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第37話:籠の鳥と見下す聖女
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大祭典の朝が来た。
王都は雲一つない快晴で、遠くから聞こえる祝砲の音が、街の熱狂を伝えていた。
ウィンザー伯爵邸も朝から使用人たちが慌ただしく動き回り、誰もが「我が家の名君セドリック様と、愛の象徴ステラ様が王宮の歴史に名を刻む日だ」と、興奮を隠しきれずにいた。
しかし、その祝祭の空気から完全に切り離された場所があった。
オリヴィアが軟禁されている、自室兼アトリエである。
昨夜、セドリックによって鍵をかけられた重厚なオーク材の扉の前には、見張りの男が一人立たされていた。
「オリヴィアは連日の過労で精神が不安定になっている。今日の祭典が終わるまで、絶対に部屋から出すな」というセドリックの厳命によるものだった。
オリヴィアは、窓から差し込む朝日を浴びながら、静かにベッドの端に腰掛けていた。
彼女が身につけているのは、昨夜逃亡を企てた時の質素な外套ではなく、伯爵夫人としての品位を保ちつつも、どこかやつれた印象を与える、淡いグレーの室内着だった。
顔には、徹夜の作業で限界を迎えたように見せるための化粧、唇には血の気のない色の紅を引いている。
完璧な限界を迎えた従順な妻の擬態だった。
(……そろそろね)
オリヴィアが冷ややかな目で扉を見つめたその時、外から足音と、話し声が聞こえてきた。
「奥様はお目覚めかしら?」
それは、ステラの高く甘ったるい声だった。
「ステラ様。旦那様の命により、奥様はこの部屋でお休みになっておられます」
見張りの男が恭しく答える。
「そう。セドリック様は今、王宮への出発の準備でお忙しいから、私が奥様が完成させた大聖堂のレースを受け取りに来たの。鍵を開けてちょうだい」
ガチャリ、と重い音がして、扉が開かれた。
オリヴィアは、力なく立ち上がり、ゆっくりと振り返った。
そこに立っていたのは、目も眩むような純白のシルクドレスに身を包んだステラだった。
ドレスの裾には金糸の刺繍が施され、彼女のプラチナブロンドの髪には、小さなダイヤモンドのティアラが輝いている。
それはまさに、慈善活動で愛を配る聖女というよりは、自分がこの国の主役にでもなったかのような、傲慢で派手な装いだった。
「……おはようございます、ステラ様」
オリヴィアは、掠れた声で挨拶し、深く頭を下げた。
「まあ、奥様。こんな埃っぽいお部屋で、昨夜からずっとお一人だったのですね。おいたわしいこと……」
ステラは、部屋に一歩足を踏み入れ、大げさに眉をひそめて見回した。
彼女の視線は、オリヴィアの質素な室内着と、青白いように化粧をした顔を舐めるように動き、そして、机の上に置かれた巨大なベルベットの木箱に釘付けになった。
「これが……、奥様が編み上げてくださった、十五メートルのレースですね?」
ステラは、うっとりとした声で木箱に歩み寄った。
「ええ。そうですわ。セドリック様とステラ様の崇高な理念の結晶です」
オリヴィアは、感情を完全に押し殺した声で答えた。
「素晴らしいわ……! これを、私が王族の方々に献上するのね。皆様、私のこの純白のドレスと、奥様が作ってくださった愛のレースを見て、どれほど感動されることでしょう!」
ステラは、木箱を愛おしそうに撫で、オリヴィアの方を振り返った。
その顔には、自分が完全に勝利したという、悪気のない残酷な優越感が張り付いていた。
「奥様、本当にご苦労様でした。昨夜、セドリック様から伺いましたのよ。奥様が過労のあまり、精神の均衡を崩されて、夜中に屋敷を抜け出そうとされたって」
ステラは、まるで小さな子供を哀れむような目でオリヴィアを見つめた。
「やはり、奥様には少し荷が重すぎたのですね。でも、ご安心ください。奥様はもう、何も考えずにここでゆっくりお休みになっていればいいのです。可哀想に、私が代わりに、皆様を癒やしてさしあげますからね」
完全に、自分は光り輝く上位の存在であり、オリヴィアは哀れな籠の鳥であると見下しきっている。
「私があなたの手柄を全て奪い、歴史に名を残します。あなたは裏方で壊れるまで働いていればいい」と、笑顔で言い放っているのだ。
オリヴィアは、胸の奥で怒りが静かに渦巻くのを感じたが、表面上は弱々しく微笑み返した。
「……お気遣い、感謝いたしますわ。ステラ様が、王宮で素晴らしいお披露目をなさることを、この部屋からお祈りしております」
王都は雲一つない快晴で、遠くから聞こえる祝砲の音が、街の熱狂を伝えていた。
ウィンザー伯爵邸も朝から使用人たちが慌ただしく動き回り、誰もが「我が家の名君セドリック様と、愛の象徴ステラ様が王宮の歴史に名を刻む日だ」と、興奮を隠しきれずにいた。
しかし、その祝祭の空気から完全に切り離された場所があった。
オリヴィアが軟禁されている、自室兼アトリエである。
昨夜、セドリックによって鍵をかけられた重厚なオーク材の扉の前には、見張りの男が一人立たされていた。
「オリヴィアは連日の過労で精神が不安定になっている。今日の祭典が終わるまで、絶対に部屋から出すな」というセドリックの厳命によるものだった。
オリヴィアは、窓から差し込む朝日を浴びながら、静かにベッドの端に腰掛けていた。
彼女が身につけているのは、昨夜逃亡を企てた時の質素な外套ではなく、伯爵夫人としての品位を保ちつつも、どこかやつれた印象を与える、淡いグレーの室内着だった。
顔には、徹夜の作業で限界を迎えたように見せるための化粧、唇には血の気のない色の紅を引いている。
完璧な限界を迎えた従順な妻の擬態だった。
(……そろそろね)
オリヴィアが冷ややかな目で扉を見つめたその時、外から足音と、話し声が聞こえてきた。
「奥様はお目覚めかしら?」
それは、ステラの高く甘ったるい声だった。
「ステラ様。旦那様の命により、奥様はこの部屋でお休みになっておられます」
見張りの男が恭しく答える。
「そう。セドリック様は今、王宮への出発の準備でお忙しいから、私が奥様が完成させた大聖堂のレースを受け取りに来たの。鍵を開けてちょうだい」
ガチャリ、と重い音がして、扉が開かれた。
オリヴィアは、力なく立ち上がり、ゆっくりと振り返った。
そこに立っていたのは、目も眩むような純白のシルクドレスに身を包んだステラだった。
ドレスの裾には金糸の刺繍が施され、彼女のプラチナブロンドの髪には、小さなダイヤモンドのティアラが輝いている。
それはまさに、慈善活動で愛を配る聖女というよりは、自分がこの国の主役にでもなったかのような、傲慢で派手な装いだった。
「……おはようございます、ステラ様」
オリヴィアは、掠れた声で挨拶し、深く頭を下げた。
「まあ、奥様。こんな埃っぽいお部屋で、昨夜からずっとお一人だったのですね。おいたわしいこと……」
ステラは、部屋に一歩足を踏み入れ、大げさに眉をひそめて見回した。
彼女の視線は、オリヴィアの質素な室内着と、青白いように化粧をした顔を舐めるように動き、そして、机の上に置かれた巨大なベルベットの木箱に釘付けになった。
「これが……、奥様が編み上げてくださった、十五メートルのレースですね?」
ステラは、うっとりとした声で木箱に歩み寄った。
「ええ。そうですわ。セドリック様とステラ様の崇高な理念の結晶です」
オリヴィアは、感情を完全に押し殺した声で答えた。
「素晴らしいわ……! これを、私が王族の方々に献上するのね。皆様、私のこの純白のドレスと、奥様が作ってくださった愛のレースを見て、どれほど感動されることでしょう!」
ステラは、木箱を愛おしそうに撫で、オリヴィアの方を振り返った。
その顔には、自分が完全に勝利したという、悪気のない残酷な優越感が張り付いていた。
「奥様、本当にご苦労様でした。昨夜、セドリック様から伺いましたのよ。奥様が過労のあまり、精神の均衡を崩されて、夜中に屋敷を抜け出そうとされたって」
ステラは、まるで小さな子供を哀れむような目でオリヴィアを見つめた。
「やはり、奥様には少し荷が重すぎたのですね。でも、ご安心ください。奥様はもう、何も考えずにここでゆっくりお休みになっていればいいのです。可哀想に、私が代わりに、皆様を癒やしてさしあげますからね」
完全に、自分は光り輝く上位の存在であり、オリヴィアは哀れな籠の鳥であると見下しきっている。
「私があなたの手柄を全て奪い、歴史に名を残します。あなたは裏方で壊れるまで働いていればいい」と、笑顔で言い放っているのだ。
オリヴィアは、胸の奥で怒りが静かに渦巻くのを感じたが、表面上は弱々しく微笑み返した。
「……お気遣い、感謝いたしますわ。ステラ様が、王宮で素晴らしいお披露目をなさることを、この部屋からお祈りしております」
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