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二章
作戦会議
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翌朝。食堂で朝食をとりながら、僕達は作戦を考えていた。
人喰らいの凶手――暗殺者にどうやって接触を図るか。
「やっぱり、仕事の依頼という体で近づくしかないと思います」
「どこかに目印を立てるんでしたっけ?」
僕の言葉に、ヴィクトラードさんが頷く。
「町の外れで、そう遠くはない場所だ。いつでも馬を走らせる準備は出来ている」
「そしたら、僕達はそこで待ち伏せしてた方いいのかな。で、現れたところを捕まえるって感じで」
「ん――。それはちょっと難しいんじゃない?」
少し考えるようにして、ニーヤが口を開いた。
「相手がのこのこと現れる気がしないのよね。凶手なんて、言ってみれば罪人なわけだしさ。待ち伏せの危険がある場所に本人が来る可能性は低いんじゃない? 人を使ってるかもしれないし」
「そうですね。もし仮に、本人が来たとしても捕まえるだけではありませんからね。目的はあくまでもトートさんの娘を取り返す事。敵のアジトを見つけなければなりません」
「そっか。じゃあその場では捕まえないでこっそり後をつける感じ?」
「まぁ、そうなるわけだけど、相手もそこまで馬鹿じゃないと思うのよ。だから――」
間をおいて、真剣な表情でニーヤが言った。
「仕事を依頼するのよ。フリじゃなくね」
ニーヤの言葉に、そこにいる誰もが驚いた。
「まぁ。これはアタシもあまり気が進まないんだけどね。もし万が一失敗した時――失うものが多すぎる」
緊張が走る。
向こう見ずで強気なニーヤの口から、失敗と言う言葉が出て来た事に。
「聞かせてもらいましょうか」
モミさんが一層真剣な様子で先を促す。
「モミがさっき言ったとおり、アタシ達は敵のアジトを探し出さなきゃいけない。だから後をつけるってのも方法としては間違ってない。
でも、確実に辿り着ける保証はない。途中で見失うかもしれないし、気づかれて戦闘になったらその時点で終わり。手がかりが死んじゃったらお手上げだからね。
でも、確実に辿り着ける方法が一つだけある」
――辿り着ける人が一人だけいる。
ニーヤがそう言った瞬間。突然モミさんが立ち上がった。
「ニーヤ……まさか!」
温厚なモミさんが声を荒げる。
その怒りの理由を、僕はすぐに理解することができなかった。
仕事を依頼して、アジトに辿り着ける方法。
辿り着ける人物――。
「ドラーシュ……」
その時、僕はニーヤが何を言っているのかを理解した。
モミさんの怒りの理由も。
「そう。ドラーシュなら、確実にアジトに辿り着けるわ。そして、この中でそれが出来るのは――」
ニーヤが視線を移したのは――ペロ様だった。
「誤解しないで欲しいのは、これはあくまで最後の手段って事ね。依頼の確認をしに来た人物を追跡してアジトを見つけられたら、もちろんその必要はなくなる」
そう念を押したニーヤの言葉に安堵する。
「じゃあ何としてもアジトを見つけ出さないといけないな」
「あ、アンタはいらないわよ。邪魔になるだけだし」
自分に気合を入れるように呟いた僕に、ニーヤが辛辣な言葉をぶつける。
「ええ……」
「ニーヤ。もう少し言葉を選んであげてください。ケンセイさんが悲しそうな顔をしていますよ。せめて役立た――足手まといとか……」
そうかぁ……僕は邪魔で足手まといなんだぁ……。
そうだよなぁ……。うん……分かってたよ……。
「モミ。それあんま変わってない。むしろとどめを刺したって感じ」
「えっ? あっ! ち、違うんですよケンセイさん! そういうわけじゃないんですよ!」
「いえ……大丈夫です……」
「そんな情けない顔しなくても、アンタにもちゃんと大事な仕事があるんだからね」
「本当!?」
あるのか! 僕にも出来る事が! 股間を立てるだけの役立たずじゃないのか!
「で、僕は何をすればいいの?」
「もしアタシが失敗した場合。仕事を依頼しなきゃいけなくなるでしょ? 暗殺者に仕事を頼むって事は、その標的となる人物がいなきゃいけないって事」
全身から、血の気が引いていくような気がした。
「まさか……?」
「そう。アンタが囮になるのよ」
「えっと……つまりは僕に死ねという事でしょうか……?」
相手は神でさえも殺すと言われる一流の人殺し。
今までどれだけの人間を殺してきたのかは知らないが、その例外になれると思えるほど僕に力はない。
「まぁ――最悪?」
「いや! そこは違うとか言ってよ!」
一度は粗末にした命だけど今は違う。出来る事なら死にたくない。
せめて大人に――男になってから死にたい。
死に場所がおっぱいの上なら尚良しだ。
「あの。別にケンセイさんじゃなくてもよろしいんじゃありませんか? その役目、私じゃダメなんでしょうか?」
「うーん。そりゃあモミなら安心なんだけどさ。わざわざ女の子一人殺すのに暗殺者に依頼するってのも不自然じゃない? だったらほら、コイツだったら顔はともかく、鎧のおかげでパッと見どこかの騎士団にいてもおかしくないじゃない。名うての剣士とかもっともらしい事言っておけば」
さらっとひどい事を言われた気がする。顔はともかくって……。
「で、モミは依頼人。えっとそうね。結婚の約束をしてたのに騙されて弄《もてあそ》ばれた貴族の娘って設定でどうかしら」
「まぁ――筋は通っていますよね。無理な設定ではないとおもいます」
心なしか、僕を見る二人の視線が冷たいような気がするのは何故だろう。
見に覚えがあるだろうとでも責めているかのようだ。
「とここまで説明したけど、その前に大事な点が一つあるのよね」
「大事な点って?」
「報酬を支払うタイミングよ。手付金と成功報酬、二回に分けて払うのが一般的よね。話を聞く限り、トートさんの娘を渡したのは仕事が終わった後だったんでしょ?」
仕事の成果を確認して、対価としてドラーシュを渡す。
依頼を完了するって事は標的が死ぬって事。
するとこの場合――。
「僕死んじゃってるじゃん……?」
「うーん。だからそこをどうしようかなぁと思ってね。死んだフリするとか?」
死んだフリって熊じゃないんだから。いや、熊に死んだフリは効かないんだっけか。
「それは――大丈夫だと思う」
それまで黙って聞いていたヴィクトラードさんが口を開いた。
「言ったと思うが、人喰らいの凶手が重要視するのはドラーシュだ。金じゃない。だから、手付けとしてドラーシュを渡すのが普通なのだ。私の場合は、花文を先に渡す事で了承してもらった。言い訳がましいが、そもそも渡す気などなかったからな」
その表情から、後悔の念が色濃く感じられる。
「なら安心ね。――で、他に案がなければ早速向かっちゃおうと思うんだけど。何かある?」
モミさんが僅かに考え込むそぶりを見せたが、結局口を挟む事はなく、僕達はニーヤの作戦に同意する。
こうして、少女救出作戦が始まった。
人喰らいの凶手――暗殺者にどうやって接触を図るか。
「やっぱり、仕事の依頼という体で近づくしかないと思います」
「どこかに目印を立てるんでしたっけ?」
僕の言葉に、ヴィクトラードさんが頷く。
「町の外れで、そう遠くはない場所だ。いつでも馬を走らせる準備は出来ている」
「そしたら、僕達はそこで待ち伏せしてた方いいのかな。で、現れたところを捕まえるって感じで」
「ん――。それはちょっと難しいんじゃない?」
少し考えるようにして、ニーヤが口を開いた。
「相手がのこのこと現れる気がしないのよね。凶手なんて、言ってみれば罪人なわけだしさ。待ち伏せの危険がある場所に本人が来る可能性は低いんじゃない? 人を使ってるかもしれないし」
「そうですね。もし仮に、本人が来たとしても捕まえるだけではありませんからね。目的はあくまでもトートさんの娘を取り返す事。敵のアジトを見つけなければなりません」
「そっか。じゃあその場では捕まえないでこっそり後をつける感じ?」
「まぁ、そうなるわけだけど、相手もそこまで馬鹿じゃないと思うのよ。だから――」
間をおいて、真剣な表情でニーヤが言った。
「仕事を依頼するのよ。フリじゃなくね」
ニーヤの言葉に、そこにいる誰もが驚いた。
「まぁ。これはアタシもあまり気が進まないんだけどね。もし万が一失敗した時――失うものが多すぎる」
緊張が走る。
向こう見ずで強気なニーヤの口から、失敗と言う言葉が出て来た事に。
「聞かせてもらいましょうか」
モミさんが一層真剣な様子で先を促す。
「モミがさっき言ったとおり、アタシ達は敵のアジトを探し出さなきゃいけない。だから後をつけるってのも方法としては間違ってない。
でも、確実に辿り着ける保証はない。途中で見失うかもしれないし、気づかれて戦闘になったらその時点で終わり。手がかりが死んじゃったらお手上げだからね。
でも、確実に辿り着ける方法が一つだけある」
――辿り着ける人が一人だけいる。
ニーヤがそう言った瞬間。突然モミさんが立ち上がった。
「ニーヤ……まさか!」
温厚なモミさんが声を荒げる。
その怒りの理由を、僕はすぐに理解することができなかった。
仕事を依頼して、アジトに辿り着ける方法。
辿り着ける人物――。
「ドラーシュ……」
その時、僕はニーヤが何を言っているのかを理解した。
モミさんの怒りの理由も。
「そう。ドラーシュなら、確実にアジトに辿り着けるわ。そして、この中でそれが出来るのは――」
ニーヤが視線を移したのは――ペロ様だった。
「誤解しないで欲しいのは、これはあくまで最後の手段って事ね。依頼の確認をしに来た人物を追跡してアジトを見つけられたら、もちろんその必要はなくなる」
そう念を押したニーヤの言葉に安堵する。
「じゃあ何としてもアジトを見つけ出さないといけないな」
「あ、アンタはいらないわよ。邪魔になるだけだし」
自分に気合を入れるように呟いた僕に、ニーヤが辛辣な言葉をぶつける。
「ええ……」
「ニーヤ。もう少し言葉を選んであげてください。ケンセイさんが悲しそうな顔をしていますよ。せめて役立た――足手まといとか……」
そうかぁ……僕は邪魔で足手まといなんだぁ……。
そうだよなぁ……。うん……分かってたよ……。
「モミ。それあんま変わってない。むしろとどめを刺したって感じ」
「えっ? あっ! ち、違うんですよケンセイさん! そういうわけじゃないんですよ!」
「いえ……大丈夫です……」
「そんな情けない顔しなくても、アンタにもちゃんと大事な仕事があるんだからね」
「本当!?」
あるのか! 僕にも出来る事が! 股間を立てるだけの役立たずじゃないのか!
「で、僕は何をすればいいの?」
「もしアタシが失敗した場合。仕事を依頼しなきゃいけなくなるでしょ? 暗殺者に仕事を頼むって事は、その標的となる人物がいなきゃいけないって事」
全身から、血の気が引いていくような気がした。
「まさか……?」
「そう。アンタが囮になるのよ」
「えっと……つまりは僕に死ねという事でしょうか……?」
相手は神でさえも殺すと言われる一流の人殺し。
今までどれだけの人間を殺してきたのかは知らないが、その例外になれると思えるほど僕に力はない。
「まぁ――最悪?」
「いや! そこは違うとか言ってよ!」
一度は粗末にした命だけど今は違う。出来る事なら死にたくない。
せめて大人に――男になってから死にたい。
死に場所がおっぱいの上なら尚良しだ。
「あの。別にケンセイさんじゃなくてもよろしいんじゃありませんか? その役目、私じゃダメなんでしょうか?」
「うーん。そりゃあモミなら安心なんだけどさ。わざわざ女の子一人殺すのに暗殺者に依頼するってのも不自然じゃない? だったらほら、コイツだったら顔はともかく、鎧のおかげでパッと見どこかの騎士団にいてもおかしくないじゃない。名うての剣士とかもっともらしい事言っておけば」
さらっとひどい事を言われた気がする。顔はともかくって……。
「で、モミは依頼人。えっとそうね。結婚の約束をしてたのに騙されて弄《もてあそ》ばれた貴族の娘って設定でどうかしら」
「まぁ――筋は通っていますよね。無理な設定ではないとおもいます」
心なしか、僕を見る二人の視線が冷たいような気がするのは何故だろう。
見に覚えがあるだろうとでも責めているかのようだ。
「とここまで説明したけど、その前に大事な点が一つあるのよね」
「大事な点って?」
「報酬を支払うタイミングよ。手付金と成功報酬、二回に分けて払うのが一般的よね。話を聞く限り、トートさんの娘を渡したのは仕事が終わった後だったんでしょ?」
仕事の成果を確認して、対価としてドラーシュを渡す。
依頼を完了するって事は標的が死ぬって事。
するとこの場合――。
「僕死んじゃってるじゃん……?」
「うーん。だからそこをどうしようかなぁと思ってね。死んだフリするとか?」
死んだフリって熊じゃないんだから。いや、熊に死んだフリは効かないんだっけか。
「それは――大丈夫だと思う」
それまで黙って聞いていたヴィクトラードさんが口を開いた。
「言ったと思うが、人喰らいの凶手が重要視するのはドラーシュだ。金じゃない。だから、手付けとしてドラーシュを渡すのが普通なのだ。私の場合は、花文を先に渡す事で了承してもらった。言い訳がましいが、そもそも渡す気などなかったからな」
その表情から、後悔の念が色濃く感じられる。
「なら安心ね。――で、他に案がなければ早速向かっちゃおうと思うんだけど。何かある?」
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