殿下、その婚約破棄の宣言が、すべての崩壊の始まりだと気付いていますか?

水上

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第81話:王都復興計画

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「――皆様。これから行うのは、単なる修理ではありません。再定義です」

 王城の大会議室。
 巨大なオーク材のテーブルの上には、王都の精密な地図が広げられていました。
 そこに集まっているのは、私が選抜した若く優秀な技術官僚たち、そして新摂政となったマックス様です。

 かつて、無能な大臣たちが保身のための会議を繰り返していたこの部屋は今、熱気とインクの匂い、そして未来への希望に満ちていました。

「ジュリアンナ様。……再定義とは、具体的には?」

 建設局長代理(元・平役人)が、緊張した面持ちで尋ねます。

「現在の王都を見てごらんなさい」

 私は地図の上を指揮棒でなぞりました。

「迷路のように入り組んだ路地。行き止まりの道。無秩序に建て増しされた家々……。これは昔の城塞都市としての構造を引きずっています。敵の侵入を防ぐには有効ですが、物流と衛生、そして防災の観点からは最悪です」

 私は赤いインクをつけたペンを取り、地図の上に思い切りよく直線を引きました。

「なっ……!?」

 官僚たちが息を飲みます。
 私が引いた線は、既存の街並みを無視して、王都を縦横に貫いていたからです。

「街を貫通する、幅三十メートルの大通りを通します」

「さ、三十メートル!? そんなに広い道をですか!? 今の家々を立ち退かせることになりますが!」

「ええ。ですが、これが必要です」

 私は三本の指を立てて解説しました。

 物流の動脈:大型馬車がすれ違える広さを確保し、アイゼンガルド大橋からの物資をスムーズに中心部へ運びます。

 風の通り道:新鮮な空気を街全体に行き渡らせ、かつてのような悪臭の滞留を防ぎます。

 延焼遮断帯:もし火事が起きても、道路の幅が広ければ火が飛び火せず、そこで食い止められます(ファイア・ブレイク)。

「都市改造の教訓です。……痛みは伴いますが、これで王都は呼吸する都市に生まれ変わります」

 さらに、私は街の区画を格子状に整理しました。

「上下水道は、この大通りの地下に埋設します。……もう二度と、どの家の下に管があるか分からないなんて事態は招きません。メンテナンス用の共同溝も作ります」

「共同溝……。人が歩ける地下トンネルに、配管をまとめるのですか? そ、それは画期的ですが……、予算が……」

 官僚が青ざめます。
 莫大な費用がかかるのは明白です。

「金ならある」

 そこで、上座に座っていたマックス様が口を開きました。

「旧王家から没収した隠し財産、不用品の売却益、そして……、国債の空売りで得た利益がある。ジュリアンナの試算では、お釣りが来るそうだ」

 マックス様は、私を見てニヤリと笑いました。

「それに、俺たちはもう見栄に金を使わなくていい。全ての予算を機能に突っ込めるんだ。……ジュリアンナ。君の好きにしていい」

「ありがとうございます、閣下」

 私は優雅に一礼し、さらに筆を進めました。

「次に、公園です」

 私は地図の要所要所――特に火災が広がりやすい木造密集地帯の跡地を、緑色で塗りつぶしました。

「えっ? 一等地をただの広場にするのですか? もったいないのでは……」

「ロッテ、あなたはどう思いますか?」

 私は控えていたロッテに話を振りました。

「えっとぉ……。おもちゃ箱におもちゃがギチギチに詰まってると、探すのも大変だし、カビが生えますよね? 隙間(スペース)がないと、息苦しいです!」

「その通りです。都市における空地(オープンスペース)は、無駄な場所ではありません。……災害時の避難場所になり、普段は人々の憩いの場となり、そして都市の熱を冷ます冷却装置になります」

 私は新離宮の跡地(アスベスト除去済みの更地)を指差しました。

「特にここは、津波防災公園として整備します。海を眺める美しい丘ですが、建物は建てさせません。……過去の教訓を忘れないための空白です」

 官僚たちが、次第に目を輝かせ始めました。
 彼らも専門家です。
 私のプランが単なる夢物語ではなく、理にかなった計算の上に成り立っていることを理解し始めたのです。

「すごい……。これなら、百年後の人口増加にも耐えられる」

「水害にも、火事にも負けない街になるぞ……!」

「そうです。私たちが作るのは、レイモンド殿下のような、自分たちのためだけの城ではありません」

 私は地図を黒板に貼り出しました。

「これから生まれてくる子供たちが、安全に、健康に、そして誇りを持って住める、みんなの家としての王都です」

「おおおっ……!!」

 会議室に拍手が沸き起こりました。
 それは、新しい時代の幕開けを告げる槌音のように力強く響きました。

「……君の頭の中には、未来の景色がすでに見えているんだな」

 会議の後、マックス様が私に近づき、眩しそうに言いました。

「ええ。設計図は完成しています。あとは、現場監督(私たち)の腕の見せ所ですわ」

 私は窓の外を見下ろしました。
 眼下には、瓦礫の撤去が進み、更地となった王都が広がっています。

 何もない。
 けれど、それはということを意味しています。

「さあ、着工です! まずはメインストリートの拡幅工事から始めますよ!」

 私の号令と共に、王都復興プロジェクト――『プロジェクト・ニュー・キングダム』が、正式に始動しました。
 もう、誰も止める者はいません。

 私たちは、歴史に残る大工事へと足を踏み入れたのです。
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