?」
 「・・・彼女たちです。この話、全部。
運動の後の休憩中のおしゃべりです。」
「・・・・。うん、相談しよう。大丈夫だ。」
 「お願いします。わたしも軍人、利用できるものは利用します。
わたしをだまそうとかそういうのはないのは分かります。
すべてに悪意がないのです。
はじめはオート院長の彼女の話から始まって、
彼女というのが王族のかなり下位の方で、
刺繍布の鞄をもっていたとかなんとか。
わたしが頂いたものはもったいなくて使っていませんよ!
そこから、どこから入手したとか、やはりオート院長だとか
そのつながりとか、どうなのかしらねって、
その日はそれで話が終わるのに、次の集まりには、その結果と新たなる疑惑が。
いまはそれの報告会です。」
「そ、そのあいだ、お前は何をしてるんだ。」
「聞いてますよ!話をふってくるんですよ!
当たり障りのないことだけ返事をしています。
茶菓子が無くなったら解散と。
それも、皆が持ち寄ってくるので、断ると、
その女同士の争いというか、なんというか、それが一番怖い。」
「・・・・。うん、相談しよう。大丈夫だ。」
「ほんとうにお願いしますよ?
それで、スクレール家ですね?それも話は入ってますよ。
産婆たちにかなりの支援をしているとか。
なので、女性陣にはかなり人気があります。
なんでも、出産したあとに、すこしばかりの支度金が配られているとか。
その、スクレール家ことは?」
「・・・・噂話程度には。お前も知っているのか?」
「ええ。彼女たちから。
なんというか、ものすごく、ものすごく、話をつくってる?
作り込まれてる?
それを皆で発表しあうんですよ!芝居?
それがいま、流行っているんですよ!!」
「そうなのか。その話な。そうか、それな、わたしも泣いた。」
 「え?ご存じなんですか?」
「いや、その、いろいろな。」
「そ、その話は芝居で?その演者を紹介してください!
お芝居はやはり貴族の方が詳しいですよねっていわれて!」
「言われて?」
「・・・当然だ。今度連れて来ようって。」
「間抜け!!お前の悪いところは誰にでもいい返事をするところだ!!」
「断れません!!あの状況なら誰だってそう返事するしかない!!
あなたは彼女たちの後の怖さを知らないんだ!!」

思わず、立ち上がって叱責すれば、
ルカリも同じように声を上げた。
はじめてだ。


「ちょっと!兄貴たち!
何やってんの!酔ってんの?」
「いや、シート、すまん。あははは!」
「ちょっと興が乗ってな!あはははは!」
「大丈夫?
えーと、タケさん?あんまりリカの兄貴に逆らわないほうがいいよ?」

シートは小声で続けた。

「リカの兄貴のときはいいけど、その、しってるよね?
軍部の元副隊長って。
そっちの方では、その後ろがちょっと怖いから。」
「シート!!」
「だって、有名だよ?
この前だって、兄貴のこと悪く言ってた軍部の奴ら、
通ってた娼婦から断られたって。ルカリを怒らせるなって。」
「シート!!」
「あはははは!ほんとの話だよ?」

シートは代わりの酒をおいていった。

「・・・たい、タケ。助けて。」
「わかった。大丈夫だ。そんなに怯えるな!」
「お願いします。
えっと、それで、そのスクレール家にですね、
最近、その本家筋にあたるリーニング家が出入りしているとかで。
借金もかなりしているようです。リーニング家がね。
そこは白馬車も狙っています。
高位貴族に取り入りたいということでしょう。
出入りしているのは、借金だけではなく、婚姻も迫っているとか。」
「当主にか?」
「御子息はかなり昔に国外に出たまま戻っていない上に、
他に財産を引き継ぐ者もいない。
中央院も天文院も出入りしています。」
「それも彼女たちが?」
「そうですね。彼女たちが直接見聞きしたものではないんだと思いますが、
それぞれの屋敷に働いている女官からの話らしいと。」
「・・・手放すな。」
「そんな!」
「それだけの話、どうやったらこっちに入る?
利用しろ!」
「飴がいります!体を鍛える方法も、
歯ブラシも、ぽぷこんも!
こちらが提供するからこその集まりです。
何もなければ、集まりも悪い。
一時は50人はいたんですよ?
芝居です!演者を紹介してください!!!」
「わかったから!何とかするから!」
「よ、よかった。次は?次はないのか?って!
よかった。」
「・・・・・。お前、意地でもモウに勝て。
死ぬ気でな。この件、すべてモウ頼みだ。
モウに負けるわ、このことを頼むわでは、この先どうにもならないぞ?
わたしもおまえも!」
「え?演者の件も?」
「そうだ。」
「・・・・。」
「頼むぞ。」
「はい!」
「次はいつ集まるんだ?」
「いまは、軍部再編のことで、忙しいと断っています。
それが決まればと。」
「そうか。明日またモウ達と合流する予定だったが、
明日一日鍛錬しよう。」
「お願いします!」

戻るのを1日伸ばそう。
明日の半分は再編の根回し、その後、鍛錬だ。
モウは槍術のなかに拳術も組み込んでいる。
その対処法を考えればいいだろうか?
いや、素直に頼めばいいんだが、これは、臣というより、
元軍部隊長としての意地だ。
せめて、ニックの鍛錬とわたしの指導で
強くなったものを見てもらいたい。



シートに騒がして悪かったなと、
多めに払い、ルカリと別れた。
ルカリも、かつらをかぶるところは見られないようにしている。
わたしも、人気のないところまで歩き、そのまま館に。

リグナはずっと見張られていたと教えてくれた。
ご苦労なことだ。

スクレール家の様子を見てくるか。
タンダートが来ているかもしれん。



しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

男を見る目がない私とゲームオタクな幼馴染

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:7

拝啓お父様。今日も私は元気です

恋愛 / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:32

異世界モンスター図鑑

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:276pt お気に入り:37

円満な婚約解消が目標です!~没落悪役令嬢は平和を望む~

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:5,274pt お気に入り:93

異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:78pt お気に入り:2,664

オネェな王弟はおっとり悪役令嬢を溺愛する

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:31,212pt お気に入り:2,763

私は『選んだ』

恋愛 / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:487

【R18】取り違えと運命の人

恋愛 / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:306

【R18】神様はいつもきまぐれ

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:35

処理中です...