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24 泣くことと答えることは別
やがてベインズとマートンが揃って入ってくた。二人とも、ただならぬ話だと察している顔だ。
「手紙を見て欲しいの」
グラディス夫人が言う。
「ただし、ここだけの話よ」
「心得ております」
マートンが答える。私は手紙と、その下に見えた痕の話を説明した。
二人とも口を挟まず聞き、最後に紙を光へ透かして確かめる。
先に口を開いたのはベインズだった。
「……たしかに、部屋貸しの控えのように見えますな」
「学生の下宿屋の帳場で、こういう書き方は?」
私が問う。今度はマートンが少し考える。
「なくはありません。が、あまり上等のやり方ではございませんな」
「どういう意味」
ポーリーンが聞く。
「きちんとした下宿屋なら、長く置く客の帳面はもっと整然としている、ということにございます」
マートンが言う。
「三番部屋、前金、一週間――これはむしろ、その場限りの客を雑に入れる時の控えに近い」
私はグラディス夫人と目を合わせた。やはりそうだ。
「では、もっと安い宿か、短期の部屋貸し」
夫人が言う。
「ええ、その可能性が高いかと」
マートンが頷く。
「それから」
ベインズは紙を見ながら言う。
「この筆跡の癖、帳場に慣れた男のものには見えます。ですが、商用文をちゃんと習った者ほど整ってはおりません」
「ロナルド・ベイルが帳場を見ていた、という話には?」
私が問う。
「合うとも申せますが」
慎重そうにベインズは言う。
「それ以上のことは、この紙だけでは」
そうよね」
グラディス夫人が頷く。マートンはそこで少し思案顔になる。
「奥様」
「何かしら」
「“秋の市の日”とあるのが、妙でございます」
「妙?」
ポーリーンがまた聞く。
「男が逃げるために書くにしては、基準が曖昧すぎます」
マートンが答える。
「本当に己ではないと主張したいなら、もっと“あの日以後”“何月何日以後”と強く切るでしょう。市の日など、人によって覚え方が違います」
「それ、わたくしも気になっていました」
私は言った。
「じゃあ、わざと?」
ポーリーンが聞く。
「そうとも限りませんが」
ベインズが口を挟む。
「相手と自分にしか通じぬ基準で書くことは、私信ならよくございます」
「でもこの文面、私信にしては見せるために出来すぎておりますわ」
私の言葉に、ベインズはわずかに目を細める。
「……確かに」
小さな沈黙が落ちる。
紙一枚。それなのに、見れば見るほど、どちらへも倒れる。
グラディス夫人が静かに結論を出す。
「王都の下宿屋と、ロナルド・ベイルについては探りを入れましょう」
「承知しました」
ベインズが答える。
「表立たぬように」
「ええ。相手を刺激せずに」
「それと」
私は言った。
「できれば、“一週間前金”で女一人を入れるような宿にも心当たりを探ってください」
マートンが少し眉を上げる。
「そこまで?」
「ええ」
私は手紙を見た。
「この痕がいつのものか分からない以上、ロナルドの下宿屋だけ見ても足りません」
「……なるほど」
マートンが頷く。
「旦那様がエラ殿をどこへ置いたか、その途中も」
「そうです」
ポーリーンがそこで、はっとした顔をした。
「お兄様が帰ってくる前、手紙があったわ」
皆が彼女を見る。
「どんな?」
私が問う。
「二つ前くらいの手紙だったかしら……“少し人目を避けた宿を使うことになった”って」
ポーリーンは記憶をたぐるように言う。
「わたくし、その時は王都でのお友達づきあいかと思って流したのだけれど」
「それ、覚えていて?」私が問うと、
「全文は無理ですわよ」
ポーリーンはむっとする。
「でも、“しばらく落ち着かぬ宿で”みたいな言い回しだった気がするの」
グラディス夫人が細く息を吐いた。
「まあ。ずいぶんと親切にヒントを置いてきてくれたものね」
皮肉だ。だが本当にその通りだった。この男は本当に隠し事には向いていない。
自分では隠しているつもりで、アシュレイは痕跡をあちこちににまき散らして歩いてきたのだ。
「ベインズ」
夫人が言う。
「王都への便は今日すぐ出せる?」
「はい、奥様」
「では二本。ひとつは例の伝手へ。もうひとつは、女の宿を扱う顔の広い者へ」
「承知しました」
二人が下がると、部屋にはまた私達三人だけになる。ポーリーンが、机の縁に手をついて小さく唸った。
「何だかもう、わけが分からないわ」
「ええ」
私は答える。
「わたくしも最初はそうでした」
「でも今は分かるの?」
「分からないことが、少し形になってきただけよ」
ポーリーンがこちらを見る。
「エラに聞く?」
「聞くわ」
「すぐに?」
「……ええ、たぶん」
私は手紙を畳みながら考える。いま聞くべきことは、ロナルドのことだけではない。
“人目を避けた宿”“三番部屋”“一週間前金”
――もしエラがそこへ心当たりを示すなら、この紙がいつどこで書かれたかはかなり変わる。
「でも」
ポーリーンが言う。
「お義姉様、もしエラがまた泣いたらどうするの」
その問いに、私は少しだけ目を上げた。
「泣くのは構いませんわ」
そう答える。
「泣くことと、答えることは別ですもの」
グラディス夫人の口元がわずかに動いた。たぶん、笑ったのだろう。
「本当に、あなたは容赦がないわね」
「必要なだけです」
「ええ。そういうことにしておきましょう」
夫人はそう言って、椅子から立ち上がった。
「私は少しアシュレイの顔を見てくるわ。あの様子では、余計なことをしないとも限らないもの」
「お義母様が?」
ポーリーンが言う。
「お兄様を叱りに?」
「叱る価値があるだけまだましよ」
夫人は淡々と返す。
「いまは、勝手にエラの部屋へ行かせないためです」
私はそれに頷いた。たしかに、今のアシュレイを一人で動かせば、また“責任を取る”だの“信じている”だの、余計なことをエラへ言いかねない。
「では、わたくしはエラのところへ」
私が言うと、ポーリーンがすぐに顔を上げた。
「わたくしも行く」
「だめです」
私は即答した。
「どうして!」
「あなたは顔に出るから」
「出ませんわよ!」
「とても出ます」
「ひどい!」
言い合いになりかけたところで、グラディス夫人がぴしゃりと言う。
「ポーリーン。今回はアメリアに任せなさい」
「でも」
「でも、ではないの。あなたは今、エラを見るだけで怒りが顔に出るわ」
「……それは」
「分かっているならよろしい」
ポーリーンは口を尖らせるが、反論はそこで止めた。私はその様子を見ながら、少しだけ息を整える。
次はエラだ。
ロナルド・ベイル。市の日。それから、三番部屋と一週間前金。
この順で行くべきか。それとも、先にもっと柔らかいところからほぐすか。
考えて、すぐ決めた。
順番はやはり大事だ。だが、今回は核心から少しだけ外して入るほうがよさそうだった。
エラは追いつめられると、たぶん一番言いやすい“弱い答え”へ逃げる。
そこを避けるには、横から灯りを当てるほうが早い。
「お義姉様」
ポーリーンが、まだ不服そうな顔で言う。
「もし、エラが全部分かっててやっていたら」
「その時はその時よ」
私は答える。
「でも、まだ決めつけはしない」
「……そうなのね」
「ええ」
ポーリーンは少しだけ黙ってから、小さく言う。
「前は、そういうのが嫌だったわ」
「前?」
「何でもすぐ白黒つけないところ」
彼女は目を逸らした。
「でも今は……それがないと、たぶん見誤るんでしょうね」
私はその言葉に、ほんの少しだけ驚く。十六から十九の三年は大きい。ずいぶん人は変わるものだ。
「そうね」
私は静かに答えた。
「白黒つく前に、灰色の中身を見ないといけない時もあるわ」
ポーリーンはそれ以上何も言わなかった。
◇
私は手紙を持って部屋を出る。廊下は静かで、春の光が長く伸びていた。
東の客間へ向かう途中、ミルドレッドが戸口の近くで控えているのが見える。彼女は私を見て、ごくわずかに頭を下げた。
「様子は?」
「先ほどより少し落ち着かれました。ただ、何度か、どなたかを呼ぶように口を動かしておいででした」
「名前は?」
「そこまでは」
私は頷いて、扉の前へ立つ。手の中の紙は、やはり少し重かった。
三番部屋。一週間前金。
もし、エラがここでそれに見覚えを示せば――。
私はノックをした。中から、小さな声が返る。
「……はい」
扉を開ける。
エラはさっきより少しだけ顔色が戻っていたが、目元は赤かった。泣いたのだろう。
カップの中身は半分ほど減っていて、湯気の立つスープも少し口をつけた跡がある。それはそれで、悪くなかった。
少なくとも体はまだこちら側に戻ろうとしている。
「もう少し、聞いてもいいかしら」
私が言うと、エラは不安そうにしながらも頷いた。
「……はい」
私は今度は寝台の足元近くへ椅子を寄せた。近すぎず、遠すぎず。
「ロナルド・ベイルのことは、さっき聞いたわね」
そう言いながら、私はわざと手紙にはまだ触れなかった。
「では別のことを聞きます」
エラの指先が、寝具の上で小さく動く。
「あなた、王都でどこかに一週間だけ部屋を取られたことがある?」
その瞬間、エラの顔から、音もなく血の気が引いた。
「手紙を見て欲しいの」
グラディス夫人が言う。
「ただし、ここだけの話よ」
「心得ております」
マートンが答える。私は手紙と、その下に見えた痕の話を説明した。
二人とも口を挟まず聞き、最後に紙を光へ透かして確かめる。
先に口を開いたのはベインズだった。
「……たしかに、部屋貸しの控えのように見えますな」
「学生の下宿屋の帳場で、こういう書き方は?」
私が問う。今度はマートンが少し考える。
「なくはありません。が、あまり上等のやり方ではございませんな」
「どういう意味」
ポーリーンが聞く。
「きちんとした下宿屋なら、長く置く客の帳面はもっと整然としている、ということにございます」
マートンが言う。
「三番部屋、前金、一週間――これはむしろ、その場限りの客を雑に入れる時の控えに近い」
私はグラディス夫人と目を合わせた。やはりそうだ。
「では、もっと安い宿か、短期の部屋貸し」
夫人が言う。
「ええ、その可能性が高いかと」
マートンが頷く。
「それから」
ベインズは紙を見ながら言う。
「この筆跡の癖、帳場に慣れた男のものには見えます。ですが、商用文をちゃんと習った者ほど整ってはおりません」
「ロナルド・ベイルが帳場を見ていた、という話には?」
私が問う。
「合うとも申せますが」
慎重そうにベインズは言う。
「それ以上のことは、この紙だけでは」
そうよね」
グラディス夫人が頷く。マートンはそこで少し思案顔になる。
「奥様」
「何かしら」
「“秋の市の日”とあるのが、妙でございます」
「妙?」
ポーリーンがまた聞く。
「男が逃げるために書くにしては、基準が曖昧すぎます」
マートンが答える。
「本当に己ではないと主張したいなら、もっと“あの日以後”“何月何日以後”と強く切るでしょう。市の日など、人によって覚え方が違います」
「それ、わたくしも気になっていました」
私は言った。
「じゃあ、わざと?」
ポーリーンが聞く。
「そうとも限りませんが」
ベインズが口を挟む。
「相手と自分にしか通じぬ基準で書くことは、私信ならよくございます」
「でもこの文面、私信にしては見せるために出来すぎておりますわ」
私の言葉に、ベインズはわずかに目を細める。
「……確かに」
小さな沈黙が落ちる。
紙一枚。それなのに、見れば見るほど、どちらへも倒れる。
グラディス夫人が静かに結論を出す。
「王都の下宿屋と、ロナルド・ベイルについては探りを入れましょう」
「承知しました」
ベインズが答える。
「表立たぬように」
「ええ。相手を刺激せずに」
「それと」
私は言った。
「できれば、“一週間前金”で女一人を入れるような宿にも心当たりを探ってください」
マートンが少し眉を上げる。
「そこまで?」
「ええ」
私は手紙を見た。
「この痕がいつのものか分からない以上、ロナルドの下宿屋だけ見ても足りません」
「……なるほど」
マートンが頷く。
「旦那様がエラ殿をどこへ置いたか、その途中も」
「そうです」
ポーリーンがそこで、はっとした顔をした。
「お兄様が帰ってくる前、手紙があったわ」
皆が彼女を見る。
「どんな?」
私が問う。
「二つ前くらいの手紙だったかしら……“少し人目を避けた宿を使うことになった”って」
ポーリーンは記憶をたぐるように言う。
「わたくし、その時は王都でのお友達づきあいかと思って流したのだけれど」
「それ、覚えていて?」私が問うと、
「全文は無理ですわよ」
ポーリーンはむっとする。
「でも、“しばらく落ち着かぬ宿で”みたいな言い回しだった気がするの」
グラディス夫人が細く息を吐いた。
「まあ。ずいぶんと親切にヒントを置いてきてくれたものね」
皮肉だ。だが本当にその通りだった。この男は本当に隠し事には向いていない。
自分では隠しているつもりで、アシュレイは痕跡をあちこちににまき散らして歩いてきたのだ。
「ベインズ」
夫人が言う。
「王都への便は今日すぐ出せる?」
「はい、奥様」
「では二本。ひとつは例の伝手へ。もうひとつは、女の宿を扱う顔の広い者へ」
「承知しました」
二人が下がると、部屋にはまた私達三人だけになる。ポーリーンが、机の縁に手をついて小さく唸った。
「何だかもう、わけが分からないわ」
「ええ」
私は答える。
「わたくしも最初はそうでした」
「でも今は分かるの?」
「分からないことが、少し形になってきただけよ」
ポーリーンがこちらを見る。
「エラに聞く?」
「聞くわ」
「すぐに?」
「……ええ、たぶん」
私は手紙を畳みながら考える。いま聞くべきことは、ロナルドのことだけではない。
“人目を避けた宿”“三番部屋”“一週間前金”
――もしエラがそこへ心当たりを示すなら、この紙がいつどこで書かれたかはかなり変わる。
「でも」
ポーリーンが言う。
「お義姉様、もしエラがまた泣いたらどうするの」
その問いに、私は少しだけ目を上げた。
「泣くのは構いませんわ」
そう答える。
「泣くことと、答えることは別ですもの」
グラディス夫人の口元がわずかに動いた。たぶん、笑ったのだろう。
「本当に、あなたは容赦がないわね」
「必要なだけです」
「ええ。そういうことにしておきましょう」
夫人はそう言って、椅子から立ち上がった。
「私は少しアシュレイの顔を見てくるわ。あの様子では、余計なことをしないとも限らないもの」
「お義母様が?」
ポーリーンが言う。
「お兄様を叱りに?」
「叱る価値があるだけまだましよ」
夫人は淡々と返す。
「いまは、勝手にエラの部屋へ行かせないためです」
私はそれに頷いた。たしかに、今のアシュレイを一人で動かせば、また“責任を取る”だの“信じている”だの、余計なことをエラへ言いかねない。
「では、わたくしはエラのところへ」
私が言うと、ポーリーンがすぐに顔を上げた。
「わたくしも行く」
「だめです」
私は即答した。
「どうして!」
「あなたは顔に出るから」
「出ませんわよ!」
「とても出ます」
「ひどい!」
言い合いになりかけたところで、グラディス夫人がぴしゃりと言う。
「ポーリーン。今回はアメリアに任せなさい」
「でも」
「でも、ではないの。あなたは今、エラを見るだけで怒りが顔に出るわ」
「……それは」
「分かっているならよろしい」
ポーリーンは口を尖らせるが、反論はそこで止めた。私はその様子を見ながら、少しだけ息を整える。
次はエラだ。
ロナルド・ベイル。市の日。それから、三番部屋と一週間前金。
この順で行くべきか。それとも、先にもっと柔らかいところからほぐすか。
考えて、すぐ決めた。
順番はやはり大事だ。だが、今回は核心から少しだけ外して入るほうがよさそうだった。
エラは追いつめられると、たぶん一番言いやすい“弱い答え”へ逃げる。
そこを避けるには、横から灯りを当てるほうが早い。
「お義姉様」
ポーリーンが、まだ不服そうな顔で言う。
「もし、エラが全部分かっててやっていたら」
「その時はその時よ」
私は答える。
「でも、まだ決めつけはしない」
「……そうなのね」
「ええ」
ポーリーンは少しだけ黙ってから、小さく言う。
「前は、そういうのが嫌だったわ」
「前?」
「何でもすぐ白黒つけないところ」
彼女は目を逸らした。
「でも今は……それがないと、たぶん見誤るんでしょうね」
私はその言葉に、ほんの少しだけ驚く。十六から十九の三年は大きい。ずいぶん人は変わるものだ。
「そうね」
私は静かに答えた。
「白黒つく前に、灰色の中身を見ないといけない時もあるわ」
ポーリーンはそれ以上何も言わなかった。
◇
私は手紙を持って部屋を出る。廊下は静かで、春の光が長く伸びていた。
東の客間へ向かう途中、ミルドレッドが戸口の近くで控えているのが見える。彼女は私を見て、ごくわずかに頭を下げた。
「様子は?」
「先ほどより少し落ち着かれました。ただ、何度か、どなたかを呼ぶように口を動かしておいででした」
「名前は?」
「そこまでは」
私は頷いて、扉の前へ立つ。手の中の紙は、やはり少し重かった。
三番部屋。一週間前金。
もし、エラがここでそれに見覚えを示せば――。
私はノックをした。中から、小さな声が返る。
「……はい」
扉を開ける。
エラはさっきより少しだけ顔色が戻っていたが、目元は赤かった。泣いたのだろう。
カップの中身は半分ほど減っていて、湯気の立つスープも少し口をつけた跡がある。それはそれで、悪くなかった。
少なくとも体はまだこちら側に戻ろうとしている。
「もう少し、聞いてもいいかしら」
私が言うと、エラは不安そうにしながらも頷いた。
「……はい」
私は今度は寝台の足元近くへ椅子を寄せた。近すぎず、遠すぎず。
「ロナルド・ベイルのことは、さっき聞いたわね」
そう言いながら、私はわざと手紙にはまだ触れなかった。
「では別のことを聞きます」
エラの指先が、寝具の上で小さく動く。
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その瞬間、エラの顔から、音もなく血の気が引いた。
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