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第7話:夫の責任転嫁
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「クロエ、聞いての通りだ。イザベラの感性は素晴らしい。次の新作も、彼女のアイデアをベースにして君が形にしてくれ。……あ、それと、今日の午後はイザベラと観劇に行くから、夕食は要らないよ。君は工房で作業を進めておいてくれ」
クロエは、持っていた在庫リストを強く握りしめた。
徹夜の疲労はまだ抜けきっておらず、指先は微かに震えていた。
さすがに、これ以上の理不尽には口を挟むべきだと、わずかに残っていた理性が囁いた。
「旦那様。……次の新作の納期は、いつとお考えですか?」
クロエは静かな声で問いかけた。
「ん? そうだな、一ヶ月後くらいかな。王太后様の生誕祭に間に合わせたいんだ。君ならできるだろ?」
「……現在、工房の精油の在庫は底を尽きかけております。新たな原料の調達から抽出、そして調香までを一ヶ月で行うのは、物理的に不可能です。それに、私一人では……」
「またそれか」
アーサーは不機嫌そうに眉をひそめ、冷たく言い放った。
「君が『ヴァレンティン家の事業を成功させたい』って言ったんだろ? 僕はそのために、身を粉にしてギルドや貴族たちと付き合ってるんだ! 疲れたなら休めばいいじゃないか。でも、仕事はちゃんとやってくれよ。僕、君に頼ってるんだから」
息を吐くように、すべてをクロエの責任にすり替える。
「僕の事業を成功させたいって言ったのは君だよ」
「疲れたなら休めばいいじゃん」
「でも仕事はちゃんとやってくれよ」
矛盾と身勝手さに満ちた言葉の羅列。
アーサーの頭の中では、クロエが過労で倒れようと、自分がイザベラと浮気を楽しもうと、すべては正当なこととして処理されているのだ。
クロエは、アーサーの顔をじっと見つめた。
かつては、この人に少しでも認めてほしくて、愛してほしくて、必死に尽くしてきた。
彼の笑顔のために、自分の時間も健康もすべてを犠牲にしてきた。
しかし、彼にとって自分は、ただの便利な道具でしかなかった。
壊れるまで搾取し尽くしても、痛痒すら感じない相手なのだ。
クロエの胸の中で、プツンと、最後の細い糸が切れる音がした。
もう、怒る気力すらない。
この男に何を言っても無駄だ。
言葉が通じない相手に、これ以上心をすり減らす意味などない。
「……承知いたしました。できる限りのことはいたします」
クロエは深く頭を下げ、完璧な微笑みを崩さずに背を向けた。
「ふふっ、やっぱり奥様は物分かりが良くて助かりますわね~」
背後から聞こえるイザベラの嘲笑と、アーサーの満足げな笑い声。
クロエは振り返ることなく、温室へと歩を進めた。
彼女の足取りは、不思議なほど軽かった。
もはや、彼らに対する期待も、怒りも、悲しみも存在しない。
ただ静かに、この鳥籠から抜け出すための計算だけが、彼女の冷え切った頭の中で回り始めていた。
クロエは、持っていた在庫リストを強く握りしめた。
徹夜の疲労はまだ抜けきっておらず、指先は微かに震えていた。
さすがに、これ以上の理不尽には口を挟むべきだと、わずかに残っていた理性が囁いた。
「旦那様。……次の新作の納期は、いつとお考えですか?」
クロエは静かな声で問いかけた。
「ん? そうだな、一ヶ月後くらいかな。王太后様の生誕祭に間に合わせたいんだ。君ならできるだろ?」
「……現在、工房の精油の在庫は底を尽きかけております。新たな原料の調達から抽出、そして調香までを一ヶ月で行うのは、物理的に不可能です。それに、私一人では……」
「またそれか」
アーサーは不機嫌そうに眉をひそめ、冷たく言い放った。
「君が『ヴァレンティン家の事業を成功させたい』って言ったんだろ? 僕はそのために、身を粉にしてギルドや貴族たちと付き合ってるんだ! 疲れたなら休めばいいじゃないか。でも、仕事はちゃんとやってくれよ。僕、君に頼ってるんだから」
息を吐くように、すべてをクロエの責任にすり替える。
「僕の事業を成功させたいって言ったのは君だよ」
「疲れたなら休めばいいじゃん」
「でも仕事はちゃんとやってくれよ」
矛盾と身勝手さに満ちた言葉の羅列。
アーサーの頭の中では、クロエが過労で倒れようと、自分がイザベラと浮気を楽しもうと、すべては正当なこととして処理されているのだ。
クロエは、アーサーの顔をじっと見つめた。
かつては、この人に少しでも認めてほしくて、愛してほしくて、必死に尽くしてきた。
彼の笑顔のために、自分の時間も健康もすべてを犠牲にしてきた。
しかし、彼にとって自分は、ただの便利な道具でしかなかった。
壊れるまで搾取し尽くしても、痛痒すら感じない相手なのだ。
クロエの胸の中で、プツンと、最後の細い糸が切れる音がした。
もう、怒る気力すらない。
この男に何を言っても無駄だ。
言葉が通じない相手に、これ以上心をすり減らす意味などない。
「……承知いたしました。できる限りのことはいたします」
クロエは深く頭を下げ、完璧な微笑みを崩さずに背を向けた。
「ふふっ、やっぱり奥様は物分かりが良くて助かりますわね~」
背後から聞こえるイザベラの嘲笑と、アーサーの満足げな笑い声。
クロエは振り返ることなく、温室へと歩を進めた。
彼女の足取りは、不思議なほど軽かった。
もはや、彼らに対する期待も、怒りも、悲しみも存在しない。
ただ静かに、この鳥籠から抜け出すための計算だけが、彼女の冷え切った頭の中で回り始めていた。
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