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第51話:国家反逆の容疑と、捏造されたインク
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ジェラルド殿下とリリーナ様が、囚人馬車に揺られてアースガルド領の鉱山と農場へ連行されていってから、数日が過ぎた。
王都は新王コンラッド陛下の即位に湧き、表向きは平和を取り戻したように見えた。
「……平和すぎて、逆に不気味ですな」
王都の別邸にて。
荷造りを進めるセバスチャンが、ふと手を止めて呟いた。
「毒(ジェラルド殿下)は排除されました。しかし、まだ膿が残っているような……、そんな胸騒ぎがします」
「あら、セバス。貴方の執事の勘は、私の地質調査より当たるから怖いわね」
私はホワイト・アースの磁器で紅茶を飲みながら、窓の外を見た。
隣国のクラウス大公は、即位式の警備協力を終え、昨夜帰国した。
今の私は、軍事的な後ろ盾がない状態だ。
その時だった。
玄関の扉が乱暴に叩かれた。
「アースガルド辺境伯マリアンヌ! 在宅か! 王室監査局である!」
「……ほら、当たりました」
セバスが溜息をつき、扉を開けに向かう。
入ってきたのは、灰色の制服を着た数名の官僚と、それを指揮する神経質そうな男だった。
男は眼鏡の奥の目を細め、私を蛇のように見つめた。
「お初にお目にかかる。王室監査局長、ヴォルグ伯爵だ」
「ごきげんよう、ヴォルグ様。……監査局の方が、何のご用でしょうか? 納税なら完璧に済ませておりますけれど」
私が微笑むと、ヴォルグ伯爵は鼻で笑い、懐から一枚の令状を取り出した。
「脱税ではない。もっと重い罪だ。……マリアンヌ・フォン・アースガルド。貴様を国家反逆罪の容疑で連行する」
「……はい?」
セバスチャンがポットを取り落としそうになる。
私は眉一つ動かさず、首を傾げた。
「面白い冗談ですわね。私はこの国の食料危機を救い、経済を立て直した功労者だと自負しておりますが」
「功労者? 笑わせるな。……貴様は国を救ったのではない。国を売ったのだ!」
ヴォルグ伯爵が叫んだ。
「今回の政変において、貴様は隣国ハイランド大公国と結託し、その軍事力を不当に王都へ引き入れた! これは外患誘致罪にあたる!」
「コンラッド陛下からの要請に基づく正規の同盟行動ですわ」
「だが、その見返りは? ……我々は証拠を掴んでいるのだよ。貴様がハイランド大公に宛てた密約書をな!」
ヴォルグ伯爵は、証拠品袋に入った一枚の手紙を突きつけた。
そこには、私の筆跡に酷似した文字で、こう書かれていた。
『――ジェラルド王子追放の暁には、アースガルド領の鉄鉱山と、岩塩の採掘権の全てをハイランド大公国へ譲渡する。また、王国の機密である農地データを引き渡す――』
末尾には、私のサインと、アースガルド家の封蝋が押されている。
「なっ……! 馬鹿な! お嬢様がそんな売国奴のような真似を!」
セバスが激昂して食って掛かる。
だが、私は冷静にその手紙を凝視した。
……なるほど、よく出来ているわ。
筆跡は完璧に近い。
封蝋も本物に見える。
ジェラルド殿下を追い落としたことで損をした旧体制派の貴族たちが、私を失脚させるために仕組んだ罠だ。
私が逮捕されれば、アースガルド領の利権は彼らのものになり、新王の権威も傷つく。
「申し開きは査問会で聞こう。……同行願おうか、マリアンヌ殿」
兵士たちが私を取り囲む。
手錠こそかけられなかったが、これは明確な拘束だ。
「お嬢様……!」
「大丈夫よ、セバス」
私は立ち上がり、ヴォルグ伯爵に向かって不敵に微笑んだ。
「面白いですわ。地質学や農学だけでなく、今度は文書鑑定の講義をご希望と見えますね」
「強がりを言うな。筆跡鑑定の専門家も『本物だ』と認めている!」
「専門家? ……いいえ、科学の目をごまかすことはできません」
私はセバスに目配せをした。
私の道具箱(ルーペ、試薬、顕微鏡)を持ってきて、という合図だ。
「行きましょう。その完璧な証拠とやらが、いかに化学的に矛盾しているか、証明して差し上げますわ」
新たな戦場は、土の上ではなく、法廷。
武器はスコップではなく、科学捜査。
私の新たな戦いのラウンドが、静かに幕を開けた。
王都は新王コンラッド陛下の即位に湧き、表向きは平和を取り戻したように見えた。
「……平和すぎて、逆に不気味ですな」
王都の別邸にて。
荷造りを進めるセバスチャンが、ふと手を止めて呟いた。
「毒(ジェラルド殿下)は排除されました。しかし、まだ膿が残っているような……、そんな胸騒ぎがします」
「あら、セバス。貴方の執事の勘は、私の地質調査より当たるから怖いわね」
私はホワイト・アースの磁器で紅茶を飲みながら、窓の外を見た。
隣国のクラウス大公は、即位式の警備協力を終え、昨夜帰国した。
今の私は、軍事的な後ろ盾がない状態だ。
その時だった。
玄関の扉が乱暴に叩かれた。
「アースガルド辺境伯マリアンヌ! 在宅か! 王室監査局である!」
「……ほら、当たりました」
セバスが溜息をつき、扉を開けに向かう。
入ってきたのは、灰色の制服を着た数名の官僚と、それを指揮する神経質そうな男だった。
男は眼鏡の奥の目を細め、私を蛇のように見つめた。
「お初にお目にかかる。王室監査局長、ヴォルグ伯爵だ」
「ごきげんよう、ヴォルグ様。……監査局の方が、何のご用でしょうか? 納税なら完璧に済ませておりますけれど」
私が微笑むと、ヴォルグ伯爵は鼻で笑い、懐から一枚の令状を取り出した。
「脱税ではない。もっと重い罪だ。……マリアンヌ・フォン・アースガルド。貴様を国家反逆罪の容疑で連行する」
「……はい?」
セバスチャンがポットを取り落としそうになる。
私は眉一つ動かさず、首を傾げた。
「面白い冗談ですわね。私はこの国の食料危機を救い、経済を立て直した功労者だと自負しておりますが」
「功労者? 笑わせるな。……貴様は国を救ったのではない。国を売ったのだ!」
ヴォルグ伯爵が叫んだ。
「今回の政変において、貴様は隣国ハイランド大公国と結託し、その軍事力を不当に王都へ引き入れた! これは外患誘致罪にあたる!」
「コンラッド陛下からの要請に基づく正規の同盟行動ですわ」
「だが、その見返りは? ……我々は証拠を掴んでいるのだよ。貴様がハイランド大公に宛てた密約書をな!」
ヴォルグ伯爵は、証拠品袋に入った一枚の手紙を突きつけた。
そこには、私の筆跡に酷似した文字で、こう書かれていた。
『――ジェラルド王子追放の暁には、アースガルド領の鉄鉱山と、岩塩の採掘権の全てをハイランド大公国へ譲渡する。また、王国の機密である農地データを引き渡す――』
末尾には、私のサインと、アースガルド家の封蝋が押されている。
「なっ……! 馬鹿な! お嬢様がそんな売国奴のような真似を!」
セバスが激昂して食って掛かる。
だが、私は冷静にその手紙を凝視した。
……なるほど、よく出来ているわ。
筆跡は完璧に近い。
封蝋も本物に見える。
ジェラルド殿下を追い落としたことで損をした旧体制派の貴族たちが、私を失脚させるために仕組んだ罠だ。
私が逮捕されれば、アースガルド領の利権は彼らのものになり、新王の権威も傷つく。
「申し開きは査問会で聞こう。……同行願おうか、マリアンヌ殿」
兵士たちが私を取り囲む。
手錠こそかけられなかったが、これは明確な拘束だ。
「お嬢様……!」
「大丈夫よ、セバス」
私は立ち上がり、ヴォルグ伯爵に向かって不敵に微笑んだ。
「面白いですわ。地質学や農学だけでなく、今度は文書鑑定の講義をご希望と見えますね」
「強がりを言うな。筆跡鑑定の専門家も『本物だ』と認めている!」
「専門家? ……いいえ、科学の目をごまかすことはできません」
私はセバスに目配せをした。
私の道具箱(ルーペ、試薬、顕微鏡)を持ってきて、という合図だ。
「行きましょう。その完璧な証拠とやらが、いかに化学的に矛盾しているか、証明して差し上げますわ」
新たな戦場は、土の上ではなく、法廷。
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私の新たな戦いのラウンドが、静かに幕を開けた。
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