いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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863:理不尽

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モウの驚き?の気配には誰も気づいていなかった。
ニックもだ。
ただ、わたしとモウが話しているというのはわかったようだった。
水風呂に入ってから王都を出るようだとだけ話す。
それからしばらくして、マティスの気がここまで届く。
厳密に言えば、気でないな。
何人かが席を立つ。
それに気付いた密偵か?

モウの宣言の時のように顔に出さないように意識したが、
内容は情けない話だった。

いつのまにか、
センターとルカリを囲っていたものたちは帰っていた。
女だけでなく男も数人はいた。
あとは呑める時に呑めるだけ呑もうという男ども。
それと、マティスの気に反応し、また戻ってきた者たち。

ニックの馴染みの者たちではないようだな。
ニックがそれとなく身元を聞いている。

それらはセンターに意識がいっているな。
センターとルカリは?
それすらも気付いていないか。



─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘


「これは拳の修行中、先輩にあたる方に教えてもらったものなんだ。
先に言うが、実戦には向かない。
一種の目くらましだ。
なので、一度見てしまったら、同じ連中に二度と見せることはできない。
もう一度してくれというのは無しだぞ?」


ガイライがやけにもったいぶって説明している。
拳の先輩?
独学で覚えたのではないのか?
俺がイリアスに戻ってからか?

しかも、また胡散臭い笑いをしている。
なんだ?

机を寄せて、空間を作った。
演武か?拳の型か?
それを見せると?

準備をしている間に、あいつらはセンターの近くに陣取っている。
何人かまた新たに呼んでいるな。
センターが標的?
どう動くか?

しかし、ガイライは何をするんだ?
わからん。

背負子の中から、棒となんだ?ん?人型?

「では、こんな感じで手を叩いてくれるか?」

パン パン パン パン パン



みなが言われるまま、手を叩く。
なんだ?

「では!」

組み立てた棒を背負う。
それには人型がくっついている。



ホ! ホ! ホ! ホ! ホ! ホ! ホ!


人形が動く!
人形の手があがる!
足が曲がる!
!!顔が変わった!!!

最初は皆が手を叩いていたが、
次々に口を押えていく。


ホ! ホ! ホ! ホ! ホ! ホ! ホ!

誰も手を叩いていない。下を向いて震えている。
が、ガイライが声を出すたびに見てしまう。
そしてすぐに下を向く。
その繰り返し。
とうとう、皆が口と腹を押えて店から出ていった。

それでも、ガイライはまだ続けている。
残っているのは俺と、ルカリ、センターだけ。
密偵もいない。
センターは様子がおかしい。
ルカリは?ただ驚いているだけだ。

顔が変わる。
笑っている顔、泣いている顔、怒っている顔。
そして手が、足が、ガイライと同じように動く。

左右の人型が同じ動き。
なのに、一番左端だけ、違う動き。
ガイライが左を見たときだけ動く。
なのに、右を見れば、動かない。
さぼってる!!



ホーーーーーーーーー!!


左右の奴らがお辞儀をして終わった。
左端の奴以外!!
しかも笑ってる!!



─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘

「ん?静かだな?
あ!誰もいない!なぜだ!」

自分としてはうまくできたと思うのだが?
失敗か。
人型を動かすのに集中しすぎて廻りが見えていなかった。
いかんな。
まだまだ鍛錬をしないといけな。



「どうだった?ニック?」

店にいるのは、ニックとルカリ、センターだけだ。
?センターの呼吸がおかしい?
!うけたのか!ふふふ、やった!
おかしくて呼吸ができないという状況だな?
うれしいものだな!

肩に取り付けた横棒を下ろし、
人型も外していく。
一番左は、操作棒と繋がっていない。
わたしが動かしているのだ。
中の関節は他の人型よりも複雑になっているので、
丁寧に外し、椅子に座らせた。
なかなかにうまく動かせたと思う。
名前はモウが付けてくれている。
サエモンだ。
それが、カクンと前に倒れてしまった。

「うわぁぁぁぁぁ!!!」


センターが踏み込み殴りかかる。
サエモンに!
それを、右回し蹴りで避けたが、
力加減を間違えた。
壁に激突する。

「センター!!」

ルカリが抱き起すが、気を失ったか。


「どうしたんだ?センターは?ニック?」
「どうしたもあるか!!
何なんだ!今のは!!」
「なんだと言われてもな。説明は難しいな。」
「これは!」

サエモンに槍先を向ける。
ニックから殺気が出ている。どうして?

「?人型だ。うまく動いていただろ?」
「人、ではないんだな?」
「あはははは!中身は綿と木だ。触ってみろ?
壊すなよ?」
「作り物?」
「もちろん!うまくできてるだろ?」
「布?」
「そうだよ?タトートの布屋で買ってきたんだ。
これが一番よく作れたと思う。」
「・・・・。」
「名前はサエモンだ。ん?」

サエモンを睨みつけている。
なんだ?

「俺はお前の上官だな?」
「?もちろん。それが?」
「・・・・るな。」
「ん?なんだ?」
「上官命令だ!!!俺の許可なく今のは見せるな!!!」
「!」


いまだ、槍先はサエモンにある。


上官による理不尽な要求というものを初めて経験した。


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