武神大公は元妻のストーカーがやめられない。〜元夫に敵視されていると思っている元妻の令嬢と、その元妻をストーキングしている元夫の大公のお話〜

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ストーカーの弟

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 伯父であるルイール卿とは面識があった。
 会うたびに、己の分を弁え王妃様に仕えるようにと言っていた。
 おかしな話だ、皇帝こそが貴族が仕えるべき相手であるのに。


「伯父は、南の王国に保護してもらっていたはずよ。」
「どうかしら、あのドブネズミさんのことだから、案外王都の地下に隠れていたのかも。」


 母は廃れた子爵家の娘だった。
 王妃の実家伯爵家の援助と引き換えで、母が男爵家に嫁ぎなんとか立て直したらしいが、それも王妃が投獄されてからは元の貧乏子爵に早変わり。
 母と父は逃亡の末死亡し、伯父様もてっきり南の王国で息を潜めていると思ったが。
 私のしぶとさは、伯父様譲りなのかなと私が笑うとレイがクスクスと笑い声を立てる。


「モモったら、あの男がしぶといのはあなたみたいに考えがあってできたことじゃないわ。」
「私も、何もかも全部考えて行動してるわけじゃないよ。」
「意識せずとも合理的な判断を下せる人はいるのよ。」


 レイは私を過大評価しすぎだ。
 決して馬鹿ではないと思っているが、それでも政治に対して教育を受けたハロルドやレイには到底及ばない。
 手入れがきちんとされた温室の花を見て、いつだったか泥だらけになりながら植えていて大公に叱られた時のことを思い出した。
 まだその時は大公ではなく、ただの旦那様だったが。


「今回も、私の判断は外れてた。」
「でも、ハロルドが一枚噛んでるのは事実よ。」


 宰相が直に監視してるんですもの。
 そう言ってレイは、ニマニマと嬉しそうな顔をしている。
 彼女は私と同じく、ハロルドのブラコンっぷりを知っている数少ない人だ。
 今回のことで、ハラルドの奇行が暴かれ一泡吹かせるのを楽しみにしている。


「私もあなたもハロルドには、一杯食わされてばかりだから、腕が鳴るわね?」
「やっと仕返しができると思うと、少し心が晴れる。」


 私が笑い返すと、レイはじゃあと手をパンと叩いた。


「そろそろ教えて欲しいのだけれど。」
「何を?」
「もうっ、あなたがここへ来た理由よ。私に知らせてもくれなかったんだから、それぐらい教えてくれない?」


 レイの言葉に、一瞬戸惑う。 
 私が国を出てから、連絡を取り合っていたのはレイだけだ。
 ハロルドや大公は連絡どころか、どこに行ったかも伝えていない。
 この国、状況を知ることができたのは唯一レイからの手紙だった。
 彼女が、この国で怪しい動きがあると言うから来たのだ。
 顔しかめたまま、レイに私は言葉をかける。


「私、レイから手紙を貰ったから来たんだよ?大公の前だから、レイも安易に喋らないのかって思ってたけど……。」


 薄々と感じられる私に手紙を送った人の名前を、頭に浮かべた。
 隣のレイも同じことを思ったのか、してやられたと顔に書いている。


「私がどこへ逃げたのか知っているのは、ハロルドとの共通の友人だけよ。」


 また一杯食わされたのだと気づくが早いか、レイは足を音を立てて温室を後にした。
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