11 / 11
第三章
3
しおりを挟む
天辰は、猪頭を殴り飛ばした右の拳を見つめていた。
部下を殴った。そんなことは過去に何度もあるが、今回猪頭を殴った事による右手に残った痛みは、今までに感じたことのないようなものだった。心に来る痛み、というものなのかもしれない。なんにせよ、未知のものだ。
「そこのお前」
天辰は、付近にいた少年に声をかけていた。
「猪頭を、捕縛しておけ。暴れるだろうから用心しろ」
「は、はいっ!」
少年は真っすぐに天辰を見据え、返事をしていた。瞳の奥に、かつて國防軍を率いた大将軍の面影を天辰は見たが、気のせいだろうと振り払った。とにかく今は、この愚かすぎる戦の、いや、殺戮の後始末をしなければならない。
天辰は、ぼろ雑巾のようになった少年に目をやった。
─猪頭とやりあって、息をしているのか。
意識はないが、たしかに呼吸はしているようだった。
そして、少年が右手に握りしめている刀である。妖刀がもつ独特の気配を、天辰は一目見た時から感じていた。
─なるほど、大牟田が好きそうな刀だ。
舌打ちをして、天辰は横たわる少年を抱き抱えた。頑に握り締めたその刀だけは、引き剥がそうとしても離しそうになかった。
女性と子供の骸。無数に転がっている。天辰は、わずかに引き連れてきた自分の兵を散らせ、特別攻撃隊の攻撃を辞めさせるよう伝えた。
特別攻撃隊の中にも、無防備の村民を殺すのはおかしいと感じた者がいたようで、攻撃はすぐに止まったようだった。しかしそれでも、犠牲者の数は相当なものになるだろう。
「特別攻撃隊の隊長、廣瀬はどこだ」
天辰は、低い声で従者に伝えた。廣瀬は、國防軍の総大将に大牟田が就任した際に、唐突に特別攻撃隊の隊長になった男だった。当然、大牟田の息がかかっているはずで、天辰は黒い渦のような怒りを感じていた。
「はっ。それが、探したのですが見つからず。特別攻撃隊の兵にも尋ねましたが、戦のはじまりからその姿は見えなかったと」
「下衆が」
従者の言葉に、天辰は心底呆れかえっていた。上司に媚びへつらって出世する事しかできないような男が、戦場に出てくるはずもないのだ。
天辰は、殴り飛ばした猪頭のもとへ向かった。その体は地に倒れたままで、さきほどの少年が押さえつけている。
「猪頭よ、お前、おかしいとは思わなかったか?」
黙ったままである。天辰は再度口を開いた。
「無抵抗の村民を槍で突く。國防軍の者として、それをおかしいと思わなかったのか」
「任務であります」
猪頭の声もやはり低く、それは唸り声にも似ていた。
「ならばお前は、上官が死ねといえば死ぬのか」
「それが任務の遂行に必要なのであれば」
「大馬鹿者め」
天辰は、少年を払いのけ、猪頭の身体を起こし、そして二度の平手打ちを食らわせた。猪頭は完全に、気を失ったようだった。
天辰は、猪頭は再教育をする必要がある事をひしひしと感じていた。任務に愚直なのは、良いことではある。ただし猪頭の場合はそれがいきすぎていて、愚かなのだ。この男は、副隊長ではなく、いずれ隊長となるべき男なのだ。いや、もっと大きい仕事をさせてもいい。それくらいに力のある男である。任務に対する考え方、そしてその思考に柔軟性を持たせなければならない。
「源一郎将軍から、一体なにを学んでいたのだ」
ぽつりと、天辰は言葉をこぼした。
身体の中を、熱いものが駆け巡っている。それは炎のように燃え広がり、痛みを焼き尽くし、傷口を一瞬で塞いだ。
─おれは、敗けてばかりだ。しかし、死んでもいない。まだ、生きている。守る。生まれた村を、守りたい。それだけなのだ。
声は出なかった。だが叫んだ。まだ、立てるか。自らに問う。立てると、己の中から返事がある。
身体。巻きついているもの。縄。どうでもいい。それが何であろうと、自分を押さえつけていつものは全て破壊する。喜平太は、渾身の力で、それを引き千切った。
叫ぶ。声にならない叫びだ。どうでもいい。守る。家族を、珠海村を。それだけだ。
「あらぁ、まだ元気じゃなぁい。ほら、あなたたち、そんな柔な縄だから切られちゃうんじゃないのぉ。鎖にしなさいよぉ」
「鎖だ、鎖!早く鎖を巻きつけろ!」
声が聞こえる。誰の声なのかはわからない。
もう、どうでもよかった。自分の脚が、腕が、身体と繋がっているのかさえ定かではない。守る。家族を、みんなを守ることができれば、自分はどうなっても構わない。
喜平太は、右手に目をやった。そこにあるはずのものがない。大海翡翠。父から預かっている、鮫島家に伝わる宝である。なくした。すでに、生きている価値はなくなったも同然だ。先祖に、謝罪してもしきれない。
─おれは、敗けてばかりだ。しかし、死んでもいない。
死んでいないということは、戦える。まだ、戦えるのだ。
身体に、冷たいものが巻きついてくる。冷たい、という感覚は伝わる。鎖を巻き付けられているのだ。喜平太は、一人を殴り飛ばし、そして一人に噛みついた。もう一人を蹴り飛ばそうと思ったが、思った時には頭に強い衝撃が走っていた。何か硬いもので殴られたであろうことは、すぐに理解できた。
心の中。精神力が、肉体を超えていく。決して気を失ってはならないと、自分が自分に向かって叫んでいる。
暴れた。叫んだ。しかし、冷たい鎖は、どうにもならないほどに強く、きつく、自分の身体に食い込んできた。
「ここまで、か」
心の中。燃え広がっていた炎が、少しだけ勢力を弱めたように、喜平太は思った。
「んふふ・・・大海翡翠・・・見つけたわぁ」
閉じかけていた目。汚泥のような薄汚い声をきいた刹那、喜平太はかっと見開いた。
何とも言いようのない、気味の悪い男が、複数人の従者に囲まれていた。その気味の悪い男は胡床に座っている。そしてその手に持つ刀。翡翠色に輝く長刀。陽の光に照らされて、大海翡翠は、まるでこの世のものではないような光を放っていた。
「か、かえせ・・・!」
声を振り絞る。自分の声ではないような気がした。うまく声が出せない。
「かえせっ!」
もう一度叫ぶ。気味の悪い男は、あろうことか、大海翡翠を紫色の舌で舐めていた。涎が糸をひく。恍惚な表情を浮かべ、それはとても直視できるものではなかった。
「嗚呼…なんて美しい刀…これほどまでに美しい刀はみたことがありませんね…嗚呼」
男は全身を震わせていた。こちらを、見ようともしない。濁ったその眼は、ずっと、大海翡翠を見つめている。
「さて、廣瀬将軍。残る一振りは見つかったのかしら?」
「はっ」
嫌な予感が、喜平太の全身を襲った。やはり予感は的中していて、体躯に似合わぬ煌びやかな鎧を身につけた、廣瀬と呼ばれた男が、一振りの刀を気味の悪い男に献上したのだった。
「あはぁ…美しい…なんて美しい…」
さらに全身を震わせ、男は刀を鞘から引き抜く。激しい嫌悪感。喜平太が男に感じるものは、ただそれだけだった。
抜かれた刀は、薄らと、黄金色を纏っている。刀の銘は、㐂八。鮫島家にある、もう一振りの家宝だ。
「この刀が隠されていた家は、それはもう厄介でした。女が、いたのです。幼児を背後に隠し、生意気にも女がその刀を振るっていたのです。しかし、私が、勇猛果敢に斬りました。当然、皆殺しであります」
一体何を自慢気に語っているのか、喜平太には意味がわからなかった。
「して、大牟田様。此度の戦の、恩賞は…」
「あはぁ…なんて、なんて美しい…。廣瀬将軍、戻り次第すぐに、古今東西の刀剣図鑑を用意しておきなさい…私はこの刀の名を知りません」
「はっ!」
「世の中にはまだ、まだ私の知らない美しき刀があるのですね…はあ、興奮は尽きないわ」
大牟田と呼ばれた男が、従者に胡床を押され、こちらに背を向ける。がらがらと車輪は音を立て、その背は小さくなっていく。
「まて!まて!大牟田っ!」
喜平太は叫んだ。腹の底から、あの気味の悪い男の名を呼んだ。
「貴様、大牟田様にその口の利き方は、いったい何事かっ!」
廣瀬と呼ばれていた、塵のような目をした男が言う。
「大牟田様。この男の処遇は?」
「あなたに任せるわよぉ、廣瀬将軍」
憎悪。嫌悪感。それらの言葉は、今この瞬間の為にある言葉だと喜平太は思った。これが、國防軍。珠海村に住む、何の罪もない人々を殺戮し、宝とも言える刀を奪い去っていく。絶対に許すことはできないし、許されるべきではない。
「よし、お前は死罪である!死罪ィ!」
廣瀬と呼ばれた男が、唾を飛ばしながら喜平太に向かって叫んでいた。
「珠海村が・・・いったい何をしたと言うのですか!」
血を吹きながら、喜平太は声を絞り出した。
「反乱軍の拠点となっている事は明白!先ほど大牟田様がお持ちになられた刀も、盗まれたものなのである。貴様は大牟田様と私を侮辱した罪で、死罪である!」
「そんな事はさせぬ」
不意の声だった。大柄な男が気付けば立っていて、異様な雰囲気を纏っていた。
「あ、あ、天辰将軍。な、なぜここに」
廣瀬は、声を震わせていた。天辰将軍と呼ばれた大柄な男は、その体躯に違わない大薙刀を手にしていた。
「鎖を解いてやれ」
天辰将軍は、喜平太の方にちらりと目をやり、呟いた。天辰将軍の従者が、喜平太を堅く拘束していた鎖を解いていく。
「かっ、勝手に鎖を解くことは許されませぬぞ!い、いくら天辰将軍とはいえ、この男は危険人物なので」
「黙れ、廣瀬!どの立場でものを言っている」
廣瀬が喚いた刹那、天辰将軍が鋭い眼差しを廣瀬に向け咆哮した。それはまるで昼間に落ちた雷のようで、喜平太も目を丸くした。廣瀬は小さくうめき声のような声を発し、そして尻餅をついていた。
喜平太は、鎖が完全に解かれた後、その場に力無く前のめりに倒れていた。
部下を殴った。そんなことは過去に何度もあるが、今回猪頭を殴った事による右手に残った痛みは、今までに感じたことのないようなものだった。心に来る痛み、というものなのかもしれない。なんにせよ、未知のものだ。
「そこのお前」
天辰は、付近にいた少年に声をかけていた。
「猪頭を、捕縛しておけ。暴れるだろうから用心しろ」
「は、はいっ!」
少年は真っすぐに天辰を見据え、返事をしていた。瞳の奥に、かつて國防軍を率いた大将軍の面影を天辰は見たが、気のせいだろうと振り払った。とにかく今は、この愚かすぎる戦の、いや、殺戮の後始末をしなければならない。
天辰は、ぼろ雑巾のようになった少年に目をやった。
─猪頭とやりあって、息をしているのか。
意識はないが、たしかに呼吸はしているようだった。
そして、少年が右手に握りしめている刀である。妖刀がもつ独特の気配を、天辰は一目見た時から感じていた。
─なるほど、大牟田が好きそうな刀だ。
舌打ちをして、天辰は横たわる少年を抱き抱えた。頑に握り締めたその刀だけは、引き剥がそうとしても離しそうになかった。
女性と子供の骸。無数に転がっている。天辰は、わずかに引き連れてきた自分の兵を散らせ、特別攻撃隊の攻撃を辞めさせるよう伝えた。
特別攻撃隊の中にも、無防備の村民を殺すのはおかしいと感じた者がいたようで、攻撃はすぐに止まったようだった。しかしそれでも、犠牲者の数は相当なものになるだろう。
「特別攻撃隊の隊長、廣瀬はどこだ」
天辰は、低い声で従者に伝えた。廣瀬は、國防軍の総大将に大牟田が就任した際に、唐突に特別攻撃隊の隊長になった男だった。当然、大牟田の息がかかっているはずで、天辰は黒い渦のような怒りを感じていた。
「はっ。それが、探したのですが見つからず。特別攻撃隊の兵にも尋ねましたが、戦のはじまりからその姿は見えなかったと」
「下衆が」
従者の言葉に、天辰は心底呆れかえっていた。上司に媚びへつらって出世する事しかできないような男が、戦場に出てくるはずもないのだ。
天辰は、殴り飛ばした猪頭のもとへ向かった。その体は地に倒れたままで、さきほどの少年が押さえつけている。
「猪頭よ、お前、おかしいとは思わなかったか?」
黙ったままである。天辰は再度口を開いた。
「無抵抗の村民を槍で突く。國防軍の者として、それをおかしいと思わなかったのか」
「任務であります」
猪頭の声もやはり低く、それは唸り声にも似ていた。
「ならばお前は、上官が死ねといえば死ぬのか」
「それが任務の遂行に必要なのであれば」
「大馬鹿者め」
天辰は、少年を払いのけ、猪頭の身体を起こし、そして二度の平手打ちを食らわせた。猪頭は完全に、気を失ったようだった。
天辰は、猪頭は再教育をする必要がある事をひしひしと感じていた。任務に愚直なのは、良いことではある。ただし猪頭の場合はそれがいきすぎていて、愚かなのだ。この男は、副隊長ではなく、いずれ隊長となるべき男なのだ。いや、もっと大きい仕事をさせてもいい。それくらいに力のある男である。任務に対する考え方、そしてその思考に柔軟性を持たせなければならない。
「源一郎将軍から、一体なにを学んでいたのだ」
ぽつりと、天辰は言葉をこぼした。
身体の中を、熱いものが駆け巡っている。それは炎のように燃え広がり、痛みを焼き尽くし、傷口を一瞬で塞いだ。
─おれは、敗けてばかりだ。しかし、死んでもいない。まだ、生きている。守る。生まれた村を、守りたい。それだけなのだ。
声は出なかった。だが叫んだ。まだ、立てるか。自らに問う。立てると、己の中から返事がある。
身体。巻きついているもの。縄。どうでもいい。それが何であろうと、自分を押さえつけていつものは全て破壊する。喜平太は、渾身の力で、それを引き千切った。
叫ぶ。声にならない叫びだ。どうでもいい。守る。家族を、珠海村を。それだけだ。
「あらぁ、まだ元気じゃなぁい。ほら、あなたたち、そんな柔な縄だから切られちゃうんじゃないのぉ。鎖にしなさいよぉ」
「鎖だ、鎖!早く鎖を巻きつけろ!」
声が聞こえる。誰の声なのかはわからない。
もう、どうでもよかった。自分の脚が、腕が、身体と繋がっているのかさえ定かではない。守る。家族を、みんなを守ることができれば、自分はどうなっても構わない。
喜平太は、右手に目をやった。そこにあるはずのものがない。大海翡翠。父から預かっている、鮫島家に伝わる宝である。なくした。すでに、生きている価値はなくなったも同然だ。先祖に、謝罪してもしきれない。
─おれは、敗けてばかりだ。しかし、死んでもいない。
死んでいないということは、戦える。まだ、戦えるのだ。
身体に、冷たいものが巻きついてくる。冷たい、という感覚は伝わる。鎖を巻き付けられているのだ。喜平太は、一人を殴り飛ばし、そして一人に噛みついた。もう一人を蹴り飛ばそうと思ったが、思った時には頭に強い衝撃が走っていた。何か硬いもので殴られたであろうことは、すぐに理解できた。
心の中。精神力が、肉体を超えていく。決して気を失ってはならないと、自分が自分に向かって叫んでいる。
暴れた。叫んだ。しかし、冷たい鎖は、どうにもならないほどに強く、きつく、自分の身体に食い込んできた。
「ここまで、か」
心の中。燃え広がっていた炎が、少しだけ勢力を弱めたように、喜平太は思った。
「んふふ・・・大海翡翠・・・見つけたわぁ」
閉じかけていた目。汚泥のような薄汚い声をきいた刹那、喜平太はかっと見開いた。
何とも言いようのない、気味の悪い男が、複数人の従者に囲まれていた。その気味の悪い男は胡床に座っている。そしてその手に持つ刀。翡翠色に輝く長刀。陽の光に照らされて、大海翡翠は、まるでこの世のものではないような光を放っていた。
「か、かえせ・・・!」
声を振り絞る。自分の声ではないような気がした。うまく声が出せない。
「かえせっ!」
もう一度叫ぶ。気味の悪い男は、あろうことか、大海翡翠を紫色の舌で舐めていた。涎が糸をひく。恍惚な表情を浮かべ、それはとても直視できるものではなかった。
「嗚呼…なんて美しい刀…これほどまでに美しい刀はみたことがありませんね…嗚呼」
男は全身を震わせていた。こちらを、見ようともしない。濁ったその眼は、ずっと、大海翡翠を見つめている。
「さて、廣瀬将軍。残る一振りは見つかったのかしら?」
「はっ」
嫌な予感が、喜平太の全身を襲った。やはり予感は的中していて、体躯に似合わぬ煌びやかな鎧を身につけた、廣瀬と呼ばれた男が、一振りの刀を気味の悪い男に献上したのだった。
「あはぁ…美しい…なんて美しい…」
さらに全身を震わせ、男は刀を鞘から引き抜く。激しい嫌悪感。喜平太が男に感じるものは、ただそれだけだった。
抜かれた刀は、薄らと、黄金色を纏っている。刀の銘は、㐂八。鮫島家にある、もう一振りの家宝だ。
「この刀が隠されていた家は、それはもう厄介でした。女が、いたのです。幼児を背後に隠し、生意気にも女がその刀を振るっていたのです。しかし、私が、勇猛果敢に斬りました。当然、皆殺しであります」
一体何を自慢気に語っているのか、喜平太には意味がわからなかった。
「して、大牟田様。此度の戦の、恩賞は…」
「あはぁ…なんて、なんて美しい…。廣瀬将軍、戻り次第すぐに、古今東西の刀剣図鑑を用意しておきなさい…私はこの刀の名を知りません」
「はっ!」
「世の中にはまだ、まだ私の知らない美しき刀があるのですね…はあ、興奮は尽きないわ」
大牟田と呼ばれた男が、従者に胡床を押され、こちらに背を向ける。がらがらと車輪は音を立て、その背は小さくなっていく。
「まて!まて!大牟田っ!」
喜平太は叫んだ。腹の底から、あの気味の悪い男の名を呼んだ。
「貴様、大牟田様にその口の利き方は、いったい何事かっ!」
廣瀬と呼ばれていた、塵のような目をした男が言う。
「大牟田様。この男の処遇は?」
「あなたに任せるわよぉ、廣瀬将軍」
憎悪。嫌悪感。それらの言葉は、今この瞬間の為にある言葉だと喜平太は思った。これが、國防軍。珠海村に住む、何の罪もない人々を殺戮し、宝とも言える刀を奪い去っていく。絶対に許すことはできないし、許されるべきではない。
「よし、お前は死罪である!死罪ィ!」
廣瀬と呼ばれた男が、唾を飛ばしながら喜平太に向かって叫んでいた。
「珠海村が・・・いったい何をしたと言うのですか!」
血を吹きながら、喜平太は声を絞り出した。
「反乱軍の拠点となっている事は明白!先ほど大牟田様がお持ちになられた刀も、盗まれたものなのである。貴様は大牟田様と私を侮辱した罪で、死罪である!」
「そんな事はさせぬ」
不意の声だった。大柄な男が気付けば立っていて、異様な雰囲気を纏っていた。
「あ、あ、天辰将軍。な、なぜここに」
廣瀬は、声を震わせていた。天辰将軍と呼ばれた大柄な男は、その体躯に違わない大薙刀を手にしていた。
「鎖を解いてやれ」
天辰将軍は、喜平太の方にちらりと目をやり、呟いた。天辰将軍の従者が、喜平太を堅く拘束していた鎖を解いていく。
「かっ、勝手に鎖を解くことは許されませぬぞ!い、いくら天辰将軍とはいえ、この男は危険人物なので」
「黙れ、廣瀬!どの立場でものを言っている」
廣瀬が喚いた刹那、天辰将軍が鋭い眼差しを廣瀬に向け咆哮した。それはまるで昼間に落ちた雷のようで、喜平太も目を丸くした。廣瀬は小さくうめき声のような声を発し、そして尻餅をついていた。
喜平太は、鎖が完全に解かれた後、その場に力無く前のめりに倒れていた。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
冷遇妃マリアベルの監視報告書
Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。
第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。
そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。
王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。
(小説家になろう様にも投稿しています)
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
本物の夫は愛人に夢中なので、影武者とだけ愛し合います
こじまき
恋愛
幼い頃から許嫁だった王太子ヴァレリアンと結婚した公爵令嬢ディアーヌ。しかしヴァレリアンは身分の低い男爵令嬢に夢中で、初夜をすっぽかしてしまう。代わりに寝室にいたのは、彼そっくりの影武者…生まれたときに存在を消された双子の弟ルイだった。
※「小説家になろう」にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる