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 (※スティーヴ視点)

 ナンシーに匿われ始めてから、数週間が経過した。

 富と権力を剥奪され、屋敷から追放された時は、人生を諦めかけていた。
 しかし、おれは幸運にもナンシーに救われた。
 彼女には感謝しかない。

 そして、屋敷から離れたこの一室でこっそりと過ごすようになってからは、毎日ナンシーと会うようになった。
 それは当然のことで、俺の食事や生活に必要なものは、すべてナンシーが用意してくれているからだ。
 ここは今は使われていないので、誰かに見つかる心配もないそうだ。

 事故のようなものとはいえ、おれはナンシーを傷付けた。
 そのせいで、この屋敷の者たちは俺のことを恨んでいる。

 もし俺がここにいることがばれたらただでは済まない。
 だから、ナンシーも屋敷の者に頼るわけにはいかないのだ。
 
 とはいえ、マリアという婚約者がいながら、浮気までするほど愛していたナンシーに毎日会えるのだから、これは嬉しい状況ともいえる。
 本来なら、そう思うはずなのだ……。

 しかし、おれは嬉しいなんて少しも思わなかった。
 むしろ、ナンシーと顔を会わせるのは苦痛でしかなかった。

 おれはもう、ナンシーのことを愛していない。

 それは、この数週間ではっきりとした。
 殴られて顔が醜くなってしまった彼女は、以前とはまるで別人だった。
 もう、今までのようには愛せなかった。

 それでもおれがこのような状況を受け入れているのは、彼女を傷つけてしまった罪悪感と、生活のためだ。
 おれは平民として一人で生きていく力がない。
 だから、ナンシーに頼るしかない。

 彼女は変わらず俺のことを愛しているが、俺が彼女を愛する気持ちは失われた。
 しかし、そんな俺の心にも、変わらず残り続けているものがある。

 それは、マリアに対する復讐心だ。

 この数週間、どうやって彼女に復讐するか、その事だけを考え続けてきた。 
 そして、ついにその方法を思い付いた。
 婚約者としてマリアと共に過ごした日々があったからこそ、発想できた方法だ。

 この方法なら、確実に彼女を絶望させることができる……。

「マリア……、お前の絶望する顔を見るのが楽しみだ……」

 おれはいつの間にか笑みを浮かべていた。

 講堂での一件は、最悪の形で失敗した。
 しかし、今度こそ彼女を絶望させてやる。
 
 今回はナンシーに頼るつもりはなかった。
 前回はナンシーのせいで失敗したようなものだ。
 他人に頼ると、計算外のことも起きてしまう。
 だから今回は、俺一人で計画を実行するつもりだ。

 そして、その決行日が今日なのである。
 準備はすでに整えているし、あとは時間を待つだけだ。
 おれは窓の外を見た。
 夕日も沈み、辺りは暗くなっている。

「よし、そろそろ行くか……」

 準備していたを、おれは手に取った。

 これを使えば、マリアの絶望した顔を見ることができる……。
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