「君は自分の利益しか考えてないのか?」と私の成果をタダで配る偽善者の浮気夫。〜やりがい搾取に疲れたので、すべての権利をいただいて去ります〜

水上

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第3話:夫の残酷な返答

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「……オリヴィア。君は、自分の負担ばかりを気にするんだね。少しがっかりだよ」

「え……?」

「僕は君が、もっと無私の心を持った女性だと思っていた。自分の利益や安らぎよりも、他者の幸福を喜べる、気高い魂を持っていると信じていたんだ」

 セドリックは悲しげに目を伏せ、まるで酷い裏切りに遭った被害者のような声を出した。

「君が少し眠る時間を削るだけで、子供たちが笑顔になるしれないんだよ? それなのに君は、『自分が疲れるから依頼を断れ』と言うのかい。君のその手から生み出される奇跡を待っている人々を見捨てるというのか?」

「そ、そういう意味では……! 私はただ、無計画な受注は結局、誰のためにもならないと……」

「計画なら僕が立てている。君はただ、僕を信じて作ってくれればいいだけじゃないか。君は本当に、自分の手柄や評価にこだわるよね。ステラのように、見返りを求めない純粋な心を持てないものなのかな」

 ステラ。その名前が出た瞬間、オリヴィアの心臓が不快な音を立てて跳ねた。

 ステラ・ノースコート男爵令嬢。
 最近、セドリックの社会貢献活動のパートナーとして頻繁に屋敷に出入りしている、清楚で可憐な女性だ。

 彼女は慈善事業という名目で、オリヴィアが血の滲むような思いで作ったレースや資金を「自分が用意しました」と笑顔で配り歩き、聖女として称賛を浴びている。

「君には才能がある。だからこそ、傲慢になってはいけないよ。僕たちは皆のために生きているんだ。さあ、夜明けまでもう少しだ。君の素晴らしい作品を楽しみにしているよ」

 セドリックはそれだけ言うと、満足げに微笑んで踵を返した。
 重厚な扉が閉まり、再び部屋には静寂が落ちる。

 オリヴィアは、扉を見つめたまま動けなかった。

(私が、冷酷な人間……? 私が、傲慢……?)

 胸の奥で、ドロドロとした黒い感情が渦を巻く。
 しかし、それ以上の巨大な罪悪感と疲労に押しつぶされていく。

 彼は正しい。
 領民を救うのは正しいことだ。

 オリヴィアがここで手を止めれば、困る人がいる。
 自分が我慢すれば、波風は立たない。

 彼が名君として称えられれば、伯爵家は安泰なのだ。

 自分が間違っているのだろうか。
 心が狭いのだろうか。

 セドリックの大義名分という絶対的な正当性を前に、オリヴィアの小さな抗議はいつも、矮小で利己的なわがままへとすり替えられてしまう。

 彼の言葉は真綿で首を絞めるように、オリヴィアから考える力と気力を奪っていった。

「……やらなきゃ」

 誰にも聞こえない声で呟き、オリヴィアは再びボビンに手を伸ばした。
 カチャリ、カチャリと、乾いた音が虚しく響く。

 冷え切った指先は、もう自分の体の一部ではないかのようだった。
 目からは一筋の涙がこぼれ落ちたが、彼女はそれを拭うことすらせず、ただ図案を凝視し続けた。

 彼のため、領民のため、皆の笑顔のため。
 美辞麗句という名の見えない鎖に縛り付けられながら、オリヴィアの命を削る夜は、果てしなく続いていく。

 彼女が紡ぐ美しい絹糸は、誰かの名声を飾るためだけに消費され、彼女自身の心は音もなくすり減っている。

 そして、完全に砕け散るその時は、刻一刻と迫っていた。
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