殿下、婚約破棄は承りましたので、戻ってと懇願されても知りませんよ?~白い結婚の契約内容に溺愛は含まれていなかったと思うのですが~

水上

文字の大きさ
9 / 10

第9話:激しくなる初夜の勘違い

しおりを挟む
「ふぅ……では、休ませていただきます」

 セレフィーナが天蓋付きの巨大なベッドに腰を下ろした瞬間。

 ――ギシッ。

「……」

 セレフィーナは立ち上がり、もう一度座った。

 ――ギシッ、ミシッ。

「……限界ですね」

「何がだ?」

「このベッドです。接合部のボルトが緩んでいるのか、フレームの剛性が不足しています。この程度の荷重でこれほどの異音が発生するとは……。安眠を妨げる深刻な不具合です」

 セレフィーナは眉間にしわを寄せ、掛け布団をひっぺがした。
 そしてマットレスの下の構造を覗き込む。

 グレイグは呆れつつも、彼女の熱意に付き合うことにしたようだ。

「俺には気にならないレベルだが……、お前がそう言うなら、直すか」

「はい。ですが、発生源の特定が必要です。私が下で構造を見ますので、旦那様、上で負荷をかけていただけますか?」

「負荷? こうか?」

 グレイグがベッドに上がり、軽く体重をかける。
 ギシッ。

「いえ、もっと激しく揺らしてみてください、旦那様! 静荷重では分かりません。動的な入力が必要です!」

「注文が多いな……。よし、いくぞ!」

 グレイグは持ち前の身体能力で、ベッドの上で激しく動き始めた。あえて重心を移動させ、軋みが出るポイントを探る。

「ああっ、そこです! すごい音!」

 セレフィーナがベッドの下から叫ぶ。

「もっと激しく! 右側が弱点です! ああ、ダメ、そこは壊れます!」

「くっ、これでもか! 結構な反発力だな!」

「はい、いいです! そのリズムで! 構造的欠陥が露呈しています!」

 二人は純粋に、家具の修理と振動解析を行っていただけである。
 しかし、二人の声と、激しくきしむベッドの音は、静まり返った屋敷の廊下によく響いた。

 翌朝。
 使用人たちの間で、ある噂がまことしやかに囁かれていた。

「辺境伯夫妻は、ベッドを壊すほどの情熱的な夜を過ごしたらしい」と。

 すれ違うメイドたちが、どこか赤面しながら熱っぽい視線を向けてくる理由が分からず、セレフィーナは首を傾げるばかりだった。

 そして、その朝。
 食堂に現れたセレフィーナの顔色は、あまり良くなかった。

 理由は明白。
 ベッドの修理に熱中しすぎて、睡眠時間が削られたからだ。

「……おはようございます」

「おはよう。目の下にクマができているぞ」

 爽やかな顔のグレイグとは対照的に、ふらふらと席に着くセレフィーナ。

 テーブルには、焼きたてのパン、新鮮な野菜のサラダ、香草焼きの鶏肉、そして温かいスープが並べられていた。

 どれも彩り豊かで、食欲をそそる香りを放っている。
 だが、セレフィーナは手元の資料(領地の地図)を広げようとした。

 しかし、セレフィーナはこのあと、グレイグの意外な一面を知ることになるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。

さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。 忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。 「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」 気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、 「信じられない!離縁よ!離縁!」 深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。 結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

処理中です...