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二章
物言わぬ親切
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物音が響くにつれ、馬車の姿が明らかになる。
人が五、六人は入れる、豪勢ではないが、丈夫な造りの幌馬車。
その運転手――馬の手綱を握っている人物を見て緊張が高まる。
頭にかぶる、と言うより巻きつけたその黒地の布は、口元さえも覆い隠し、薄っすらと覗く鋭い瞳は夜の闇に潜む獣を連想させた。
道端で会ったら――いや、町の中だろうが好き好んで話したくない、関わり合いになりたくない雰囲気。
そして、僕達の目の前で止まった。
道幅も狭く、その真ん中に僕達が居るんだから止まるのは当たり前。
止めるつもりだったのも確かだ。
でも、かける言葉が見つからなかった。
考えていた良心をくすぐる哀願の言葉さえ忘れてしまうほど、僕は目の前の人物に威圧されていた。
そんな中、モミさんが口を開いた。
「あ、あの。私達は旅の者ですが、どこかで道に迷ったらしく、もう一週間も歩き詰めです。食料も水も尽き果て、お恥ずかしい話、路銀も持ち合わせておりません。もしよろしければ、僅かな糧をお恵みしてもらえないでしょうか?」
そして訪れる沈黙。
期待薄だろう――と思ったその時。
男は御者台の脇から袋を取り上げると、無造作に僕達の前に放り投げた。
ペロ様が袋を開けると、中にはぎっしりと詰ったパンやチーズ、水筒らしき物も見える。
四人で二日――節約すれば倍は持つかもしれない。
「こんなに……? あ、ありがとうございます。貴方に神のご加護があらんことを――」
モミさんが両手を合わせ、頭を下げた。それを見て、僕もやっと声が出た。
「あ、ありがとうございます!」
御者台の男は、こちらを一瞥するなり馬を動かした。
結局、一言も発さぬまま、彼は親切だけを置いて行ってしまった。
「最初見た時は絶対無理だって思ったけど、いやぁ人は見かけによらないってこの事だよなぁ」
「そうですね。本当にありがたい事だと思います」
人の温かさと久しぶりの食料。
嬉しくて顔が緩んだ僕をよそに、ニーヤは少しだけ不満げな顔をしている事に気づく。
「どうかしたの?」
「いや、別に」
どう見ても不機嫌そうな様子で答えるニーヤの姿に、モミさんは何か感じ取ったのか、少しだけ困った顔を浮かべる。
「さぁ、いただきましょう。しっかり食べて、一日でも早く次の町に行かないと、ですよ」
その表情が何故なのかは分からない。
とりあえず空腹を埋めるため、次の町までの活力を取り戻すため、僕はパンに食らい付く。
次の町に着いたのは、それから一時間後の事だった。
人が五、六人は入れる、豪勢ではないが、丈夫な造りの幌馬車。
その運転手――馬の手綱を握っている人物を見て緊張が高まる。
頭にかぶる、と言うより巻きつけたその黒地の布は、口元さえも覆い隠し、薄っすらと覗く鋭い瞳は夜の闇に潜む獣を連想させた。
道端で会ったら――いや、町の中だろうが好き好んで話したくない、関わり合いになりたくない雰囲気。
そして、僕達の目の前で止まった。
道幅も狭く、その真ん中に僕達が居るんだから止まるのは当たり前。
止めるつもりだったのも確かだ。
でも、かける言葉が見つからなかった。
考えていた良心をくすぐる哀願の言葉さえ忘れてしまうほど、僕は目の前の人物に威圧されていた。
そんな中、モミさんが口を開いた。
「あ、あの。私達は旅の者ですが、どこかで道に迷ったらしく、もう一週間も歩き詰めです。食料も水も尽き果て、お恥ずかしい話、路銀も持ち合わせておりません。もしよろしければ、僅かな糧をお恵みしてもらえないでしょうか?」
そして訪れる沈黙。
期待薄だろう――と思ったその時。
男は御者台の脇から袋を取り上げると、無造作に僕達の前に放り投げた。
ペロ様が袋を開けると、中にはぎっしりと詰ったパンやチーズ、水筒らしき物も見える。
四人で二日――節約すれば倍は持つかもしれない。
「こんなに……? あ、ありがとうございます。貴方に神のご加護があらんことを――」
モミさんが両手を合わせ、頭を下げた。それを見て、僕もやっと声が出た。
「あ、ありがとうございます!」
御者台の男は、こちらを一瞥するなり馬を動かした。
結局、一言も発さぬまま、彼は親切だけを置いて行ってしまった。
「最初見た時は絶対無理だって思ったけど、いやぁ人は見かけによらないってこの事だよなぁ」
「そうですね。本当にありがたい事だと思います」
人の温かさと久しぶりの食料。
嬉しくて顔が緩んだ僕をよそに、ニーヤは少しだけ不満げな顔をしている事に気づく。
「どうかしたの?」
「いや、別に」
どう見ても不機嫌そうな様子で答えるニーヤの姿に、モミさんは何か感じ取ったのか、少しだけ困った顔を浮かべる。
「さぁ、いただきましょう。しっかり食べて、一日でも早く次の町に行かないと、ですよ」
その表情が何故なのかは分からない。
とりあえず空腹を埋めるため、次の町までの活力を取り戻すため、僕はパンに食らい付く。
次の町に着いたのは、それから一時間後の事だった。
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