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二章
優しき承諾
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「そう言えば、お客さん――じゃないんでしたっけ。見たところ旅の方ですよね? どうしてウチにいらしたんですか?」
「ああ、アタシらはコレを見てね」
そう言ってニーヤがひらひらとかざしたのは、あの怪しい求人広告だ。
「えっ!? 本当ですか!? いやー人手が足りなくて困ってたんですよぉ」
一気にテンションが上がった女性が、ニーヤの手を取ってブンブンと揺らす。
「ちょ、ちょっと待ってよ。まだやるって決めたわけじゃないし。とりあえず仕事内容聞かせてもらわないと」
おっ。意外に冷静だ。
まぁそのまんま流される性格でもないだろう。どちらかと言えば、ニーヤは流れに逆らって進む方だと思う。
まぁ、仕事内容を聞いて絶句→激怒のコンボは目に見えている。
「ななな! 何言ってんの!? バッカじゃない!?」と言う台詞も、安易に想像できる。
僕はため息混じりに、その展開に備えた。
「えっと、そんなめんどくさい仕事じゃないよ? 今夜社交界があるんだけど、そこでお酒を注いだりするだけ」
「えっ!?」
意外な返答に、思わず声が漏れた僕に視線が集まる。
「そ、それだけって本当にそれだけ!? 役に立たせちゃったりしないの!? ただのコンパニオン的な? ピンクじゃなくて?」
「コンパニオン? ピンク? うーん良くわかんないけど、多分それだけ――かな? あ、ちょっと特殊な衣装を着てもらっちゃうけどねぇ」
そう言って彼女が取り出したのは、
防御力の低そうな布切れと、
天高く伸びた、二本のふさふさの耳だった。
女性と言うのは、それだけですばらしいものだ。
芳《かぐわ》しく。柔らかく。例えるなら――そう、特上のお肉。
そのままでも十分美味しいが、手間を加えることによってその素晴らしさは飛躍的に向上する。
スパイスやソースを加える事によって、また新しい魅力が生まれる。
僕は僅かな驚きとともに、感嘆する。
人類の英知に、心からの賞賛を送ろう。
まさかこの世界にも、バニーガールと言う概念が存在するとは。
「は? やるわけないじゃん。バッカじゃないの」
「ええっ!?」
またしても意外な返答に、先程より声が大きく漏れた。
いや、意外じゃないのかもしれない。当然の返答だろう。
それでも僕は、落胆交じりの声を抑えきれずにはいられなかったのだ。
「何アンタ。さっきまではすごい勢いで止めてたじゃない」
「う……。それは内容に齟齬《そご》がありまして……」
「ってかありえないでしょ。酔っ払いの相手でも嫌だって言うのに、こんなわけわかんない服まで着せられて」
憤慨するニーヤを見て、女性が五本の指を広げた。
「報酬はコレで――」
その瞬間、ニーヤの表情が変わったのを僕は見逃さない。
「まさか、銅貨って事はないわよね」
「まさか。金貨に決っているじゃない。本当は五人集めなきゃいけないんだけど、まぁ量より質って事で先方も納得してくれるかな。そっちの小さい子に頼むのは良心が痛むし、彼はそもそも男だから、まぁ護衛って事で適当にねじこむからさ。
ね。どうかな? やってもらえないかな? 金貨五枚!」
金額を強調するようにそう言って、手を合わせる。
ニーヤが困った様子で僕達に視線を向けるが、実質ニーヤとモミさんだけが働くようなモノだろう。僕はペロ様の手を取って「お任せします」とばかりに一歩後ずさった。
「……どうするモミ?」
「私は……それしか道がないのなら別に構いませんが……」
「一晩で金貨五枚は破格だもんねぇ……。ところで、何処でやるわけ? 社交界って言うくらいだから、どっか貴族の家なんでしょ?」
ニーヤの質問に、彼女が少しだけバツが悪そうに答える。
「ヴィクトラード様の屋敷なんだよねぇ……」
それは、今現在トートさんを苦しめている貴族の名前だった。
再び、重い沈黙が訪れる。
「やるわ」
ニーヤがはっきりとそう言った。
「酔っ払いの相手をするのは癪だけど、背に腹は変えられないって言うし。お金は必要だしね。ついでに、そのビク何とかから聞いてきてあげるわよ。どうして娘を連れて行ったのかをさ」
いや、違う。
ついでなんかじゃない。
確かに僕達は無一文だし、提示された報酬は破格だったけど。
ヴィクトラードの名前が出たから、ニーヤは引き受けることを決めたんだ。
彼女はそういう子だ。
「あ、ありがとうございます……」
「別にお礼を言われる事じゃないわ。それに、アタシ達が娘さんを連れ戻すとかそういう事じゃないから。ただ話を聞くだけ。行くついでにね。だから変な期待はしないで」
そう冷たく言い放つと、彼女は僕を睨みつける。
多分、僕は嬉しさに微笑んでいた。
「ああ、アタシらはコレを見てね」
そう言ってニーヤがひらひらとかざしたのは、あの怪しい求人広告だ。
「えっ!? 本当ですか!? いやー人手が足りなくて困ってたんですよぉ」
一気にテンションが上がった女性が、ニーヤの手を取ってブンブンと揺らす。
「ちょ、ちょっと待ってよ。まだやるって決めたわけじゃないし。とりあえず仕事内容聞かせてもらわないと」
おっ。意外に冷静だ。
まぁそのまんま流される性格でもないだろう。どちらかと言えば、ニーヤは流れに逆らって進む方だと思う。
まぁ、仕事内容を聞いて絶句→激怒のコンボは目に見えている。
「ななな! 何言ってんの!? バッカじゃない!?」と言う台詞も、安易に想像できる。
僕はため息混じりに、その展開に備えた。
「えっと、そんなめんどくさい仕事じゃないよ? 今夜社交界があるんだけど、そこでお酒を注いだりするだけ」
「えっ!?」
意外な返答に、思わず声が漏れた僕に視線が集まる。
「そ、それだけって本当にそれだけ!? 役に立たせちゃったりしないの!? ただのコンパニオン的な? ピンクじゃなくて?」
「コンパニオン? ピンク? うーん良くわかんないけど、多分それだけ――かな? あ、ちょっと特殊な衣装を着てもらっちゃうけどねぇ」
そう言って彼女が取り出したのは、
防御力の低そうな布切れと、
天高く伸びた、二本のふさふさの耳だった。
女性と言うのは、それだけですばらしいものだ。
芳《かぐわ》しく。柔らかく。例えるなら――そう、特上のお肉。
そのままでも十分美味しいが、手間を加えることによってその素晴らしさは飛躍的に向上する。
スパイスやソースを加える事によって、また新しい魅力が生まれる。
僕は僅かな驚きとともに、感嘆する。
人類の英知に、心からの賞賛を送ろう。
まさかこの世界にも、バニーガールと言う概念が存在するとは。
「は? やるわけないじゃん。バッカじゃないの」
「ええっ!?」
またしても意外な返答に、先程より声が大きく漏れた。
いや、意外じゃないのかもしれない。当然の返答だろう。
それでも僕は、落胆交じりの声を抑えきれずにはいられなかったのだ。
「何アンタ。さっきまではすごい勢いで止めてたじゃない」
「う……。それは内容に齟齬《そご》がありまして……」
「ってかありえないでしょ。酔っ払いの相手でも嫌だって言うのに、こんなわけわかんない服まで着せられて」
憤慨するニーヤを見て、女性が五本の指を広げた。
「報酬はコレで――」
その瞬間、ニーヤの表情が変わったのを僕は見逃さない。
「まさか、銅貨って事はないわよね」
「まさか。金貨に決っているじゃない。本当は五人集めなきゃいけないんだけど、まぁ量より質って事で先方も納得してくれるかな。そっちの小さい子に頼むのは良心が痛むし、彼はそもそも男だから、まぁ護衛って事で適当にねじこむからさ。
ね。どうかな? やってもらえないかな? 金貨五枚!」
金額を強調するようにそう言って、手を合わせる。
ニーヤが困った様子で僕達に視線を向けるが、実質ニーヤとモミさんだけが働くようなモノだろう。僕はペロ様の手を取って「お任せします」とばかりに一歩後ずさった。
「……どうするモミ?」
「私は……それしか道がないのなら別に構いませんが……」
「一晩で金貨五枚は破格だもんねぇ……。ところで、何処でやるわけ? 社交界って言うくらいだから、どっか貴族の家なんでしょ?」
ニーヤの質問に、彼女が少しだけバツが悪そうに答える。
「ヴィクトラード様の屋敷なんだよねぇ……」
それは、今現在トートさんを苦しめている貴族の名前だった。
再び、重い沈黙が訪れる。
「やるわ」
ニーヤがはっきりとそう言った。
「酔っ払いの相手をするのは癪だけど、背に腹は変えられないって言うし。お金は必要だしね。ついでに、そのビク何とかから聞いてきてあげるわよ。どうして娘を連れて行ったのかをさ」
いや、違う。
ついでなんかじゃない。
確かに僕達は無一文だし、提示された報酬は破格だったけど。
ヴィクトラードの名前が出たから、ニーヤは引き受けることを決めたんだ。
彼女はそういう子だ。
「あ、ありがとうございます……」
「別にお礼を言われる事じゃないわ。それに、アタシ達が娘さんを連れ戻すとかそういう事じゃないから。ただ話を聞くだけ。行くついでにね。だから変な期待はしないで」
そう冷たく言い放つと、彼女は僕を睨みつける。
多分、僕は嬉しさに微笑んでいた。
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