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元夫の部下もストーカー
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しおりを挟む軽くノックする音が聞こえて、入れと答えた。
「氷持って来ました。」
長い付き合いであるビーが、面白そうに俺を見ながら氷の入った袋を手渡した。
モモラにパンチを入れられたのは想定内だったが、まさか背後の壁で頭を打つとは思っていなかった。
今日は親衛隊の実技試験だったのだが、とんでも無くみっともない場面を見られてしまった。
「テメェ……なんだよその目はよ!」
「いえ、まさか自分の妻に先手取られるとは……。」
俺の頭が、モモラの手で思い切り跳ね上げられるところを思い出したのか、笑いを堪えようと必死に唇を噛んでいる。
いつもならぶん殴ってるところだが、そんな気力も湧かん。
「……元妻だ。」
「なら、女性へのあの行為は犯罪ですよ。」
「うるせぇ、もとはと言えばお前があいつをしつこくつけ回すからだろ。」
俺が睨みつけて言えば、呆れた様にため息を吐いてソファーに腰掛けた。
この馬鹿が尾行に気付かれたせいで、モモラは学無しと鉢合わせて転ぶ羽目になったのだ。
怪我の確認ついでに唇はつけてしまったが、そもそも俺が触れる動機を作ったこいつが悪い。
「俺の任務は彼女の護衛なのに、つけ回さなきゃ守れません。」
「気づかれない様にしろつっただろ。」
「いつもやってます。ただ、今日はどういうわけか俺に気づいたみたいです。」
ビーは部下の中でも、隠密行動が群を抜いて優秀だ。
その尾行に気づくとは、並大抵の者ではできない。
「奥方に隠密とか教えたんですか?」
「いや、軽い護身術ぐらいだ。基本は俺かお前か、ババロがそばに居たからな。」
「では、最近彼女の周りにいる奴らでしょうか?」
彼女がこの領地に帰って来て以来、常にそばにいるあの3人。
見かけや行動からも、只者じゃないのは確かだろう。
なにより、俺の情報網を駆使しても、奴らの正体は掴めなかった。
「彼ら3人は、彼女と寝食ともにしている様ですね。」
「あ?」
「今日、彼女の家までついて行ったら、3人分のシーツが干してありましたよ。」
ビーが言わない方が良かったなと顔に出す前に、氷の袋は俺の手によって無残にも飛び散った。
同棲だと?
「女性の一人暮らしは危険ですから、むしろ安心では?」
「女と一つ屋根の下で何もしないのは、男色家と玉無しだけだ。」
「彼ら3人からは強い忠誠心を感じます。強い忠誠心は欲望に勝る。と誰かが言っていました。」
妻の言葉だ。
彼女自身、その強い忠誠心で俺の身を守ってくれた。
「ご存知の通り、奥方は聡明な方ですから、心配ご無用でしょう。」
「何言ってんだ。アイツが所々抜けてるのはお前も承知だろ?」
「……そこが可愛いと言っていたのはどこの誰ですか?」
生意気な口を叩く頭を引っ叩いて、出て行けとケツを蹴り上げた。
最初は俺を尊敬の目でキラキラと見ていたビーも、モモラの護衛についたせいで影響を受けたのか、随分と生意気に成長してしまった。
いや、ビーだけじゃないだろう。
他の部下や従者達も、モモラの俺を恐れない、それどころか掌の上で転がす様を見て、いつしか恐怖の色をなくして行った。
誰にでも分け隔てなく、自由に振る舞う彼女が懐かしい。
やはり放すべきではなかった。
無理やりにでも、籠の中に閉じ込めておけば良かった。
だが、そんな事をすれば彼女は、持ち前の知恵と精神で何がなんでも抵抗するだろう。
……抵抗だけならまだ可愛い方か。
一度彼女を俺は失った。
だから二度と失うわけにはいかないのだ。
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