いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

文字の大きさ
801 / 869

801:最優先

しおりを挟む
「ワイプ様?マティス様から連絡がありました。」


少し手が止まっていたツイミがそういうと、
切りのいいところまでだろう、計算を仕上げ、ペンを置いた。

「なに?モウのこと?」

こちらも手を止めることはできない。
配下の者たちに指示書を書き上げ、
計算書の不備を訂正していく。


「ムムロズ殿を呼べと。モウ様が優先事項だと。」
「商売ではないな?
ビャクとクーはツイミに付いてください。
カップ、チュラル、ルビスを今は付けられない。
ツミール嬢として動いてください。」
「わかりました。」
「ツミールにちょっかいを掛ける輩はクーとビャクで探りを。
タフトの顔役は皆滞在館で泊まっています。
タフト滞在館まで歩いて行ってください。
身の危険を感じたら、即、逃げなさい。」
「では。オート院長、失礼します。」

「・・・ワイプ?」
「オート院長。申し訳ない。マティス君が言う優先事項です。
ああ、連絡は取れるんですよ。トリヘビのようなものだと思ってください。」
「それはかまわないが、モウ殿ではなく?」
「おなじですよ。モウがそういうからマティス君もそれを最優先に動く。
彼もわたしには言わず、ツイミに指示している。
こちらの事情もわかっているから。」
「いや、それもかまわない。が、ツミールで動くのはまずくないか?
姿を見せなくなって問い合わせがひどかっただろ?」
「だからですよ。
タフト滞在館にいって戻ってくるときから行方不明としますから。」
「ああ!必ず、外に出てからだぞ?そこに行きつくまで危険は?」
「そのためのビャクとクーです。
あー、報酬はどうしましょうか?
いま、あなたも意思疎通ができてるでしょ?
聞いといてくれますか?
わたしが聞くと遠慮というものがなくなるので。」
「お前が無茶ばかり指示するからだろ?
しかし、そうだな、戻ったら聞いておこう。
どちらにしろ、この山を片付けてからだ。
・・・少し休憩しよう。
フランたちにも休憩を。倒れたら何もかも終わってしまう。」
「そうですね!」


あの2人の様子も見てこないと。
ん?あの2人も計算はできるのでは?しまった!
もっと早く気付けばよかった!!


─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘

扉をでて、クーとビャクを抱えると、
ツミールとして借りている部屋に戻る。
まずは着替えないと。

「ん?この服?そうだな。胸元がゆったりしているから、
ここに入れるな。」

クーとビャクが服を選んでくれる。

簡単な意思疎通はできるようになった。
相手はわかっているのだ。
こちらが理解すればいい。
そう思えば、シシたちもどの草がうまいとか、これが食えるとか、
教えてくれていたんだな。

ゆったりとした、長めの上着の下に、
これまた、ゆったりとしたズボンをはく。
男が着ても、違和感は少ない。
が、かなりきつめの下ばきは履かないといけない。
これには胸に入っているような柔らかいものが付いている。
尻がでかくなるものだ。
胸もつければ、女性となる。


手早く着替え、化粧もする。ほくろも目の下に書く。
慣れたものだ。
声は出せないから、手紙を準備し、
とっさに声が出ないように、砂漠石で口の中に防音を施す。
防音しているということだ、わたしの口の中を。
この考えはさすがモウ様だ。

しかし、よくよく考えれば、防音は常に使うもの。
防音のみなら、掛けた本人が終われと思えばそれでいい。
部屋か、口の中か。
その違いだ。

小さな石に事細かにその状況をお願いする。
不慣れな部下に指示するようなものだ。
違うのはそれに必ず答えてくれる砂漠石たち。
感謝だ。ありがとう。

男が女の姿をする。

わたしのような細身なものなら、喉と下半身を隠せば、
一般人にはわからないという。
骨格が読めるものにはばれるらしいが、
そもそも、読めるものは少ない。ワイプ様と同等なものたちだけだ。
それをモウ様に話せば、それを教えてくれたワイプ様を、
さすが師匠だと喜び、
マティス様は不機嫌になる。

「・・・仮にもマティス様の師と名乗るのですから、
それ位はできていないと。」

そう説明すれば、それもそうだとご機嫌になった。
モウ様には、黒いねーと、おそらくは褒めて頂いたと思う。

それから、タフト滞在館に。
時間の余裕はあるな。
なんとか慣れた足さばきだが、
この姿になるのはこれが最後だろう。


知っている者たちが声をかけてくるが、
声が出ないことは知っているので、
軽く微笑、頭を下げる。
飯を一緒にどうだというものには、
オート院長とワイプ様も一緒でいいかと、
文字カードを出すと、また今度という。

答える言葉をあらかじめ書いてある。
簡単な問答ならできるように最初から作っているものだ。

文字が読める相手しか使えないが、
かなり画期的な方法だ。

ん?胸元で、ビャクが動く。
警戒の合図だ。




「ツミールさん?」

タフト滞在館の手前で声を掛けられた。
ちょうど人が途切れたときにだ。

タミナ殿?どうしてここに?
つけられていた?

”どちら様ですか?
わたしは声が出せません
なんでしょうか?”

文字カードを出す。



「わたしは、タミナです。
知っているでしょう?オートの婚約者です。」

もちろん知っている。

ツミールで仕事中に何度か、資産院で会った。
紹介もされている。
用意しているカードを出しているんだ、凡庸にきまってるだろ?
自分専用ではないとなぜ気付かないんだろう?

一応頷いて、
なんでしょうか?という所を指さす。

「どうしてここにいるんですか?」

それをいう必要はあるのか?

なにかあったかな?
文字カードで。
これでいいかな?


”仕事です”

「なんの?」

”答えられません”

「・・・資産院の仕事?」

これには頷いた。

「オートの?ワイプ、さんの?」

答える必要がないから首を振る。
面倒だな。
だいたい、わたしになんの用事があるんだ?
その前に、どうしてタミナ殿がここにいる?
火事の件以降、オート院長以下、資産院はほぼ院に籠りきりだ。
ナソニールの始末もあるし、土地所有者確認のことも、
開発院と領土管理部と一緒になって把握している。
なので、あのカレエまつりは良かった。
その後の進捗率があがったから。
今の案件が終わればみなで焼肉祭りをしてもいいな。
オート院長に提案してみよう。


「少し話があるんですけど?いいですか?」

仕事だと言ってるんだ、無理に決まってるだろ?
邪険にするわけにもいかないしな。


”あとでお願いします”

これでいいかな。


「では、ここで待ってます。」


なんだろうか?わかってる、警戒はしているよ。

館の前で、門番に手紙を渡す。
ムムロズ殿に面会申し込み。
わたしは資産院副院長ツイミの代理人。
手紙は直接渡すということ。


資産院が絡むんだ、邪険にはできない。
部屋に通され、ムムロズ殿を待つ。

クーとビャクがさっきからずっと警戒をしているな。
この館に?ムムロズ殿に?
違うな。
タミナ殿か?


声はまだ出せないから、2人に声を飛ばすように話した。

(外に出たら、人気のないところまで行って移動するよ)
(ここで移動してもいいけどタフトの方に迷惑がかかるだろ?)
(外に出て、タミナ殿と2人のところを誰かに見せつけ、それからだ)
(あとはタミナ殿がうまく説明してくれるだろう)


納得したのか、鼻で笑われたような感じがした。
なんで?


(ツイミさん?仕事中?ムムロズさんを呼んでくれてるんだよね?)
(あ!モウ様!ええ。今、タフトの滞在館に入ってます。
ツミールで来てますので手紙を渡して帰りますよ)
(ごめんね、ありがとう。わたし、元気だからね?)
(ええ。お声でわかりますよ。皆にも言っておきます)
(うん、じゃ、悪いけどよろしくね。ん?クーとビャクもいるの?)
(わかりますか?わたしの護衛です)
(そっか!あんがとね!あとで、思いっきり遊ぼうね!
じゃ、ツイミさんよろしく!それ終わったら、クーちゃんたちと一緒に
こっちに来て?樽便用意しとくよ?)
(ありがとうございます!)

モウ様から連絡が入った。元気そうでよかった。
とにかく、安心した。
クーもビャクもご機嫌だな。



「待たしたな。ムムロズだ。
ツイミ殿の代理の方?
え?

ぶほほほほ!!!!!」


やはり骨格を読めるものにはわかるようだ。
ワイプ様やニック殿、ガイライ殿と同じような反応をされてしまった。

横にいるクインタ殿は父親の反応に驚いている。

「父上?え?」


しばらく待つことにしよう。
まだ、時間はある。

足を揃え、にこりと微笑んだ。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

鑑定持ちの荷物番。英雄たちの「弱点」をこっそり塞いでいたら、彼女たちが俺から離れなくなった

仙道
ファンタジー
異世界の冒険者パーティで荷物番を務める俺は、名前もないようなMOBとして生きている。だが、俺には他者には扱えない「鑑定」スキルがあった。俺は自分の平穏な雇用を守るため、雇い主である女性冒険者たちの装備の致命的な欠陥や、本人すら気づかない体調の異変を「鑑定」で見抜き、誰にもバレずに密かに対処し続けていた。英雄になるつもりも、感謝されるつもりもない。あくまで業務の一環だ。しかし、致命的な危機を未然に回避され続けた彼女たちは、俺の完璧な管理なしでは生きていけないほどに依存し始めていた。剣聖、魔術師、聖女、ギルド職員。気付けば俺は、最強の美女たちに囲まれて逃げ場を失っていた。

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

処理中です...