いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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823:為政者

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「愛しい人?どうする?
セサミナには連絡済みだ。呼び寄せれば、
すぐにでも門から出るふりをするが?
その前に、コーヒーを飲むか?」
「うん。それから、熱いシャワー浴びて、
病弱メイクもしてこよう。
血色良かったら問題だもん。
コーヒーはあまあまでおねがいします。」
「わかった。」
「じゃ、ガイライ?おいで?」
「・・・・。」


結構前からは頭は起きていた。
体は半分は寝ていたが。
この状況が一番あやうい、ヘ的に。
腹筋とお尻に力を入れつつ聞いていたのだが、
ニックさんの考えは当然だ。
わたしだったら、もっとうまく気付かれないように取り込み、
そこから抜けれないようにするだろう。
緑目とかは関係ない。逆にうまく使うかな。
だって、お互いがいればいいのだから。
どこで、なにをしようがまさに、どうでもいいのだ。
だけど、どうでもいいはずの戦争準備段階で、
ニバーセル側にいる。
セサミナ達がいるからだ。
身贔屓万歳!

セサミナたちがわたしたちを取り込まないのは、
親切心やプライド、矜持?それがあるからでない。
彼らは統治者で為政者だ。漫画の知識しかないけど。
先の先まで考える。
わたしの力、力なのか考え方なのか、よくわからんものを
頼ってしまった後のことを考える。
そしてそれが脅威になりうることを考える。
セサミナが頼るのは、姉としてだ。
そもそも頼ってはいない。
金と時間を掛ければできること。
理不尽なことは、わたしが何かしなくても
セサミナならより相手にダメージが残る形で
解決している。

ニックさんは自分自身でもわかっている。
おぼれる。
政治家になりたて一年生が、
あれだけ地道に地域活動していたのに、
先生とおだてられて天狗になるように。
一発あたっただけで上から目線で人生を語ってしまうような、
タレントのように。
なるのが当たり前だ。
おぼれないように、自ら上位の立場にならないようにしていたということ。
若いころは、リーズナ先生が押さえていたんだろう。
それを甘んじて受けていたはずだ。
ガイライが上に上がってからは、ガイライを支えるということに、
重きを置き、遠く離れていたが、主がいた。
で、腕を乞い、戻っていまだ。
確実に今まであった戦争、小規模の戦争よりも大きな戦争がある。
なにか、すがる何かほしい。

なにか、なにか


それが布に包まれたパンだ。


これが今現時点の手っ取り答えだ。
いや、ニックさんが望んだ答えだ。
わたしが起きていること、聞いていることをわかっての話だ。

例え、布をめくるようなことになっても
それは軽石ではない。
わたしが、わたしであるならば。
マティスもだ。
マティスだけ、さっきの状況でのほほんとしていた。
ニックさんが指示を出せばわたしが悲しまない限り従うだろう。
だって、どうとでもなるし、何とも思わないから。

それはわたしもだ。


で、もう一人の困ったちゃん。


「ガイライ?」
「母さん、我が主・・・。」

『腕は返さぬ。
仕えよ!わが生涯に!
従え!我が命に!』

主としての言葉をあげよう。

「もとより、承知!」

そして母親として。

「もっと、しゃっきとしなさいな!
そんなんやったら、かあさん、ご近所に菓子折り配って
あんたんこと頼みまくるよ?よろしくおねがいしますゆうて!ええのん?」
「え?それは、恥ずかしいです。」
「だったら、しっかりしなさい!!」
「はい!」
「おいで?」

黙って、やってきたガイライをぎゅっと抱きしめた。


「え?マティス!あれ!いいの?」
「いや、ダメだ。オーロラ?引きは離してこい!」
「わかった!」

オーロラが何とかはがそうとするが、
あははははは!無理だろ?
ん?下から?

「オーロラ!!それはダメだ!!」

オーロラはそのままクッションに飛ばされた。

それを笑ってみていたニックさん。
「俺たちは戻るな。門も開いているだろうから。
様子も見てくるよ。
いこう、ガイライ。」
「わかった。
では、行ってきます。」
「ん、いってらー。」

2人はそのまま移動。
軍本来の仕事が忙しくなるだろう。

「いや、ほんと寝不足はダメだね。
いい匂いの中で、眠るのは、
贅沢だった。ありがとう。」

マティスが入れてくれたコーヒーと、
作ったお菓子の端の方、それも出してくれる。
これは別にけち臭いとかではない。
わたしがそこらへんが好きだと常々言っているからだ。
ロールケーキかな?
たのしみ!

「なんか面白発見あった?」
「銃は取り寄せた。」

音石君が帰って来たことから、
ざっくりと報告を聞く。
ツイミさんから。
銃本体にか。そうなるよね。

「クロモさんね。
あの人は苦労人だ。が、意外とそういうのが、
悪の組織の頂点てのもある。」
「そうなのか?」
「ふふふふ。
なにが誰にとっての正義かなんて千差万別。
気にはかけておこう。
その程度でいいよ。
で。これ?んー、銃本体に砂漠石はないな。
弾?薬莢?ここに砂漠石か?
そりゃそうだな。ふーん。
師匠!」
「なんです?」
「これ、見たことあります?」
「ありません。」
「ばらしていい?」
「ダメです。」
「どうして?」
「あなたが聞いてくるからですよ。」
「ふふふ。じゃ、やめておきます。
これ、師匠が管理してください。
師匠?」
「あなたはわたしの弟子ですからね?
マティス君共々。」
「はーい。」
「便宜上だぞ!!」
「ええ。それでいいですから。」

師匠はこれで安心してくれる。
ツイミさんは最初から不安はない。
わたしの信者だ。それを望んでいるのなら、それでいい。

ん?カップとオーロラは何してんの?

オーロラがクッションにうずもれたまま、
カップもおなじようにうずもれている。

疲れてるのか?


「カップ君?」
「え?あ!わた、わたし、フーサカたちの様子見てきます!
ソヤにお菓子届けないと!
あと、ルビたちの様子も。失礼します!!」
「?」

移動で出ていった。

「オーロラ?どうしたん?」
「いや、いい匂いするんだ、これ。カップに言ったらほんとだって。ほら!」
「ん?クッション?匂い袋いれたっけ?」

黒い実の絞った残りは乾燥して砕いて使ってる。
いいにおい?
わからんよ?

マティスも嗅いでいる。
え?すごい吸引力なんだけど?
吸引力の変わらないただ一つの?

「そうか、なるほど。」

なんか納得してる。

「ん?オーロラとカップか。
カップは気付いたか?二度目はないな。
オーロラは?言わないとわからないか?」
「なに?」
「これは愛しい人の匂いだ。二度目は許さん!!」
「「え?」」

わたしの匂いってあんさん!

「いい匂いだぞ?褒めてるんだぞ?」
「ダメだ!これを嗅いでいいのは私だけだ!」
「ああ!そっちでな!わかった!」

そっちってどっち?

「マティス!恥ずかしいからやめて!!」
「ん?そうだな。後でゆっくり堪能しよう。」
「そういうのが恥ずかしいの!!」
「そうか?身支度をするのだろ?
30分でいいか?セサミナも呼ぶから。
扉君の家に行っておいで。
館で待っている。」
「あ!うん。そうする。
オーロラ?マティスのことお願いね?
ルグにもなにか言われてるでしょ?
マティスのこと?」
「うん。モウが絡むとそれはどうなんだってなるから気を付けろって。」
「そう!それが正解。さすが常識人のルグ家の人間だ。
いい匂いっていわれるのはいいのよ?
ニバーセルの人は恥ずかしいみたいなんだけど。
わたしはそれを人前で、マティスに言われるのは恥ずかしい。」
「そうなんだ。ちょっと難しいな。」
「わたしもだよ?匂い系はね。
じゃ、ちょっといってくるね。
マティス!オーロラ!行ってくるね!」
「「いってらっしゃい!」」


病人メイクだ!
青白いのってなにをつかえばいいかな?

─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘


「マティス君?それをしまいなさい。台所も。
ここにあればあるだけ、匂いはなくなりますよ?」
「そうだな!」
「これからどうするの?」
「愛しい人が言ったとおりだ。
天文院のことも、愛しい人が動く前に、
ダメならニックが止めに来る。
なければ、そのまま愛しい人がしたい様にすればいい。
ルポイドには行くぞ?」
「話は?モウの?」
「そうだな。戻れば先にすまそう。それでいいか?」
「うん。」
「ワイプは?ニックやガイライのようになにかいるか?」
「いえ。あなたがたの師がわたしだということで十分です。
わたしがダメだと言えばモウはそれ以上何もしない。
ある程度だと思いますが。
好奇心には勝てません。だれもね。」
「ほかには?」
「オーロラや、カップたちのこと。ソヤもですね。
それらにも十分注意を。」
「わかった。クロモは?」
「こちらで。」
「?どういうこと?」
「オーロラ?あなたはね、彼女、モウの身内なんですよ。
すでにね。
彼女は身内が傷つくことを極端に恐れる。
それが仕事の上だとかまわないのですよ。
当たり前ですから。
が、子供、ああ、そういわれるのはいやなんですね?
しかし、あのカップも彼女にしてみれば子供なんですよ?
可愛い子供。弱い守って当然の存在。
それが傷つくことはおそらく耐えられない。
マティス君が傷つくことよりね。」
「マティスが一番だろ?」
「比べられないんですよ?別の話になるんですよ。」
「?」
「とにかく、不注意に危ないことはしないように。」
「それは、ルグにも言われてるけど、ん?ツイミは?」
「?ツイミはさすがに子供じゃないでしょ?」
「弱いだろ?」
「オーロラ殿?わたしは大丈夫なんですよ?」
「どうして?」
「わたしは十分大人ですし、
わたしの仕事のことも理解して頂いています。
自ら危険なことはしませんから。」
「大人か!そうか!
どうやったら大人になるのかな?
どうやったら大きくなるの?そこ?」
「・・・・・。オーロラ殿?
体を作ればおのずと大きくはなりますよ?」
「そうか!肉と乳とチーズ!!」
「ええ。」

(大丈夫ですか?彼?)
(子供だからだろ?私もわからん)
(モウはなんと?)
(赤子と一緒だから、ルグの奥方も交えて相談しろと)
(ああ!それがいいですね。わたしでもわからない)
(私もだ)


─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘



「ニック?」
「なに?」
「お前、あれはなんだったんだ?」
「なにが?」
「モウが起きていること気付いてたんだろ?」
「そりゃ、わかるわな。」
「それで、あんな小芝居か?」
「芝居じゃないよ?ほれ、ワイプもカップも、
オーロラもか?俺を標的にしたじゃん。お前も。
ツイミには悪いことしたけどな。
本物だったよ?」
「マティスはまったく気にかけてなかったぞ?」
「な?あれはあれでムカつくな!
ケツに力入れて何やってたんだか。」
「それで?落ち着いたのか?」
「それはガイライ、お前もだろ?
あんな力を見せられて、どこで境界を引くんだ?
モウちゃんも同じことができる、いやそれ以上のことができる。
できていたんだよ!見て来ただろ?
しかも、お前の母なんだぞ?
お前が頼めば、
いや、お前が不利になれば、それこそ大陸が沈む。
セサミナ殿も同じだ。
当然そこにマティスも加わる。
マティスはあれだ、モウちゃんより始末が悪い。
何も知らないんだよ。
俺が言えば、なんら考えないで実行してしまう。
モウちゃんに害がなければな。
モウちゃんも知らないよ?だけど、話として知ってるんだ。
後のことをな。
俺もお前も経験で知ってる。
なにか足かせがいるんだよ。
マティスにはモウちゃんで、
モウちゃんは故郷での知識だ。
俺はなかっただろ?
欲しいものが手に入ったよ。
お前もだろ?」
「そうだな。」
「な?良し!飲みに行こう!!」

─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘

捧げただけ。
預かってもらっているだけ。


恐れるものはただ一つだった。
主が腕を返すということ。
それが無くなった。


返さぬと、
生涯尽くせという言葉が、
我が命に従えという言葉が、
腕を捧げた臣なるものが、
最も欲する言葉だ。

それを頂いたわたしの気持ちはだれにも分からないだろう。



恐れるものはなにもない。

・・・・菓子折りを配りまくられるような状況にならないようにしないと。
母は本当にする。





─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘


モウは布に包まれたパンなのか?
めくればただの軽石か?
頼れない。
頼れば最後、なにもない。
ただ、奮闘するだけの切っ掛けか?

ちがう。


モウはパンでも軽石でもない。

背を、頬を温めてくれる、あの門番の手だ。
俺が行きつく先には必ずモウがいる。
一番うまい酒を用意して、
そして、よくやったと、
大丈夫だと言ってくれる。



ああ、恐れるものは何一つなくなった。


─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘



オーロラが飛ばされた。
当然だろうな。
しかし、子供だよな?
気を纏っていないからよくわかる。
幼い。
ルビたちが小さかった時のようだ。

(えっと?カップ?わかる?)
(オーロラ?うん、わかるよ?下から潜り込むのは考えたな!)
(結局飛ばされたよ)
(だろうな。それで?)
(ああ!これ、匂う!いい匂いだと思うんだけど?)
(え?)
(妖精の匂い?それとか、匂いとかあんまり意識したことないから
近くの人に報告すればいいって言われてるんだ。
声を飛ばしたのは練習な。それに動きたくない)
(ん?)


これは、なるほど。
いい匂いなんだけど、まずいな。
動きたくないというのは分かる。

母さんでも、マーサでもない。
‥‥マーサに会いたいな。

「カップ君?」

!!

なぜかとてつもなく恥ずかしかった。



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