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二章
芽生えた種
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「えっと、あの後色々ありまして……何となくこんな感じになっちゃいました」
初めてナギさんと会ったのは、僕が姉妹達と出会った後、その夜に一人で街をふらついていた時だった。
出会った、と言えば聞こえはいいが、この場合、罠にはまった。と言ったほうが正しいだろう。
何故なら、彼女はずっと前から僕を知っていて、狙っていたのだ。
一人になるタイミングを待っていたのだ。
こんな美女に待っていただくのは光栄だが、この時ばかりはそうでもない。
文字通り頂かれようとしていた。
そんな僕を見つけ、異変に気づいたのが先の姉妹だ。
彼女達は街中の宿屋を周ってニーヤ達を探し出し、僕のピンチを助けてくれた。
結局ピンチに陥ったのは僕を除く女子達だったのだが。
そんな訳で、ナギさんと姉妹は面識ができ、ナギさんは無神街で暮らす姉妹を気にするようになったんだとか。最初は魔族だからと警戒されたが、無関係の人間の子供を心配するような彼女だ。
徐々に打ち解けて、今では何と一緒に暮らしているらしい。
「ママって言うのは……あの、最初はお姉ちゃんだったんですけど、ルエラちゃんが『お姉ちゃんが二人だとややこしい』って言いまして……。あの、私も末っ子だからその気持ちはわかるんですが、どうしてかママになっちゃいまして……」
困り果てた顔をしながらも、嫌そうではなかった。
目の前の三人は、母娘とは言わなくても、姉妹。本当の家族のようだ。
「そう言えば、ナギさんのお姉さん達も一緒なの?」
彼女は三姉妹だ。上に二人の姉がいる。
ぱっと見全員同じ顔だから、三つ子なのかと思ったのだがそうじゃないらしい。
魔族って不思議。
「いえ、一番上の姉はパララ様の御付になりまして、二番目の姉は――行方不明なんですよね。あ、でもそんな心配する事じゃないんですよ。放浪癖はありましたし、元気でいるってのは感じるんで。それもあったんですかね、この子達と一緒に住もうって思ったのは。一人だったから、寂しかったのかもしれません」
一番上がシラで。二番目はレミだったかな?
正直二番目とはあんまり話してないから印象が薄い。
行方不明とは物騒だが、彼女が大丈夫というなら大丈夫なんだろう。
「そっか。まぁ、何はともあれよかったよ」
ほっと一息ついて、ナギさんの淹れてくれたお茶をすする。
本当によかった。
予期せぬ――良い結果だった。
「あ、あの――」
ナギさんが遠慮がちに言った。
「ケンセイさん……でいいんですよね……?」
「え? あ、うん? 何で?」
名前を忘れた? いや、さっきも呼んでたしそれはない。
「魔王様とお呼びした方が――」
盛大にお茶を吹いた。
「うぶっ!? な、ななななんで!?」
「パララ様を倒したから、次の魔王様はケンセイさんだと……」
「い、いや、あれはアミルが勝手にいってるだけで……少なくとも僕は自分が魔王だなんて思ってないよ」
そもそも、あれは僕が倒したわけじゃない。
彼女は――自ら死んだ。僕を使って自殺したんだ。
「ってか――ここお客さんくるわけ?」
ニーヤの言葉にカチンと来たのか、ルエラが立ち上がる。
「あまくみてもらっちゃダメだもん! セーメはウイリアのかくれためーてんなのです!」
「そ、そうなんだ……」
ニーヤを怯ませるとは――この子できるな!
「そうだもん! 今はお客さんいっぱいくるんだよ! みんな「ここのお茶は他とちがう。おいしいし、元気になる」ってだいにんきなんだよ!」
ああ、確かにこのお茶は美味しいな。
前も思ったんだよな、ナギさんの淹れてくれるお茶はおいしい――って……。
「い、今は入ってませんよ! 大丈夫です! 『今は』普通のお茶です!」
僕の考えを見抜いたナギさんが慌てて否定する。
「最初は――その……ちょっとだけ……隠し味的な……」
入れてたのか……。隠し味いれちゃってたのか……。
ま、まぁ聞かなかった事にしよう。
「大げさな事は出来ないけど、ここに来て、美味しいお茶を飲んで、少しでも優しい気持ちになってくれればって。私達がケンセイさんからもらった優しさを、皆にわけてあげられたらいいなって思って始めたんです。全部ナギさんのお陰なんですけどね」
「もう、トリナったら」
トリナの言葉に、ナギさんが照れながら優しく小突く。
「だから『セーメ』なのね」
ニーヤが呟く。
「だからって?」
「セーメは古い言葉で『種』って意味があるの。種は分け与えるモノだからね」
「そうなんだ。良い名前だね」
「その種を撒いたのはケンセイさんですよ」
「ったく。女と見れば種を撒きたがるんだからホント節操のない――」
「何か悪意があるぞ! その言い方はおかしい!」
何となくいい話の流れがめちゃくちゃだ! ぶち壊しだ!
でも――悪くない。
こんなやりとりで笑える程、僕達は幸せなんだから。
だが――。
そんな空気を切り裂くように、
「でも……もうおみせできなくなっちゃうんだよね……?」
ふいにルエラが、か細い声で囁いたそれを、聞き逃しはしなかった。
初めてナギさんと会ったのは、僕が姉妹達と出会った後、その夜に一人で街をふらついていた時だった。
出会った、と言えば聞こえはいいが、この場合、罠にはまった。と言ったほうが正しいだろう。
何故なら、彼女はずっと前から僕を知っていて、狙っていたのだ。
一人になるタイミングを待っていたのだ。
こんな美女に待っていただくのは光栄だが、この時ばかりはそうでもない。
文字通り頂かれようとしていた。
そんな僕を見つけ、異変に気づいたのが先の姉妹だ。
彼女達は街中の宿屋を周ってニーヤ達を探し出し、僕のピンチを助けてくれた。
結局ピンチに陥ったのは僕を除く女子達だったのだが。
そんな訳で、ナギさんと姉妹は面識ができ、ナギさんは無神街で暮らす姉妹を気にするようになったんだとか。最初は魔族だからと警戒されたが、無関係の人間の子供を心配するような彼女だ。
徐々に打ち解けて、今では何と一緒に暮らしているらしい。
「ママって言うのは……あの、最初はお姉ちゃんだったんですけど、ルエラちゃんが『お姉ちゃんが二人だとややこしい』って言いまして……。あの、私も末っ子だからその気持ちはわかるんですが、どうしてかママになっちゃいまして……」
困り果てた顔をしながらも、嫌そうではなかった。
目の前の三人は、母娘とは言わなくても、姉妹。本当の家族のようだ。
「そう言えば、ナギさんのお姉さん達も一緒なの?」
彼女は三姉妹だ。上に二人の姉がいる。
ぱっと見全員同じ顔だから、三つ子なのかと思ったのだがそうじゃないらしい。
魔族って不思議。
「いえ、一番上の姉はパララ様の御付になりまして、二番目の姉は――行方不明なんですよね。あ、でもそんな心配する事じゃないんですよ。放浪癖はありましたし、元気でいるってのは感じるんで。それもあったんですかね、この子達と一緒に住もうって思ったのは。一人だったから、寂しかったのかもしれません」
一番上がシラで。二番目はレミだったかな?
正直二番目とはあんまり話してないから印象が薄い。
行方不明とは物騒だが、彼女が大丈夫というなら大丈夫なんだろう。
「そっか。まぁ、何はともあれよかったよ」
ほっと一息ついて、ナギさんの淹れてくれたお茶をすする。
本当によかった。
予期せぬ――良い結果だった。
「あ、あの――」
ナギさんが遠慮がちに言った。
「ケンセイさん……でいいんですよね……?」
「え? あ、うん? 何で?」
名前を忘れた? いや、さっきも呼んでたしそれはない。
「魔王様とお呼びした方が――」
盛大にお茶を吹いた。
「うぶっ!? な、ななななんで!?」
「パララ様を倒したから、次の魔王様はケンセイさんだと……」
「い、いや、あれはアミルが勝手にいってるだけで……少なくとも僕は自分が魔王だなんて思ってないよ」
そもそも、あれは僕が倒したわけじゃない。
彼女は――自ら死んだ。僕を使って自殺したんだ。
「ってか――ここお客さんくるわけ?」
ニーヤの言葉にカチンと来たのか、ルエラが立ち上がる。
「あまくみてもらっちゃダメだもん! セーメはウイリアのかくれためーてんなのです!」
「そ、そうなんだ……」
ニーヤを怯ませるとは――この子できるな!
「そうだもん! 今はお客さんいっぱいくるんだよ! みんな「ここのお茶は他とちがう。おいしいし、元気になる」ってだいにんきなんだよ!」
ああ、確かにこのお茶は美味しいな。
前も思ったんだよな、ナギさんの淹れてくれるお茶はおいしい――って……。
「い、今は入ってませんよ! 大丈夫です! 『今は』普通のお茶です!」
僕の考えを見抜いたナギさんが慌てて否定する。
「最初は――その……ちょっとだけ……隠し味的な……」
入れてたのか……。隠し味いれちゃってたのか……。
ま、まぁ聞かなかった事にしよう。
「大げさな事は出来ないけど、ここに来て、美味しいお茶を飲んで、少しでも優しい気持ちになってくれればって。私達がケンセイさんからもらった優しさを、皆にわけてあげられたらいいなって思って始めたんです。全部ナギさんのお陰なんですけどね」
「もう、トリナったら」
トリナの言葉に、ナギさんが照れながら優しく小突く。
「だから『セーメ』なのね」
ニーヤが呟く。
「だからって?」
「セーメは古い言葉で『種』って意味があるの。種は分け与えるモノだからね」
「そうなんだ。良い名前だね」
「その種を撒いたのはケンセイさんですよ」
「ったく。女と見れば種を撒きたがるんだからホント節操のない――」
「何か悪意があるぞ! その言い方はおかしい!」
何となくいい話の流れがめちゃくちゃだ! ぶち壊しだ!
でも――悪くない。
こんなやりとりで笑える程、僕達は幸せなんだから。
だが――。
そんな空気を切り裂くように、
「でも……もうおみせできなくなっちゃうんだよね……?」
ふいにルエラが、か細い声で囁いたそれを、聞き逃しはしなかった。
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