武神大公は元妻のストーカーがやめられない。〜元夫に敵視されていると思っている元妻の令嬢と、その元妻をストーキングしている元夫の大公のお話〜

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ストーカーが公式になりました

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 眼前に広がる花は、美しい色彩と、ほのかな香りを与えてくれる。
 すっと、私の前に手を差し出した大公は、どうやら私をエスコートしてくれるらしい。
 思わず笑いそうになってグッと頬に力を入れた。


「なんだよ。」
「顔に出てた?ごめんなさい。」


 詫びれる気もなく、彼の手を握り返せば、優しく力が込められた。


「この温室も変わらないのね。諸行無常と言うけれど、この屋敷だけは何もかも変わらない。」


 そう変わっていないのだ。
 私がかつて季節ごとに植えていた花の種類も、木々の剪定の形も、奇妙なほどに。


「腕のいい庭師を雇った。お前が随分綺麗にしてたから、勿体なくてな。」
「意外。花なんかに興味ないのかと思ってた。」
「そうだな……花に興味はねぇよ。」


 彼が珍しく優しげな目で私を見るからか、居心地が悪くなって手を解いた。
 昔よくお茶をしたソファに腰かける。


「あまり、長居はしたくないの」


 私の言葉に眉を潜めた大公は、小さく息を吐いて向かいのソファに腰を下ろす。
 だって、あまり時間がかかると残してきたハジメ達が暴れ出しそう……。


「宰相にお前を差し出せと言われた。」
「でしょうね。いつまでも国賊を放っては置けないわ。」
「お前は国賊じゃねえだろ。」
「違っても、抑止力はなるでしょうよ。例えば死刑とか?」


 楽しげに笑う私とは反対に、大公が眉間のシワをますます深める。


「皇帝への反逆は重罪。それを公開処刑として取り扱えば、自然と反旗の姿勢は飽和される。ハロルドが考えそうね、如何にもって感じ。」
「お前とアイツは仲がいいと思ってた。」
「いいよとってもね。似た物同士だし?」
「……昔、アイツがこっそり厨房で料理を習っていたが。」
「あぁ、私に毒入りスープを飲ませたかったらしいんだけど、ただ入れるだけだと私気づいちゃうから。自分で調節したかったそうよ。」


 今でも、毒を見抜いて逆に飲ませようとした時の彼の顔は忘れることができない。
 自分の悪巧みがバレたのは、兄以外に初めてだったそうだ。


「……すまん。」
「何が?おかげで退屈しないで済んだもの。お礼を言いたいぐらい。」


 嫌味とかではなく、全て本心である。
 花嫁修行として王宮にいた時は、退屈で仕方がなかった。
 逃げ出してやろうかと思うぐらい。


「だから、一度皇帝には挨拶したいと思ってたの。」
「馬鹿か、今会いに行けば、殺される。」
「あら、やっぱり殺されるの私?」


 私の言葉に目を点にした彼は、何を言っているのかわかってないらしい。
 しばらく、それでも30秒ほどで気づいたのか、不機嫌そうに私を睨んだ。


「鎌かけたな。」
「いやね、確信に近い推測だったから。でも、当然よね。首謀者の前王妃を死刑にして見せしめにはできない。なら、誰を祭り上げるのか、前王妃の傀儡で、誉高き大公を誑かしたこの私。」


 ぴったりと、まるで初めから仕組まれたように完璧な構図である。
 まぁ実際そうなのだろうけど。


「でどうする?今私がここにいて、貴方は宰相を殺そうとしていたのだから、薄々答えは見えているけど。」
「しばらくはこの屋敷にいろ。俺はその間に皇帝に会いに行ってくる。」
「それじゃ、意味がないわ。貴方が目を光らせてるから、私は生きていられる。」


 大公のいる領地で私が殺されれば、大公にいち早く知らせが行く。
 そうすれば、犯人が誰かは彼が突き止めてくれるだろう。


「皇帝は、お前を公の場で見せしめに殺したいはずだ。」
「皇帝はね?」
「……誰に狙われてる」


 さあね?と、妻だった頃は出来なかった足を組む姿勢をとった。
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