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822:自由
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「それは手合わせでか?」
「そうだ!!」
「いま?」
「そうだ!!」
今、手合わせでということ?
手合わせ以外ならできるが、理由がないから愛しい人が悲しむ。
どうにもできんな。
「無理だな。」
さすがニックだ。
気を上げてきた。
愛しい人が眠っているクッションを守るように、
ワイプとカップが左右陣を取る。
オーロラはツイミの前に。
ツイミは今ので気を失っているから。
私はどうすれば手合わせで、ニックをケチョンケチョンにできるかを
考えてみる。
・・・・やはり鍛錬だな。
愛しい人はかなり前から起きていた。
そのままクッションに沈んでいるだけで疲れは取れると思うから、
なにもいわなかったが、
ん?尻に力を入れているな?どうして?
鍛錬なのか?今もか?
さすがだ。
ガイライがニックの前に出た。
「・・・ニック?」
「ガイライ!
なんで、俺を上にしたんだよ!!
俺の上官はリーズナだけだ!
リーズナが俺を押さえられるのか?
お前でもマティスもできない!!
お前が俺を押さえることができたのは、
お前が俺の上官だったからだ!!
モウちゃんの為には、
腕を捧げることもできないんだぞ!!」
「戦争のこともあったが、腕を捧げるときは、
なにも考えない。考える必要もない。
それはニックもわかるだろ?
考えないんだ。そうするのが自然なんだ。
王以外に腕を捧げたものが、
軍の隊長になれないだろ?
部下をないがしろにするわけではない。
だが、部下に不信感がでるからだ。
では、主から腕を乞うか?
それもできない。
モウがモウである為にだ。」
「わかってる!!
だから!!」
「お前を誰も押さえられないとして、
お前がマティスを押さえるのか?
マティスが何でもできるとでも思ったのか?
それを力で従わせることができると?
それで?
お前は何がしたい?」
「違うんだ!違う!!
わかってるだろ?
何でもできるんだぞ?
モウにも言われたよ?移動や呼び寄せをできることが
つらくはないかって!
負担が大きくなるからって!
軍人は自分でできることしかしないって答えたさ!
できることだ!俺はマティスを押さえられる!
モウもだ。あの話と同じだよ。
人質とすればいい。
できない、しないんじゃなくてできるんだよ!
俺は!俺には!!!
できることを知ってしまったんだよ!
原石も持ってるんだぞ?
それがあれば、なんだってできるだろ?
戦争自体を回避することだってできる。
水がなくて死ぬことも飢えに苦しむこともないんだ。
医家がいないだけで、あと1日早く連れて行っただけで助かった奴らも!
マティスとモウが軍にいれば、みんな助かる!
そもそも戦争なんかしないで済むかもしれない!!
それだけの力を持ってるんだぞ!」
?
わからんな。
尻に力を入れると、
全身が鍛えられるのか?
顎も鍛えるべきだと言っていたな。
全身鍛錬か!
さすがだ、さすが愛しい人だ。
こうかな?
んー、うん。いいな!
「だから?
マティスとモウを軍に入れるか?
己の配下にするか?
それをなぜセサミナ殿がしなかった?
なぜわたしがしなかった?
テルマもエデトもだ。
もちろん我らが王もだ。
できないんじゃない、しないんだ!」
「わかってるよ!!
リーズナもいった!
1人を犠牲にして成り立つものは政ではないって!
それをお前たちは分かってるんだろ?
俺は?
俺は分からないんだよ!!
だってそうだろ?
分からないんだ。
こんな立場になったらどうすればいいか、わからない。
違う!わかってる!
おぼれる、権力に!
だから、ずっと補佐の立場だ。
おぼれる前にわかってるのは経験があるからだ!!
ダメなんだよ!
上には立てない!」
「・・・・。」
「・・・頼む。降ろしてくれ。」
愛しい人が起きあがった。
寝起きは寝ぼけて甘えてくることが多いのに。
皆がいるからか、だいぶ前から起きていたからか。
秘儀タヌキネイリ?
母君も見抜けなかったと豪語していたが、
見抜いて黙っていたんだろう、私みたいに。
しかし、私以外は皆が気付かないのはやはり秘儀なのか?
「ニックさん?」
「!モウ、ちゃん?起きたのか?
まだ早いぞ?な?マティス?」
「そうだな?もう少し?あと5分が5回?」
「ん。眠気はなくなったよ。マティスありがとうね。
でだ、ニックさん?」
「・・・・モウちゃん。」
「うん。ニックさん。」
「・・・・聞いてたんだな?」
「ニックさん。」
「・・・・。軍隊長を下りたいんだ。ダメか?」
「ニックさん。」
「きっと、青い花の時のように、何も考えずに、
モウちゃんを頼りにしてしまう。
使ってしまう。
マティスにもだろう。
それが、当たり前になる。
戦争だ。泣くこともできない。
それにモウちゃんを巻き込みたくはない。」
「・・・・。」
「我らが王、セサミナ殿、テルマもエデトも、
それはない。
ガイライもだ。違う意味でな。理想をもってる。
俺は、自分でわかってる。
使ってしまう。モウちゃんをだ。
・・・・そして、取り返しがつかないことになる。
それもわかっている。」
「・・・・。」
パン!
愛しい人が手を叩いた。
それに、ツイミも目を覚ます。
オーロラが小声で、静かにという。
オーロラはいいな。
これは、小芝居が始まる!
楽しみだ!
「話をしよう。
遠い、遠い国。
自由な国、なんでも自由な国があった。
成功すればいいだろう。
が、少しでも、なにか、そう、病一つかかるだけで、
狂ってしまう。
小麦が不作だけで狂ってしまう。
国は助けてはくれない。
自由だから。
自由とは何か?
それは責任だと答えた人がいた。
まさしくその通りだ。
本来は。
国は何もしないわけではない。
この状況をどうにかしようという輩は、
自由を害するという理由で捕まえた。
富裕層は国の自由主義を支持していたから。
本来の自由ではない。
富あるもの、権力者だけが自由だ。
権力という名の理不尽な暴力が常にあった国。
ここは、その国の牢獄。
老人と、一人の若者。
ここにいれば遅かれはやかれどこかに連れていかれる。
だれも戻ってこないことは、皆が知っている。
コロン、コロン。
壁の小さな隙間から紙屑が転がり込んできた。
樹石に巻いたものだ。
中を広げると、明日半分に暴動が起きる。
それに参加して、そのまま門へと流れ込む。
脱走するものは逃げる準備を。
しないものは、黙っておけ!
そしてこれを、次の部屋に。
ここは一番端の部屋だ。
次の部屋に送ることなく、
そのまま老人に渡した。
しかし、逃げる?どこへ?
若者は考えた。
それに気づいた老人が、笑った。
何がおかしい!!
若いの、世界はここだけではない。
山を越えれば、違う国がある。
ここから皆で逃げるのが一番安全なんだよ。
だから、わしは、わざとつかまった。
お前は?ちがうのか?
・・・・俺は、この国がおかしいと、
広場で訴えた。
・・・・だから。
ふははははは!!
まだ!まだ、そんなことして、
国を変えれると信じる若者がいたとは!!
笑うな!!
お前も俺を笑うのか!!
誰かが、誰かが変えないとだめなんだ!
ああ、若いの。
わらったのは悪かった。
うれしかったんだ、そんなことをこの国で考えることができたことがな。
そしてそれを実行してくれたことにな!
だがな、ダメなものはダメなんだ。
この国はダメだ。
捨てろ、この国を。
お前のその考えは他の国で役に立てろ!
・・・爺さん。
はは!わしだって、若い時はここで、もっと何かできないかと考えた。
産まれた国だ。
なんとかしたい。まだ、頑張れると思っていたがな。
病にかかれば、もうだめだ。
今年が最後の賭けだよ。
もう、体力も危うい。
最後だ。あの山を越えるだけの力があるのは今だけだ。
逃げるぞ!
ありったけの服を着るんだ!
シーツを服のように着るんだ!
これも!
ほら!
準備をするんだ!!
わかった!
小さな鍋も、腹に仕込む。
少しずつくすねた塩もだ。
それから半分まで。
それまでじっと、爺さんの話を聞いていた。
どの方向に逃げるか、この季節で食べることができる木の実のありか、
隣の国のこと、たどり着いたらまずどうするか。
爺さんがずっと考えていたこと。
それが実行できなかった悔しさ、それが実行できた時の未来。
そう、未来のある話だった。
半分は飯時だ。
一日一度だけの飯、これが最後の飯かもしれない。
誰かが叫ぶ!
うぉおおおお!!!!
それに皆が応える。
おおおおおおおおおお!!!!
食器を打ち付け、足で地面を蹴る。
何をやっている!静かにしろ!!
いつも威張り散らす奴らが来てもそのまま続けた。
ど、ど、ど、ど
カン カン カン カン
ダ、ダ、ダ、ダ
おおおおおおおおお!!!!!
一斉に門へと走っていく。
その数は半分ほどだ。
やはり老人は残るのか。
涙をのんで見送る若いものもいる。
家族が残っているのだろうか?
それとも、次の機会を待つのか?
もしかして、このまま残っていれば、
数か月したら保釈されるかもしれない。
そんな話も聞いていた。
それは?
ほんとうか?うそか?
だれもここから出たと聞いたことがないだけで、
もしかしたら何も言うなと口止めされているかもしれない。
どうする?
若いの!!今すぐ自分で決めろ!!
爺さんが、声をあげる!
逃げる!
この国はダメだ!
俺を捕えに来た役人は笑っていた!
それを見ていた奴らも!
蔑みの笑いだった!!
この人数で門に体当たりすれば、
木の門は粉々だ。
そこからみなが数人に別れ四方八方に消えていく。
振り返れば、役人に取り押さえられているものもいる。
振り返るな!!
爺さんの声で、我に返る。
逃げろ!まずはそれからだ!!
川を渡り、臭いを消し、
取れるだけの木の実を取り、
山を越え、谷を越える。
隣国を目指した仲間はいつの間にか、
爺さんと俺だけだ。
爺さんも進む速度は落ちてきている。
少し休もう。
あともう少しなんだろ?
そうだな。
が、急ぐに越したことはない。
若いの、これを。
それは、爺さんがずっと抱えていたものだ。
よっぽど大事だったのだろう。
なに?
ふふふ。
パンだよ。
え?なんだ!
もっと、こう、金目のものだと思ってたよ!!
あはははは!
そんなものが、いまなんの役に立つ?
それもそうだ!
湯を沸かそう!
それにいれれば、爺さん食べれるだろ?
隠してもダメだ、まったく食べてないだろ?
俺は教えてもらった木の実で十分なんだ。
ほら、湯を。塩もあるから。
いいんだ。
わしはここまでだ。
え?
これから、1つの山と1つの谷を越えていく。
木の実もなくなる。
次は、ほら、そこに見えている草の根だ。
それをかじりながら行け。
すぐに呑込むな?
ついている砂を吐き出しながらな。
砂が無くなれば、しゃぶれ。
それで、唾液を出すんだ。
それもなくなれば、よく噛んで食え。
栄養はあるんだ。力は出る。
え?
これはな、どうしても、どうしてもだぞ?
耐えれなくなった時に食べろ。
本当に死ぬかもしれないって時にだぞ?
え?
わしはここで、眠ることにする。
さっき、足をひねった。
もう歩くこともできない。
もっていけ。
じゃ、じゃ、今食べよう?
な?
それで元気になるさ!
いいんだ。
さ、行け!
どうしようもなくなった時だぞ、それを食うのは!
本当に死ぬかもしれないって時にだぞ?
それまで、なんとか踏ん張れ!
耐えるんだ!道を切り開け!
いいな!
行け!
自分で決めたんだ!
行くんだ!!
ああ!
あああああああ!!!
行け!未来へ行くんだ!!!!
そこからはあまり覚えていない。
泥水を飲み、教えてもらった草を食べ、
木のうろで寝る。
抱えているのは爺さんからもらった包み。
軽い、布越しにさすり、
いざとなれば、これを食えばいい。
もう少しだ。もうひと山越えればいい。
腹に抱えれば、なぜか、少しだけ温かかった。
何度月を見送っただろう。
いや、一度も月は沈んでいないかもしれない。
もう、わからないんだ。
あと少し、だが、もう、ほんとうに死ぬかもしれない。
・・・・爺さん。
もらうよ?
・・・・。
いや、あと少し!
まだ、まだ進める!
あ!!
小さな石に躓いた。
足がほとんど上がらない。
その時、その包みを落としてしまった。
コロン、コロン。
地面に転がるその塊。
慌てて追いかけた!
樹石?いや、白くなっている。
軽石だ。
あの、くそじじぃ!
最後の最後で騙しやがった!!!
くそったれ!!!
何とも言えない感情を握りこぶしで地面にたたきつけた。
痛い!!
石畳?
え?
見上げれば、すぐそこに門がある!
隣国だ!
逃げ切ったんだ!!
絡まる足を、震える体を、
涙があふれる視界を、あと少しだと自分に言い聞かせ、
まさしく転がり込んだ。
すぐに門番が抱き起してくれた。
あんた!
隣国のものだな?
よく来た!
もう大丈夫だ。
わかっている。
頑張ったんだ。
あんたが頑張ったんだ。
さ、温かいスープがある。
飲んで、泣かなくていい。
あああああああ!!!
凍えた手先を、
背を、頬を、火にあたっていたのだろか?
温かい手でさすってくれる。
子供のように泣いた。
よく耐えた。
数年に一度はあんたみたいに逃げてくる奴がいる。
いや、逃げるなんて言っちゃだめだな。
未来にやって来たんだ。
ん?落としたのか?
あれ。
白い石?
ここに来る奴は皆持っているな。
なんだ?
皆?
そうだ。
みんなだ。大事なものなんだろ?
取ってきてやるよ。
大事?
ほら、大事だろ?
ああ、大事なんだ。
ありがとう。
これのおかげでここに来れたんだ。
迷いなく来れたんだ。
そうか?
皆そういうな。
いいから、食え。
それは、大事に持っておけばいい。
さ、食べたら少し寝て、未来のことを話そう。
大丈夫だ。
ああ。
大丈夫だ。
だが、食べたらすぐに、馬を貸してくれ。
恩人が待っている。
迎えに行くから。
すぐ近くなのか?
良し、お前は食ってろ。
馬を用意する。
山越えだな?
頼む。
恩人なんだ。
迎えにいく。
そして、そして。
はははははは!
一発殴ってやる!
馬を使えばあっという間。
別れてから2日と経っていなかったんだ。
まさしく、永久の眠りに付こうとしていた爺さんを
門番が止めるの聞かずに叩き起こし、
水と粥を無理矢理飲ませ、
落ち着いたときに殴り飛ばした。
そして、2人で、涙が枯れるまで泣き、
白い石を見せながら笑いあった。
未来を話そう。
いや、未来を作っていこう。
過去は変えられない。
今を生き、
未来を作っていく。
そんな話。」
パン
とまた、愛しい人が手を叩く。
「ニックさん?」
「・・・・・。」
「わたしは布にくるまったパンだ。
耐えて?
最後まで耐えて。
どうしてもの時だけ。
だけど、めくればただの軽石だ。
だけど、めくるまではパンだ。
耐えて?」
「モ、モウちゃん!ひでぇよ!!」
ふふふふと、可愛らしく笑う愛しい人。
立上り、伸びをした。
そして、ニックの前に出る。
『ニック!最後まで耐えろ!!道を切り拓け!!できるな?』
「承知!!」
ニックのはじめて聞く、心からの声だった。
「そうだ!!」
「いま?」
「そうだ!!」
今、手合わせでということ?
手合わせ以外ならできるが、理由がないから愛しい人が悲しむ。
どうにもできんな。
「無理だな。」
さすがニックだ。
気を上げてきた。
愛しい人が眠っているクッションを守るように、
ワイプとカップが左右陣を取る。
オーロラはツイミの前に。
ツイミは今ので気を失っているから。
私はどうすれば手合わせで、ニックをケチョンケチョンにできるかを
考えてみる。
・・・・やはり鍛錬だな。
愛しい人はかなり前から起きていた。
そのままクッションに沈んでいるだけで疲れは取れると思うから、
なにもいわなかったが、
ん?尻に力を入れているな?どうして?
鍛錬なのか?今もか?
さすがだ。
ガイライがニックの前に出た。
「・・・ニック?」
「ガイライ!
なんで、俺を上にしたんだよ!!
俺の上官はリーズナだけだ!
リーズナが俺を押さえられるのか?
お前でもマティスもできない!!
お前が俺を押さえることができたのは、
お前が俺の上官だったからだ!!
モウちゃんの為には、
腕を捧げることもできないんだぞ!!」
「戦争のこともあったが、腕を捧げるときは、
なにも考えない。考える必要もない。
それはニックもわかるだろ?
考えないんだ。そうするのが自然なんだ。
王以外に腕を捧げたものが、
軍の隊長になれないだろ?
部下をないがしろにするわけではない。
だが、部下に不信感がでるからだ。
では、主から腕を乞うか?
それもできない。
モウがモウである為にだ。」
「わかってる!!
だから!!」
「お前を誰も押さえられないとして、
お前がマティスを押さえるのか?
マティスが何でもできるとでも思ったのか?
それを力で従わせることができると?
それで?
お前は何がしたい?」
「違うんだ!違う!!
わかってるだろ?
何でもできるんだぞ?
モウにも言われたよ?移動や呼び寄せをできることが
つらくはないかって!
負担が大きくなるからって!
軍人は自分でできることしかしないって答えたさ!
できることだ!俺はマティスを押さえられる!
モウもだ。あの話と同じだよ。
人質とすればいい。
できない、しないんじゃなくてできるんだよ!
俺は!俺には!!!
できることを知ってしまったんだよ!
原石も持ってるんだぞ?
それがあれば、なんだってできるだろ?
戦争自体を回避することだってできる。
水がなくて死ぬことも飢えに苦しむこともないんだ。
医家がいないだけで、あと1日早く連れて行っただけで助かった奴らも!
マティスとモウが軍にいれば、みんな助かる!
そもそも戦争なんかしないで済むかもしれない!!
それだけの力を持ってるんだぞ!」
?
わからんな。
尻に力を入れると、
全身が鍛えられるのか?
顎も鍛えるべきだと言っていたな。
全身鍛錬か!
さすがだ、さすが愛しい人だ。
こうかな?
んー、うん。いいな!
「だから?
マティスとモウを軍に入れるか?
己の配下にするか?
それをなぜセサミナ殿がしなかった?
なぜわたしがしなかった?
テルマもエデトもだ。
もちろん我らが王もだ。
できないんじゃない、しないんだ!」
「わかってるよ!!
リーズナもいった!
1人を犠牲にして成り立つものは政ではないって!
それをお前たちは分かってるんだろ?
俺は?
俺は分からないんだよ!!
だってそうだろ?
分からないんだ。
こんな立場になったらどうすればいいか、わからない。
違う!わかってる!
おぼれる、権力に!
だから、ずっと補佐の立場だ。
おぼれる前にわかってるのは経験があるからだ!!
ダメなんだよ!
上には立てない!」
「・・・・。」
「・・・頼む。降ろしてくれ。」
愛しい人が起きあがった。
寝起きは寝ぼけて甘えてくることが多いのに。
皆がいるからか、だいぶ前から起きていたからか。
秘儀タヌキネイリ?
母君も見抜けなかったと豪語していたが、
見抜いて黙っていたんだろう、私みたいに。
しかし、私以外は皆が気付かないのはやはり秘儀なのか?
「ニックさん?」
「!モウ、ちゃん?起きたのか?
まだ早いぞ?な?マティス?」
「そうだな?もう少し?あと5分が5回?」
「ん。眠気はなくなったよ。マティスありがとうね。
でだ、ニックさん?」
「・・・・モウちゃん。」
「うん。ニックさん。」
「・・・・聞いてたんだな?」
「ニックさん。」
「・・・・。軍隊長を下りたいんだ。ダメか?」
「ニックさん。」
「きっと、青い花の時のように、何も考えずに、
モウちゃんを頼りにしてしまう。
使ってしまう。
マティスにもだろう。
それが、当たり前になる。
戦争だ。泣くこともできない。
それにモウちゃんを巻き込みたくはない。」
「・・・・。」
「我らが王、セサミナ殿、テルマもエデトも、
それはない。
ガイライもだ。違う意味でな。理想をもってる。
俺は、自分でわかってる。
使ってしまう。モウちゃんをだ。
・・・・そして、取り返しがつかないことになる。
それもわかっている。」
「・・・・。」
パン!
愛しい人が手を叩いた。
それに、ツイミも目を覚ます。
オーロラが小声で、静かにという。
オーロラはいいな。
これは、小芝居が始まる!
楽しみだ!
「話をしよう。
遠い、遠い国。
自由な国、なんでも自由な国があった。
成功すればいいだろう。
が、少しでも、なにか、そう、病一つかかるだけで、
狂ってしまう。
小麦が不作だけで狂ってしまう。
国は助けてはくれない。
自由だから。
自由とは何か?
それは責任だと答えた人がいた。
まさしくその通りだ。
本来は。
国は何もしないわけではない。
この状況をどうにかしようという輩は、
自由を害するという理由で捕まえた。
富裕層は国の自由主義を支持していたから。
本来の自由ではない。
富あるもの、権力者だけが自由だ。
権力という名の理不尽な暴力が常にあった国。
ここは、その国の牢獄。
老人と、一人の若者。
ここにいれば遅かれはやかれどこかに連れていかれる。
だれも戻ってこないことは、皆が知っている。
コロン、コロン。
壁の小さな隙間から紙屑が転がり込んできた。
樹石に巻いたものだ。
中を広げると、明日半分に暴動が起きる。
それに参加して、そのまま門へと流れ込む。
脱走するものは逃げる準備を。
しないものは、黙っておけ!
そしてこれを、次の部屋に。
ここは一番端の部屋だ。
次の部屋に送ることなく、
そのまま老人に渡した。
しかし、逃げる?どこへ?
若者は考えた。
それに気づいた老人が、笑った。
何がおかしい!!
若いの、世界はここだけではない。
山を越えれば、違う国がある。
ここから皆で逃げるのが一番安全なんだよ。
だから、わしは、わざとつかまった。
お前は?ちがうのか?
・・・・俺は、この国がおかしいと、
広場で訴えた。
・・・・だから。
ふははははは!!
まだ!まだ、そんなことして、
国を変えれると信じる若者がいたとは!!
笑うな!!
お前も俺を笑うのか!!
誰かが、誰かが変えないとだめなんだ!
ああ、若いの。
わらったのは悪かった。
うれしかったんだ、そんなことをこの国で考えることができたことがな。
そしてそれを実行してくれたことにな!
だがな、ダメなものはダメなんだ。
この国はダメだ。
捨てろ、この国を。
お前のその考えは他の国で役に立てろ!
・・・爺さん。
はは!わしだって、若い時はここで、もっと何かできないかと考えた。
産まれた国だ。
なんとかしたい。まだ、頑張れると思っていたがな。
病にかかれば、もうだめだ。
今年が最後の賭けだよ。
もう、体力も危うい。
最後だ。あの山を越えるだけの力があるのは今だけだ。
逃げるぞ!
ありったけの服を着るんだ!
シーツを服のように着るんだ!
これも!
ほら!
準備をするんだ!!
わかった!
小さな鍋も、腹に仕込む。
少しずつくすねた塩もだ。
それから半分まで。
それまでじっと、爺さんの話を聞いていた。
どの方向に逃げるか、この季節で食べることができる木の実のありか、
隣の国のこと、たどり着いたらまずどうするか。
爺さんがずっと考えていたこと。
それが実行できなかった悔しさ、それが実行できた時の未来。
そう、未来のある話だった。
半分は飯時だ。
一日一度だけの飯、これが最後の飯かもしれない。
誰かが叫ぶ!
うぉおおおお!!!!
それに皆が応える。
おおおおおおおおおお!!!!
食器を打ち付け、足で地面を蹴る。
何をやっている!静かにしろ!!
いつも威張り散らす奴らが来てもそのまま続けた。
ど、ど、ど、ど
カン カン カン カン
ダ、ダ、ダ、ダ
おおおおおおおおお!!!!!
一斉に門へと走っていく。
その数は半分ほどだ。
やはり老人は残るのか。
涙をのんで見送る若いものもいる。
家族が残っているのだろうか?
それとも、次の機会を待つのか?
もしかして、このまま残っていれば、
数か月したら保釈されるかもしれない。
そんな話も聞いていた。
それは?
ほんとうか?うそか?
だれもここから出たと聞いたことがないだけで、
もしかしたら何も言うなと口止めされているかもしれない。
どうする?
若いの!!今すぐ自分で決めろ!!
爺さんが、声をあげる!
逃げる!
この国はダメだ!
俺を捕えに来た役人は笑っていた!
それを見ていた奴らも!
蔑みの笑いだった!!
この人数で門に体当たりすれば、
木の門は粉々だ。
そこからみなが数人に別れ四方八方に消えていく。
振り返れば、役人に取り押さえられているものもいる。
振り返るな!!
爺さんの声で、我に返る。
逃げろ!まずはそれからだ!!
川を渡り、臭いを消し、
取れるだけの木の実を取り、
山を越え、谷を越える。
隣国を目指した仲間はいつの間にか、
爺さんと俺だけだ。
爺さんも進む速度は落ちてきている。
少し休もう。
あともう少しなんだろ?
そうだな。
が、急ぐに越したことはない。
若いの、これを。
それは、爺さんがずっと抱えていたものだ。
よっぽど大事だったのだろう。
なに?
ふふふ。
パンだよ。
え?なんだ!
もっと、こう、金目のものだと思ってたよ!!
あはははは!
そんなものが、いまなんの役に立つ?
それもそうだ!
湯を沸かそう!
それにいれれば、爺さん食べれるだろ?
隠してもダメだ、まったく食べてないだろ?
俺は教えてもらった木の実で十分なんだ。
ほら、湯を。塩もあるから。
いいんだ。
わしはここまでだ。
え?
これから、1つの山と1つの谷を越えていく。
木の実もなくなる。
次は、ほら、そこに見えている草の根だ。
それをかじりながら行け。
すぐに呑込むな?
ついている砂を吐き出しながらな。
砂が無くなれば、しゃぶれ。
それで、唾液を出すんだ。
それもなくなれば、よく噛んで食え。
栄養はあるんだ。力は出る。
え?
これはな、どうしても、どうしてもだぞ?
耐えれなくなった時に食べろ。
本当に死ぬかもしれないって時にだぞ?
え?
わしはここで、眠ることにする。
さっき、足をひねった。
もう歩くこともできない。
もっていけ。
じゃ、じゃ、今食べよう?
な?
それで元気になるさ!
いいんだ。
さ、行け!
どうしようもなくなった時だぞ、それを食うのは!
本当に死ぬかもしれないって時にだぞ?
それまで、なんとか踏ん張れ!
耐えるんだ!道を切り開け!
いいな!
行け!
自分で決めたんだ!
行くんだ!!
ああ!
あああああああ!!!
行け!未来へ行くんだ!!!!
そこからはあまり覚えていない。
泥水を飲み、教えてもらった草を食べ、
木のうろで寝る。
抱えているのは爺さんからもらった包み。
軽い、布越しにさすり、
いざとなれば、これを食えばいい。
もう少しだ。もうひと山越えればいい。
腹に抱えれば、なぜか、少しだけ温かかった。
何度月を見送っただろう。
いや、一度も月は沈んでいないかもしれない。
もう、わからないんだ。
あと少し、だが、もう、ほんとうに死ぬかもしれない。
・・・・爺さん。
もらうよ?
・・・・。
いや、あと少し!
まだ、まだ進める!
あ!!
小さな石に躓いた。
足がほとんど上がらない。
その時、その包みを落としてしまった。
コロン、コロン。
地面に転がるその塊。
慌てて追いかけた!
樹石?いや、白くなっている。
軽石だ。
あの、くそじじぃ!
最後の最後で騙しやがった!!!
くそったれ!!!
何とも言えない感情を握りこぶしで地面にたたきつけた。
痛い!!
石畳?
え?
見上げれば、すぐそこに門がある!
隣国だ!
逃げ切ったんだ!!
絡まる足を、震える体を、
涙があふれる視界を、あと少しだと自分に言い聞かせ、
まさしく転がり込んだ。
すぐに門番が抱き起してくれた。
あんた!
隣国のものだな?
よく来た!
もう大丈夫だ。
わかっている。
頑張ったんだ。
あんたが頑張ったんだ。
さ、温かいスープがある。
飲んで、泣かなくていい。
あああああああ!!!
凍えた手先を、
背を、頬を、火にあたっていたのだろか?
温かい手でさすってくれる。
子供のように泣いた。
よく耐えた。
数年に一度はあんたみたいに逃げてくる奴がいる。
いや、逃げるなんて言っちゃだめだな。
未来にやって来たんだ。
ん?落としたのか?
あれ。
白い石?
ここに来る奴は皆持っているな。
なんだ?
皆?
そうだ。
みんなだ。大事なものなんだろ?
取ってきてやるよ。
大事?
ほら、大事だろ?
ああ、大事なんだ。
ありがとう。
これのおかげでここに来れたんだ。
迷いなく来れたんだ。
そうか?
皆そういうな。
いいから、食え。
それは、大事に持っておけばいい。
さ、食べたら少し寝て、未来のことを話そう。
大丈夫だ。
ああ。
大丈夫だ。
だが、食べたらすぐに、馬を貸してくれ。
恩人が待っている。
迎えに行くから。
すぐ近くなのか?
良し、お前は食ってろ。
馬を用意する。
山越えだな?
頼む。
恩人なんだ。
迎えにいく。
そして、そして。
はははははは!
一発殴ってやる!
馬を使えばあっという間。
別れてから2日と経っていなかったんだ。
まさしく、永久の眠りに付こうとしていた爺さんを
門番が止めるの聞かずに叩き起こし、
水と粥を無理矢理飲ませ、
落ち着いたときに殴り飛ばした。
そして、2人で、涙が枯れるまで泣き、
白い石を見せながら笑いあった。
未来を話そう。
いや、未来を作っていこう。
過去は変えられない。
今を生き、
未来を作っていく。
そんな話。」
パン
とまた、愛しい人が手を叩く。
「ニックさん?」
「・・・・・。」
「わたしは布にくるまったパンだ。
耐えて?
最後まで耐えて。
どうしてもの時だけ。
だけど、めくればただの軽石だ。
だけど、めくるまではパンだ。
耐えて?」
「モ、モウちゃん!ひでぇよ!!」
ふふふふと、可愛らしく笑う愛しい人。
立上り、伸びをした。
そして、ニックの前に出る。
『ニック!最後まで耐えろ!!道を切り拓け!!できるな?』
「承知!!」
ニックのはじめて聞く、心からの声だった。
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