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第3話 契約恋人
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翌日の放課後。
俺はやけに落ち着かなかった。
机の中に入れた契約メモを何度も確認する。
《疑似恋愛契約・期間三ヶ月》。
自分で言い出したくせに、文字にすると現実味がある。
「朝比奈」
振り向くと、一ノ瀬が立っていた。
「本日より開始。最初の行動は?」
「……え?」
「計画性がないのは非効率」
相変わらずだ。
「とりあえず、一緒に帰るとか」
「妥当」
それだけ言って、俺の隣を歩き出す。
教室を出る瞬間、クラスの視線が刺さった。
「え、マジで?」
「昨日の本気?」
ざわざわする声。
心臓が跳ねる。
どくん。
昨日より明らかに強い。
「心拍、上がってる?」
一ノ瀬が横目で聞く。
「……多分」
「良好」
校門を出ると、春の風が少し冷たい。
「手は?」
「は?」
「恋人なら接触は自然」
理屈で言われると断りにくい。
「データ収集」
「分かったよ」
俺は恐る恐る、彼女の手に触れた。
細い。冷たい。
一瞬、彼女の指がぴくりと動く。
次の瞬間、きゅっと握られた。
「……!」
どくん、どくん。
心臓が暴れる。
「数値は?」
「今、180いっててもおかしくない」
「誇張は不要」
顔が熱い。周りを歩く生徒たちがちらちら見ている。
「離す?」
「維持」
淡々としているくせに、手は離さない。
駅前通りに出ると、人通りが増えた。
ガラスに映る俺たちは、どう見ても普通のカップルだ。
「違和感は?」
「ありまくり」
「具体的に」
「距離が近い」
「合理的距離は?」
「知らないよ」
彼女は小さく息をついた。
「感覚値の曖昧さが恋愛の非効率性」
「じゃあやめるか?」
「それは困る」
即答だった。
俺は思わず彼女を見る。
「……実験が未完」
少しだけ、言葉が遅れた気がした。
コンビニ前で足を止める。
「次の行動」
「ジュースでも買う?」
「承認」
店内に入る。蛍光灯の光が強い。
冷蔵棚の前で手を離した瞬間、急に鼓動が落ち着いた。
「……分かりやすい」
一ノ瀬が言う。
「接触時のみ上昇傾向」
「そんな分析するなよ」
ペットボトルを二本持ってレジへ向かう。
会計を済ませ、外に出る。
夕方の空が少し暗くなっていた。
「再接触」
「命令みたいに言うな」
でも、また手を握る。
今度は、さっきより自然だった。
彼女の指先が、ほんの少し温かい。
「一つ確認」
歩きながら彼女が言う。
「何?」
「あなたは私を好き?」
足が止まりそうになる。
「実験だろ」
「質問に回答」
逃げられない。
「……分からない」
本音だった。
「昨日は命のため。今は?」
今は。
手の温度を意識している自分がいる。
鼓動を理由にして触れている自分がいる。
「……まだ、命のため」
彼女は数秒黙った。
「了解。なら問題なし」
駅前の横断歩道。信号が赤から青に変わる。
人波に流れながら、俺は思う。
これは契約だ。
本気は禁止。
なのに。
信号を渡り切る直前、彼女が少しだけ握る力を強めた。
「心拍、上がった?」
「……上がった」
「良好」
彼女はわずかに口角を上げた。
初めて見る、ほとんど笑顔に近い表情。
どくん。
これは実験のせいか?
それとも。
駅の階段を上る前、彼女が立ち止まる。
「次回は土曜。デートを設定する」
「デート?」
「効率を上げる」
俺は喉が渇いた。
「場所は?」
「検討中。心拍が最大化する環境が望ましい」
そう言って、彼女は改札へ向かった。
振り返らない。
でも、最後に一言だけ残した。
「朝比奈。倒れる前に、ちゃんと上げなさい」
電車の到着音が響く。
俺はその場に立ち尽くした。
三ヶ月。
疑似恋愛。
本気禁止。
それでも。
もう昨日の平坦な心拍には戻れない。
次は土曜。
“デート”だ。
俺はやけに落ち着かなかった。
机の中に入れた契約メモを何度も確認する。
《疑似恋愛契約・期間三ヶ月》。
自分で言い出したくせに、文字にすると現実味がある。
「朝比奈」
振り向くと、一ノ瀬が立っていた。
「本日より開始。最初の行動は?」
「……え?」
「計画性がないのは非効率」
相変わらずだ。
「とりあえず、一緒に帰るとか」
「妥当」
それだけ言って、俺の隣を歩き出す。
教室を出る瞬間、クラスの視線が刺さった。
「え、マジで?」
「昨日の本気?」
ざわざわする声。
心臓が跳ねる。
どくん。
昨日より明らかに強い。
「心拍、上がってる?」
一ノ瀬が横目で聞く。
「……多分」
「良好」
校門を出ると、春の風が少し冷たい。
「手は?」
「は?」
「恋人なら接触は自然」
理屈で言われると断りにくい。
「データ収集」
「分かったよ」
俺は恐る恐る、彼女の手に触れた。
細い。冷たい。
一瞬、彼女の指がぴくりと動く。
次の瞬間、きゅっと握られた。
「……!」
どくん、どくん。
心臓が暴れる。
「数値は?」
「今、180いっててもおかしくない」
「誇張は不要」
顔が熱い。周りを歩く生徒たちがちらちら見ている。
「離す?」
「維持」
淡々としているくせに、手は離さない。
駅前通りに出ると、人通りが増えた。
ガラスに映る俺たちは、どう見ても普通のカップルだ。
「違和感は?」
「ありまくり」
「具体的に」
「距離が近い」
「合理的距離は?」
「知らないよ」
彼女は小さく息をついた。
「感覚値の曖昧さが恋愛の非効率性」
「じゃあやめるか?」
「それは困る」
即答だった。
俺は思わず彼女を見る。
「……実験が未完」
少しだけ、言葉が遅れた気がした。
コンビニ前で足を止める。
「次の行動」
「ジュースでも買う?」
「承認」
店内に入る。蛍光灯の光が強い。
冷蔵棚の前で手を離した瞬間、急に鼓動が落ち着いた。
「……分かりやすい」
一ノ瀬が言う。
「接触時のみ上昇傾向」
「そんな分析するなよ」
ペットボトルを二本持ってレジへ向かう。
会計を済ませ、外に出る。
夕方の空が少し暗くなっていた。
「再接触」
「命令みたいに言うな」
でも、また手を握る。
今度は、さっきより自然だった。
彼女の指先が、ほんの少し温かい。
「一つ確認」
歩きながら彼女が言う。
「何?」
「あなたは私を好き?」
足が止まりそうになる。
「実験だろ」
「質問に回答」
逃げられない。
「……分からない」
本音だった。
「昨日は命のため。今は?」
今は。
手の温度を意識している自分がいる。
鼓動を理由にして触れている自分がいる。
「……まだ、命のため」
彼女は数秒黙った。
「了解。なら問題なし」
駅前の横断歩道。信号が赤から青に変わる。
人波に流れながら、俺は思う。
これは契約だ。
本気は禁止。
なのに。
信号を渡り切る直前、彼女が少しだけ握る力を強めた。
「心拍、上がった?」
「……上がった」
「良好」
彼女はわずかに口角を上げた。
初めて見る、ほとんど笑顔に近い表情。
どくん。
これは実験のせいか?
それとも。
駅の階段を上る前、彼女が立ち止まる。
「次回は土曜。デートを設定する」
「デート?」
「効率を上げる」
俺は喉が渇いた。
「場所は?」
「検討中。心拍が最大化する環境が望ましい」
そう言って、彼女は改札へ向かった。
振り返らない。
でも、最後に一言だけ残した。
「朝比奈。倒れる前に、ちゃんと上げなさい」
電車の到着音が響く。
俺はその場に立ち尽くした。
三ヶ月。
疑似恋愛。
本気禁止。
それでも。
もう昨日の平坦な心拍には戻れない。
次は土曜。
“デート”だ。
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