武神大公は元妻のストーカーがやめられない。〜元夫に敵視されていると思っている元妻の令嬢と、その元妻をストーキングしている元夫の大公のお話〜

百百百百

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ストーカーの弟

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 ハジメは言った。
 今この状況で出ていくと言うなら、万全の態勢が必要ですと。

 
「マジでこんなに必要?」


 土や砂利がたくさん詰まったハジメお手製の防弾ジョッキを着せられ、足には鎖のようなものが巻き付けられた。
 残念ながら狙撃は練習していないので、銃はダメとのことらしい。
 代わりにポケットの中に入れられた物は、何かは知りたくない。
 私はいつもより何倍も重くなった身体を引きずって、ビャクとハジメについて行く。


「死にたくないなら黙って着てろ。」


 既に戦闘モードなビャクに言われ、ブーブーと頬を膨らませた。
 ハジメを先頭に、向かうは闘技場の下敷きになっているはずの地下室。
 本当は、ハジメ達だけで行ってきて欲しかったが、地下室を知るのは私だけだ。
 母が亡くなったせいで、ルイール卿も途方に暮れたに違いない。
 だが、ある日私がこの国に戻ってきていると知った。
 そして、私を探すためにありとあらゆる手を使ったのだろう。
 ハロルドの策略とは知らずに……哀れ。
 
 私が汗だくになりながら到着した闘技場。
 ハジメが私を労う中、ビャクは冷ややかに笑った。


「その程度で根をあげてりゃ、死んでも三途の川を渡れずに戻ってくるな。」
「不吉すぎて笑えないんだけど。」
「銃撃が始まったら頭を低く、打たれますよ。」


 不吉な話題が絶えないことに、私もそろそろ慣れなければならん。
 これでも幾らか修羅場は経験したのだ。
 ビャクが狙撃の位置を探しに離れ、私達二人は闘技場の中へ。
 控え室の扉が並ぶ薄暗いローカ。
 当時地下は貴族達にとって、良いものも悪いものも隠すのには最適であった。
 頑丈で隠密、外敵から身を防ぐにはもってこいだ。
 闘技場はいざと言う時避難所にもなる。
 故に、地下室を防空壕として置いておくのは、私と長らく語り合ったハロルドなら容易に思いつく。
 歩みを進めると、ハジメが下に続く階段を見つけ私を止めた。


「俺から離れないようにしてください。」


 言われなくても離れないと首を縦に振る。
 ハジメの服をがっしり掴んで、私たちは地下への階段を下りた。

 地下のせいかより薄暗く、ほのかにカビ臭かった。
 部屋は大部屋になっていて、角の方に闘技用の武器がちらほらある。


「最悪ね、隣接してる貴族達の地下室も合わせて、大きく建て直されてるわ。」
「壁のレンガを一つずつくりぬきますか?」
「そんなことしてたら日が暮れるわ。」


 爪の形をした彫刻を探しなさいと、ハジメに指示を出す。
 従順な彼は、一つ一つのレンガを入念に見て行く。
 私も、ハジメとは逆の方から一つずつ埃を払っては確認する。


「昔、興味本位で母が地下室を出た後、忍び込んだことがあるの。」
「以前から思っていましたが、貴族の生まれにしては随分お転婆ですね。」
「私がしおらしくしてたら、今頃君は豚箱で臭い飯食べてるところよ。」


 私が皮肉るような笑みを浮かべると、それもそうですねとハジメは笑った。
 私はそれで、と話を続ける。


「忍び込んだはいいものの、扉が勝手にしまって今度は出られなくなっちゃってね。」
「意外に間抜けなところは変わらないんですね。」
「失敬ね、そこが可愛らしいところでしょう。」


 自分でも言ってて笑えてくる。
 その間抜けのせいで、丸一日閉じ込められた私は、マッチ一本とろうそく一本が耐えるまで懸命にレンガに彫刻を彫ったのだ。
 まぁ、2日経った朝にはきちんと見つけてもらえた。


「よく言うでしょう?死ぬ前に作った作品が、その人の死後高値で売れること。」
「……もしかして、これのこと言ってます?」


 ハジメが指差したレンガに、私は食らいつくとそれだと両手を上げた。
 落ちていた釘で浅く彫っただけだったが、よく残っていたものだ。
 私はそのレンガを頼りに、右に7つ、上に9つ目のレンガを触った。


「ろうそくが消える直前、私は何かが光ったのを見たの。」
「それがルイール卿の探しているものですか?」
「おそらくね、母はそれをとても大切にしているみたいだった。」


 頻繁にここにそれを確認しにきていた。
 まぁ、そのおかげで私はそれの存在を知ったのだけれど。
 ハジメがレンガを一つ引き抜くと、奥行きのある空間に金の棒が一本。
 本物の純金である。
 この棒一本だけでも、生涯遊んで暮らせるだろう。


「伏せろっ!」


 私が棒を取り出すや否や、ハジメは私の上に覆いかぶさった。
 私たちが立っていたところのレンガは無残に打ち砕かれ、残骸が私たちに降り注いだ。
 今度こそ、銃を持った男達が私たちに照準を合わせた時、ハジメは私のポケットから手榴弾を取り出し、躊躇なくピンを抜いた。
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