いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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773:見習い

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「開門願います!開門願います!」

無視されないように力いっぱい通用門を叩く。

「月が昇っている!沈んでから来い!!」
「我、コットワッツ領国、領主セサミナ様お傍付き筆頭ルグと申す!!
開門願います!!」


コットワッツと聞きすぐに門を開けてくれた。
大門が閉まっていて良かったかもしれない。


「先に領主一行は来ているぞ?
どうして同行しなかった?」
「いや、妻が妊娠中だ。それで、残ったんだが、
やはり、こっちのことも心配でな。急いでやってきた。
ああ、妻のことは大丈夫だ。なにかあれば、連絡は来るし、
その、な?」

セサミナ様が移動できることは皆知っている。
公然の秘密になっているようだ。
それにある程度人の移動もできると。

「え?お前を?できると?」
「すまない。言えないんだ。わかるだろ?」
「ああ、そうだな。
では、手続きを。後ろのは?」
「傍付き見習いだ。今まで、わたしともう一人だったが、
それではな。いま、増やしていってるところなんだ。
護衛殿がいるとしても、事務仕事が減るわけではない。
その代わり安心して任せられるがな。」
「ああ。なるほど。
傍付き1人、外に出ているぞ?」
「だれ?」
「カップと名乗ったな。」
「ああ!それはわかっている。
なら、やはり来てよかったよ。」
「そうか?
あー、ちょっと。こっちに。」

オーロラに気付いたのか?
いま、金髪にゆったりとした服を来ているんだが。
遠目には女性に見える。
そして、ほんとうに傍にいることになる。
便所は扉の前でギリギリだった。

どうするか、オーロラを見ると、
もらったテッセンを握る。やめろ!!

「2人一緒でいいから。早く、他の奴が来る前に!!」

小声で言ってきた。
なんだろ?大声を出せば、皆が気付くぞ?

「あのな。コットワッツが配っているという焼き菓子を知っているだろ?
あれ、持ってないか?
それと、月が昇る前、コットワッツから来た商人が、
資産院の前でカレエっていうものを売ったらしい。
それは?あとアイスっていう冷たく甘いものもあったと。
持ってないか?あれば、分けてくれないか?
喰い損ねたんだ。」
「ああ!焼き菓子はマティス様が作っているんだ。
カレーな。そんな話してたかな?
どちらにしろ、今は持ってないな。すまない。」
「・・・そうか。残念だ。」
「どうにかならないか、相談してみよう。
悪いが、会合が終わってからだぞ?」
「そうか!もちろん買うから!」
「そうしてくれ。えーっと、名を聞いてもいいか?」
「ポートだ。」
「では、ポート殿、何か売れるのなら真っ先に持ってこよう。
だめでも、ポート殿に渡せるくらいは調達できるだろう。」
「ああ!ありがとう!」
「だから、それまで内緒にしてくれ。」
「もちろんだ。じゃ、会合後にな。
ここにいなければ、連絡できるようにしておくから!」
「ああ!じゃ、通るぞ?」
「おっと、仕事はしないと。
お傍付きルグ殿と、見習い?名は?」
「・・・・オーロラ。」
「ですを付けろ?オーロラです、と。」
「・・・・・オーロラ、デス。」
「本当に見習いだな。オーロラな。よし、通っていいぞ。」
「ありがとう。ほら、ありがとうございます、だ。」
「ありがとうございます。」

「はははは!コットワッツの見習いでもそんなもんか?
どこも一緒だな。
カップって奴も、ここで噂になってたぞ?新人なんだろ?傍付きの?
ルグ殿?頑張れよ?」
「ああ。もちろんだ。」



「なんで、頑張れよなんだ?」
「そうだな、カップは、あれだろ?
結婚が決まって浮かれていたんだろ?演技ではなくて。
で、お前の言葉遣いがなってないということだ。
それを育てないといけない、教育しないといけない、
だから、筆頭のわたしに頑張れよとな。
言葉は丁寧にな。
です、ます、そして、礼だ。
面倒くさがるな?それをすることによって、物事が簡単に進むことがある。
自分のことは、わたし。子供というのも利用すればいい。
そうなれば、ぼくだ。
ははは!そんなことで拗ねるな。利用するんだ。
今まで子供と見せてなかったんだろうが、わかるものにはわかる。
だから逆に利用するんだ。
何も知らない子供だと。
無駄な揉め事をしなくてもいい。」
「ふーん。ああ、はい、だな?」
「そうだ!」

門から館まで結構歩く。
その間、いんかむの練習と言葉遣いの練習。
声はすこし子供っぽく。
そうか、わざと低く話していたのか。何もしなくていいぞ。

いんかむを教えれば、俺の仕事がなくなると嘆いた。
使い様だな。

滞在館前に3人だ。

(天文院ノトンと後2人は役立たずの護衛だな。
フーサカを調べろと言った奴だよ)
(お前か?)
(俺の顔は知らないはずだ。見せていない)
(丁寧に、子供で)
(ぼくの顔は知らないはずデスゥ)
(うまいぞ!)






「コットワッツ!ルグ殿!!」

名を呼ぶのか?

「はい。どちら様で?」
「天文院のものだ。」
「天文院のどちら様で?」
「・・・・。」

名乗れないのなら、それまでだ。


「ノトンだ。」
「ノトン殿?
わたしの名をご存じなら、わたしの仕事もご存じのはず。
お傍付きが主の傍にいないというのは笑い話にもならない。
急ぎますので。」
「待て!
うちのフーサカというものがそちらの館に行ってから戻ってこない。
コットワッツに拘束されているのでは?」
「フーサカ殿の話は聞いている。
コットワッツに用事ではなく、友人のカップを尋ねてきたと。
館には入っていないはずだ。
それに、天文院?退職したと聞いたが?清算済みだとも
資産院から聞いている。
傍付きの友人だ。
どのような友人かこちらは調べる必要があるからな。
なので、コットワッツに関係ないし、
もちろん天文院にも関係ないはずだが?」

いつそんなやり取りができたなど、
こいつにわかるわけがない。


「!しかし!一緒にいたはずの隠密も戻ってこないんだぞ!」
「隠密?フーサカとやらの?
隠密付きなのか?フーサカは。偉いさんなんだな。カップの友人は。」
「違う!対象だ。」
「・・・ノトン殿?余りそのようなことをいうのはどうかと思うぞ?
聞かなかったことにするが?」
「!!どちらにしろ2人が戻ってきていない!
調べさせてもらいたい!!」
「なんの権利があって?天文院と関係ないフーサカはどこに行ったか?
知らない。
これが、天文院に応える正式な返答だ。
清算手続きをしたと聞いた。
ならば、資産院に聞けば?
後のことも聞いているかもしれない。
隠密?隠密がどこに行ったかと聞くのか?
それは、うふふふふふ。
別の隠密を雇って調べてもらえばいい。
もしくは後ろの2人?護衛か?それぐらいはできるだろ?
ああ、できないから聞きに来たと?」

(できるわけがない!こいつらの仕事も俺がしてたんだ!)
(金は?)
(一日報酬に入ってるって!)
(ははは!間抜けだったな!)
(うるさい!しかし、俺はこんな間抜けに雇われていたのか?)
(良かった。間抜けで。お陰でオーロラはわたしのオーロラだ)
(まだ決めてないぞ!しかし、そうだな、とにかく間抜けでよかった)
(ああ!だから日々感謝なんだ!モウ様の言う!)
(そうか!)
((感謝だ!!))

「とにかく、もうすぐ臨時会合が始まる。
その準備をしないと。
そちらも忙しいだろ?失礼。」
「失礼しまっす。」


オーロラが元気よく頭を下げる。

「オーロラ!オーロラ!
今、お前がそれをするのは嫌味だ。
だまって会釈でいい!!」
「そうなんだ。難しいな。」
「あははは!ノトン殿、では。オーロラ、行こう。」


(うまいぞ!オーロラ!)
(え?)
(・・・・。わざとじゃないんだな)
(?)
(うん、大丈夫だ。頑張ろう)
(はい!)

怒りに震えるノトンと護衛二人。

その3人を残して館に入った。



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