seiling world

時富まいむ(プロフ必読

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「淘汰の国」

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僕は不思議な本に吸い込まれて、いつの間にかこの世界にいた。空にぽっかり空いた穴から落ちて、茂みの中に真っ逆さまだ。変な事に、痛くも痒くもない。体のどこかをひねっていてもおかしくないだろうに。

特段、これぐらいではもう驚かなくなっていた。同じ経験を幾度したわけではないが、似たような経験なら過去に数え切れないほどあったからだ。

まるで僕が着いた場所は、森の中。どこからか声がした。声の主の姿はとても小さい。赤いチョッキを着た、人の言葉を喋る白いウサギが「大変だ、遅刻だ。」と大騒ぎで走っている。しかし僕は知っていた事に残念で仕方がない。目新しさが感じられない。いざ、現実になったところを目の当たりにしても、それはそれ。
このパターンは異世界では有名なお伽話「不思議の国のアリス」の始まりである。・・・だとしたら、あのウサギを追いかけるのは好奇心旺盛な少女、アリスでないといけない。好奇心では負けてはいないものの、僕のような可憐さも華もない明るさもないやつれた旅人はむしろお邪魔虫だ。変なもので、まさか白ウサギから逃げるために物語を駆け巡るとは。

でも、それならば。僕の呼んだ本は「不思議の国のアリス」だったのか?いや、違う。似ていながらも妙な違和感があったのだ。そうそう、白ウサギが少年の姿に化けたのだ。そんな展開、不思議の国のアリスには存在しなかったしそもそも本の題名は何も書かれていなかった。とは言え、些細な問題に過ぎない。

かといってだ。旅人である僕がただコソコソ逃げ回るだけだと思ったら大違い。僕は僕なりに、関係ない所でいわゆる「名もない脇役」に徹して物語を堪能してやろうではないか。

さて、言わずと知れたあの童話にとてもよく似たこの場所は僕にどんな驚き、喜び、悲しみを感じさせてくれるのだろう。楽しみだ。
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