上 下
9 / 12

9.

しおりを挟む
 (※スティーヴ視点)

 結局、昨日から一睡もできなかった……。

 あれから部屋の争った形跡を消すために掃除をしただけで、それからずっと考え込んでいた。
 死んだはずのナンシーの父親が、部屋から姿を消していた……。
 悪夢のような出来事だが、これは現実だ。
 そして、夜通し考えた結果、おれは一つの結論を出した。

 誰かが、倒れていたナンシーの父親を動かしたのだ……。

 そして、いったい誰がそんなことをしたんだ?
 当然、その疑問が沸き上がってくる。
 しかし、その答えはまったくわからなかった。

「おはよう、スティーヴ。朝食を持ってきたわ」

 部屋にナンシーが入ってきた。

「……ああ、おはよう」

 彼女の醜くなった顔を直視せず、おれは返事をした。
 そして、突然ある仮説を思い付いた。
 
 倒れていたナンシーの父親を動かしたのは、ナンシーなのではないか?

 もし彼女が彼を発見したのだとしたら、間違いなく、俺が犯人だと見抜いただろう。
 この部屋には、俺しか出入りしていないのだから。
 しかし、ナンシーは俺を愛するあまり、父親の敵だとわかった上でなお、俺のことをかばおうとしている。
 だから、死んでしまった父親をどこかへ隠した……、という仮説も一応成り立つ。

 しかし、彼女はどうでもいいことばかり話していて、父親のことを一切話題に出さない。

 こちらから聞いてみるか?
 ……いや、ダメだ。
 もし俺の仮説が違っていた場合は、自白してしまうようなものだ。
 ナンシーが父親のことを話題に出さない限り、こちらから話すのは得策ではない。

 食事はなんとか喉を通ったが、不安や恐怖はまったく消えてくれない。
 おれはナンシーが部屋から去ったあとも、誰がナンシーの父親を動かしたのか、ずっと考えていた。
 しかし、納得できる答えは思い付かなかった。

 おれは気晴らしに、部屋を出て敷地内を散歩した。
 この屋敷の者に見られるわけにはいかないから、本来なら部屋に籠りきっている方がいいのはわかっている。
 しかし、昨日の出来事が頭から離れず、なんとか気分を落ち着かせたいので、やむを得ないことだった。

 それに、この時間なら警備のものも巡回していないし、そもそもこの近くまでは誰も来ない。
 おれは二十分ほど散歩をして、部屋に戻った。
 
 ナンシーの父親の件は、これ以上考えても仕方がない。
 不安や恐怖は消えないが、その事で悩んでばかりいても、気が滅入ってしまうだけだ。
 そう思って開き直ることにした。
 
「ど……、どういうことだ……。どうして、ここに……」

 部屋に入ったおれは、驚きの光景を目の当たりにして、声が震えていた。

「どうして……、どうしてお前がここにいるんだ……」

 そう言ったおれは声だけでなく、体も震えていた。
 
 なんと、そこにいたのは、マリアだったのだ。
 どうして、彼女がこんなところに……。

 マリアがこの部屋にいることだけでも衝撃的なのに、彼女は信じられない言葉を口にした。

「あなたが、ナンシーさんのお父様を殺したことは知っています。なぜなら、私はその瞬間を目撃していたし、彼の遺体を動かしたのは、私だからです」

「な……、なんだと!?」

 マリアが、彼の遺体を動かしていただと?
 いったい、どういうことなんだ……。

 体の震えは止まらない。
 わけがわからず、不安や恐怖は最高潮に達していた。

 そして、そんなおれにはこれから、が訪れるのだった……。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

伯爵様は色々と不器用なのです

恋愛 / 完結 24h.ポイント:6,908pt お気に入り:2,765

痴漢されちゃう系男子

BL / 連載中 24h.ポイント:511pt お気に入り:137

か弱い猫は獅子に勝てない(とは限らない)

恋愛 / 完結 24h.ポイント:418pt お気に入り:39

拾われたユウ君

BL / 連載中 24h.ポイント:454pt お気に入り:107

処理中です...