性剣セクシーソード

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セカンドタッチ

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「この先を抜ければ宿屋ですよ」
「へー、そうなんだ。あ、本当だ」
 森を抜けると、見慣れた宿の裏手に出た。
「すごいね。よく道が分かるもんだ」
「あれが見えましたから」
 そう言って少女が指した先。宿の煙突からもくもくと煙が上がっている。
「ははっ、気付かなかったよ。どうりですんなり来れたわけだ」
 僕が笑うと、彼女達も笑いだす。声を出して、僕達は笑い合った。
 取り戻した自由を噛み締めるように。

「ケンセイさん!」
 モミさんの声に振り向くと、宿の方から三人が走って来る。
 その姿を見て、安心した。
 彼女達は待っててくれたんだ。
 そうだよな。置いて行く様な人達ではない。
「アンタどこ行ってたのよ! ちょっとそれ……。その血、怪我してんの!?」 
「あ、僕のじゃないんだ……」
 全身にこびりついた血は、忘れていた記憶を呼び覚ます。

「人を、殺しちゃったんだ……」
 言葉にしたら、目頭が熱くなってきた。
 人殺し。その事実が重くのしかかってくる。
 果たして、殺す必要があったのだろうか。
 一筋の涙が頬を伝った時。ニーヤが僕の頭を、そっと抱き寄せる。
「大丈夫だよ」
 いつもとは違う、優しいトーンで放った彼女のその一言で、全てが許された気がした。
 ニーヤの優しさに、僕は静かに泣いた。


 食堂に入り、三人に事情を説明する。
「そうだったんですか。それは大変でしたね」
「迷惑かけてごめん」
「いいんじゃない。結果的にアンタがこの子達を助けたんだし。アタシ達が責める理由もないもん」
「そうですよ。ケンセイさんは何も悪くありません。ところで貴方達は何処から連れて来られたんですか?」
 モミさんが彼女達に尋ねる。
「私達は三人とも大陸の方から連れて来られました」
「じゃあ一緒に行きましょうか。私達も行き先は同じですから」
「私達はもう帰る場所がないんです……、両親も殺されてしまって。だから大陸に戻っても行く所が……」

 そうだったのか。両親を殺され、彼女達は戻る場所まで奪われたのか。
 魔物と一部の人間の所為で。
「行く所がないんですか、それは困りましたね」
「あ、僕に提案があるんだけど。ねえマスター。部屋を長期で借りたいんだけど、これでどれくらい借りれるかな?」
 後ろで話を聞いていた宿のマスターに声をかけ、洞窟で見つけた金貨袋をテーブルに広げる。
「こ、こんなにですか!? いやもう一年でも二年でもお好きなだけどうぞ!」
 テーブルに広がった金銀銅の硬貨に、マスターが目を丸くした。
 あれ、そんなに大金なのか?

「それでマスター。もちろん部屋代はしっかり支払うけど、手が足りない時は宿の仕事を彼女達に手伝ってもらうってのはどうかな? 手伝ってもらった時だけ、少しまけてくれるって事で」
「そんな事でいいなら、逆にお願いしたいくらいですよ。こんな宿でも中々忙しくてね。それに可愛い子が居てくれたら、お客さんも増えるってもんです」
「よし、じゃあ決まりだ。これは君達にあげるよ。しばらくここに居て、もし何処かに行きたくなったら行けばいい。宿だから色んな人も来ると思うし、新しい出会いが新しい道を作ってくれるかもしれないしね」
 彼女達は、驚いた様に顔を見合わせる。
「ほ、本当にいいんですか? こんな大金」
「ああ、いいよ。君達の好きに使ってく――」
……思い出した。
 そういえば僕は元々無一文なんだ。
 全てニーヤ達に頼りっきりで一銭も払っていない。先にお返しをするべきではないのか?

「か、勝手に決めちゃったけど、いいかな?」
「いいんじゃない。アンタが手に入れたお金、アンタが好きに使えば」
「いや、でも僕また無一文になっちゃうけど」
「私もいいと思いますよ。ペロ様もよろしいですよね?」
 ペロ様がコクンと頷いた。
「皆ありがとう。じゃあそういう事で! とりあえず何か食べよう! もうお腹空いて死にそうだよ。マスター、料理を適当に持って来て下さい。もうお腹いっぱいで動けなくなる位沢山!」
「分かりました、待ってて下さい。腕によりをかけて作りますよ!」
 マスターが奥に戻ってしばらくすると、厨房からいい匂いが溢れ出す。
 言葉に表すなら、それは幸せの香り。
 食堂を包む幸せの香りに、皆の顔がほころんだ。


「あ~。もうダメだ。お腹が爆発しそうだよ」
 テーブルの上には、食器の山が出来ていた。
 七人のお腹を十分すぎる程満たした料理の数々。マスターの本気を見た気がした。
「じゃあアタシ達は先に部屋に戻ってるから。ペロ行こう」
 ニーヤとペロ様が食堂を出て行く。あれ、まだ部屋があるのか?
「ケンセイさんを待つために、今日はもう一泊する予定だったんですよ。部屋はそのまま押さえてますから、お風呂に入ってゆっくり休んで下さい」
「じゃあお言葉に甘えさせてもらおうかな。君達もマスターに言って、部屋で休むといいよ」
「はい。ありがとうございます」
 彼女達に告げ、部屋へと戻った。

「さぁケンセイさん。お風呂へどうぞ」
 部屋に戻り、しばらくしてモミさんが言った。
「ありがとう。じゃあ入ってくるよ」
 タオルを手に取り、風呂に向かう。
「あの、解除しないんですか?」
「あ、そ、そうだったね。でも汚れてるから一緒に洗おっかなー、なんて」
「多分解除すれば汚れもとれるはずですよ」
「あ、そ、そうなんだ。じゃ、じゃあお願いしてもいいですか?」
「はい。じゃあいきますね」
 ああ、この感じ。
 セクシーアーマーよ、ありがとう。
 君は最高だ――。

「あっ、ありがとう!」
 そそりたつセクシーソードを押さえながら、風呂場に逃げる。
 何度やっても慣れないな。慣れたら慣れたで嫌だけど。せめて反応しないようになれば。
……それはそれで情けない感じになるんだろうか。

 風呂に入って椅子に腰掛けると、ドアが開く音がした。
「ケンセイさんお疲れでしょう? お背中流しますよ」
「え? いやぁそんなの悪いですよ――」
 振り返ると、そこにはバスタオル一枚のモミさんの姿。
 な、何で脱いでるんですかああああ。
「あ、あんまり見ないで下さい……。食べ過ぎたからお腹が出てるかも……」
 いや! 出てるのは胸です! バスタオルから3Dの様に飛び出して来そうです!

「痛くありませんか?」
「いや、全然大丈夫です。とっても気持ち良いですよ」
 最初こそ落ち着かなかったものの、他人に身体を洗われる心地よさに、僕はすっかり身を任せていた。
「モミさんもドラーシュの事は知ってたんですか?」
「ええ、ワーワルツの人なら誰でも知ってると思います」
「そうなんですか。正直驚きました。魔物と人間が手を組んで、あんな酷い事をしているなんて」
「人が人をさらえば罪になるから、魔物を利用する人間もいるんです。でも、ごく一部なんですよ、どうかワーワルツの人々が皆その様な者だとは思わないで下さい」
 寂しそうな声でモミさんが言った。
「分かってます。どこの世界にも腐った人間は居ますから」
「私達が魔王を倒した暁には、そのような行為も無くなると信じています。いえ、必ず無くしてみせます」
 力強い言葉。やっぱりモミさん達が魔王を倒すのは村の為だけじゃないんだ。
 ワーワルツの、魔物に苦しめられている全ての人達の為。
 全ての思いを背負って、彼女達は旅をしているんだ。

「ところで、よく装備を盗られませんでしたね。鎧は外れないにしても、剣は盗られそうなものですけど」
「それなんですけど、分かった事があったんですよ。セクシーソードは僕にしか抜けないみたいなんです」
「セクシーソード、ですか?」
 しまった。剣の名前を彼女には言ってなかったんだ。だって言えないだろセクシーソードなんて。
「じ、実はですね、これをくれた魔女がそう名づけたみたいでして。何となく恥ずかしいから今まで黙っていたんです」
「そうなんですか。良い名前じゃないですか、セクシーソード。じゃあそれはセクシーリング、鎧はセクシーアーマーってとこですかね」
 あれ、意外な反応。良い名前って。しかも腕輪と鎧まで名前決まっちゃったよ。
 気分的に『セクシー装備[仮]』だったんだけど。
 正式名称に決定しちゃったよ。おめでとう。

「でも女の子三人もそばに居たら、結構すぐ溜まったんじゃないですか?」
「最初はそう思ったんですよ、三人とも裸だったし。僕を囲んでもらう様な形で眠ったんですけど、起きた時は全然溜まってませんでした」
「まぁ。じゃあケンセイさんは裸の彼女達に囲まれて寝たんですね」
「い、いや。そこを強調されると困りますよ」
「ふふ、冗談ですよ。それでどうなさったんですか?」
……まずい。その質問はまずいぞ。でも嘘は良くないよな。
 別にやましい気持ちでした訳じゃないし。
 
「彼女達に頼んで……き、き、キスをしてもらったんです!」
 背中を擦る、モミさんの手が止まった。
「さ、三人とですか?」
「さ、三人とです……」
「そ、それはすごいですね」
「し、仕方がなかったんですよ。それしか方法がなくて」
 そう、しょうがなかったんだ。あの時はそうするしかなかった。

 少しの沈黙の後。モミさんの手が、背中から腋を通り、ゆっくりと前の方に。
「ま、前は自分で洗いますよ」
「キスだけですか?」
「な、何の事ですか?」
「キスしかしてないんですか?」
 まだその話するの!? 掘り下げちゃうの!? 責めすぎじゃないか!?
「そ、そうですよ! 当たり前じゃないですか!」
 ダメだダメだ。正直に話して良い事と悪い事だってあるんだ。
 ついて良い嘘と悪い嘘もある。これは前者だ。
 間違いない。閻魔大王に舌を抜かれたりはしない。

「セクシーアーマーの呪い、私は知ってるんですよ――」
 彼女の手が、ゆっくりと僕の胸を伝い、下の方へ。
 ダメだ。彼女には隠し通せない。
「す、すいません。ちょっとだけ触りました……」
「ま、まさか最後までしちゃったんですか!?」
「そ、それは無いです! 鎧も着てますし!」
「そ、そうですよね! うん、うん、そうですよね」
「あっ、あっ、あっ。も、モミさん!」
「きゃあああっ!? す、す、す、すいません! わ、私何てこと!」
 モミさんが勢いよく浴槽に飛び込む。
 思わぬセカンドタッチ。タッチというほど優しくなかったかもしれない。
 それは、とても刺激的な体験だった。
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