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第30話:崩壊する虚像
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社交界を騒がせた一連の騒動――偽予言、霊感商法、賭博、惚れ薬未遂――は、王家の威信を揺るがす大スキャンダルへと発展していた。
王宮の謁見室。
重苦しい沈黙の中、国王陛下が玉座で深くため息をついた。
その御前には、アルヴィスとリリアが跪いている。
「……アルヴィスよ。其方の報告は全て裏が取れた。ジェラルドの愚行、そしてイザベラ嬢の詐欺行為……、嘆かわしいことだ」
国王の声には疲労が滲んでいた。
アルヴィスは顔を上げ、淡々と告げた。
「陛下。腐った果実をカゴに残しておけば、他の果実まで腐敗します。早急な外科的切除が論理的かと」
「……うむ。ジェラルドには謹慎を命じた。廃嫡も含めて検討する。イザベラ嬢に関しては、被害者への賠償と、社交界からの追放処分が妥当であろう」
国王の決断は早かった。
ジェラルド王子は「自分は悪くない、イザベラに騙されたんだ!」と見苦しく叫んでいたそうだが、その責任転嫁(他責思考)こそが王の器ではないと判断されたのだ。
「リリア嬢よ」
国王がリリアに目を向けた。
「そなたには苦労をかけたな。婚約破棄の件、王家として正式に謝罪しよう。そして、アルヴィスとの婚約を改めて承認する」
「も、もったいないお言葉です……!」
リリアは深く頭を下げた。
これで、彼女の立場は公的に保証された。
傷物というレッテルは消え、今や賢者アルヴィスのパートナーとして認知されつつある。
*
一方、王都のローズ伯爵邸。
そこは、まるで嵐が過ぎ去った後のような有様だった。
「どうして……、どうして私がこんな目に!」
イザベラは荒れ果てた部屋で、ヒステリックに叫んでいた。
ギャンブルで家財道具の大半を失い、詐欺の賠償金で借金まみれ。
使用人たちも給金未払いで逃げ出していた。
「許せないわ、リリア……、辺境伯……! 私がここまで築き上げた名声も、ジェラルド様との未来も、全部あいつらが壊したのよ!」
彼女は鏡に映る自分を睨みつけた。
厚化粧は剥げ落ち、ドレスは汚れ、かつての社交界の華の面影はない。
だが、その瞳にある狂気だけは消えていなかった。
「……まだよ。まだ終わらないわ」
イザベラは、唯一残された旅行鞄に荷物を詰め込み始めた。
「王都にはいられないけれど、私にはまだ領地があるわ。父様が治めるローズ領に行けば、私はまだお嬢様でいられる。そこで力を蓄えて、必ず復讐してやるのよ……!」
それは、心理学における消去バーストにも似た、破滅寸前の最後の暴走だった。
彼女は夜陰に乗じて、ひっそりと王都を後にした。
逃げ込む先が、さらなる地獄とも知らずに……。
*
数日後、辺境伯邸への帰路につく馬車の中。
リリアは窓の外を流れる景色を見つめていた。
「イザベラ様、行方知れずになったそうですね」
「ああ。王都での居場所を失い、おそらく実家の領地へ逃げ帰ったのだろう」
アルヴィスは本を読みながら答えた。
「動物は傷つくと巣穴に戻る習性がある。だが、彼女の実家であるローズ伯爵領からは、最近良くないデータが届いている」
「良くないデータ?」
「不作による飢饉、そして圧政への不満。……彼女がそこに逃げ込むことで、化学反応が起きて爆発しなければいいが」
アルヴィスの予感に、リリアは身震いした。
まだ、終わっていない。
イザベラとの因縁は、彼女のホームグラウンドである領地で、最終局面を迎えることになるだろう。
「……怖がっているのか? リリア」
アルヴィスが本を閉じ、リリアの手を握った。
「いえ。少し不安なだけです。でも……」
リリアは彼の手を握り返し、微笑んだ。
「アルヴィス様がいてくだされば、どんな場所でも怖くありません。だって、貴方は私にとって、必要十分条件な存在ですから」
かつて彼がくれた言葉を返すと、アルヴィスは目を見開き、そして口元を手で覆って赤面した。
「……学習能力が高すぎるのも考えものだな。私の心拍数が制御できない」
「ふふ、実験成功ですね」
馬車は王都を離れ、新たな戦いの舞台へと進んでいく。
社交界の虚飾を剥ぎ取った二人は、次なる領地の闇と血の真実へと立ち向かう。
王宮の謁見室。
重苦しい沈黙の中、国王陛下が玉座で深くため息をついた。
その御前には、アルヴィスとリリアが跪いている。
「……アルヴィスよ。其方の報告は全て裏が取れた。ジェラルドの愚行、そしてイザベラ嬢の詐欺行為……、嘆かわしいことだ」
国王の声には疲労が滲んでいた。
アルヴィスは顔を上げ、淡々と告げた。
「陛下。腐った果実をカゴに残しておけば、他の果実まで腐敗します。早急な外科的切除が論理的かと」
「……うむ。ジェラルドには謹慎を命じた。廃嫡も含めて検討する。イザベラ嬢に関しては、被害者への賠償と、社交界からの追放処分が妥当であろう」
国王の決断は早かった。
ジェラルド王子は「自分は悪くない、イザベラに騙されたんだ!」と見苦しく叫んでいたそうだが、その責任転嫁(他責思考)こそが王の器ではないと判断されたのだ。
「リリア嬢よ」
国王がリリアに目を向けた。
「そなたには苦労をかけたな。婚約破棄の件、王家として正式に謝罪しよう。そして、アルヴィスとの婚約を改めて承認する」
「も、もったいないお言葉です……!」
リリアは深く頭を下げた。
これで、彼女の立場は公的に保証された。
傷物というレッテルは消え、今や賢者アルヴィスのパートナーとして認知されつつある。
*
一方、王都のローズ伯爵邸。
そこは、まるで嵐が過ぎ去った後のような有様だった。
「どうして……、どうして私がこんな目に!」
イザベラは荒れ果てた部屋で、ヒステリックに叫んでいた。
ギャンブルで家財道具の大半を失い、詐欺の賠償金で借金まみれ。
使用人たちも給金未払いで逃げ出していた。
「許せないわ、リリア……、辺境伯……! 私がここまで築き上げた名声も、ジェラルド様との未来も、全部あいつらが壊したのよ!」
彼女は鏡に映る自分を睨みつけた。
厚化粧は剥げ落ち、ドレスは汚れ、かつての社交界の華の面影はない。
だが、その瞳にある狂気だけは消えていなかった。
「……まだよ。まだ終わらないわ」
イザベラは、唯一残された旅行鞄に荷物を詰め込み始めた。
「王都にはいられないけれど、私にはまだ領地があるわ。父様が治めるローズ領に行けば、私はまだお嬢様でいられる。そこで力を蓄えて、必ず復讐してやるのよ……!」
それは、心理学における消去バーストにも似た、破滅寸前の最後の暴走だった。
彼女は夜陰に乗じて、ひっそりと王都を後にした。
逃げ込む先が、さらなる地獄とも知らずに……。
*
数日後、辺境伯邸への帰路につく馬車の中。
リリアは窓の外を流れる景色を見つめていた。
「イザベラ様、行方知れずになったそうですね」
「ああ。王都での居場所を失い、おそらく実家の領地へ逃げ帰ったのだろう」
アルヴィスは本を読みながら答えた。
「動物は傷つくと巣穴に戻る習性がある。だが、彼女の実家であるローズ伯爵領からは、最近良くないデータが届いている」
「良くないデータ?」
「不作による飢饉、そして圧政への不満。……彼女がそこに逃げ込むことで、化学反応が起きて爆発しなければいいが」
アルヴィスの予感に、リリアは身震いした。
まだ、終わっていない。
イザベラとの因縁は、彼女のホームグラウンドである領地で、最終局面を迎えることになるだろう。
「……怖がっているのか? リリア」
アルヴィスが本を閉じ、リリアの手を握った。
「いえ。少し不安なだけです。でも……」
リリアは彼の手を握り返し、微笑んだ。
「アルヴィス様がいてくだされば、どんな場所でも怖くありません。だって、貴方は私にとって、必要十分条件な存在ですから」
かつて彼がくれた言葉を返すと、アルヴィスは目を見開き、そして口元を手で覆って赤面した。
「……学習能力が高すぎるのも考えものだな。私の心拍数が制御できない」
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