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第17話:王都の陰り
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「……どういうことだ。なぜ、誰も私の夜会に来ない」
王太子ウィリアム・アークライトは、豪奢な執務机を叩きつけた。
例年であれば、王太子主催の夜会といえば、招待状を求めて貴族たちが列をなすはずだった。
しかし、今の広間は閑散としている。
側近の貴族が、恐る恐る口を開いた。
「そ、それが……、多くの貴族が、北の特産品の買い付けに夢中でして……」
「北だと? まさか、ヴォルガードか?」
「はい。最近、あそこから出荷される美容石鹸や最高級羊毛が、貴族のご婦人方の間で爆発的な人気を博しておりまして……。それを手に入れられない家は、社交界で肩身が狭いとまで言われる始末で……」
ウィリアムのこめかみに青筋が浮かんだ。
エレノアだ。
あの可愛げのない女の顔が脳裏をよぎる。
「馬鹿な! あんな女が作った得体の知れないものなど、すぐに規制しろ! 有害物質が含まれている可能性があると風評を流せ!」
ウィリアムは喚き散らした。
だが、側近たちの反応は冷ややかだった。
「……殿下。すでに多くの貴族がその品質を認めております。今さらそのような根拠のない噂を流せば、逆に王家への不信感を招きます」
「なんだと? 私に口答えするのか!」
「いえ、事実を申し上げているまでです」
側近の一人が、冷たい目でウィリアムを見据えた。
かつては王太子の威光に平伏していた者たちが、今や露骨に距離を置き始めている。
彼らは馬鹿ではない。
エレノアを追放してからというもの、王都の水質浄化計画は頓挫し、新たな産業も生まれず、国益が損なわれ続けていることに気づき始めていたのだ。
そこへ、ノックもなしに扉が開いた。
「ウィリアム様ぁ~!」
入ってきたのは、カレンだった。
彼女は相変わらずフリフリのドレスを纏い、甘ったるい声でウィリアムに抱きつく。
「ねえねえ、聞いて! 今、社交界ですっごく肌触りのいいドレスが流行ってるの! 北の白銀って言うんですって! 私、あれが欲しいなぁ!」
カレンは無邪気にねだった。
それが、ウィリアムが最も憎む相手の成果物だとも知らずに。
「……黙れ」
「えっ? だって、みんな持ってるのよ? 未来の王妃になる私が持っていないなんておかしいじゃない!」
「黙れと言っているんだ!!」
ウィリアムの怒号が部屋に響いた。
カレンは「ひっ」と悲鳴を上げてすくみ上がり、側近たちは呆れたように溜息をついた。
「……失礼いたします。領地での公務がありますので」
一人の側近が一礼し、部屋を出て行った。
それを合図に、また一人、また一人と貴族たちが退出していく。
残されたのは、自分の正義に固執し孤立していく裸の王様と、状況を理解できない愚かな愛人だけ。
「くそっ……! どいつもこいつも、裏切りおって……!」
ウィリアムは机上の書類をなぎ払った。
散らばった紙の中には、国境警備費の増額を求めるヴォルガード辺境伯からの陳情書も混ざっていたが、彼がそれを読むことはなかった。
王太子派閥という強固な城壁は、エレノアという要石を失ったことで、音を立てて崩れ始めていた。
王太子ウィリアム・アークライトは、豪奢な執務机を叩きつけた。
例年であれば、王太子主催の夜会といえば、招待状を求めて貴族たちが列をなすはずだった。
しかし、今の広間は閑散としている。
側近の貴族が、恐る恐る口を開いた。
「そ、それが……、多くの貴族が、北の特産品の買い付けに夢中でして……」
「北だと? まさか、ヴォルガードか?」
「はい。最近、あそこから出荷される美容石鹸や最高級羊毛が、貴族のご婦人方の間で爆発的な人気を博しておりまして……。それを手に入れられない家は、社交界で肩身が狭いとまで言われる始末で……」
ウィリアムのこめかみに青筋が浮かんだ。
エレノアだ。
あの可愛げのない女の顔が脳裏をよぎる。
「馬鹿な! あんな女が作った得体の知れないものなど、すぐに規制しろ! 有害物質が含まれている可能性があると風評を流せ!」
ウィリアムは喚き散らした。
だが、側近たちの反応は冷ややかだった。
「……殿下。すでに多くの貴族がその品質を認めております。今さらそのような根拠のない噂を流せば、逆に王家への不信感を招きます」
「なんだと? 私に口答えするのか!」
「いえ、事実を申し上げているまでです」
側近の一人が、冷たい目でウィリアムを見据えた。
かつては王太子の威光に平伏していた者たちが、今や露骨に距離を置き始めている。
彼らは馬鹿ではない。
エレノアを追放してからというもの、王都の水質浄化計画は頓挫し、新たな産業も生まれず、国益が損なわれ続けていることに気づき始めていたのだ。
そこへ、ノックもなしに扉が開いた。
「ウィリアム様ぁ~!」
入ってきたのは、カレンだった。
彼女は相変わらずフリフリのドレスを纏い、甘ったるい声でウィリアムに抱きつく。
「ねえねえ、聞いて! 今、社交界ですっごく肌触りのいいドレスが流行ってるの! 北の白銀って言うんですって! 私、あれが欲しいなぁ!」
カレンは無邪気にねだった。
それが、ウィリアムが最も憎む相手の成果物だとも知らずに。
「……黙れ」
「えっ? だって、みんな持ってるのよ? 未来の王妃になる私が持っていないなんておかしいじゃない!」
「黙れと言っているんだ!!」
ウィリアムの怒号が部屋に響いた。
カレンは「ひっ」と悲鳴を上げてすくみ上がり、側近たちは呆れたように溜息をついた。
「……失礼いたします。領地での公務がありますので」
一人の側近が一礼し、部屋を出て行った。
それを合図に、また一人、また一人と貴族たちが退出していく。
残されたのは、自分の正義に固執し孤立していく裸の王様と、状況を理解できない愚かな愛人だけ。
「くそっ……! どいつもこいつも、裏切りおって……!」
ウィリアムは机上の書類をなぎ払った。
散らばった紙の中には、国境警備費の増額を求めるヴォルガード辺境伯からの陳情書も混ざっていたが、彼がそれを読むことはなかった。
王太子派閥という強固な城壁は、エレノアという要石を失ったことで、音を立てて崩れ始めていた。
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