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元夫のストーカーは続く
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しおりを挟む「何やってるんすか?」
グイっと痛いぐらい腕を引っ張っているのは、以前ぶつかったわんこ少年だった。
眉間にシワを寄せて私を見る姿は、昨日の可愛いさの面影もない。
私が大公の部下で見たことのない顔、腕章もつけてないところを見るとまだ新人さんの様である。
「昨日のことで話し合ってただけよ。」
「話し合いに、ナイフが必要ですか?」
「これが紳士同士のイザコザならいらなかったかしら。」
「連行します。」
「ここで喧嘩はご法度よ。」
私の言葉を無視して、紙袋を手に被せたビャクが少年の後ろに立った。
止めてくれるのはありがたいが、少々荒っぽすぎる。
さっきまでのお客達の喧騒が、一気に冷ややかなものに変わっていく。
「動いたら、腹に風穴開くぞ。」
「学無し。手を放せ。」
「タイガーさん。彼女は大公に刃を向けた、立派な犯罪者です。」
「誰が犯罪者よ、失礼しちゃう。ビャク、アナタは下がりなさい。」
チラリと私を見て、渋々と手を下ろして厨房に戻っていく。
きっと厨房では臨戦態勢の3人が、虎視眈々とこの子の首を狙っているのだろう。
「さっきも言ったけど、私は話し合ってたの。こんな風にされる覚えも、罪人呼ばわりされる覚えもないわ。」
「確かに、昨日のことは大公陛下に非があるが……。」
「あらあらまあまあ。例え陛下に非があっても、勇気を持って戦った民は排除されるの?なんと言うことでしょう!」
皆さん聞きまして?
わざとらしく声を上げて言えば、周りの女性客達はヒソヒソと声を潜めて話し出す。
こうなってしまえば、放って置くだけで大公の株はまた大暴落してしまうことだろう。
まぁ、私は大公と敵対したい訳ではない。
ただお灸を据えてやりたいのだ。
「お若い騎士様。今、貴方の浅はかな行動で、大公陛下の名誉が傷ついています。」
少年はそう言われて気づいたのか、肩をびくりとさせた。
それもそうだ。
彼が言ったナイフなんてものは、誰も見ていない。
ポケットにしまってあるだけだが、客の誰も私がナイフで脅した所なんて見ていないのだ。
仮にナイフがポケットから出されても、客の落としたナイフを交換したと言い訳もできる。
若さ故の経験不足だな、少年よ。
「もちろん、大公陛下への直接の対話は無礼でした。謝ります。ですが、寛大な大公陛下は私の様ないち民の言葉も聞き入れてくれます。」
先程まで固く握られていた手が、少しだけ緩んだ。
放せと大公が言っているのに、命令違反はそっちだろう。
「貴方はまだ若い。故に正義の心が行き過ぎてしまう事もあるでしょう。きっと、陛下もそれを汲んで貴方の先程の命令違反も許してくださります。」
わかったらとっとと放せこの野郎。
そう言う目を向けながら、少年に静かに微笑んで見せた。
この時私は、大公が私を困った様に眉尻を下げた、でも口元は綻んでいる様な複雑な顔で見ていたなんて、知る由もなかった。
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