武神大公は元妻のストーカーがやめられない。〜元夫に敵視されていると思っている元妻の令嬢と、その元妻をストーキングしている元夫の大公のお話〜

百百百百

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番外編 元妻とストーカーの馴れ初め。

友好と書いて、餌付けと読む

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 朝目が覚めて、当然ながら王子様は帰って来なかった。
 夫婦にとって大事な日を途中で放棄とは、私自身の王宮での権限にも関わる。
 多少の恥辱は我慢できるが、あまりに舐められるのは危険だ。
 
 王子様と良好な関係は、私を見下す人間達への牽制になり、円満離婚への近道だ。
 さて、では私はどうするべきか。
 幸いにも、私は普通の人間よりもプラス三十経験値がある。
 それを活かさねば。
 ベッドから立ち上がり、数少ないドレスの中から薄いベージュを選び取る。
 
 王子に割り当てられる予算は、王妃によって削られていた筈だ。
 皇太子妃の私にも割り当てられるとは言え、それは微々たるもの。
 加えて王妃の監視付きともくれば、その金を王子に流すのは難しいことだ。
 ではでは、私ができることは何か。

 私は王子の妻だ。
 妻がすることと言えば、家事に夫のお世話、後は家計管理と言ったところか。
 ちなみに、そう言ったものはこの世界では大変稀なことだ。
 召使がいて、それらのことは全て彼らがこなす。
 
 しかし、幸か不幸か王子付き私付きの召使は少ない。
 それはもう皇帝や王妃、第二王子にすら劣る人数だ。
 皇太子と言えば次に皇帝となる存在。
 この状況を見れば、今どれほどうちの王子様が軽んじられているかわかるだろう。
 吹けば飛ぶような存在。
 もちろん、そう簡単に飛ばされるつもりはあの王子には無さそうだが。
 
 だがやはり、金は必要だ。
 大量とは言わないまでも、自由にできるお金が。
 ここで、出てくるのが私がかつて世を凌ぐために身につけた節約術である。

 私の予算だけあれば、召使達への給与と皇太子宮の維持費、生活費は賄える。
 私は厨房までの道のりで、考えをまとめていく。

 あまり派手に動いては、王妃に勘付かれる恐れもある。
 あくまで、私は王妃側のスパイだと思われなくてはならない。
 その上で、王子と友好な関係を築くのだ。

 厨房に入って、大きめに切った具材の葉や先の部分を捨てようとする料理長を止めた。


「あら、嫌だ。そんな勿体ない作り方してらっしゃるの?これだから皇太子宮の料理は下の下だって言われるのね?」


 はんと笑い飛ばす私に、料理長の眉がぴくりと動いた。
 確か、召使は庭師から料理長に至るまで、全て王妃の息のかかった人間のはずだ。


「こんなにどかどか食材を使うから、王子様がぶくぶく大きくなるんじゃなくって?」


 戦場に行く王子にとって、身体は資本だ。
 食事をたらふく与えていては、彼の武功がより一層上がってしまう。
 そう言った指摘をすれば、料理長の顔がサッと青ざめた。
 王子が武功を上げてのし上がるのは、自分の子を皇帝にしたい王妃には不都合極まりない。
 
 私は軽く料理長の肩を叩いて、優しく囁いた。


「野菜はスープにして良く煮詰めなさい。量がバレないように、きちんと茎なんかも刻みなさい。それと肉は鳥や豚も混ぜること。」


 いいわね?と微笑むと、料理長は大人しく頷いて見せた。
 この国の料理に関する本を何冊か見たが、味のどうこうは載っているのに、栄養に関する記載はないに等しかった。
 つまり、どこにどんな栄養があって、どんな効果があるのか。
 そう言ったことに、無知なのだ。

 これは使えると思っていたが、まさかこんなところで役立つとは。
 豚や鳥を混ぜれば、食費の削減にもなる。
 ウシシと、静かにほくそ笑んで厨房の召使達に向き直る。


「これからも、王子様と私のために美味しい料理を作ってくださいね。」


 ご機嫌ようと、淑女らしく呟いて私は厨房を後にした。
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